5月、プーチン大統領の後継者として、メドベージェフ新大統領が就任する(関連記事)。そしてプーチン氏は首相に就任する。このメドベージェフ政権の陰のオーナーはプーチン首相という見方がもっぱらだが、少数意見として、プーチン氏がフェイドアウトするための準備という見方もある。
もともとプーチン大統領は、8年の任期をまっとうしたところで引退するつもりだったが、後継問題をめぐって、政権内で抗争があった。「シロビキ」と呼ばれる情報機関出身者の間で、露骨な権力闘争が昨年秋に繰り広げられた。このためプーチン大統領は、政権を混乱させないためにシロビキ以外の人材を登用する決心をし、メドベージェフ第一副首相を後継者とする意思表明を行ったのだという。
「院政」か「引退への準備」かは、もう少し様子を見なければ分からないが、その一方で、プーチン大統領がこだわる“強いロシア”の復活に、黄信号が点滅しているようだ。
ロシアの資源戦略は失敗!?
ロシアは天然ガスで世界第1位、石油で世界第2位の生産国だが、英フィナンシャル・タイムズ紙では「2008年にはここ10年で初めて、原油の生産が減ることになりそうだ」と報じている(関連記事)。
それによると1〜3月の生産量は、976万バレルと1%減の水準だったが、これを長期的に増やすとなると、西シベリアあるいは東シベリアでの油田開発など膨大な投資が必要だ。それだけではない。現在の生産レベルを維持するために、これから8年間で3000億ドル(30兆円)という巨額の投資が必要だという。
ここに影を落としているのが、これまでのロシアの資源戦略だ。ロシアは民間企業で有力石油会社だった「ユーコス」を政府の手中に収めた。こうした戦略から、ロシアでの石油や天然ガスの開発に慎重になる投資家が多いという。
サハリンで日本企業も参加している「サハリン1プロジェクト」も、ロシアの環境省から横やりが入り、かつ国営ガス会社「ガスプロム」が会社の経営権を握ろうとしている。「これでは油田やガス田開発にカネを投じようという人間はいなくなって当然。遅かれ早かれいつかは国が投資家の資産を取ってしまうからだ」と前大統領経済顧問のアンドレイ・イラリノフ氏は語っている。
鴨ねぎがやって来た!
ロシアはガスプロムやロスネフチを使って、買収を繰り返し、石油・ガス産業における国家のシェアを高めてきた。国際石油相場が高騰するに伴い、ロシアの国家財政が豊かになってきたのは、まさにこの戦略のプラス面だった。しかしフィナンシャル・タイムズ紙が書いているように、この戦略は両刃の剣である。ガスプロムやロスネフチの買収活動に使われた資金は、本来なら油田やガス田開発に投じられるべき資金だったという。
4月25日からロシアを訪問した福田首相。プーチン大統領との会談で、「東シベリアで油田の共同開発を進めることで合意した」と報道されている。内外の投資家がロシアの石油開発投資に慎重になっているときだけに、ロシア側にとっては、「鴨が葱(ねぎ)を背負って政府専用機で飛んできた」と言っては福田さんに失礼だろうか。
※記事中の写真はNATOが学術機関、メディア向けに提供する素材より掲載した。
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