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堀:さて、では質疑応答に入ろう。リーダーシップや国家運営に関する質問をお受けしたい。(45:01)
会場A:政治家として、役人の方々をマネジメントする極意のようなものはあるだろうか。人事で緊張感をつくるというお話は、企業経営者とマネージャーの関係にも類似していると感じた。役人の方々に活躍してもらうため、「これを大事にしている」や苦い経験などがあれば併せてお伺いしたい。(46:12)
会場B:「支持率は難しい問題に対して使うべき貯金」というお話を突き詰めると、政治家というのは難しい問題に対処し、最終的には支持率を下げて退場することになると思う。それで滅私といった言葉も浮かんだ。私は企業家として社会に変革を起こしたいと思っているが、前原さんは、自身を押し殺しても社会のために役立ちたいという滅私のお考えなのだろうか。それとも何か別の観点があればお伺いしたい。(46:53)
会場C:リーダーシップに関して質問させていただきたい。お話を伺っていて、「仕組みや戦略で人を動かす」ということを感じたが、私は理と情のバランスも大事だと思っている。そうした人間力のようなものは必要だとお考えだろうか。もしそうであれば、それをどのように醸成していらっしゃるのかもお伺いしたい。(47:42)
前原:最初のご質問に対するお答えが、3つ目の質問に対する回答にもなる。やはり人間である以上、ウェットな部分は必要だと私も思う。こういうことがあった。野党時代に役人からのレクということで、部門会議にていろいろと話を聞いていたときのことだ。終わったあと、ある役人の方に「議員のところにお茶が置いてあったけれど、我々説明者のところにはなかった」と言われた。その役人の方は私の友人だったので、それで恐らく指摘してくれたのだろう。そういう1つの心遣いが本当に大事だと思う。役人の方々も国を良くしたいと思って役人になっている筈で、それは政治家も同じ。それなら同志だ。何故、同志として扱えないのかというのが大事なポイントだと思う。(48:09)
私は今でも各種会合を毎晩行っているけれど、「ここは大事だな」と思った人間関係は、飲んで食べて、語り合ってつくる。カート・キャンベルとは20年来の友人だったからこそ激しいやりとりができて、最終的に物事が進んだということもある。従って、理と情は絶対に両方必要だ。理だけで人はついてこない。相手をリスペクトし、一緒に飲んだり食べたりして、さらには議論を行うなかで同じ方向性を確信する。そこで握手をして、ともに困難へ立ち向かっていくという目的意識を持つ必要がある。そこで一体になることができるからこそ、できることもできないこともあるのではないか。(49:36)
あと、2番目のご質問について言えば、皆さん方のような経営者と我々は違うと思う。我々は国や地域、そして国民生活を良くするために皆さんから選ばれ、そのうえで公費をいただき活動している。となると、私個人の持続可能性はどうでもいいことになる。私は当選7回で21年間議員をさせていただいたが…、ちょっと生意気かもしれないが、まだトップを狙っている。総理大臣になることが目的でなく、解決したいことがあるからだ。ボロボロになってもそれをやりきりたい。個人の評価なんてどうでもいい。今日お話しした外交上の懸案事項など、日本の問題だと私が考えていることを少しでも解決し、そこで次の世代にバトンタッチしたい。だから安倍さんにも高い支持率に留まるのでなく、やりたいことを思い切りやって、ボロボロになって辞めてもらいたい。その代わり、後世に「こういう功績を残した」と言われる人になって欲しいと思う。(50:52)
会場D:地方で役人をやっている。お話を伺って、地方も国も改善や削減といったレベルでなく、特に内政についてもう変革しなければいけないことがたくさんあると思った。ただ、国会議員の方々も我々役人も、そうした変革を起こす体質というか仕組みを持っていないと感じるときが多々ある。それで僕自身も現場でもがいているが、その辺に関して国家のリーダーがやらなければいけないことは何だろうか。(52:30)
会場E:都市と地方の差が広がっていると実感する。都市部へのパイプを強めても地方へモノが回らなければ、毛細血管が死んでしまうように国全体が回らなくなってしまうと感じている。どうすれば両者が共存共栄できるとお考えだろうか。(53:30)
前原:前者からお答えすると、ご質問いただいた方がどうこうという話ではなく、役人の方1人がそうした思いを持っても硬直した組織はなかなか変わらない。だから、まず同じ考え方を持つ役人同士で勉強会や飲み会をはじめる。そのなかで、たとえば市長や地方議員といった、変革を起こすことのできるリーダーをしっかり支えていくことだろう。民主主義はもどかしいほど時間がかかる。経営にたずさわる皆さん方にとってはトップダウンでスピードが命という面があると思う。しかし政治では時間がかかるし、まどろっこしいことが多い。ただ、だからといって1人で跳ねても干上がって日干しになるだけ。能ある鷹は爪を隠し、爪を研ぎながら思いを共有する人を増やし、そして大きなうねりにする努力が必要になる。民主主義では最後は数だからだ。(54:03)
あと、国と地方の関係について。グローバリゼーションにおける企業競争力の強化を否定するものではないが、それを突き詰めると結果的に労働者が歯車になり、格差はさらに広がる。この格差は個人の所得格差だけではない。地方と中央または主要都市部との格差でも同じことが言えるだろう。ただ、私はこれからの日本では4つの成長分野が見込まれると考えている。で、それらはすべて地方に関わるものだ。(55:50)
まず、エネルギー分野。もちろん原発とは上手く付き合っていかなければいけない面もあるが、他国の例を見ても新設は当面難しいだろう。となると、再生可能エネルギー含めた、いわゆるエネルギーレボリューションを進める必要がある。そこで風力にしても太陽光にしても地熱にしても、むしろ地方が重要になる。で、二つ目は第1次産業と、その6次産業化だ。世界ではこれから食料需給が逼迫し、水や食料の奪い合いで戦争になる可能性すらあるだろう。その点、日本は水が豊富にあって四季の変化にも富んでいる。実は1次産業に最も適した国だ。そこで付加価値をつけて6次産業化するという点で言えば、まだまだ発展の余地がある。むしろ今までは米を守り過ぎて結果的に農業を駄目にしてきた面がある。その辺についても今は安倍さんが懸命に規制改革を進めようとしているので、私は期待している。(56:46)
3つ目はライフイノベーション。子供が増えるような政策を進めても、どうやったって高齢者は増えていく。そこで、高齢者のための医療・介護・健康・予防といった領域が大きなビジネスチャンスになる。これも地産地消だ。地域がそうした分野をしっかり支えるという意味で、ライフイノベーション分野でも地域が主役になる。そして、4つ目が観光だ。特にインバウンド。海外からどんどん来てもらう。今もさまざまな取り組みを行っているし、これからもやっていくが、観光の主役は東京だけではない。海外の方々にはいろいろな地域を訪ねてもらいたい。こうした4分野で地域がこれから雇用の受け皿になる。そこで脚光を浴びるような地域も出てくるだろう。そのためにも地域間で競争できるような仕組みや環境をつくるべきだ。となると、やはり中央集権よりは分権、そして道州制が求められるし、これも大事な課題になる。(58:23)
堀:日本を良くするには経済を中心とした国力を高める必要がある。そうした面で日本を引っ張っていくリーダーに対し、前原さんから最後に何か、「こういう風になって欲しい」というメッセージをいただきたい。(59:41)
前原:政治の世界にいる私が皆さん方へ偉そうに申しあげられることは、正直、あまりない。ただ、この国はこれまで多くの面で人々の力を削いでいた。不要な規制や、「ほかの国はこんな風にベンチャーを育成しているのに日本ではそれができていない」といったケースは多いと思う。従って、私から偉そうに何か申しあげるのでなく、「国はこういう邪魔をしないで欲しい」、「他国でやっているこういう支援が日本にない」といったことを現場で頑張っておられる皆さん方から教えていただきたい。そこで堀さんとともに、皆さん方の能力を伸ばすことができるような環境をつくるべく頑張りたい。私も政治家として紆余曲折あったが、この国を良くしたいという思いでは負けていないつもりだ。1度や2度の苦難や失敗で挫けず、ぜひ初心を貫いてがんばって欲しい。(01:01:22)
堀:盛大な拍手をお願いします。ありがとうございました(会場拍手)。(01:02:34)