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震災で生まれたチャンス、人材発掘や商品開発に活かせ

投稿日:2015/07/01更新日:2021/12/10

復興 ピンチをチャンスに変える思想と行動~持続可能な地方創生モデルを東北から~[2]

高島:恐らく震災がなければ一粒1000円のいちごは生まれなかったと思うし、インドでいちごを栽培する日本人も出てこなかったと思う。人材に関しても、以前であれば考えられなかったような人材が集まってきているという感覚はあるだろうか。

岩佐:ある。うちの社員を見ても、信託銀行や外資系IT企業に務めていた方がどんどん農業に入ってきている。また、我々の会社以外でも、東京あるいは世界で活躍していたような、若くて元気のいい方々が次々と地域に入り込んでいる。

高島:岩佐さんは震災以前から東京で起業されていたわけだけれども、その頃と比べて、ご自身はどのように変化または成長したとお考えだろう。

岩佐:山元町では4年で20%ほど人口が減っているわけで、とにかくそのスピードに負けないよう事業を進めなきゃいけないという思いが常にあった。そういう、頑張らざるを得ない環境のなかで私自身も大変成長したと思っている。

高島:人材以外の面で、今感じているチャンスは何かあるだろうか。

岩佐:農業分野に関して言えば、皆さん、今はほぼなんでもできるような状態だ。広大な仙台平野があって、そこであらゆる施設園芸や大規模な農業を始めることができる。農業のスタートという意味では大きなチャンスがあると思う。

高島:それは規制があまりないということだろうか。あるいは、「一旦すべてのものがなくなっちゃったから」といった意味なのだろうか。

岩佐:ものがなくなっちゃったし、人も住めなくなっちゃった。「じゃあ、どうしたらいいか」というと、やっぱり農地にせざるを得ないという話になるので。

高島:そこからゼロベースでデザインができる、と。さて、僕も水産業の事例を一つご紹介したい。今日、「Ça va(サヴァ)缶」という商品をお持ちした。これは釜石の商品で、僕ら「東の食の会」がプロデュースをしたサバのオリーブオイル漬けだ。シェフの松嶋啓介さんに味の調整をしていただいて、大ヒット商品になった。これも震災がなければ生まれなかった商品だ。同様に、水産業でもそれまでなかったような発想やアプローチで商品が生まれているし、今までいなかったような人たちが集まってきたという事例も生まれている。続いて、一力さんにも伺いたい。震災を経てどのようなチャンスが生まれてきたとお考えだろう。

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一力:「被災地だからこそ行こう」という方々が今は増えてきている。それで新入社員の研修を行ったり、学校でも修学旅行とは異なる研修旅行を行ったりと、観光とは違うツーリズムが今は緒についたところだ。震災がなければ東北に来なかったし、これからも来なかっただろうという方がたくさんいらしているので、これは交流機会の拡大という意味でもすごく良いことだと思う。

ちなみに私も缶詰を持ってきた(笑)。それぞれ、石巻の銀鮭と気仙沼のメカジキを使った缶詰だ。これは三菱地所さんや「丸の内シェフズクラブ」というシェフの方々が共同で開発したものだ。シェフの皆さまが、地元の産品をブランド品にすべく、地元の料理家の意見も聞きながら開発した。これは今年の3月11日に発売して、すべて売り切れている。去年も地元の水産品を使って一流シェフが開発したものを発売していて、今年はその第2弾になる。今後もこうしたものをますます広めたい。

とにかく、被災地には水産加工品や一次産品がたくさんある。それをいかに加工して、付加価値を乗せて売っていくか。ここで求められるのは6次産業化や農商工連携だと思う。これ、言葉で言うのは簡単だけれども、うまくいかず失敗している人は多い。ただ、今は目に見える形でいろいろな商品が出てきた。被災地ツアーで冷凍を買ってくださって、宅急便でご自宅に送る方は多い。ただ、ご自宅の冷蔵庫もすぐ満杯になるし、どうしても人間の胃袋は一人一つだ。どんなに良い産品でも生の応対なら賞味期限が近いから、やはり加工して売っていくということが大事になる。

あと、本会場の佐勘さんも、秋保温泉旅館組合として気仙沼のさめ肉を使った料理を開発している。さめ肉というのは、元々はんぺんの原料等に使われていたのだけれども、震災後、商品を提供できなかったので大手食品メーカーさんが別の原料を使ったりしていて、販路を失っていた。そこで日本政策投資銀行さんが仲介して、水産業者と秋保温泉旅館組合で新しい商品開発を行った。それで、さめ肉の西京漬け等をつくり、付加価値を付けて売っていく運動が広がっている。こんな風にして水産業と加工業でも、売るところまで見据えた商品づくりが形になってきた。とにかく、難しいことは抜きにして、「この原料を使って、いかにおいしく皆さんに売りましょうか」と。

高島:東北では、今まではどちらかというと「俺はつくるのが仕事で、お前らは売れ」といった発想が強かったと思う。しかし、今は自ら付加価値を乗せていくという発想が広まってきた、と。

一力:良い意味で顧客目線が付いてきた。今はたくさん獲ってきたものを、いかに消費者目線で届けるかという視点で、産業が高度化している。

高島:一方で、河北新報社の方々には、震災以降、どういった変化があったとお感じだろう。

一力:彼らは社員であると同時に、程度の差はあれども被災者だ。直接被害を受けた人間もいれば、親兄弟を失ったものもいる。だから、「被災者の気持ちがよく分かる」と。そこで被災者に寄り添う報道を震災以来続けている。一括りでは言えないけれど、「この地域のこういう方に、今は何が必要なのか」「今、どういった情報が求められていて、地域の方々は何を発したいのか」等々、地域の方々と同じ目線で仕事をしていると思う。自分たちも被災者なので日頃から同じ目線で活動をしているし、突然訪れて取材をするのでなく、同じ目線で話を聞けるのが当社の大きな特徴だと思う。

高島:政治ではどんな変化があったのだろう。政府や地方政治あるいはNPOといった、さまざまな活動主体は、今回の震災によってそれぞれどう変わってきたのか。あるいは、政治のあり方が何か変わってきているとお感じだろうか。

階:行政側でも亡くなられた方や被害に遭われた方は多い。また、地元の行政だけでは進められないということで、今はNPOや企業の方々の手も借りて公共の仕事を行って、「皆で地域の課題を解決していこう」という意識になってきた。これは、震災前にはなかったことだと思う。

実際は、いくつかそういう活動をしているなかで問題もあった。補助金を流用してしまうようなケースもあり、岩手でも大きな問題になったことがある。ただ、私はそうした事例一つで判断するわけにもいかないと思う。たとえば仮設住宅で一人暮らしをしている方の生活サポートや、買い物代行のような、きめ細かいサービスは行政だけで行えるものではない。震災ではハードの復興が注目されがちだけれども、心の復興という点で考えても、やはり行政よりもNPOや民間の方のほうが行き届くのではないかなと思う。震災を通して、改めてNPOや企業の役割の大切さに気付かされた。

高島:僕が感じているのは、行政の方々が結構アバウトになってきたというか(笑)。昔は「あれやっちゃダメ、これやっちゃダメ」みたい話が多かったけれども、今は互いの使い方が分かってきたからか、仕事も進みやすくなった。NPOと行政が対立せずに、役割分担が自然とできるようになってきたと感じる。

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階:そう思う。たぶん、以前の岩手県は国のほうを向いていて、国から降りてきた仕事を粛々とこなしていたのだと思う。でも、復興を進めるうえでは地元の人々のニーズや悩みを汲み上げる必要がある。そこでNPOや企業の方々の声が大事になってきたという変化があった。そうした環境で風通しが良くなってきたのだと思う。

高島:地域の行政が国でなく地元を見るというのは、すごく良いことだけれども、これは当たり前のような気もする。被災していない地域ではそういうことが難しいのだろうか。被災があったからそうなったということだけれども。

階:これは岩手だけの話ではないと思うけれども、地方はこれまで、いかに補助金をたくさん持ってくるかといったことばかり考えていた。それが行政の評価の決め手だった。正直、その意識がまだ抜けていない地域は多い。ただ、被災地ではそれが変わりつつあるのかなと思う。もちろん、インフラ等では国のお金に頼らざるを得ないけれども、それ以外では少し意識が変わってきたと感じているところだ。

高島:山田会長にも人材面についてお伺いしたい。被災地に送った方々は、ほかの方々と成長の仕方が違うのだろうか。あるいは遺児・孤児の学生さんたちはどのように成長してきているとお感だろうか。

山田:当社では現在、だいたい4人が復興の仕事を専属でやっている。それをリレーで、ある程度は毎年ローテーションで変えながら、バトンタッチしながら回している状態だ。だから1年で帰って来る人もいれば3年頑張ったという人もいるし、いろいろいる。ただ、一言で表現すると、やっぱり意識がものすごく高まった。単にビジネスのマネジメントが上手にできるというのでなく、「なんのために自分たちは仕事をしているのか」ということに関して、深い理解をしているというか。皆、普通に仕事をしているだけではなかなか得られない気付きというものを得たうえで帰ってきている。

だから、彼らがよく口にするのだけれども、「助けに行ったのか、むしろ自分たちが勇気付けられて、いろいろと教えられて帰ってきたのか…」と。そういう意味でも、皆が「この仕事をして良かった」と言ってくれている。

企業との取り組みについても同じことが言えると思う。たとえば岩佐さんのところを支援する企業にしても、たぶん、こんなこともなければいちごの農業に気を払わなかったように思う。しかし、震災をきっかけにいろいろな企業が今でも熱い支援の心を持って活動している。その意味では日本企業にも少なからぬプラスの影響があったと思う。それがマジョリティかというと、そうではないかもしれない。ただ、一部の企業は震災の経験を通じて考え方をかなり変えてきているように思う。

※開催日:2015年3月20日~22日

復興 ピンチをチャンスに変える思想と行動~持続可能な地方創生モデルを東北から~[3]

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講演者

  • 一力 雅彦

    株式会社河北新報社 代表取締役社長

    昭和61(1986)年4月 (株)河北新報社入社 平成7(1995)年9月 編集局次長兼特報部長 平成9(1997)年4月 編集局長 平成10(1998)年3月 取締役編集局長 平成12(2000)年3月常務取締役編集担当、編集局長 平成14(2002)年3月代表取締役専務 平成16(2004)年1月代表取締役副社長 平成17(2005)年4月代表取締役社長(現在に至る) 日本新聞協会理事 仙台経済同友会代表幹事 東北経済連合会副会長
  • 岩佐 大輝

    株式会社GRA 代表取締役CEO

    起業家。1977年、宮城県山元町生まれ。 2002年、大学在学中に起業。2011年の東日本大震災後は、壊滅的な被害を受けた故郷宮城県山元町の復興を目的にGRAを設立。アグリテックを軸とした「東北の再創造」をライフワークとするようになる。農業ビジネスに構造変革を起こし、ひと粒1000円の「ミガキイチゴ」、いちごスイーツ専門店の「いちびこ」を生み出す。著書に『99%の絶望の中に「1%のチャンス」は実る』(ダイヤモンド社)、『甘酸っぱい経営』(ブックウォーカー)、『絶対にギブアップしたくない人のための成功する農業』(朝日新聞出版)などがある。
  • 階 猛

    衆議院議員

    1966年盛岡市生まれ。岩手県立盛岡第一高等学校を経て、1987年東京大学文科一類に入学。高校から大学まで野球部で活躍。特に東京大学野球部では投手として早くから神宮球場で活躍した。 1991年東京大学法学部卒業、日本長期信用銀行に入行、法人営業や政策投資部門に勤務。その後在籍のまま司法試験に合格。司法修習(56期)後も、新生銀行の社内弁護士として金融法務全般を担当。2007年1月みずほ証券に転ずる。同年7月衆議院議員補欠選挙に岩手1区から立候補、初当選。2009年8月総選挙で再選。政権交代直後の約1年間、総務大臣政務官として政策評価、行政監視、公務員制度改革などに取り組む。2010年11月、事業仕分け第3弾に仕分け人として参加。2011年9月、民主党政策調査会副会長として決算行政監視部門座長に就任。同年12月、同部門が格上げされ設立された行政改革調査会の事務局長就任。2012年12月総選挙で三選。民主党役員室長、民主党岩手県連代表、民主党副幹事長を歴任。2014年12月総選挙で四選。民進党 政務調査会長に就任。2017年10月総選挙で五選。2021年10月総選挙で六選。現在、立憲民主党『次の内閣』財務金融大臣、憲法審査会幹事などを務める。共著に『銀行の法律知識』<第2版>(日経文庫)
  • 山田 邦雄

    ロート製薬株式会社 会長

    昭和54年3月 東京大学理学部物理学科卒業 昭和55年4月 ロート製薬株式会社入社。営業現場を経て、商品開発・マーケティング等に携わる。 平成2年 慶應義塾ビジネスMBA 平成3年6月 取締役就任、営業全般の指揮を取る。専務、副社長時代は海外への展開をはかり、中国、ベトナム等に進出。 平成11年6月 代表取締役社長就任。新規分野であった化粧品ビジネスへの大幅シフトをすすめ、主力事業に転換。米国メンソレータム社会長兼務。 平成21年6月 10年任期の予定通り53才で社長交代、代表取締役会長 兼 CEO就任。 現在に至る。

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