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特別編 ベトナム徒然日記 その2

投稿日:2008/07/30更新日:2019/04/09

田崎正巳・グロービス経営大学院客員教授が、近代化と素朴さの共存するベトナムを訪れ、ビジネスの現場を巡る特別編・第2弾。市場経済の導入と対外開放を柱としたドイモイ路線に転じてから20年余。公私に渡り、アジア諸国を訪ねてきた経営のプロフェッショナルの目に、ベトナムの今はどのように映るのだろうか――。

ベトナムのモータリゼーション

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前回のベトナム徒然日 では、行き交うバイクで溢れるハノイの街の様子を紹介しました。

バイクの数はすごいですが、本格的なモータリゼーションはまだこれからという感じです。都市部では、車の数そのものはかなり多いですが、商用車やタクシーが多いです。一般の乗用車の中では高級車が目立っていますが、途上国に多いパターンで、いわゆる“普通の人”が乗るコンパクトカーはあまり見かけません。

統計を見ると自動車の販売台数はまだ少ないです。昨年の国内販売台数が8万台だそうです。ですが伸び率はものすごく、前年の約2倍なんだそうです。ちなみにタイではすでに年間60万台以上も売れているので、その差は歴然です。

タイの国内販売台数が年間8万台だったのは1985年頃で、87年の10万台を経て90年にはついに30万台になりました。人口差(ベトナム8500万人、タイ6200万人)について多少考える必要はありますが、大体タイの20年前の状況と同じ、と考えて良さそうです。

実は私は20年前にコンサルティングの仕事で日本の大手自動車会社のアジア戦略を練ったことがあります。所得水準や人口などの統計はもちろん、タイやマレーシアの田舎のディーラーに行ってセールスマンにインタビューしたり、ユーザーのグループインタビューなどもして、タイを始めとするアジア市場の見通しと、投入車種を決定するというかなり面白い仕事でした。

その頃、多くの日本企業は、「アジアは低所得で貧乏だから、日本の古い世代の車を安く売っていればいい」という考え方でした。実際にどのメーカーも2、3世代前の大衆車を、「新車」として生産・販売していました。

私たちの結論は、「安い値段の乗用車を投入するのは、もう少し後、本格的なモータリゼーションに突入してからの方が良い。逆に今はもっと値段の高い、高級車を投入すべき」でした。コスト重視の消費者へはピックアップ・トラックなどの商用車で対応し、乗用車はあくまで憧れの対象になるいい車を売ろうということです。所得水準だけを見ている日本の本社の人たちには、現地の感覚が十分理解されていなかった時代でした。

その時の市場見通しは、結果としてかなり当たり、タイは現在、東南アジア最大の自動車産業基地となっています。ちなみに、投入車種戦略も現地のニーズに合致し、その後クライアントのシェアアップに貢献できたことは、とても嬉しかったです。

今のベトナムを見ていると、あの頃の考え方が通用する部分が多いなと思いました。街で見かける車は、高級車が多いです。多分米国からでしょうが、とんでもない税金を払ってでも買うのでしょう。ベンツやBMWの定番はもちろん、ベントレーまで走っているのには驚きました。日本で買う値段の3倍くらいはするらしいです。レクサスも多く、ホーチミンやハノイでは、間違いなく日本の地方都市(例えば私の田舎の新潟市)よりも頻繁に見かけます。

“普通の人”が自家用車を手にするのはまだ先

ベトナムの自動車販売は今年に入っても好調が続いているようで、輸入の新車販売台数の今年の1-3月期の伸びは、前年比86%増だそうです。一方、国産は商用車生産が多く、それも全部含めるとなんと前年比180%増といいます。昨年1年間の伸びが2倍でしたから、いかにものすごい成長が続いているか、わかると思います。

ただ、やはり本格的なモータリゼーションの前段階らしく、タクシー以外には、“普通の人”が使うコンパクトカーはほとんど見かけませんでした。これは多くの途上国特有の現象で、要するに車を買えるのはまだ一部の大金持ちだということです。

一般の人がちょっとお金を貯めて買えるのは、バイクレベルで、自家用車はほとんど手が届かないのでしょう。いろいろ聞いてみると、乗用車は、株などの投資、不動産関係のバブルで儲けた人と企業オーナーがほとんどということです。ですから、コンパクトカーがほとんど売れてないのです。トヨタが強いのに、ほとんど「カローラ」が走ってない国も珍しいなと思いました。

具体的に見ていきましょう。途上国では、商用車、あるいは商用車ベースの車は比較的低い税金にして、国民的に普及させることがあります。しかも近年ASEAN内の部品の関税が低くなったこともあり、各社「アジア戦略車」を投入しています。

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タクシーに多く使われているトヨタのミニバン「イノーバ」。

その代表がトヨタでしょう。私が乗せてもらっていた車はトヨタの「イノーバ」という商用車ベースのミニバンでした。これは日本企業駐在員の運転手付き車としても、タクシーとしても売れているようです。

商用車ベースのSUVっぽい三菱の「ジョリィ」も良く見かけました。ちょっとパジェロっぽいけど、車台は全然違ってコストはかなり低そうです。これは台湾で売っているのと同じモデルなので、部品も台湾から一部持ってきているのかもしれません。

タクシーはどうでしょうか。こちらのタクシーは初乗り1万5000ドン(約100円)です。市内は3万ドンもあれば大体のところへ行けるので、安くて便利です。車はハイヤーでもない限りは、コスト重視型のコンパクトクラスです。タクシーは街中では比較的簡単につかまります。

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kia(起亜)の軽自動車です。コンパクトでかわいいです。

トヨタでは、「ヴィッツ」のセダン版(日本では不人気の「ベルタ」に相当)である「ヴィオス」が一番多かったです。でも、タクシーとしては一番目立った(多分台数もトヨタよりも多いかも?)のは日本車ではなく、韓国の軽自動車2台でした。Kia(起亜)の軽自動車は、コンパクトでかわいい外見。そして、Daewoo(大宇)の軽自動車は、色がカラフルなものが多かったです。

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すれ違うホンダ「シビック」。新車投入からたった1年半で乗用車首位とは

韓国車は、アジア新興国へはこれらの軽自動車を、価格を武器に売っているようです。韓国ブランドの中では、ヒュンダイはもう立派になって、この辺では安い車としては売ってないような気がしました。まあ、起亜はヒュンダイの子会社なので、トヨタとダイハツみたいな関係なのかも知れません。

一般の乗用車はどうでしょう。

先ほど触れたように、一般のコンパクトカーはほとんど見かけませんでしたが、敢えて「普通の小型車」に近い車を挙げると、ホンダ「シビック」でしょう。2年ほど前から現地生産(ノックダウンでしょう)を始めたらしく、よく見かけました。ちょっと調べてみると、なるほどその通りで、今年の1-3月期の車名別販売はトヨタの「イノーバ」が1位ですが、2位はホンダ「シビック」でした。「イノーバ」は商用車ベースですので、

首位と言えるでしょう。 もう少し大きいサイズの乗用車でよく見るのは「カムリ」です。「シビック」も「カムリ」も当然ですが、昔のアジア市場のような旧世代型ではなく、バリバリの最新型です。「カムリ」は大型セダンとしては一番売れているようです。これら以外にも、ヒュンダイ、プジョーやフォルクスワーゲンのビートルも走っていました。

倍々ゲームになりそうなベトナムの自動車市場。将来の夢を買って、10社以上の外資系が生産で進出しているようです。日本車は強いですが、日本市場とは異なった形で発展していくような気がしました。

ベトナムで活躍するサムライたち

ハノイでは、現地でソフトウエア会社を経営しているAさん、日本企業向けの工業団地を造成している大手商社のMさん、その工業団地を進出先候補としてアジア内での工場立地を調査中の中堅企業の国際本部で活躍しているYさん、現地の事情に相当詳しい別の大手商社のKさん、Oさん、現地で多彩なプロジェクトを展開しているまた別の大手商社のSさん、Gさん、そしてベトナムでのインフラ整備に燃えている大手通信のGさんら、わずかの日程で多くの方々と出会い、お話しさせていただくことができました。

共通していたのは、同年代の日本にいるビジネスパーソンよりも輝いていた、ということです。輝いている人が送られているのか、こちらで輝いたのかは分かりません。ただ、それぞれの個人や企業が、この成長の軌道に乗り始めた国で、法律や習慣、人々の気質などと闘いながらも、ベトナムへの貢献を意識しながら仕事をしていることに、とても深い感銘を受けました。

例えば有名なハノイ郊外のタンロン工業団地は82万坪もあり、キヤノン、松下電器産業をはじめとする優良日系企業が多く進出し、未だに失敗して撤退というのはないそうです。進出した企業(80社以上)の総投資額は13億ドルを超えているといいます。

これは1人当たりGDPが未だ800ドルレベルのベトナムにとっては大変な投資額です。進出当初この辺はわずか500人程度の村だったのに、今では1万人もの村になっているそうです。当然、地元だけでは足りず、近隣の村からたくさんバイクで通勤しています。

こちらの賃金レベルは、工場労働者で月に50-60ドルくらい、大卒スタッフやエンジニアは150-250ドル程度だとのことです。大卒のマネジャークラスは、400-800ドルくらいでしょうか。これらは今の上海などよりはもちろん低いレベルと言えるでしょう。

ただ、物価上昇(今年は20%くらいだそうです)がすごいので、給料もそれに合わせて上げていかないといけないようです。これらの工業団地で生産されたものは、ほぼすべて輸出に回されるとのことです

逆にいえば、国内向けの製品作りは、バイクや一部の食品(エースコックはベトナムでNO1のインスタントラーメンブランドです)・雑貨品(久光製薬の「サロンパス」は消費者に浸透しているそうです)などにまだ限られています。花王やユニチャームはまだいないようですが、P&Gやユニリーバは当然のようにいます。

ベトナム中部の都市ダナンへ

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ダナンの街並み

ハノイで有意義な時間を過ごしたあと、ベトナム中部の都市ダナンへ向かいました。

ダナンの街はとても綺麗でした。街の中央に大きな川が流れ、遠くには山が見えます。人口は70万人を超える程度とのこと。

川、そして遠くに山、70万人?それは我が故郷、新潟と同じではないかと、高校の同級生のHに「新潟市と姉妹都市にするといいんじゃない?」というと、「ダナンはもう名古屋と姉妹都市なんだよ」と言われました。

なるほど。名古屋は東京と大阪のちょうど真ん中、こちらはハノイとホーチミンの真ん中、よく考えたもんだなあと感心しました。ダナンには夜遅く着いたので、翌朝8時から車で「現場」に出かけることにしました。

一緒に同行した大手商社のOさんは、今は東京で勤務ですが、その前にインドシナ半島に10年いたベテランです。そのOさんをして、「いやー、道が良くなったなー。たった2時間でいけるんだ。以前は、3~4時間はかかったね。しかもひどい道で」と言わしめるほど、道路は整備されていました。ハノイではものすごい渋滞ばかり見ていましたが、この辺はのどかで車も少ないです。

車中で聞いたことで、一つ「へぇー」と思うことが。歌手・俳優の杉良太郎さんが、ハノイで先日コンサートをやっていたそうです。それだけ聞くと、「単なるアジア公演か」となりますが、実はチャリティーコンサートだそうです。彼の名前はこちらでは有名らしく、なんと1億円近い私財をベトナムに投入して、教育や福祉へ貢献しているそうです。「へぇー」でしょ?

プラント建設は男の職場

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「大きなカマキリ」のような高いクレーン

ダナンから車で2時間揺られてやってきたのが、「ズンクワット製油所プラント」の建設現場でした。

この製油所のプロジェクトは、投資総額25億ドルで、主にベトナム国内向けのガソリンや軽油向けの精製をするそうです。ここだけで、年間650万バレル、今後のベトナム全土の需要の3分の1を賄おうという大きなプロジェクトです。

建設プロジェクトを担当しているのは、フランス、スペイン、そして日本という3社のジョイントベンチャーだそうです。3社もあるのは、いろんな政治的な配慮などもあるようですが、なんとも調整に時間がかかりそうな構成です。この難しい仕事をこなしているTさんに話を聞きました。

Tさんは、ベトナム滞在は1年強で、その前はクアラルンプールに1年半、その前はこのプロジェクトのパートナーであるフランス企業との準備のためフランスに半年と、まさにプラント建設のために世界中を“旅している”ような人でした。

もちろん、石油と言えば中東ですから、そちらでのご経験も豊富だそうです。家族を日本において、“男の職場”であるプラントのプロジェクト管理をやっているわけです。まさに、「地図に残る仕事」です。

聞けば聞くほど大変です。1万人の労働者(はっきり言って、みながやる気満々というわけではないのは明白です)を使って、絶対に遅れてはいけない完成日までに、どうやってやり遂げるか。日々現場と立ち向かっていました。1万のうち、日本人はわずか15人。一体どうやって人を動かすのでしょうか・・・?

同じく現場をマネージしているHさんにも聞きました。「残念ながら、実質1日5時間くらいしか働かない。もちろん、8時間で契約しているけど。せめてあと1時間でも働いてくれたら、300人月は増えるのに・・・」と言います。巨大なプロジェクトであるのに、労務費の占める割合が少なく、もっと人が欲しいそうです。「でも、ベトナム人も最近は都会好きだから、こういう田舎の現場は人気ないんだ」とも話してくれました。

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建設中の現場

さて、Tさんに現場を案内してもらいました。建築現場はもちろん暑いです。日本の真夏の暑さがずっと続いている感じです。休憩時間は、トラックの下や建設機械の下に潜り込んで休んでいる人もいました。

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ガソリンを運ぶパイプライン

この製油所で作られたガソリンなどの製品は、大きなタンクに貯蔵され、港からタンカーで出荷されます。それらをつなぐのがパイプラインで、全長は7キロ位もあるそうです。長く続くパイプですが、途中何か所も90度に曲がって、また戻ってくるような部分がありました。

「なんのためですか?」と聞くと、鉄道や道路の遊びの(継ぎ目が少し空いている)部分と同じ、とのこと。つまり、この灼熱の下、パイプラインが膨張して曲がり、折れてしまうのを防ぐのだそうです。つまり、膨張を吸収するために、数キロおきに曲がりがあるというわけです。

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プロジェクトでは桟橋も建設しています

パイプラインを見て気になったのが、テロ対策です。カメラ、柵などいろいろ考えられますが、正直テロには弱いと言っていました。世の中にはもっと長いパイプラインなんていくらでもありますから、今後はそういう事件も出てくるのだろうかと思いました。

パイプラインの行き着く先は港です。このプロジェクトでは、桟橋も作っていました。原油の輸入から、製品の積み出しまで行う大プロジェクト。やはり臨海地域でないと、大きなプラントは難しいのでしょう。

数えるほどしかいないプラント建設のプロジェクトリーダー

案内を終えて、またTさんの部屋に戻りました。居室、食堂、トイレ、事務室など当然ですがエアコンは効いており、ほぼスタッフ全員がPCを使っていました。

最後にTさんに聞きました。「この事務棟は、完成後は運営母体の人が使うのですか」

「いいえ、全部取り壊します。このエアコン、机、ホワイトボードも全部誰かが引き取って、消えてなくなります。」「だったら、数年後に来ても、ああここで仕事したんだな、というのは消えているのですか」「プラント建設はそういうものです。工事に携わった我々の痕跡は跡形もなくなります」。

なるほどー。この机もPCも全部「テンポラリー」なんだ。うまい言葉が浮かびませんが、「一期一会」「諸行無常」なる言葉が浮かびました。

まさに「今」を生きるプラント建設の現場。友人のHの話によると、最大手の彼の会社でもTさんクラスのプロジェクトリーダー(数千億円の困難なプロジェクトを期限通りにやり遂げられる。安心して任せられる)は10人くらいしかいないそうです。ということは、日本では他社入れても20人もいるかどうかの職人の仕事なんだ!すごいです。

日本から遠く離れた仕事場で「サムライ」が頑張っているのを見て、私も・・・って気にもなりました。少しだけ、ですが(笑)。

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