程近智氏(以下、敬称略):本セッションのタイトルは、「ビッグデータ狂想曲からリアルへの戦略」。我々は「SMACS(スマックス)」と読んでいるが、今はソーシャル、モビリティ、アナリティクス、クラウド、そしてセンサーという五つの要素が掛け算のように絡み合って大きな変革をもたらしている。そうして個人だけでなく企業や社会、そして人類の今後を左右するような革命がはじまっていると。そうした期待とともに、今は現実にさまざまなことがビジネスや行政の世界で起きている。そこで、まずは社会のインフラとも言われるコンビニを代表して加茂さんに伺いたい。ローソンさんはビッグデータに関してどのような取り組みをなさっているだろうか。(01:12)
加茂正治氏
加茂正治氏(以下、敬称略):ローソンでは2010年から「Ponta」という共通ポイントカードを扱っている。現在、発行枚数は6500万枚を少し超えたところだ。もちろん一人2枚持っている方もいらっしゃるから実質的には5000万人前後だと思う。ただ、この4年間でその使用率も上がり、今はコンビニ売上のおよそ半分がポイントカードのお客様になった。当社では1日1000万人ほどの方にご来店いただき商品を買っていただいているが、そのうち500万名様分のデータを毎日集めている状況だ。(03:09)
その意味ではデータとしてすごく大きいけれど、楽天さん、アマゾンさん、グーグルさん、あるいはヤフーさんが持っているようなデータに比べるとずいぶん少ないと思う。で、当初はそれを統計学的に処理したうえで、商品開発や商品採用や根付けや改廃に活用していた。ただ、利用率が50%を超えてくると1万1000におよぶ各店舗で、それぞれお客様の状況がどうなっているかも分かるようになってきた。「このお店はヘビーユーザーの方が多い」「このお店の近隣に新店舗ができたので、最近の売上はこんな風になってきた」といったことが、日々分かるようになってきたわけだ。(04:03)
今はそうしたデータ活用の第2弾として、各店舗の発注や品揃えに「Ponta」のデータを活用するという試みを始めている。日々の売上状況や天候情報、あるいはメディアでの取りあげられ方などをデータとして集め、店舗ごとに「明日のお勧め発注」というものを出している。ただ、その活用はまだまだお店の売上増というところにまで広がっていないし、これからが本格的チャレンジになると思う。(05:02)
というのも、我々は過去の売上データや来店された方のデータしか持っていないからだ。本来はID連携で店舗外におけるお客さまの行動も知りたいし、位置情報あるいは「どの棚の前に止まってどんな風に商品を買っているか」といった店内移動のデータ活用も行いたい。そのうえでお客様にとって真にメリットのある買い場をつくり、全体としてロスの少ないサプライチェーンをつくることが目標だ。従って、全社で使う第1段階を経て今はまだ個店で使う第2段階。第3段階はこれからだ。外のデータとも連携し、さらに良い買い物体験を実現するのが我々の使命だと考えている。(05:43)
程:続いて安武さん。楽天はこの分野でどんなことを試みているのだろう。(06:53)
安武弘晃氏
安武弘晃氏(以下、敬称略):私の責任範囲は技術であってビジネス側の人間ではないけれど、本日はビジネス的な効果に関していくつか簡単な事例をご紹介したい。リアルなお買い物と違ってインターネット上ではお客様と直接お会いできないため、アクセスいただいた足跡などの数字を見て判断するしかない。それ自体がデータの解析ではある。ただ、そこで「ビッグ」がつくのはどんな領域か。たとえばエクセルや紙を使って、現実に来店するお客様を見て直感で判断するというのはインターネット登場以前からやられてきたことだと思う。ただ、今はそこで、非常に大きなデータから機械の力の用いてしか見出せない結論を見抜くことが我々のチャレンジになる。(07:08)
たとえば楽天市場にはランキングのコンテンツがある。何が売れ筋か分かるということで、大変人気が高い。皆さん、他の方々が買っているものを知りたい。当然、これは売上順に並べるだけの簡単なもので、ビッグデータでもなんでもない。ただ、我々は当初、そのランキングを300ジャンルで出していた。それでもかなり多いと思っていたが、我々が本当にやりたかったのは、そのランキングに載っていないニッチな、それでも出店者さんが売っている本当に良いものを、本当に欲しいと思っている人に届けること。皆が欲しいものに関してはテレビCMなどでマスメディアを使えばすぐにリーチできる。だから、そうじゃないものをどのようにテクノロジーのパワーで消費に結びつけるか。そこで我々はランキングのヘッドを8000ジャンルに拡大した。すると、それまで埋もれていた商品がランキングに紐付いて売上増となる効果が見られた。(08:15)
人間の直感ではちょっと理解しがたいのだけれど、データをより細分化すればより多くの情報でより多くの人々にリーチできるということだ。これはグーグル検索でロングテールのキーワードを入ると未知にものに行き当たるということと、本質的には同じだと思う。ただ、機械の力でそれまでリーチできない情報にアクセスできるようにしたというのは、一つの面白い事例だと思う。そういうことを日々やっている。(09:15)
もう一つ、まったく角度の違うデータ活用で面白い事例がある。これは楽天技術研究所の研究者が、ある日ふと思い立ったものだ。政府による日本の消費者動態指数は、たしか月末締めのおよそ3ヶ月後に発表される。しかし、「我々の購買データから同じ数字が出せるのでは?」ということで実際にデータを回してみたら、ほぼ同じ数値が締めの1週間後ぐらいに出せた。しかも、それほど十分に大きなデータセットがあると、日本全体における消費の部分的サンプルでしかなくても、ある程度有意な結果が見出せる。これもテクノロジーのパワーが可能にした、今までになかったことだ。今はさらに進んで、今起きていることのデータから日本の経済や未来がどうなるのかを予測するといったチャレンジを行っている。ただ、過去にやられてきたことと同じような結果を出すことはできる一方、未来の予測はいまだ難しい。(09:45)
程:BtoCの話をもう少し深堀したい。ビッグデータということ自体は数年前から言われていたけれども、皆さんの感覚としては何が“ビッグ”になったのだろう。(10:57)
安武:どれほど大量のデータがあって、どれほど強大なコンピューティングパワーがあっても、人間が仮説を持たなければ結果は見出せない。だから人間が「こういうことをやりたい」「こういう風になるんじゃないか?」というのは昔も今も変わらないと思っている。ただ、今は大量のデータから、以前なら見出せなかった意義を見出せるようになった。そうしたテクノロジーパワーの変化というのが私の感覚になる。(11:36)
加茂:集める情報は線形的に増えているけれど、今は我々が直感的に思っていたことと違うグルーピングやレコメンドが出てきたりしている。そういう点がここ数年でずいぶん違ってきた。たとえば、あるグループに属していると思っていたお弁当やおにぎりに関してお客様の買われ方を再度分析すると、「実はこのおにぎりはサンドウィッチとの関連性のほうが強い」といったことが分かる。だから、それが欠品したときはサンドウィッチが売れる。我々には違うカテゴリに見えるけれど、お客様の心理的には同じだったわけだ。たぶん、それはお客様も気付いていない。そんな風に、直感的には分かりにくいものがここ数年で出てきたと思う。(12:09)
安武:以前、面白いことに気が付いた。蟹とチーズの売上には相関関係がある。まったく違う商品で理由が分からなかったのだけれど、調べてみる二つとも北海道に多い産品だ。で、北海道の店舗さんがその両方を取り扱っていて、二つがセットで売られていたり、送料を安くするためにまとめ買いをするお客様が多かったりしていた。そうした、直感では分からない新しい相関が見つかったりもしている。(13:12)
程:続いて熊谷さん。同分野は行政領域でどんな変革をもたらしているのか。(13:41)
熊谷俊人氏
熊谷俊人氏(以下、敬称略):御二方の企業が扱うデータ量やその活用度に比べると、行政は法律的にも信義則的にもかなり制約が多い領分だ。ただ、行政分野でそうしたデータを活用すれば、社会保障費削減や税の効率的運用といった国民の利益へと確実につながる。そこで新たな価値をつくっていけると思う。では、我々千葉市は何をしているか。行政のビッグデータ活用でよく言われるのは、なんと言っても社会保障と医療だ。基礎自治体は国民健康保険(以下、国保)の保険者であり、千葉市民96万人のうち20万人以上が国保に入っている。その膨大な受診データを我々は持っている。それを今までは分析できていなかったが、今は国全体でもそれを分析できるパッケージが少しずつつくられていて、千葉市もそのデータ分析に入っている。(14:04)
ただ、自治体含む行政領域ではデータ分析の専門家がほとんど養成されていない。データを分析して何らかの戦略に生かす必要性が民間に比べて小さいからだ。どちらかというと、マーケティング云々以前に市民や議会から山のような要望が押し寄せる。そういう状況で我々が何を始めたかというと、たとえば東大と提携してデータ分析の専門家である研究員の方に、千葉市の臨時職員となっていただいた。それで今はデータを回していただいている。行政のデータを第三者に渡してデータ分析を委託したり、行政のデータを外部と共同研究するというのは極めてハードルが高い行為だ。従って、現実的に今の法制度でデータ分析をして、市民に何らかの恩恵を提供するために期限付きの市職員といった形で受け入れた。(15:31)
これは双方にメリットがある。我々のほうは給与に関して全額負担とならない形でデータ分析の専門家に来ていただくことができるし、民間のほうは行政に関して生のビッグデータを見ることができる。今はあちこちでビッグデータのことが言われているけれど、研究している民間の方々も、実際にどんなデータがどんな法律のなかでどれほど使えるのかがほとんど分からない。なんとなく、「行政はこういうデータを持っているだろう」と考えて議論をなさっているわけだ。しかし、我々のやり方であれば彼らも日々動く生のデータを見て、それが研究やビジネスにどう活用できるかを実地に考えることができる。それで今は千葉市と東大情報部で提携をしている。(16:45)
その結果、何が出てきたか。たとえば特定健康審査、いわゆるメタボ検診と言われるものがある。これは生活習慣予防のために国が大々的にやっているものだ。ただ、これも「たぶん意味があるだろう」ということでやってはいるが、受診した方の健康状態が実際にどうなっているかという明確なデータはない。そこで千葉市では今年4月からそのデータを分析して、メタボ健診で保健指導が必要とされた方を実際に指導を受けたか否かで分けて、1年後のデータを見てみた。すると、たとえば腹囲や血圧や体脂肪率に劇的な差が生まれていることがデータでははっきりと出ている。(17:33)
さらに分かりやすい事例として、その人がお住まいになっている場所と特定健診を受けることのできる最寄りの診療所にどれほどの距離があるかというデータ分析も行った。すると、ご自宅からの距離ともそれなりに相関関係がある。これも、「まあ、当たり前だろうな」とは思う。ただ、それがしっかりとデータに表れる。そこで、今後は地域ごとにどれほどの違いがあるかをグラデーションにしたうえで、どの地域を我々として一番のターゲットにすべきといったことを分析していきたい。(18:24)
最大の狙いは人工透析とならないようにすること。糖尿病で透析になると一人当たり500万円の費用が国家として発生する。10年間で5000万。それが10人いらっしゃると5億円だ。医療のなかでも飛び抜けて費用がかかるこの透析を減らすことが、国家として大事になる。しかもこれは生活習慣病であって本来は予防できるもの。ただ、そうした糖尿病予備群の方々はそもそも生活習慣が崩れていて、「保健指導を受けてください」と言っても来てくださらない。だから千葉市では今、保健師がそうした方々のご自宅を訪問している。こちらからアクションをかけて保健指導を受けていただくと。そういうプログラムをつくって完全なサポート体制に入っている。(18:50)
今後はそれをより精緻にして必要性の高い人々を見つけ出していきたいし、地域にもそれを訴えかけていきたい。「皆さまの地域はこうした予備軍の方が比較的多いので、ぜひ地域全体で対応しましょう」と。医療関係者や市民の意識を高める意味でも、僕らはこうしたデータ分析の結果を積極的に広めたいと思っている。そこまでは現行の法体系やプライバシーに配慮しながらでも進めることのできる分野だと思う。(19:49)
程:お二方と同様、なぜ今“ビッグ”なのかということも伺ってみたい。(20:24)
熊谷:「行政分野でもビッグデータの分析が必要だ」といった国民的認識の高まりが一番大きいと思う。国保一つとっても自治体単独で分析するのは大変難しかった。しかし、今は法体系としてもシステム的にも、国保に関して分析できるツールの基盤整備が国家としてもなされてきた。そのうえで、各民間診療所の現場でも分析のためのデータが集められてきていることが大きいと思う。(20:54)
行政とはデータそのものだ。市民のそれぞれの動き、つまり究極のプライバシーデータを大量に保有している。僕らはできる限り保有しないようにしているけれど、場合によっては保有している。それを活用することが社会全体として有益だし、それによって国民一人ひとりが同じ所得や生産のなかでもより大きなものを手にできる。社会がそんな風に変わってきたと思うし、千葉市はその先鞭を切りたい。(21:35)
程氏
程:私どもは現在、慶應大学とともに「データビジネス創造コンテスト」というものを開催している。これは、六つの自治体首長さんに社会的課題を挙げていただいたうえで、行政だけでなく市民、特に学生に課題解決のアイデアを競っていただくものだ。「どうすれば市の人気を高めることができるのか」といった課題を、オープンなコラボレーションで解決していこうと。オープンガバメントという言葉もあるが、そうした産官学による取り組みはこれからさらに加速していくとお考えだろうか。(22:13)
熊谷:間違いなく加速すると思う。ビッグデータからオープンデータ、そしてオープンガバメントのほうへ進むかというご質問だと思うけれど、千葉市はまさにそれを目指している。行政だけでできる分野は限られてきているし、最終的にはオープンにしていくことで利益を共有できると考えている。(23:25)
千葉市で今一番注目していただいているのは「ちばレポ」というものだ。たとえば道路やベンチに壊れていると、今までは市民の方々が、「なんだ、市役所はだらしないな」と思うか、自治会の役員であれば区役所の土木事務課に電話をするというパターンだった。「ちばレポ」ではそれをスマホ等で撮って専用アプリからレポートしいていただく。すると千葉市のGoogleマップやYahoo!地図で、GPSと連動してピンを刺す形で「こちらにこういう不具合があります」と表示されるから、我々が現場に行かなくてもはっきりと状況が分かる。市民がパトロールしてくれるというもので、さらに我々がそれを直した際はレポートしてくださった方に「何時何分に対応しました」と、進捗状況まですべてプッシュ型でお伝えする。もちろん、千葉市のなかでどのようなレポートがあり、どんな進捗状況にあるかはレポーター以外の方もすべてご覧になれる。さらにそれはすべてデータ化され、区役所の平均応答スパンのようなものも出てくる。(23:44)
程:医療データを含めて国や自治体が情報をオープンにしていけば、国と民間企業のコラボレーションは今後ますます進むと思う。重要な社会インフラであるコンビニとしては、その辺に関してどのような期待や取り組みをなさっているだろうか。(24:53)
加茂:今お伺いした糖尿病のお話はすごく面白いと思った。で、これはほぼ同じ感覚だと思うけれど、社会保障費の観点で病気を未然に防ぐというか、未病の段階で食を通じて健康を取り戻すというのは我々にとっても大きなテーマだ。我々も2年半前から「ブランパン」という、小麦ふすまでつくったパンを販売している。ほとんど糖質を含んでいないから糖尿病を患った方や糖尿病になりそうな方も食べて満足感を得られるという商品になる。これはコンビニのなかでも非常にリピート率が高く、1度買った方のおよそ8割がリピートしている。国や自治体には、未病の方々などに「こういうものを食べてください」と、うまくお伝えいただけたらと思う。で、たとえば店頭にその方がいらしたらクーポンをお出しするとか、そんなことができればいいなと。プライバシーの問題で難しいけれど、たとえば千葉市で指定していただいた何万人かには…、たとえば先日は消化に良いトクホ(特定保健用食品)のそばも出したので(会場笑)。そば食べる方は健康を気にしているというのが見えているし、たとえばトクホのそばをぜひお勧めいただきたいと思う。(25:52)
熊谷:ありがとうございます。我々はコンビニとの連携に相当注目している。先ほど診療所の問題をご紹介したけれど、「その地域周辺にないから」と言って新しい診療所を簡単につくることはできない。で、普段健診を受けられる診療所が近くにない方、あるいは近くにあっても病院に行かないような方も足を運ぶ場所というと、やっぱりコンビニだ。だから我々としては簡易なものでもコンビニで何らかの健康チェックをしていただきたいと思っている。で、そのとき、ご本人に承諾をいただいたうえで健康の推移を追いかけて何らかの形でコンサルをしたり、それこそ「小麦ふすまのパンをご紹介してもいいですか?」といった問いかけをして、ローソンさんなどのコンビニさんに協力をいただきながら取り組んでいきたい。それがデータ分析で有効だと判断されたら全国的にも広がると私は思う。診療所の地理的ハードルはかなり高いので。(27:48)
程:楽天さんは通信や金融もやっていて、かつ世界で事業を展開している。そうした観点から行政や自治体との協業に関して何かお考えはあるだろうか。(29:03)
安武:ビッグデータ活用に関して官民で議論やコミュニケーションがあるかというと、まったくない。もう少し大きな戦略のなかで、「こういうことができるのでは?」という議論があってもいいなと、強く思う。社会全体への貢献という意味で言うと、我々は金融のみならず個人間売買も行っているわけで、実際にモノを売る人やお金を下ろす人、あるいはお金を受け渡す人がいるという本人実在性の確認がすごく大事になる。そこに大変なお金と手間をかけているわけだ。で、そこに関しては当然ながら市役所さんも他の企業さんも取り組んでいらっしゃる。そういう皆がやっていることを1回で済ますことができるような基盤整備に取り組むことができたら、社会全体が効率化される。そうすれば自分たちのリソースをもっと前向きなことに使うことができるようになると思うし、そうした大きなピクチャで議論がなされていいのかなと、今思った。(29:34)
程:そのあたり、コンビニはある意味でオーバーラップしているところもあるが、それは脅威になっていくのだろうか。(30:44)
加茂:一時期はネット脅威論もあったが、今はあまりない。「今買いたい」「今食べたい」というものは、やはりいつまでもリアルで残ると思う。で、2時間後や明日でもいいというものがネットに行くのかなと。むしろ相互補完関係のほうが強いと思う。ローソンは他の小売チェーンと違ってコンビニしかなく、グループには百貨店もスーパーも外食もない。その意味でも今後は多くの企業さんとコラボレーションをしたい。店頭のタッチポイントや引き渡し、あるいはデリバリーといった各種サービスを企業さんに開放していきたいし、それをやるうえでもID連携をうまく行いたい。もちろん、各ネット企業がお持ちのIDと連携してお客様にストレスのない買い物体験をしていただくことも重要だ。また、今は住民票をはじめとした各種政府系のサービスもコンビニで受け付け可能になってきた。そこで、いわゆるマイナンバーとの連携にも大きな興味がある。(31:04)
程:今日、アマゾンさんとの連携に関する報道もあった。(32:41)
加茂:そう。5年前からアマゾンさんの受け取りサービスをやらせていただいているが、そろそろ慣れてきたし、もう少し裾野を広げていくタイミングということで。今後はオープンプラットフォームとして各社さんにお使いいただきたいと思っている。(32:50)
程:楽天さんはリアルとの連携についてどうお考えにだろうか。(33:24)
安武:リアルとネットの境目は、最近はあまり気にならない。たとえば先般は「スマポ」という会社のM&Aを行った。これはリアルの店舗さんに足を運んで当該アプリを起動するとビーコンで感知され、そこで実際に購入するとポイントが貯まるというものだ。つまり、我々はネットでものを買うことを推奨しているわけではない。大事なのはお客様が欲しいと思うものをお届けすることであって、「場所選ばす、ネットでの購入と同様のベネフィットが得られるサービスを提供していこう」と今は考えている。(33:31)
程:ビッグデータに関しては一方で課題も数多く指摘されている。本当はできるのに、規制が原因なのか国民のマインドが原因なのかは分からないが、実現できないことも多い。今はどのようなことが課題やハードルになっているとお考えだろう。(34:20)
熊谷:行政はそれぞれの情報を縦割りで持つよう法律的に定められている。蟹とチーズに相関関係があるとしても、それを政策として一緒にできない面があると。介護保険は介護保険、国保は国保、住民基本データは住民基本データという風に、すべて別々の制度とシステムがあり、その統合が基本的には許されていない。あと、やはりプライバシーの問題がある。最近はパーソナルデータの問題もあるし、その辺の利活用は極めてハードルの高い分野と言える。(35:19)
従って、今後はマイナンバーの議論において、領域を跨いだ住民の行動データや情報の統合によって、住民にどんな利益をもたらすことが許されるのかという議論が不可欠になる。さらに言えば、マイナンバー制度が施行された5年後には民間への開放も議論されている。それがどこまで許されるか。これは国民の意識や覚悟、そして国家観に関わる議論だと私は思う。そこでアメリカ型になるのかヨーロッパ型になるのか、それとも日本独自の進化を遂げるのか。実際、今は民間と行政のデータ統合は絶対にできない。では、それをするためにはどうするのか。行政も民間もそれぞれ本人認証に多大な投資をしているわけで、やはりその認証基盤を共有化しなければいけないと思う。iPhone5Sですごいのは指紋認証がすべて入っている点だ。恐らくアップルはそれを大きく儲けるビジネスチャンスとして見ていると思う。(35:58)
従って、単なる番号としてだけでなく日本における個人認証プラットフォームとして、そして産業戦略としてマイナンバーを考えるか否か。これは大きな分岐点だと思う。実際にそうするという話になれば、民間開放とともに民間データと行政データのクロス集計によって、国民に新たな選択肢を提示することができるようになると思う。(37:16)
当然、そのときは民間開放を選ぶか否かを国民一人ひとり、選ぶことができるようにしなければいけない。自ら情報をコントロールできる環境の整備が大前提だ。大事なのは国家としてそういう社会にするべきかという議論。そこでリスクのことも考え、コスト削減などの新たな効能とどちらを取るのかという議論をどこかでしないといけない。「マイナンバーを民間開放するなかでそういう議論をする」と、今は設定されているから、そのときに恐らくマスメディアも含めて国民的議論がなされると思う。(37:50)
程:千葉市は今、そうした問い掛けをどんな形でしていらっしゃるのだろう。(38:29)
熊谷:市民が普段接触する行政は基礎自治体だ。県や国と関わることはあまりないと思う。そうした基礎自治体のなかで、「データを分析すると便利だね」と思っていただけるようなサービスをつくっていくしかないと思う。我々はマイナンバー施行とともに、ご本人の了承を前提にそうしたデータ分析を行って新たな提案をしていく。(38:48)
たとえば行政は福祉もやっているけれど、実際には福祉を届けなればいけない人たちにほとんど届いていない。子どもがいらっしゃる方に関して言うと、今年度から水疱瘡ワクチンの接種が定期接種化される。医療現場にとってかなり大きな変更だ。そうなると制度導入時に端境期のお子さんが出てくる。水疱瘡ワクチンは2回接種するのだけれど、1回目は済んでいて2回目の接種をしようとしたら定期接種になったという狭間のお子さんが出るわけだ。親御さんは、かかりつけ医師からきちんと話を聞かなければ制度による支援から漏れてしまう。そういうケースが多々ある。(39:26)
ただ、我々のほうは48ヶ月以内のお子さんがどれほどいらっしゃるか、本当はすべて知っている。それなら、もし親御さんがそのサービスを求めているなら、「お子さまがちょうど制度の端境期にいますから、こういう風にするべきです」と、ケースに応じて一人ひとりにアドバイスができる筈だ。でも、現状はすべてのパターンを網羅した、文字で埋まった書面をすべての家に送って、「ちゃんと読んでくださいね」と。で、だいたい読まれない。そうして10~20年後に大流行したら、当時端境期にいた人が困るわけだ。今は風疹関係でまさにそういうことが起きているので、我々としてはご本人の了承を取ってプッシュ型でやっていこうと考えている。(40:15)
→後編は、こちら。