2007年夏に噴出したサブプライムショック。半年以上も経った現在でもまだ底が見えない。そればかりか、金融収縮(クレジットクランチ)が実体経済に悪影響を及ぼし、米経済はすでに景気後退(定義は2カ月連続でマイナス成長)に入っているという見方が強まっている。ワシントンで開かれたG7(先進7カ国中央銀行・蔵相会議)でも、世界経済のリスクが高まっているとの認識が強調された。
IMF(国際通貨基金)が発表したワールド・エコノミック・アウトルックによると、世界経済の2008年の成長率は3.7%、2007年は4.9%だからかなりの減速である。しかもIMFのエコノミストの見方では、2008年と2009年に経済成長率が3%を切る可能性も25%程度あるという。グローバルな景気後退である。
金融技術の発展が混乱を招く
この問題の元々の原因は、住宅という資産のバブルである。日本の1980年代は、株式と不動産の資産バブルだったが、米国では住宅ブームが長い間続いていた。この住宅ブームを引き起こした原因は、「神様」とまで呼ばれたグリーンスパン前FRB(米連邦準備理事会)議長の低金利政策だとされている(グリーンスパン氏は批判に対して、そうしたことは予期できなかったとして反論した)。
ついでに触れておくと、グリーンスパン前議長の自叙伝『波乱の時代』では、「金融技術の発達によって豊かになると資産が増加すると同時に債務も増加するものだ」というようなことが書いてある。しかしサブプライムローンの問題は、まさにその発達した金融技術によって、低所得者向けの住宅ローン債権が複雑に組み込まれて「低リスク・高利回り」の金融商品に化けたところから発生している。もちろんこれで金融工学が全面的に否定されるものでもないだろうが、技術の進歩が時に反乱を起こすこともあるという皮肉な状況が生じているように見える。
個人消費復活のためには住宅価格がカギ
今後の問題は、この米国を中心とする景気後退はどの程度深刻でどの程度長く続くのかというところにある。英エコノミスト誌の最新号でこの問題が取り上げられている。「思っているほど米国の景気は悪化しないかもしれない」という楽観論は相変わらず根強くあるようだ。第1の理由は、連邦議会も金融当局も素早く対応していること。とりわけFRBの金利引き下げペースは史上、例を見ないほど速い。
中国やインドといった急成長している新興国経済は、米国が景気後退してもあまり影響は受けないといういわゆる「デカップリング論」は薄れつつあるが、それでも「新興国経済がクッションになるだろう」という見方は根強い。実際、ドル安に刺激されて米国の輸出は伸びている。
だからといっていったん景気後退に陥っても、米国がすぐに復活すると思わないほうがいいかもしれない。これまでの米国の個人消費は住宅価格の値上がりに支えられてきた。住宅価格が値上がりし、それを担保に融資を受けて消費に回すという循環があったからだ。米国の個人の貯蓄率がマイナスで、消費が活発だったのはこのためである。だとすれば、米国経済最大の牽引車である個人消費が復活するには、少なくとも住宅価格の下げ止まりが必要だが、その気配は今のところまったくない。
それに国際原油相場は高止まりし、かつバイオエネルギーの問題なども重なって穀物相場も高い。日本でも先日報道されたように製鉄用の石炭価格が3倍になった。こうした資源の値上がりは、インフレ圧力になるわけだが、FRBにとって悩ましいのは、インフレに対抗して金利を引き上げれば景気に悪影響が出るし、しかし野放しにすればインフレがコントロールできなくなってさらに大混乱を招く可能性もあるということだ。バーナンキ議長はそれこそ幅の狭い塀の上を歩いているようなものだ。塀の外側(景気悪化)だろうが、内側(インフレ)だろうが、落ちれば怪我をすることだけははっきりしている。そして怪我をするのは米国市民だけではない。
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