堀:では、この辺で質疑応答に入ろう。(55:01)
会場A:組織として今後も価値を産み続けるため、今いるメンバーの方々をどのように育成していくべきだとお考えだろう。何かアイディアがあればお伺いしたい。(56:09)
会場B:古川知事はリーダーを支える立ち回りを好まれていたとのお話だったが、ご自身がリーダーとなった今、下に対してはどんなこと求めていらっしゃるだろう。(56:37)
会場C:成功した組織には、そこに安住したくなる気持ちも生まれると思う。それでも変革や成長を続けるため、何が大切になるとお考えだろうか。(57:16)
水野:育成手法に関してお答えしたい。人によって成り立つ以上、やはり組織では人が1番大事だ。ただ、今の日本には自分のことを自分で決められない若者が増え過ぎていると、学生と接していても感じる。それではいけない。「自分のことは自分で決める。お母ちゃんに相談するな」と(笑)。「嫌なら辞めたらいい。自由だ。だけど、やると決めたらたとえ嫌でもしんどくてもチームのために全力を尽くせ」と言っている。自分で決めたことに責任を持つこと。それが強い人間であるための第1歩だ。(58:00)
ただ、その覚悟を問うていくと意外と今の若者も強い。だから日本人のDNAが変わったのでなく、世の中が変わっているだけ。「社会が悪い。学校の責任だ」なんて言って、そいつの責任にしないから弱くなってしまう。そこで、「最後はすべて自分なんだ」と自覚させると、どんな結果が出ても「俺のやったことで、自分の成果なんだ」と思うようになる。そうなるとやる気も出てくるのではないか。もう少し個人の主体性を出すことが第1歩だと思う。皆がそういう意識を持つと組織も変わると感じている。(59:11)
古川:部下からは「私に任せて欲しい」という言葉が聞きたい。新しいことを進めるにあたり、デキる人は私のこともよくわかっていて、「本人も“行け”と言う筈だ」と思ったら大胆に物事を進める。「こまごまとしたことは任せてください」と、全権委任を取りつけるのがうまい。そういう人は外部の人たちを巻き込むのもうまい。それともう1つ。役所という組織では、予算編成や人事といった内部マネジメント側の人間が昇進する傾向が強かった。そこで私は、プロジェクトを成功させた人間が登用される方針に変えた。それで、やる気のある人間が外部に向けた仕事を希望するようになる。たとえば最近、九州国際重粒子線がん治療センターという施設をつくった。これは九州で初だ。そこで、たとえば「どのように年間800人の患者を確保するか」といった仕事を担当し、それを成功させた責任者は健康福祉行政のトップになった。そんな風に人事で見せていくと、「あ、何かに取り組んで成功したらきちんと評価されるな」と、皆が考えるようになる。そうしたことを通じて部下と“会話”しているつもりだ。(01:00:22)
松本:成長の継続に関してお答えすると、中長期で成長しなければあまり意味もないと思うが、そのためにはちょっとした工夫というか、考え方の違いが必要だ。ここ10年で‘sustainable growth’という言葉を使う人は増えたが、本当にサスティナブルなことをやっている方は意外と少ない。経営者はどうしてもその年のことしか考えないところがあるけれど、決算の日が終わっても翌日からまた事業は続く。だから私の場合、今から1年先のことに20%、1年後から次の12ヶ月間のことに50%、そして24ヶ月目以降のことに30%という風に、自身のエナジーを振りわける。車の運転と同じだ。近くばかりでなく遠くばかりでなく、視線をその中間ぐらいに落とす。だから今年のことはあまり頭にない。いかにして2015年後を今年より成長させるか。そういう考え方をしているし、カルビーの皆さんにもそのようにお願いしている。(01:02:19)
2つ目の課題はデリゲーションだ。私はカルビーの会長になってすぐ、当社の弱点克服ということで簡素化と透明化、そして分権化を掲げた。「組織が複雑怪奇になっているから、まず簡素化しなさい」と。「何を変えても良いけれど、複雑に変えることは一切まかりならん」と話した。透明化も行った。会社に秘密なんてない。「インサイダーの話以外はなんでも教えるし、知りたいことは知ったらいい」と。そのうえで1番大事なのが分権化だ。「権限はできるだけ委譲しなさい」と、会長兼CEOになった途端、当時会長とCEOにあった権限をすべて社長に渡した。私だけの権限は現時点で何もない。権限で月給が増えるわけでもなし、銀行に預けたら利息がつくわけでもない。だから委譲した。ただ、ウォッチはしている。その権限で失敗したら責任は私が負うからだ。予定通りいかなければ私がCEOとして責任を取ればいい。昔のような島流しや首切りがあるわけでもなし、辞めたらおしまいだからなんということはない。そういうわけで最近は皆さん、かなり自由にやっている。失敗することもあるが、ビジネスもスポーツも同じで、結局は勝率だ。たとえば決算のときに最終的な勝率が1等か2等ということが問題で、「ときどき負けるのは仕方がない」という風に考えている。(01:04:03)
会場D:ご自身が育成してきた、あるいは関わってきた人材のなかで、最も自慢できる選手や部下がいたら、そうした方々の特徴や考え方をお聞きしたい。(01:06:50)
会場E:いつか現在のポジションを引き継ぐにあたり、次のリーダーに必要だと思うポイントや、選定の条件があれば教えてぜひお伺いしたい。(01:07:14)
水野:1番嬉しいのは一緒にやっていた選手が変わってくれることだ。ただ、変わり方は人にもよるし、人は皆違うということが大事だと思う。リーダーも同じ。「これがリーダーだ」という固定像はないと思う。いずれにせよ、それだけの力量を持つリーダーがいたら少なくとも10年はその地位に留まって欲しい。総理大臣が毎年変わるなんていうのはとんでもない。リーダーが10年留まったら、部下はその意を受けて行動できるようになると思うし、それを続ければ組織全体の生産性も高まると思う。ただ、今の日本はそうなっていない。トップに何か任せるのなら全権限と全責任を負わすべきだ。今の日本は少しでも問題が起きたらすぐに第三者機関のようなものをつくり、そこに決定を委ねるなんていうことをする。愚行の最たるものだ。専門家が懸命やってもうまくくいかないのに、ど素人を集めてロクなものができるわけはない。結局、安全にいこうとして「あれもこれも止めておけ」となるだけ。それで改革や革新は進まない。だから新しいトップを据えたら、皆、諦めること。そのトップがダメだとわかったときは、クビにしたらいい。そういうことをしていくため、これからは日本の年功序列や終身雇用、あるいは誰にも責任を取らせない文化が最大のネックになるように感じる。(01:07:44)
松本:私自身が本当に育成できているかどうかはわからないが、たとえばジョンソン・エンド・ジョンソンは人材の育成会社になっているのではないかと思う。私が社長を辞めたのは2008年3月だが、それ以降、特に上級部下だった人たちはほとんど同社を去った。で、その多くがどこか優良会社の社長になっている。そう考えると人材排出企業というのも悪くない。その会社ではまた下から上がってくるし、競合会社に移った人も多いけれど、それはそれで良かったのではないかと思う。(01:10:19)
ネクストリーダーに関しては悩ましいところだ。そこで自分が考えているのは、自分で次のリーダーを指名しないということ。「誰か勝手にやってくれ」と。私自身は箱根駅伝の5区の走者、といった考え方だ。私はカルビー5代目のトップだが、今はあの坂道を走っている。その5区が終わったら私自身はそれでおしまい。6区の伴走はしない。日本企業にはそのあとも伴走したがる人が多い。相談役だのなんとか役だのと言って、いつまでも自分の権限や威光をおよぼしたがる。そういうことはやらないほうがいい。従って、指名はしないというのが正解だと思っている。(01:11:17)
古川:1人、30代前半の若い職員を自慢したい。佐賀県内の救急車にはすべてiPadを積んでいる。救急隊員が症状を診て、「この症状は脳神経外科だ」となったとき、佐賀県では近くの脳神経外科に、今日や昨日、患者さんが運び込まれたことがあるか、または当直医師の有無といったことがそのiPadでわかる。隊員はそれを確認して、「こっちの病院はダメだからあっちの病院へ」ということで電話をする。すると1発でつながる可能性が高い。実は救急車内では電話時間が1番長い。現場からなかなか離れない救急車をご覧になったことはあると思うが、あれはどちらの方向に行ったらいいかがわからないからだ。そこで病院がすぐ決まれば、そしてそのアイドルタイムが短くなればなるほど、患者さまにとってもいい。それがわからないと、本当は近所の小さな病院でも対処できたはずなのに大きな病院にばかり連れていく。だから大病院が救急で混むし、医師も疲弊して辞めてしまう。(01:12:27)
それを、その30代職員が解決してくれた。彼は実際に救急車に乗り込んでみて、無駄な時間があることに気付いた。で、どうして救急ネットに皆が入力しないのかを考えた。これ、医療機関が入れることになっていたが、皆、面倒だから入力していなかった。ただ、その情報を欲しがっているのは救急隊員だ。「それなら隊員が入力できるようにしたらいいじゃないか」と彼は考え、隊員の空き時間を調べてみた。すると病院に搬送したあと、書類にいろいろと書く時間や書き終わったあと署まで戻る時間があった。その時間に入力するのならそれほど負担にもならない。また、隊員が使う情報を隊員たち自らが記入するのなら問題ないだろうということではじめた。これがまたたく間に広がった。それで、恐らく全国で唯一かと思うが、佐賀県は救急搬送に要する時間が短くなってきている。しかも大きな病院に集中する確率が低くなってきた。コストはほぼiPadにしかかかっていない。そうした成果があった。(01:13:59)
堀:最後に1言、創造と変革の志士たちへメッセージをお願いしたい。(01:15:28)
水野:これから狭くなっていく世界でグローバルな視点を持つというか、世界には70億人がいて、我々と違う世界がたくさんあることを知って欲しい。人間には7つの死に方があるというが、日本人はそこで、老衰死、病死、事故死、自殺、殺人以外の2つがなかなか頭に浮かばないという。戦死と餓死だ。それが1番多い国も世界にはある。そういった人々のことをわからずして、なぜグローバルなんて言えるのか。単に英語をしゃべることができて外国で仕事ができても、それはインターナショナルなだけでグローバルじゃない。そこでもう少し幅広い認識を持つこと。そのなかで、「自分はなんなのか」「日本人としてどうか」と、確固たる自己イメージを持つことが大切になると思う。人は皆違う。そのなかで「俺は俺なんだ」というものを確立することが、これからはより大切だ。そのためには知識を植えつけるだけでもダメ。実行してこそ意味がある。前段でお話ししたとおり、人は練習してうまくなってこそ、よりやりたくなる。心は最初からあるものでなく、どんどん変えていくものだ。行動を通じて心を変えていく。だから、まさにこれから修行だと思う。毎日修行のつもりで、「自分をどう変えていくか」という視点で生きていけば、人生はどんどん変わって面白くなると思う。(01:15:40)
松本:社内を見ていると、大変な勉強家もいる一方、勉強もせず新しいことばかりやりたがる人間もいる。そこで、改めて次の言葉が大事だと思う。「学びて思わざれば則ち罔(くら)し」。「罔し」というのは勉強するばかりで自分で考えないと身につかない。つまり勉強だけでは糞の役にも立たんぞという意味だ。一方では、「思うて学ばざれば則ち殆(あやう)し」。自分で考えるばかりで勉強しない人間は考え方が偏って危険だと。だから、大事なことは学ぶことと頭を使ってしっかり考えることのバランスになる。そこをうまくやらないと経営は成功しないと思う。皆さんはそれをうまくバランスしてやっておられると思うので、ますます頑張っていただきたい。(01:18:02)
古川:大事なのは、世界が見えることと、現場の気持ちがわかること、そしてネットワークがあることの3つかなと思う。皆さん方はネットワークはお持ちだと思うが、それをきちんと生かすことを考えないと、「あの人なら知っているよ」だけで終わってしまうことになる。ぜひとも、グロービスでの学びを現場で生かして欲しい。来年3月は統一地方選挙だし、議員出馬してみてはどうか。議員になると旅費が出るだけではない(会場笑)。とても勉強になる。住民の方々が何を考えているか、現場でわかるようになるし、役所がそれに対してどういう答えを出そうとしているのかもわかる。そして、場合によってはそれだけでは不十分ということもわかる。そういったことを通じて、自分がこれからやっていきたいことを現場で感じることができるとも思う。(01:19:12)
堀:気合いが入ったし、強い思いを持つことのできるセッションだった。御三方に盛大な拍手をお願いします。ありがとうございました(会場拍手)。(01:20:30)