新興国へどうアプローチする?ユニリーバの4P+2P戦略

本コラムでは、成長するアジアで地道にビジネスにコミットしているリーダーに焦点を当て、どうやってビジネスを展開し、創造と変革を巻き起こしているのか、そしてそこから我々は何を学べるのかを見て行きたい。取り上げるテーマは、新興国へのアプローチ、新興国で取るべき戦略、政府との連携、人・組織作り、女性リーダーの活躍、理念経営といったマネジメントの各領域の他、アジアでビジネスを行う上での最新トピックなどを予定している。

今回は「新興国へのアプローチ」として、ユニリーバ・アジアのマーケティング・ディレクター、Sandeep Kohil氏に話を聞いた。Sandeep氏は、ユニリーバ・ミャンマー、カンボジア、ラオスの会長職とアジアパシフィックのマーケティング・オペレーションの責任者という2つのミッションを負っているビジネスリーダーだ。

最も尊敬される企業になりたい

高橋:ユニリーバは、新興国でのビジネスをどのような考え方で進めているのか?

Sandeep:ユニリーバは、収益の50%を新興国からあげていることが他のグローバル競合と比べて特徴的だ。ブラジルや中国、インドネシアなどの国々で早くから活動をしており、新興国の人々に価値を提供することが、我々のDNAに組み込まれている。我々は、「最も尊敬される企業」になることを目指しており、事実、インド、インドネシア、ブラジルなどでは最も働きたい会社として、学生からもランク付けされている。「愛と尊敬」をキーワードとして持ち、様々なマーケットで消費者やコミュニティに向き合っている。

新興国においては、新興国に適したアプローチを実践している。しかし、それは外部環境の違いに対応しているだけだ。具体的には、アジアの各マーケットでは、消費者が使える金額も違うし、洗剤などの商品は天候や生活環境に大きく左右される。食品事業では各地域の人々が持つ味覚について知らねばならいないし、髪の毛の質やスタイルは民族によって違う。こうした特性に合わせて、商品の開発や販売網の構築を工夫している。

一方で、どの国でも変えないものがある。それはユニリーバがもつ「価値観」や「行動基準」だ。人々が「より心地よく」「より格好よく」生活して欲しいという想いが常に我々の行動の中心に置かれている。そのためのリーダーシップや価値観の基準が定められており、妥協はない。そして、どの国でも、ユニリーバとしての卓越した戦略、卓越したスキルを持たねばならない。現に私は、世界中どこのユニリーバのオフィスに行っても「ユニリーバを肌で感じる」ことができる。

高橋:「最も尊敬される企業」をどうやって実現しているのか?

Sandeep:4つある。一つ目は、我々のブランド。生活・食品分野で人々に馴染みのあるブランドを数多く有していること。二つ目は、組織力。価値観に基づき組織を作り、その国の人々や政府からユニリーバにお願いすれば何かを実現してもらえるという期待に応えていること。三つ目は、ユニリーバで働く1人1人の社員がユニリーバの価値観を体現していること。四つ目は、サステイナブル・リビング・プランを標榜し、売上を2倍にしたら、環境へのインパクトを半分にすることを宣言していることだ。社員には、ユニリーバで働くと自己成長できるという期待感があり、事実、ユニリーバ出身のビジネスパーソンが他企業でも活躍している。

実行力が強み!ユニリーバをユニリーバ―たらしめる4つのPとは?

高橋:同様の理念を掲げるP&GやJ&Jと比べてユニリーバが特に強いと考えることは何か?

Sandeep:ユニリーバの強さは「戦略」の強さのみならず、「実行力」の強さである。企業は最終的には「実行力」で判断される。きちっと実行したかどうかで 尊敬される企業かどうかが決まる。では、我々がどうやって特に新興国で実行力を高めているのか?我々のアプローチである4P (People、Partnership、Purpose、People)という枠組みで説明したい。

最初のP(People)はその国のConsumerのことである。その国の人々を理解して関係を構築する。次のP(Partnership)は、我々の直接のCustomerでもある販売店や流通網などのパートナーのことである。我々は自分たちのビジネスもさることながらパートナーのビジネスを支援する。パートナー企業の人材育成やシステム投資などにも支援し、相互に利益をあげて行くことが大事だ。3つめのP(Purpose)とは、Communityへの貢献である。そもそも何のために我々はミャンマーで仕事をするのか?を明確に定義し意識する。特に、新々興国で新しいマーケットを創造する際には、その国で何を成し遂げようとしているのかを掲げなくてはならない。

ちなみに、我々はCSRという言葉を使わない。なぜならば、企業の責任として社会貢献を行うのではなく、人々に奉仕し、コミュニティに奉仕すること自体をビジネスモデルに組み込んでいるため、我々のビジネス自体が社会貢献に直接つながっていると考えるためだ。

例えば、新興国で石鹸を売るのも、「子供たちの命を救うため」という目的を置いている。発展途上国では、何千万人とうい非常に多くの子供たちが、非衛生的な環境、公衆衛生の不備のため、5歳になる前に命を失っている。だから我々は石鹸を売るだけではなく「どうやって手を洗うのか?」を子供たちや、その親に教育している。この活動はCSRと位置付けられるものではなく、事業そのものだ。こうした活動を後押しするのは、どんな目的を持ってそのマーケットに行くのかにかかっている。

このように、我々は定義した目的を常に仕事の中心に据えている。ミャンマーで仕事をする際にも、ミャンマーの法律をクリアしていればいいとは考えない。常に、我々が目指す基準を満たしているのか、目的を達成するものになっているかが判断基準だ。法律的に自然環境基準をクリアすればどんな工場を作ってもいいということにはならない。

4つめは、再びP(People)だが、ここでのPeopleは我々の従業員のCapabilityのことだ。我々の従業員には高い基準を置いており、人材投資にコミットしている。ミャンマーの従業員は、ミャンマーのベスト人材になればいいのではない。世界で通用するベスト人材として育成している。それゆえに、ミャンマーで成功した人は、シンガポールでも他の国に行っても活躍できるのだ。私自身も、インド、フィリピン、ロンドン、そして、シンガポールで仕事をして来ている。

Baby cannot nurture Baby. Baby needs Father!

高橋:新興国での人的・金銭的な投資はどうマネージするのか?

Sandeep:情熱と計画(Passion & Plan)だ。最初のP(情熱)で必要なことは、「我々は必ず成し遂げる(We are going to do it!)」と宣言することである。ユニリーバは、できる限り多くの人々の生活と触れ合い、できる限り多くの国で活動し、できる限り多くの国で人々の生活レベルの向上に貢献したいと考えている。その理念に忠実に従って意思決定をしている。

次のP (計画)。ビジネスケースとして、人口動態や個人所得向上の見込みなどから5年計画を策定する。ここで重要なことは、P&Pにリーダーとしてコミットすることだ。例えば、ユニリーバの社長はミャンマーに実際に何度も訪問している。100カ国以上で毎日20億人に商品を提供している企業のトップが何度もミャンマーに足を運ぶのは並大抵のことではないが、P&Pを目に見えるようにしているのだ。このような地道な活動が、実行力を支えている。

もう1点。「Baby cannot nurture Baby. Baby needs Father!」ということだ。新興国でまだ小さなマーケットだからといって、経験の浅い人材に現地の経営を任せてはならない。赤ちゃんが赤ちゃんを育てることはできないのだ。生まれた子供を正しい方向に導かなければならない。そのためには、ベストプラクティスを持ちこみ、ベストな人材に育成を任せることだ。ベストな人材は、新しいマーケットから学ぶ力も高いために、子供を育てながら企業力を高めることができるのだ。

共感する心を大事にして仕事に向かう

高橋:これまでどうやってリーダーとして成長してきたのか?ターニングポイントは何だったか?

Sandeep:私は、常に、「もっと学ばねばならない」と思っている。そして、「傾聴する」 ことから成長してきたと考えている。世の中は、とても多くの新しいことで満ち溢れている。学びたいことは無限にある。それゆえに、多くの人から「聞きたい」と思っている。

良い聞き手になるコツは、頭で考えるのではなく、自分に話をしてくれる人に共感しようとする「心」を持つことである。話を聞いている時間を大事にし、話に集中する。自分の考えを常に壊し、常に再構築することだ。一つ一つの話に集中するには、「瞑想」が効果的である。私は、会議と会議の合間に瞑想をして呼吸を整える。瞑想することで共感力が蘇る。

リーダーに成長する上でのターニングポイントだと指摘できることは特にない。多くの経験や多くのチャレンジが徐々に私自身を成長させてくれた。その中で、私にとって最もタフな経験は、組織が壊れてしまった時だった。人々は不信感を持ち、会社の価値観が破壊され、仕組みも機能しなくなった。価値観をベースとした企業にいる自分にとってはとても苦しいことだった。外部の問題よりも壊れてしまった内部を立て直す仕事の方がむしろ難しく、人間として成長したと思う。

日本人の特性はグローバル環境で活かされる

高橋:最後に日本のビジネスパーソンにメッセージを!

Sandeep:日本には非常に多くのブランドがあるにも関わらず、自動車産業や一部の業界を除いて、世界の多くの人々の生活に触れていないことに驚きを覚える。もっと世界中の人々に貢献することにチャレンジして欲しい。日本企業が持つ価値観を維持しながら、自分たちのブランドを世界中の人々に適応させることにチャレンジして欲しい。

私は、日本企業から学ぶことは沢山あると思っている。日本人の強みは、良い「聞き手」であることだ。良い「聞き手」であるということは、「良い学び手」であると言うのが私の信念だ。良い学び手としてのオーラを発揮し、自分たちの輪を広げ、その輪の中にもっと多くの人々を招き入れて欲しいと思う。

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