前原誠司氏(以下、敬称略):今日、皆さん方の前でこうしてお話しする機会をいただいたことを心から感謝申しあげたい。今野党にいる私がこれほど大きなテーマでお話しすることに適しているかは分からない。ただ、私も国会議員を21年やらせていただき、常に国というものを考えてきた。国として国際社会のなかでどのように生き残り、国民の繁栄と安定を築いていくべきなのか。そこで1つの大きなポイントは、国力になると私は思っている。常に国力というものに視点を置いて物事を考えてきた。(00:41)
また、私は大学を出てから松下政経塾というところで4年間勉強した。同塾をつくった松下幸之助さんは私が入塾したときご存命だったが、幸之助さんは、「政治をつくるんじゃない。政治家をつくるんだ」とおっしゃっていた。では政治家とは何か。「松下政経塾の“政経”に込めた意味を知って欲しい。政治と経営は別じゃない。政治家と経営者を育てるんじゃなく、国家・地域経営を行う人材を育てるんだ」という幸之助さんの思いを受け、我々は常に国家と地域の経営を考えてきた。そこで行き着いたキーワードが国力だ。では国力とは何か。今日はそんなお話をしたい。(02:05)
私は共産主義者ではないが、マルクスの「下部構造が上部構造を規定する」という言葉は普遍的な考えを示していると思う。下部構造とは経済だ。経済が文化や政治といった上部構造を規定する。だから下部構造がしっかりしていなければいけない。別の言い方では…、若干ニュアンスは違うかもしれないが、私は二宮尊徳さんの「道徳なき経済は犯罪である。しかし、経済なき道徳は戯言である」という言葉も好きだ。道徳を重んじた二宮尊徳も、そういう考え方をしていた。(03:27)
経済が国力を、上部構造を、精神文化を規定する。「武士は食わねど高楊枝」なんていう言葉はあるが、「衣食足りて礼節を知る」、「恒産なくして恒心なし」とも言う。やはり経済が大事なのだと思う。では経済って一体なんだろう。もちろん株価も企業の経済活動も大事だ。ただ、今日は国家経営そして国力という視点で、私が大事だと思うこと、特に今日本が危機的状況に陥っている2つのことをお話ししたいと思う。(04:41)
1つは人口問題だ。合計特殊出生率(以下、出生率)は現在1.43にまで持ち直してきたが、一時期は1.26にまで下がっていた。今、日本の人口は1億2,643万人。最も多いときは1億2,800万人で、今は減少のフェーズに入っている。1945年のおよそ7,200万人が高度経済成長を通して急増し、2010年前後にピークを迎えた。そして今は人口減少社会に入り、1億2,700万人を割り込んで1億2,600万人台になった訳だ。それでは、仮に出生率1.35が続くと人口動態はこれからどう変化するか。2050年には今より3,000万人少ない9,700万人に、2100年には5,000万人に、2200年には1,200万人に、そして西暦3500年には日本の人口が1人になる。(05:52)
従って、出生率と人口減少社会を軽んじてはいけないし、国家戦略の第一義に捉えなければいけない。人口が減るということはプレーヤーが減ること。マーケットも縮小する。また、全人口に占める65歳以降の人口比率は今のところ25%だが、出生率1.35が続くと2050年前後にはおよそ4割に高まり、そのまま高止まりで人口が減っていく。そうして、医療・年金・介護・生活保護といったものにお金のかかる世代が増える一方で、若者が減っていく。(07:34)
皆さん方がもし投資家なら、そんな国に投資するだろうか。今はアベノミクスということで投資をしている人がいるかもしれない。GPIFのポートフォリオを変えて株価が上がるかもしれない。しかし、人口が減ってマーケットが縮小し、若者が減って高齢者が増える国に、中長期的にも期待を持つことができるだろうか。大変重要な問題だから、これについてはのちほど改めてお話ししたい。(08:31)
そして、2つ目は財政問題だ。極めて深刻だと思ったほうがいい。日本の借金は現在、国と地方を合わせ長期債務の合計額で1,000兆円を超えた。対GDP比、つまり国が1年で稼ぎ得る経済規模を物差しにしてどれほど借金を抱えているかを見てみるとどうか。OECD加盟の先進33カ国では多くの国が対GDP比でおよそ100%の長期債務を抱えている。GDPと累積長期債務はほぼイコールというのが、OECDにおける多くの国々の平均だ。翻って日本はどうか。残念ながらOECD最悪の235%。しかも、単年度予算で見るとどうだろう。たとえば平成26年度の予算は一般会計で95.9兆円だが、そのすべてが皆さん方へのサービスに充てられる訳ではない。その24%、つまり予算の約1/4が借金返済に充てられている。(09:02)
一方、歳出はどうか。歳入と歳出の額は一緒だが、歳入を見ると24%の借金を返すため、新たに43%の借金をしている。これでも消費税率を上げさせていただいたことで改善したほうだ。では、なぜこれほど借金を抱えているのに金利が低く、国債が高いのか。国民の資産が1,600兆円あり、それをベースに国債が国内で消化されている。国債の国内消化比率は91.5%。だから安定していると言われている。(11:10)
ただ、これも永続しない。国の借金とチャラにされることを前提として、仕事をして預金をする方はいない筈だ。国として見たとき、まあ、バランスシートのなかで国民の預金がそれぐらいあって、それが国債購入の原資になっているというだけの話だ。運用しているメガバンクを含め、たとえば国債が暴落して金利が上がったとき、「これは国のためだ」と言って国債を持ち続けることはない。(12:22)
そうなると今後はどういった状況になるか。今は高齢化社会で、「年金だけでは将来が不安だから」と、皆が貯蓄している。1,600兆円におよぶ貯金の7割以上は60歳以上の方々が持っていると言われている。ただ、そうした方々も今後は歳を重ねればお金を使うようになる。そうなれば1,600兆円の貯金もいずれピークアウトする。(13:16)
また、昔は貿易収支も経常収支も黒字だったが、成熟社会となった今は貿易収支が赤字だ。もちろん、これは原発が止まっているということもある。ただ、経常収支も単月度では赤字の月が出てきた。通年では所得収支で頑張っているものの、黒字額は過去最低の規模だ。経常収支まで赤字になれば日本からお金が出ていく。そうなると国債を発行しても国内だけでファイナンスできないかもしれない。今は日本銀行が大量に買っているかもしれないが、これも永続的ではない。経常収支が赤字になり、海外に国債を買ってもらわなければいけない比率が高まるほど、国債は脆弱性を増す。リスクが増える。従って財政赤字がいつか財政破綻の引き金になる可能性もある。だから、経済成長とともに財政再建の道筋もしっかりと立てなければいけない。(13:53)
さまざまな国家の財政再建を研究してきた(アルバート・)アレシナという経済学者は、「アレシナの黄金率」というものを発見した。歳出改革が7で歳入改革が3という比率だ。だいたいそれぐらいでなければいけないと。逆に、税金や社会保険料を上げるという歳入改革をいくらやってもその黄金率で言うところの3にしかならない。7となる歳出改革を進めなければいけない。(15:25)
ひとたび財政破綻が起きたら立ち直るのは相当大変だ。今、世界では「中国のバブル崩壊か、日本の財政破綻か」ということで、大きなリスク要因と言われている。では、財政破綻を起こさないために、そしてそれによって国力を失わないためにはどうすれば良いかというお話も少ししたい。(16:16)
1つ目は先ほどお話しした人口減少への対策で、今日はその取っ掛かりだけお話ししたい。皆さんのお考えとは違う面があるかもしれないから、のちほど、ぜひ皆さんにも対談と質疑応答のなかでお考えいただきたい。まず、少子化と人口減少の直接的な原因は明々白々で、非婚化と晩婚化の2つだ。結婚しない人が増え、初婚年齢もどんどん上がってきた。その原因はいろいろあるが、今日は1つの切り口で問題提起したい。(16:43)
1988年、全労働者に占める非正規労働者の割合は18.3%だったが、今は約37%にまで増えた。グローバル競争のなかで企業は生き残りを図らなければいけない。それはその通り。ただ、そのなかで結果として給与の少ない非正規雇用が増えた。そうした方々の多くは年収200万円以下だから、結婚したくてもできないし、子供も持てない。グローバリゼーションとともに非正規雇用が増え、少子化に歯止めがかからないような状況になってきているということは、1つの事例として重要だと思う。(17:44)
だからグローバリゼーションに対応するなという意味ではない。そういう考え方も国際競争において必要なら、そのうえで我々として何をしていくかが重要だ。そこで先進諸国の成功事例を見てみると、家族向けの支出を増やしている。国が子育てや教育の機会費用をしっかりサポートする。たとえば、フランスは特例中の特例かもしれないが、1人よりも2人、2人よりも3人と、産めば産むほどインセンティブをつける形で国が費用を出している。そうした仕組みなしで5名もお子さんがいらっしゃる堀さんのご家族は素晴らしいと思うが、まあ、堀家は例外として(会場笑)、とにかく社会として「子供は国の宝だ」ということで施策をとっていくべきだ。日本もそれを国家戦略のなかで考えなければいけない。(18:58)
2つ目は歳出改革。無駄な歳出を削ると言えば国民の多くは拍手喝采をくれる。私も国交大臣時代は公共事業をかなり減らしたし、不評だった面はあったが与党として事業仕分けもやった。社会保障や地方に渡すお金を削ろうとすれば抵抗勢力が出てくる。しかし、実際の歳出で最も大きな比率を占めるのは社会保障だ。私が生まれたときの社会保障給付総額は約1兆円。それから52年経った今、給付総額は110兆円となった。しかも、国費のなかで毎年1兆円の自然増となっている。時間がないので詳細は割愛するが、とにかく社会保障のサービス水準は維持しながらも、無駄な部分があればしっかり削らなくてはいけない。(20:16)
党に関わらず、これから国政にあたる人間は、「あれもこれもやります」という右肩上がりの、財政的になんら心配が必要なかった時代の政治家とは180%変わらなければいけない。選挙リスクをその都度背負い、国の全体像を見てどこで重点的にお金を使うべきか、削るべきかを考える。で、それを国民の皆様にしっかりご説明し、持続可能な社会をつくりながら国の繁栄を実現していくことが大事だと考えている。(21:50)
株式会社も同じだ。株主総会が毎年行われるため、「株主に還元しなければ」ということで短期的な経営になりがちだと思う。しかし、「今さえ良ければ」という政治をしていたツケが少子化であり、莫大な財政赤字と言える。今は中長期的な視点で日本が置かれている危機的状況を国民に説明し、正しいと考えることをやり抜き、説明責任を果たす意思が国のリーダーに必要だ。あとは補足があれば堀さんとの対談や質疑応答のなかでお答えしたい。ご清聴ありがとうございました(会場拍手)。(22:43)
堀義人氏(以下、敬称略):前原さんと僕は同い年で、しかも同じ京大出身だ。実は20年以上前、前原さんが1回生議員のときにお会いしている。また、僕の妻と前原さんの奥様が同じ職場で働いていたということもあって、今は家族ぐるみでお付き合いをさせていただいている。それで、今回は京都ということもあり、「ぜひとも前原さん、来てください」ということでお越しいただいた。(24:09)
戦後最年少の外務大臣でもある前原さんには、日本の顔としてのお立場でご活躍した経験や、日本の戦略を立案するお立場で感じたことをいろいろと伺いたい。僕は今日、自民党や民主党という言葉を使わないと決めていた。また、政策に関して聞きたいことも多いが、今日はそれより国を経営するということ、そしてリーダーが学び行動すべきことというテーマで進めたい。国の経営とはどういうもので、前原さんご自身はその経験からどんな学びを得たとお考えだろう。(24:46)
前原:会社と違い、政治家集団をまとめるのは政党に関係なく本当に大変だ。それぞれの選挙区から上がってきて誇りと自信と持っているし、抱えている選挙区民もいる。我が党はまとめるのが大変で(会場笑)、分裂したりもした。ただ、私は幸いなことに3年3ヶ月続いた与党のなかで、3つの大臣と政調会長の職務をやらせていただいた。そこで今日は国土交通大臣だったときのお話を少ししたい。(25:46)
我が党には政治主導というものを間違って解釈していた人が数多くいる。政治家だけですべてを決めるのが政治主導ではない。特に「役人を叩けば良い」という風潮はおかしいと、常々思っていた。役人が悪いということは、結局、政治家が悪いということだ。議員内閣制のもと、役人をしっかりとマネジメントして結果を出すのが政治家の仕事。政治家が役人を叩く、あるいは排除するというのはまったくおかしい。(26:46)
ただ、国交大臣時代の私は、さわさりながら、「国交省の言いなりにはならないぞ」と。まず人事に関し、ヒアリングを重ねながらも自ら決めていった。人事1つに関しても役人の言うことを聞かないと、組織はピリッとする。国交省には6万1,000人の職員がいる。そうした大きな組織に入って緊張感を持たせる鍵の1つが人事だった。(27:32)
たとえば諮問会議のメンバー選定でも彼らの言いなりにならず、いろいろな方の意見を聞いた。もちろん役人の意見も聞くが最後は私が決断する。ただし、そうしたポリシーメイキングのなかでも主要な場面では必ず役所の人間も入れていた。役所の人間とも責任を共有する形で物事を決めることが大事だ。ポイントを申しあげると、政治主導は大切だが、そこで求められるのは、どのようにして役人にも協力してもらうようにするか。役人との緊張関係と協力関係を上手く使いこなす必要がある。(28:23)
堀:前原さんには、第1回G1サミットには野党の立場で、第2回は国交大臣として参加いただいているが、以前、面白いお話を伺った。前原さんはG1参加者名簿を見て、外部アドバイザーとして誰が良いかといったことも考えるそうだ。で、第1回の開催後、たまたま御立(尚資氏:ボストン・コンサルティング・グループ日本代表)さんと帰りが一緒になり、そこで話をするうち、御立さんに入ってもらうことになったという。(29:17)
前原さんが上手かったなと思うのは、国交大臣時代に外部シンクタンクをつくった点だ。そこに御立さんほか、星野(佳路氏:星野リゾート代表取締役社長)さんや柳川(範之氏:東京大学大学院経済学研究科・経済学部教授)先生といったG1メンバーがたくさん入った。そこで民間の知恵とともに戦略を策定し、国交省において実行できる範囲内で実行したと。やるべきこととそうでないことを明確に絞り込んでいった。たとえば、港湾関係は明確に進めていった訳だ。空港が多いということで民営化していったりした。結果として、政権時代の最も大きな成果は航空自由化だったと思う。僕は羽田空港で国際便を使うたび、「前原さんありがとう」と思う(笑)。しがらみがない分、かなり自由化できたのではないか。(29:54)
政治主導か官僚主導かというのは国民にとってどちらでも良いというか、「上手くやってくれたらいい」という話だと思う。大事なのは、組織内でいかにリーダーシップを発揮して、良い人を抜擢して外部の知恵を入れながら方向性を定め、それを多くの人に伝えること。そういう作業をなさったということだろうか。(30:47)
前原:おっしゃる通りだ。第1回G1サミットの帰りに、たまたま御立さんと一緒になった。その新幹線のなかで、御立さんにとっては高くついたが、ビールを1缶ご馳走して(会場笑)、電話番号などを聞き出した。「やはりこの人はすごいな」と思った。元々日本航空におられた方だ。堀さんが中心になってやられているG1サミットには本当に素晴らしい方々が集まる。御立さん、柳川先生、竹中平蔵(慶應義塾大学教授/グローバルセキュリティ研究所所長)先生といった方々には羽田の国際化やオープンスカイ、あるいは伊丹と関空の統合に伴う民営化について本当に多くの知恵をいただいた。港についても同じだ。観光でインバウンドを増やす議論でも星野さんにさまざまなアドバイスをいただいた。国交省のなかに成長戦略会議というものをつくり、そこで、民間の最前線でやっていらっしゃる方々に議論していただいた。(31:07)
ただ、その議論も役人の方々にはすべてオープンにして、彼らも議論に参加し、発言できるようにした。5つの分科会を設け、私の見えないところでも民間の専門家と国交省のメンバーが話をして、そこで役人の方々もコミットしていった訳だ。あまり民間の方々と分離させてしまうと、彼らは民間がつくったものを実行するときにサボタージュしてしまう。役所にはそういうところもある。だからそれができないようにしつつ、役所の方々も本気にさせることが大事だと思う。(32:44)
堀:ベストプラクティスは外部の知恵を集め、内部と融合させながら進めることなのかなと感じた。人事権を含め権限を上手く使うことでリーダーシップを発揮し、できることとできないことを明確化して、モニタリングしながら一歩ずつ進める。これは民間でも使える知恵だと思う。(33:29)
一方、国を経営するという観点で考えると、かなり民間と違うと感じる点もある。トップが意思決定できる行政の範囲を超えて、国会では、たとえば予算を決めるために国会議員としてプロセスを通さなければいけない。これは民間では考えられないところだ。だからこそ先ほどおっしゃっていたような課題も出るのだと思う。また、ステークホルダーとして常にメディアが国民に報告し、国民が株主として常にモノを言いながら影響をおよぼしてくる。そこでプロセスがごちゃごちゃする面もあると思うし、わっと騒ぐ議員がいるとメディアもそちらに誘導されてしまうこともある。とにかくコミュニケーションが重要になると。そうした意思決定プロセスや対外コミュニケーションに関してはどのような苦労があるのだろう。(34:12)
前原:若干ずれるかもしれないが、私は安倍さんには頑張ってもらいたいと心底思っている。党が違うし、もちろん国会では厳しくやっていく。良いところに関して「良いですね。頑張ってください」と言うだけでなく、国民目線を持ったうえで、おかしなところや駄目なところを批判する責任があるからだ。(35:11)
ただ、いずれにせよ私としては今の政権に頑張って貰いたいことが二つある。1つは集団的自衛権だ。詳細は割愛するが、これは長年の問題だった。日米同盟なくして日本の安全保障は成り立たない。良いか悪いかは別だ。そして集団的自衛権はそこで抑止力向上に必ず役立つ。だから国益に資することだ。これをやろうとなさっていることに関して言えば…、いろいろと批判をしようと思えばできるが、これは高い支持率のなかで内閣がしっかり進めてもらわなければいけないことの1つだと思う。(36:10)
もう1つが日露の関係。なんとか平和条約を結んで、とにかく解決してもらいたい。高い支持率というものは減らすためにある。高い支持率のまま続けていても何も良いことはない。支持率とは国民を二分するような大きな問題についてリーダーシップを発揮するための、貯金だ。その貯金を使って今申しあげた二つの大きなことをやる必要があると私は思う。その意味で安倍さんにはしっかりやっていただきたい。(36:56)
そのうえでご質問にお答えすると、やはり安倍政権は1回目の失敗を検証したうえで、たとえば人事や見せ方に関して上手くマネジメントしていると思う。特に官房長官の菅さんという人はなかなか、敵ながら天晴れだ。彼が中心になり、見えるところも見えないところも含め、マスコミ対策もしっかりやりながらガバナンスを効かせている。「官邸が強くて与党が弱い」と言われているし、与党には不満も貯まっていると思うが、それでも高い支持率を生かしつつ上手くマネジメントしている。我々に次のチャンスがあるかどうかは分からない。ただ、失敗の経験をどう生かしていくかも、国民に奉仕し、国家運営にたずさわる政治家としては重要だ。成功も失敗も含め、与党時代の経験をもう一度皆さん方にお返しする気持ちでやっていくことが大事だと思う。(37:39)
堀:民間のリーダーシップと違う点は国会対策やメディアを通した、あるいはメディアを通さないコミュニケーションというお話だったと思う。1つ、外務大臣として国力を背景に、海外と交渉してきた前原さんが感じる外交の現実を、お話しできる範囲内で伺ってみたい。たとえば私は集団的自衛権について賛成の意をオープンな場で示しているが、そうした安全保障は平和主義や外交努力によって成り立つといった声もある。私としてはそんなに甘いものでないと。外交というものはもっと大変な戦いのなかで動いていると考えているが、現実はどうなのだろう。(39:09)
前原:外務大臣時代を含め外交・安全保障に長くたずさわってきたので、その経験からお話ししたい。いろいろな国とお付き合いしているが、1番えげつない国はどこかというと、アメリカ。同盟国であるアメリカが最もえげつない。もう間違いない。彼らはボランティアで同盟関係を結んでいるのではない。国益を追求するために同盟を結んでいるのであり、裏を返せば甘えは一切通じない相手だ。ギブアンドテイクが必要。もっとあけすけに言うと、彼らは「どのようにして日本に対する比較優位を保つか」を、懸命に考えている。そういうことがアメリカと付き合うなかで分かってきた。(40:24)
事例を3つ挙げる。1つ目はかなり前、日本が衛星を導入したときのことだ。当時与党にいた私がアメリカへ行くと、彼らの対応は極めて冷たいものだった。「我々が衛星情報を提供しているじゃないか。何故自前で持つんだ」と、徹底的に冷たい対応をしてきた。ただ、ある時期からころっと変わって協力的になった。「日本が持とうとしている衛星はたいしたもんじゃない。だから協力してやればビジネスにもなる」と、彼らが分かったというところだ。そんな掌の返しを見てえげつなさを感じた。(41:26)
2つ目の事例はイラク戦争時。このときは野党だが、私は外交の責任者としてワシントンへ行ってリチャード・アーミテージという、当時国務副長官だった人と話をした。そこで「我々はイラク戦争に反対だ」と申しあげたら、「ミスター前原は政権を獲ったら外交・安全保障の責任者だな? もし北朝鮮がミサイルを撃ってきたらあなたはどうする?」という風に聞かれた。簡単に言うと、安全保障に関して日本にできることはごく僅かということだ。情報収集、そしてやられたらやり返す能力を含め、アメリカに多くを頼まなければいけない。彼はそれを分かって言ってきた。イラクの話をしているところで急に北朝鮮の話をしてきたのは、「北朝鮮が何かしてきたとき、お前たちは俺たちに頼まなきゃいけないんだろ? だったらイラクのことでごちゃごちゃ言うな」ということを外交的に包んで…、あまり包んでいなかったが(会場笑)、言ってきた。(42:19)
3つ目は尖閣問題に関して。外務大臣として初めてワシントンで日米外相会談を行ったときのことだ。当時の私にとって最大のミッションは、オバマ政権で1度も言及されていなかった、「尖閣は日米安保条約第5条の適用範囲」ということをヒラリー・クリントン長官に言ってもらうことだった。そこで前日、20年来の知り合いで、当時クリントン長官の下にいたカート・キャンベルという国務次官補にそれを頼んだ。で、ここから先は言えない話もあるが、その交渉は、えげつなかった。結果としてクリントン長官は翌日に第5条の適用範囲であると言ってくれたが、そのときにカート・キャンベルと交わしたやりとりを私は一生忘れない。彼らの比較優位を保つ姿勢と、同盟国にも要望をしっかり突きつける姿勢は、外交術として学ぶべきところが多いと思った。(43:36)
堀:すべての国がえげつないとも感じる。日本が同盟国として少し甘えるような、あるいは「いいじゃないか」と思うことに関してもすべて「NO」と、明確なリターンを求めてくる。逆に言えば、何かギブがなければ同盟関係はなくなってしまうのかもしれない。その意味でも国力ということで経済を強くする、あるいは軍事力を高めることは外交力を高める方法論でもあるし、同盟関係強化にもつながると感じた。