海外での事業に携わると、たくさんのチャレンジが待ち受けていますが、その中で最も頭を悩ますのは、やるべきことの多さです。だからこそ、やるべきことを見極めそこに集中する決断をする能力が問われることを前回書きました。
さて、やるべきことを見極めようとする場合、ただ思いついたアイデアを、やるべきこと=must-to-doだと信じ込もうとする人もいます。アクションベースのアイデアを並べ、どれがmust-to-doに該当するかを考えることから始める人もいるかもしれません。どちらにせよ、うまくmust-to-doを見つけることができず、途方に暮れる経験をしている方も多いのではないでしょうか。それは当然の帰結です。なぜならば、1つ1つのアクションはそれ自体、良い面と悪い面の両面があり、それだけを眺めていてはnice-to-doかmust-to-doかの判断がつかないものなのです。
では何から始めたらよいのでしょうか。must-to-doを見極めるためにまず重要なことは、どのアクションが最も優れているかの答えを探すのではなく、「そもそも解決すべきことはなにか」という問いをたて、議論をすることです。解決すべきポイントが分かれば、打ち手を選ぶ際の基準が明確になります。後は、「それを解決するためには、どのアクションが最適か」という視点から各アクションの甲乙をつけることができ、must-to-doを見極めることができます。
しかし、多くの場合、「解決すべき課題はなにか」という問いについて十分な議論がされることは少なく、打ち手だけを議論することに延々と時間が使われます。つまり、評価軸を持たないまま、漠然とした基準で「答え」を探すことに時間を使ってしまっているのです。そこにおける「良い」「悪い」はあいまいなままですので、立場によって「良い」「悪い」の基準が違うため話し合いが平行線になることは会議の場面で良く見られる一幕ではないでしょうか。
ピーター・ドラッカーは著書『The Practice of Management』でこのように言っています。
“The important and difficult job is never to find the right answer; it is to find the right question.”
さらに彼は、著書『The Daily Drucker』でこのように述べています。
“The right answer to the wrong problem is very difficult to fix.”
これこそ我々にとって最も重要なポイントの1つです。間違った問いに答えても意味がありません。問うべき問いは、「解決したい問題はなにか」ではないということです。問うべき問いは、「解決すべき問題はなにか」、ということであり、「それは本当に取り上げるべき問題か?」です。ただ問うのではなく、正確な問いを持つことが重要です。
私がまだ駆け出しだった頃、「これが問題です。だから解決すべきです」と上長に報告したときに、「それが問題であることは認識している。ただ、問題は、それが優先順位の高い問題かどうかだ。解決したい問題は無数にある。その中でどの問題が最も優先順位高く、かつ解決すべき問題かを考えることが重要だ。そうすることで、解決すべきことにフォーカスでき、かつ優先順位の高くないものを『やらない』意思決定ができる」と言われたことをいまでも記憶しています。
「解決したい問題はなにか」と「解決すべき問題はなにか」―似たような問いではありますが、戦略的には、その意味合いは大きく違います。特に特段多忙を極める海外で活躍する人材にとって、正しい問いを自分自身に問うというのは、must-to-doを見極める上でとても重要です。
海外事業を率いる中で、「何をすべきか」を考える前に「何を解決すべきか」に、意識が向いているでしょうか。また日々自分自身に正しい問いを立てているでしょうか。自分がどんな問いを立てているかを意識するところからでも、ぜひ始めてほしいと思います。
【参考リンク】
グロービス アジアパシフィック/グロービス タイランド
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