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データサイエンティストが見つからなくても道は開ける

投稿日:2017/04/06更新日:2019/04/09

前回に引き続き、グリー、すかいらーくでデータ分析やデジタルマーケティングを専門にしてきたリノシス社の神谷勇樹代表が、飲食・小売業界で深刻化する人手不足をテクノロジーの力で解消し、労働生産性の改善に成功した事例を紹介するセミナーの模様をお伝えします。(第2回/全2回)

特別セミナー「飲食・小売業界におけるテクノベート」講演録[2]

さきほど(前回)はクーポン券の売上に対する効果についてお話したが、その効果測定はABテストで行っている。これは店舗を数多く持っている企業だからできることだと思うかもしれないが、じつはそうでもない。

じつは実店舗でも有効な「ABテスト」

このあたりは、店舗を対象としたABテストをやるのか、お客さまを対象としたABテストをやるのかによってまったく異なる。少なくともお客さまがそれなりにいらっしゃる場合、業態によるものの、日客が数百人なら10日で数千人。それが10店舗なら数万人になるわけで、ABテストのサンプルとしては十分と言える。実際、それでランダムに「この人に出す」「この人に出さない」ということをやって、それによって効果にどれほどの違いがあるのかを見るといったABテストを行っている。

続いて、商品開発の最適化についてもお話ししたい。平たく言うと、データを使って「お客さまにどんな方がいらっしゃるか」「どの商品のどんな要素がお客さまに“刺さって”いるか」といったことを見える化していった。そのうえでお客さまの嗜好に合わせて商品戦略を最適化していくという取り組みを通じて、売上が約2倍に伸びたケースもある。

これもやはり「優秀な店長がやっていることを再現する」という話に尽きる。以前、かつて店長を務めていた方が、「僕は閉店後にすべての伝票を見て考えていた」とおっしゃっていた。何がウケて、何がウケていないかを知るために。これは「事実に基づく見える化」だと思う。優秀な店長がいれば1~2店舗ではそういうことが可能だ。ただ、それが1000店舗になったら無理だろう。だから、それをデータやシステムの力で実現していく。大事なのはそれだけで、課題はすごくシンプル。優秀な店長の仕事をデータ・IT化で再現するという話に尽きる。

商品企画に活かすPOSレジの「顧客の見える化分析」

たとえば商品企画。平たく言うと、全店舗ですべてのお客さまを見たうえで、「こういう層のお客さまはコレとコレを頼んでいて、こういう構成になる。だからコレは売れそう。でもコッチは少し高いと思われるのでは?」といったことを考えていく。本来ならそれを全店舗ができればいいのだけれども、できないからデータを活用する。

最初にデータが発生するPOSレジにはそうした情報も絶対にあるわけで、「それを使いましょう」という話を今はしている。たとえば街の中華料理屋さんなら「餃子を頼んでビールを一杯頼んで、そのあと唐揚げを頼む」といった傾向があったりする。「ちょっと飲んで帰りたい」というニーズがあるので。データを分析すると、そういう話が結構出てくる。その“かたまり”が数多くあれば、「これはそういうお客さんだろうな」というのも分かる。当然、それを示したレシートが何枚あるかを数えれば、そうしたお客さんがどれほどいるのかも分かる。

すべてのレシートでそうした分析を行って、各顧客セグメントに分けていく。「こういう使い方の人はこれだけいらっしゃる」と。まったく同じ方はあまりいないけれども、類似した嗜好を持つ顧客をうまくクラスタ化して括っていく。その結果、たとえば8つのセグメントができて、さらには各セグメントのサイズが「ここは15%。ここは20%。ここは7%」という風に分かってくると、一気に見通しが良くなっていく。「こういう方がこれだけいらっしゃるのだから」ということで、商品戦略の最適化がよりシャープになっていく。

私の場合はそこでもう一手間かけていて、商品属性をそれぞれデータに細かく付与している。各商品に「お客さまからどう見えるか」という属性を振っていった。そのためにつくった軸は100個ほど。たとえばミネラルウォーターは「清涼飲料水」というカテゴリーで水やお茶や炭酸飲料に分けられたりするけれども、そういった分け方とは別に、その水がなぜ選ばれているのかという属性を振っていった。消費者はなぜその水を買うのか。当然「喉が渇いたから」「水道水より安全だから」といった理由もあるし、「硬水でおいしいから」「ダイエットに効果的だから」といった理由もある。同じ商品でも人によって選ぶ理由が違う。

そうした軸をすべてのメニューに振っていった。対象メニューは5000点ほどあったので、5000×100でExcelのセルを埋めていった。その作業を実際に行っていただいた方は1週間ほど残業が続いてしまったけれども(笑)、ただ、それを使ってデータを回していったところ、それまで見えていなかったようなものが見えるようになっていった。「この商品にはどういったお客さまが付いていて、かつ、それと同様の商品は何か」と。これは誤解されがちだけれども、「ビッグデータ」と言われるものすべてが顧客理解に必要なデータというわけではない。場合によっては今お話ししたようにデータを新しく取っていく必要があるし、その意味ではPOSデータに掛け合わせるアンケートデータというのもかなり重要なデータになる。

あと、データ活用に関しては「高度な分析スキルは現場感に勝る」という誤解もある。これも、まったくもって嘘だと思う。「現場感+そこそこの分析スキル」は、高度な分析スキルをはるかに上回ると、私は考えている。

販促の改善のためにもテクノロジーによる「見える化」が有効

続いて販促の話をしたい。事例として、私はまず各キャンペーンの費用対効果を見える化して、それらを表に並べて比較していった。この場合、横軸は広告宣伝費で縦軸は利益率になる。それで、「これは赤字だから止めよう」「コッチがあまり広がらないならソッチをやるしかないね」という風に資源配分を最適化していった。こうした作業を進めるだけでもまだまだ原資が出てくる。ただ、その見える化が難しい。「100店突破記念クーポンが好評で、2万人のお客様にご利用いただけました」と言っても、「そのクーポンがなくても売れたんじゃないか」という捉え方もできる。普通、こういう話は水掛け論になってうやむやになりやすい。

そこでABテストを行う。やり方は2つある。1つは「店舗を対象にしたABテスト」だ。実施する店舗としない店舗をつくって比較する。概念としてはシンプル。ただ、これが難しい。同じ店舗は世の中に2つとなく、お店ごとに顧客のセグメント割合が違っていたりするためだ。というわけで、2つ目の「お客さま単位でのABテスト」を行っていくほうがラクだ。企業にもよると思うけれども、たとえば、平均日客200人の店舗が100店舗あるとすると、年間で延べ700万人のお客さまがいらっしゃることになる。700万人もいらっしゃると、セグメントを細かく切ってもいろいろな検証が可能になる。それで、もちろん抽出が偏らないよう注意する必要はあるけれども、たとえばクーポンを送った人と送っていない人でどんな差が出るかといったことを見える化していく。

それと販促に関してはもう1つ、「個別の効率アップ」も大切になる。たとえばチラシをどこに配るか。たとえば「ID-POS」の活用。共通ポイントカードのような各種カードのデータで、お客さまがどこからいらしたのかも分かる。そこで、「その場所には世帯がこれぐらいあって、我々のシェアはこのぐらい」と。そのうえで、「恐らくこちらの方々はこういう風に動いているから、販促物はそっちに撒くべき」「ここは今まで撒いていないけれども、たぶん撒いたら効果がある」といったことまで考える。そのようにして本部でも分かるようにする。加えて、最近はケータイで位置情報を見ていったりする。それによって、お客さまがどのお店で買っているかだけでなく、どういった動線で動いているかも分かるようになった。そうしたデータを通して店舗がどのような特性の場所に立地しているかを分析したりするわけだ。こうしたデータを活用すると、「どこの競合にどのお客さまが行っているか」といったことも分かる。

見える化することが大きなポイントだ。何かをした結果として消費者がどう動くかは、正直、やってみるまで誰にも分からない部分はある。試して、結果を見て、それをフィードバックする必要がある。その「見る」という部分、つまり見える化が、これまでの飲食・小売業界では難しかったためにデータ活用があまり行われてこなかったのだと思う。今はそれがかなり見えるようになって多くのことが可能になった。それで成果を出せるようになってきたのだと思う。

テクノロジーとデータをビジネスに活かせる人が最重要

あと、テクノロジー活用を可能にする人材に関するお話もしたい。すかいらーくではデータとテクノロジーの活用をどんな体制でやっていたのかというと、部署の人員は約20名。メンバーのほぼ全員がプロパーで、元店長だった。入社以来20年間現場で店長を務めたのち、40歳になって本部に来て初めてExcelを触るような方もいた。私が新規採用したのは1人だけで、特にデータ分析の経験もない40代のパートの方だけだ。データサイエンスの専門家を採用できるとは思っていなかったし、その必要もないと考えていたためだ。でも、実際にはそれでも回る。元店長の集団で機械学習などの高度な分析も活用しながら、現場とともにPDCAを回しながら業績をあげていくことが出来た。結局、仕掛ける人間が1人いれば変わることは可能ということだと思う。

では、テクノロジーを活用した変革のためのリーダーとはどういう人材か。飲食・小売に限定して私見を申し上げると、求められることは3つあると思う。1つ目は構造的な環境変化を捉えられること。飲食・小売業界は特にそうだと思うけれども、いろいろことが起こる。消費者の気持ちも移ろいやすく、その変化に応じていろいろなアクションを取らなければいけない。これは大事だ。その積み重ねがその年の売上になるので。ただ、構造的な変化もある。それをうまく捉えて乗っかっていくことも非常に大事。で、2番目が今日、最も強調したかったことで、ビジネスとテクノロジーという両方の言葉が喋れること。そして3番目は、やっぱり思いと情熱を持っていることだ。

とくに、ビジネスとテクノロジーの言葉が両方使えることは本当に大切だ。たとえば海外進出をしても結果を出せない日本企業があったとする。日本人が海外で人を上手にマネジメントできない、と。阿吽の呼吸を前提にしてしまう等々、いろいろな理由があってできない。これは突き詰めると「異文化のなかで何をどのように合わせてうまくやっていくか」が大切という話だと思うけれども、実は国内でも同じことが言えるのではないか。ビジネス人材とテクノロジー人材のあいだでも同じことが言えるように思う。

最後に、今日お伝えしたかったことをまとめてみたい。冒頭で申しあげた通り、重要なことは2つ。1つは、今はテクノロジーを活用して優秀な店員の方の業務を再現するというイノベーションが求められている点。2点目は、そのためには現在の技術を使ってそれをどのように再現するかという翻訳を行って、ビジネスとテクノロジーの橋渡しを行う必要があるという点だ。私自身には偶然にもコンサルとエンジニアという両方の経験があって、かつ今はビジネスとテクノロジーをつなぐことのできる人間がそれほど多くないこともあって、今はなんとかその領域で生活できている。だからこそ、やはり最後はそうした「橋渡し力」「翻訳力」が大切になるという実感もある。少し時間がオーバーしたけれども以上になる。ありがとうございました(会場拍手)。

 

※この記事は、2016年10月25日にグロービス経営大学院 東京校で開催したセミナー「飲食・小売業界におけるテクノベート 」を元に編集しました

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