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トップダウンかボトムアップか―日本交通から考えるコミュニティ経営のあり方

投稿日:2016/11/09更新日:2021/11/24

トップダウン?ボトムアップ?それとも・・・?

「変化が激しい業界だからこそ、トップダウンでスピーディに意思決定を進めていきます」というA社。それに対して、「変化が激しいからこそ、現場から変化をつかんでそれを経営陣に上げてもらう。ボトムアップこそがカギです」と語るB社。同じ変化への対応という観点でも、トップダウンであるべきなのか、ボトムアップであるべきなのかの考え方は様々です。それぞれメリットやデメリットがあるので、究極的にはケースバイケースでしょう。私たちは、変化が激しい業界に身を置きながらも成長している企業や組織は、どういう意図を持ってどちらの意思決定スタイルを選ぶことが多いのかを知るべく、いくつかの組織に対して意思決定に関するインタビューを行いました。

結論として見えてきたことは、私たちの当初の期待値とは離れたところにありました。まず、優れた組織というのは「トップダウンなのか、ボトムアップなのか」という固有の意思決定のスタイルを持っていないということ。つまり、テーマの質に応じて柔軟に主導権を採るメンバーが変わっていきます。別の言葉で言い換えるならば、「コミュニティ」全体で意思決定をしている、ということです。

2つ目のポイントは、トップやボトムのような組織階層状の「タテ軸」の外に答えがある、ということ。つまり社外などの「ヨコ軸」の人材を「コミュニティ」に積極的に巻き込んでいくことがカギになる、ということです。

「コミュニティ」による意思決定の姿

この原則をより分かりやすく体現している日本交通の事例を見てみましょう。日本交通は、1928年に創業し、現在はグループとして日本最大の売上高を持つハイヤー・タクシー事業者です。会長を務める川鍋一朗氏は、創業社長である川鍋秋蔵氏の孫にあたる人物であり、2005年より日本交通のかじ取りを担ってきました。歴史ある大会社であり、創業家のトップ・・・。これだけの情報からすると、「トップダウン」の経営が行われているようにも見えます。しかし、その実態は大きく異なります。

基本的に日本交通ではFacebookを通じて意見交換や意思決定がなされていきますが、トップである川鍋会長が意思決定を行う案件も当然ある一方で、現場が情報を踏まえて「ここはこのように決めますね」といったようなボトムによる意思決定も多く存在します。そして、何よりも情報の回転スピードの速さに驚かされます。Facebook上では常に生の情報がスピーディに上がり、そこでトップもボトムも関係なくコメントを挟んでいきます。もちろん大きなテーマは入念に検証した上で決められますが、一度決めたことが下からの意見によって修正されることもしばしば。このような姿を見ていると、「トップダウンなのかボトムアップなのか」という問いそのものの意味はあまりなく、むしろ情報を素早く回転させることにより、全員が同じ絵を見ながら、「コミュニティ」で決めている、と言うべき姿が浮かび上がってきます。

ヨコ軸も「コミュニティ」に迎え入れる

また、もう一つのポイントは、社内の「タテ軸」の人間だけでなく社外や入社間もない社員も巻き込んだ「ヨコ軸」の意思決定が活発である、ということです。

「JapanTaxi」というIT関連を取り扱う会社があります。250万ダウンロードされている配車アプリ「全国タクシー」はこのJapanTaxiから生まれたのですが、JapanTaxiは入社間もない人にも主導権を握らせることが頻繁にあります。数年前に大手電機メーカーから転職した濱氏は、入社早々からコールセンターや営業チームの改革、人事制度の構築、といった業務に次々にアサインされ、生え抜き社員とは異なる視点で改革に貢献をしていきました。さらに、濱氏の知人である専門家を業務委託先として巻き込み、社内外関係なく改革を行い成果につなげました。

当然、先ほど書いたFacebookのグループにも社外メンバーが入って、当事者として議論をしていきます。社内の立場がどうか、ということよりも、適任がいれば新入りであれ社外であれ当事者として大胆に「コミュニティ」に招き入れていく、という意思決定スタイルを垣間見ることができます。

Know Whoに対するアンテナを立てる

ではなぜ「トップダウン」や「ボトムアップ」という表現に代表される「タテ軸」ではなく、日本交通のように「ヨコ軸」を巻き込んだ「コミュニティ」型の意思決定が求められるのでしょうか。それは、私たちの身の回りで起きていることの多くが既存の仕組みだけでは完結しきれない、という背景があります。既存の延長にある課題であれば、組織内の経験値を踏まえて、上下間の意思決定プロセスの枠組みで答えを出していけばいい。しかし、変革に向けて新たな課題に取り組もうとしているのであれば、組織の「タテ軸」は時として足かせになります。かつての経験が、新しい技術、トレンドを軽視し、怯え、対応が遅れるからです。したがって、組織の枠組みにとらわれずに、一番その課題にスピーディに対応できる人がイニシアチブを握ればいいのです。

むろん、これは典型的な「言うは易し」という話。シンプルな原則ではありますが、多くの組織ではこれをやるのが難しいのが現状です。超えるべき最初の壁は、「誰が適者なのかを把握する」ということです。つまり、社内外を超えて、「誰がどんなことに対して通じているのか?」「この領域について深いノウハウを持っているのは誰なのか?」というKnow Whoの力になります。日本交通が他のタクシー企業よりも積極的に情報を公開し、多くのセミナーやカンファレンスに参加しているのも、こういった「ヨコ軸」に対するアンテナを立てることの重要性を認識していることにあると考えます。

トップダウンか、ボトムアップか。そんな問いから始まった今回のコラムですが、インタビューを通じて感じたのは、私たち自身が既存の思考モデルにつかりすぎていたことです。既存の組織論、べき論にとらわれず、「ヨコ軸」も含めた「コミュニティ」の力を使って柔軟に対応していく組織こそが強いのだ、と改めて理解しました。

【今回の学びのポイント】
(1) 決めるべき人を限定せず、「コミュニティ」全体で決めていくことが求められる
(2) 「コミュニティ」には組織内のヒエラルキーだけでなく、社外など「ヨコ軸」のメンバーを巻き込んでいくことが重要
(3) 積極的な情報公開や社外との人脈が、「ヨコ軸」に対するアンテナにつながる

次回はこちら

https://globis.jp/article/5052

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