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第4回 トヨタと富士重の連携(1) 相乗効果は?

投稿日:2008/04/12更新日:2019/04/09

トヨタ自動車が、富士重工業(スバル)との連携を深めている。報道されているような「連携による相乗効果」は本当に期待できるのか。グロービス経営大学院客員教授・田崎正巳が考察する(本稿は、「トヨタが富士重へ出資拡大の方針」との、2008年4月2日の新聞報道を受け、同日執筆したものです。10日の正式発表については、続報を近く掲載予定ですので、ご期待ください)。

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2008年4月2日の新聞に、トヨタ自動車が富士重工業への出資比率を現在のほぼ倍にあたる17%程度に引き上げると出ていました。トヨタのグループ化戦略の一環なのでしょうが、トヨタはこの名門企業を今後どうしようというのか、興味深いものがあります。

トヨタは元々、M&A(企業の買収と合併)には関心は薄く、現在グループ子会社となっている日野自動車にしてもダイハツ工業にしても、「先方からお願いされて」少しだけ出資し、30年という長い年月をかけて徐々に協業分野を広げ、子会社化してきた歴史があります。

ですが、今回のスピードはそれらに比べると随分早いようにも見えます。いくつか理由はあるでしょうが、日野は大型トラック、ダイハツが軽自動車と、トヨタと直接競合する分野ではなかったということもあると思います。

直接競合する乗用車の分野ということは、裏を返せばすぐにでも協業できる分野でもあるということです。日野、ダイハツは、トヨタが手掛けてない分野の補完企業としての位置づけとすると、富士重は小さいながらも同じ市場を攻略していると言えます(以下、社名は富士重工業ですが、車のブランドである「スバル」を使いながら、お話しします)。

コアなファンを魅了するスバルの技術力

ですが、このスバルはなかなか一筋縄ではいかない会社でもあります。まず名門です。戦前の中島飛行機(1917年設立、零戦を作っていた技術の進んだ軍用機メーカー)の流れをくむ企業であり、50年前に「スバル360」という軽自動車で四輪自動車に進出しました。進出後、この「てんとう虫」と呼ばれた国民車はベストセラーとなり、軽自動車でのシェアNO.1にもなりました。

現在、ほとんどの車はFF(エンジンが前にあり、駆動も前輪で動かす)ですが、スバルは1966年からFFを採用し、その後の世界的潮流となるFF化の先駆けとなったのです。ちなみにトヨタの「カローラ」がFF化したのは、それより17年も後の1983年でした。現在の世界的なFF化の先駆車と言われるのは、フォルクスワーゲンの「ゴルフ」ですが、それが世に出たのもスバルから遅れること8年の、1974年です。

しかも、すごいのはFF技術だけでなく、エンジンも1966年から水平対向エンジンという特殊なメカニズムを採用し、1972年からは乗用車ベースの四輪駆動車を世界で初めて発売するなど、技術に関しては間違いなく先進的なメーカーであり続けてきました。現在の乗用車用の四輪駆動車の先駆けと言われる「アウディ・クワトロ」が発売されたのは1984年ですが、スバルはその12年前から販売していました。水平対向エンジンは現在、世界中でポルシェとスバルしか作っていません。

それぞれが、本当にどれだけの意味があるのか分からない人でもなんとなく、「スバルは世界の技術革新のリーダーなんだろうな」と、想像はつくと思います。

現在のスバルの車は、これらの機能が進化した車が中心となっており、一言でいえば「水平対向エンジンを載せたシンメトリカルAWD(全輪駆動のこと)」が特徴の車だということです。昔々女優・吉永小百合さんのファンのことを「サユリスト」と言ってた時代がありましたが、スバルのコアなファンは「スバリスト」といってこれらのメカニズムや歴史に強烈な思いを持っている人が多いです。

私の兄も平静を装って「まあ、四駆のワゴンは便利だからね」などと言ってますが、スバル以外に乗り換えるつもりはなさそうで、何台も「レガシィ」のワゴンを乗り継いでいます。車好きな人が身近にいたら、間違いなく「この水平対向エンジンはね・・・」とか、「同じ四駆でもこれはね・・・」などと話しそうな雰囲気があります。

日産、GM、トヨタ 次々と変わる株主

なぜ長々とこんな話をしてきたかというと、これらがスバルのコアの財産なのです。歴史、技術、そしてコアなファン。市場としては大きくはないけれど、非常に“濃い”世界を作っているのがスバルなのです。

トヨタは、他社が先行した市場に後発で入って販売力にものを言わせてシェアを取ってしまうことで有名です。犠牲になった車は、たくさんあります。最近で言えば、日産の「エルグランド」、ホンダの「オデッセイ」、「ストリーム」、「ステップワゴン」などでしょうか。

実はそのターゲットとして、スバルのレガシィも狙われたことがありました。「ありました」と過去形なのは、トヨタは「カルディナ」という車で本気でレガシィの市場を奪おうとしたらしいのですが、販売力の前に、技術力で差がありすぎて完敗し、結局この市場から撤退してしまったのです。つまり、スバルはまさに「ハリネズミの戦略」で、自社のコアマーケットを守り通してきたのです。

と、ここまで書くと、「そんな立派な会社なら、自立してやればいいじゃないか」と思われるかもしれません。確かにそうなんですが、そこがいかにも技術偏重の会社らしく、マーケティングが下手、経営が下手、提携が下手と来ています。加えて時代は「環境」「燃費」「エコ」です。これらには巨額の金がかかります。コアなファンはいますが、それを広げることができていないのも問題です。

歴史を振り返っても、この技術名門企業をコントロールするのは簡単ではないのです。

まずは、日産。日産は30年あまりスバルの主要株主であったのですが、結局ほとんど何もできず、細々と日産の小型車(「チェリー」や「パルサー」など)をOEM(相手先ブランドによる生産)でスバルに生産委託していただけの関係でした。

その後、株主はGMに変わりました。GMは、スバルの技術力は認めるものの、他のGMグループ(サーブ、オペル、フィアットなど)と提携してほしいと願っていましたが、結局はほとんど何もできずに株を手放したというわけです。

一番大きな理由が先に触れた「水平対向エンジンを載せたシンメトリカルAWD(全輪駆動のこと)」です。これは他社の車と共有化できないのです。エンジンも車台(プラットホーム)もできません。

スバルの魅力は、ユーザーにとっても、大株主にとっても大して変わりません。この特徴的なエンジンとプラットホームにあるのです。これがあるからスバルなのです。ですが、逆にこれがあるから他社と実のある提携ができないというのもまた事実、というわけです。

トヨタの狙いとは

で、トヨタです。トヨタは、ご存じの通り、最近のハイブリッドエンジンが出るまでは、エンジンでも車台でも特段特徴のない「安くて丈夫で、見た目の品質がいい」ことを“売り物”にしてきました。一体、この小難しいスバルをどうしようというのでしょうか。

皆さんなら、どうします、このスバルを??

今、分かっているのはまだ第1段階レベルです。一つは、スバルの余った生産キャパシティでトヨタの車をOEMで生産しています。具体的には、米国にあるスバルの工場で「カムリ」を生産しているということです。これは、別に資本提携なんかしなくてもやればできる話です。日産もやっていました。

次は共同開発です。一部報道によると、スバルの車台を使った新しいスポーツタイプのFR車(エンジンは前にあり、駆動は後輪で動かす)を開発しているそうです。なんでFF専門メーカーなのに、FRができるかというと、スバルの縦置きエンジンや四駆用の車台は比較的、簡単にFRに転換しやすいからなのです。

この第一段階の話は、要するにトヨタのリソースが足りない(生産キャパ、開発キャパ)のを補ってもらう、というレベルです。

資本を増強し、将来のグループ化を考えるということは、第2段階を考えなくてはならないということなんです。それは何か?「スバルというブランド」「富士重工業という企業の価値」をどう上げるかということです。

オプションはいくつかあるでしょう。

(1)スバルには今まで通り特殊なレイアウトのまま自由に開発させて、そのブランド価値を高めてもらう。

一見、良さそうですが、これは今まで通りってことです。トヨタの生産台数の17分の1でしかない会社をサポートし続けるトヨタにとってのメリットは見えませんね。スバル程度の生産台数は、グローバル規模でのトヨタの年間あたり増産分で相殺される程度の規模ですから。その先のシナリオが見えないと難しいでしょう。

(2)徐々に、トヨタの車と部品の共有化をしてコストダウンし、利益を増やす。

一番、分かりやすいアプローチですが、前述のように一番重要な部分の共有化ができないのが難点です。多少は効果あるでしょうけど、トヨタにとってのメリットは見えません。

(3)今後は、トヨタの提供するエンジンやプラットホームを使って、スバルで開発する。

これは、誰もが気づくように、要するにスバルという会社を消滅させるのと同じことでしょう。

当分は、オプション1でしょうが、トヨタとしては常にスバルの経営陣には2を意識させ、最終的な手段である3もちらつかせながら、硬軟交えてこの難しい会社をコントロールしようとするのだと思います。

ダイハツや日野を統合させたのとはわけが違うと思います。一部で聞いたところでは、「スバルの社員はトヨタの社員が話している言語がわからない」とまで言ってるそうです。問題を発見し、すべて理詰めで解決しようとするトヨタと、「いいものさえ作っていけば、お客さんはついてくる」という今時珍しい供給者の発想でモノ作りに専念するスバルとは、社風どころか言語の違いから顕著に表れているのだそうです。

私の個人的な願望で言えばオプション1で、しかも“大旦那さん”として必要な資金と、スバル一社の体力では開発の難しい環境技術だけを提供するのが嬉しいです。スバルがもっと資金を得たら、どんなクルマを作れるのか、見てみたいです。

その時の唯一のノルマは、「5年後には今の1.5倍で売れるプレミアム性を獲得せよ!」「価格は全てアウディ並みを達成しろ!」っていうのはいかがでしょうか?日本発のプレミアムブランドで、マーケティング的発想から生まれたレクサスと、究極の製品を提供する技術者から生まれたスバルのプレミアムブランドの両方を見てみたいと思われませんか。それができるのであれば、非常に意味のある提携だと思うのですが・・・。

でも多分、実現しないのでしょうね。トヨタはやっぱり台数至上主義ですから。まずは、グローバルで1000万台。そのための工場買った、くらいの認識のような気もします。

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