eコマースやCRMの推進により取扱荷物が増加した。今は『場所ではなく人に届ける』を推進している(小佐野氏)
程近智氏(以下、敬称略):コンピュータがビジネスで活用されるようになってから60年近くが経った。その間、半導体の進化とともに技術革新は大いに加速し、それに掛け合わせるようインターネットの普及も進んでいった。ITからICTへ。1990年後半から2000年頃にかけてはコミュニケーションが技術をパワーアップさせる時代となり、同時に、それまでどちらかというと企業システム、特にバックオフィスの業務処理で使われていたコンピュータは、一般コンシューマ領域でも幅広く活用されるようになった。コンシューマ領域とエンタープライズ領域が融合し、ICTは単に業務処理の効率を高めるだけでなくビジネス戦略を生み出すにあたって不可欠なテーマになった訳だ。(01:42)
今日はそうしたICTに関し、それぞれの視点で取り組みを進めてきた御三方をお招きした。まずは自己紹介とともに、経営革新に向けてICTをどのようにして活用しているかといったお話をお聞きしたい。まずは小佐野さんから。(04:36)
小佐野豪績氏(以下、敬称略):私がヤマト運輸(以下、ヤマト)に入社したのは昭和63年(1988年)だ。以来、宅急便の現場にいた2年を除き、ずっとコンピュータ部門にいる。これはSE部門でなく、システムを使って宅急便をどう便利にするかということを考える企画部門だ。そのあと1998年に店舗で1年ほど現場業務を経験してから本社に戻ったのだが、40歳からの3年間はグループ内のリース会社で社長を務めた。さらにそのあとフランチャイズの会社に移り、フランチャイザーとして色々な会社さんを取りまとめるような役割も2年務めている。で、現在は「ITを経営視点で生かすように」とのことで再びホールディングスに戻り、CIOおよび経営戦略の担当役員を務めている。(05:47)
もうすぐ創業100年となるヤマトは現在、宅急便のほかにファイナンスやe-ビジネスの事業も手掛けている。また、コンピュータを使った輸送システムの充実に関しては宅急便をはじめるずっと前から進めてきた。弊社の社長と会長を務めていた故・小倉昌男も著書で、「システムに力を入れていく」といったことを書いており、ITに関しては非常に理解ある環境でやってきたと思う。(07:28)
現在の宅急便には色々なサービスが派生しており、最近は個人会員制サービスの「クロネコメンバーズ」というものを中心に展開している。私自身もその土台となるシステムづくりにかなり絡んだが、現在はICTなくして宅急便事業は成り立たないところまできている。取扱個数はおかげさまで15億個に届く勢いだ。楽天さんにもお世話になっていて、eコマース系で荷物が増えている。宅急便を開始してから現在までの宅配個数推移を見てみると、前段2/3ぐらいはスキー宅急便やゴルフ宅急便といった派生商品で伸びてきた一方、後半はほとんどITサービスで伸びてきた。(08:48)
で、今はどうかというと、「場所に届けるんじゃない。人に届けるんだ」ということを言っている。今日はこの辺がキーワードになると思うが、今は個人を認識したうえで届けるようという考え方とともに、経営戦略とそれに伴うIT戦略を構築している。たとえば今はスマホで個人を特定出来るようになったため、ご自宅に届けるのでなく、「今ここにいるから、ここにこのタイミングで持ってきて」といったリクエストにも対応しようと。「そんなことをしたら効率が悪くなるんじゃないの?」と思うかもしれないが、その辺についてはまたあとでお話ししたい。(09:53)
ちなみに弊社では現在、宅急便で培ってきたネットワークとIT技術を使い、「バリューネットワーキング構想」というものも打ち立てている。これは必ずしもBtoBの貨物に行きたいという訳ではなく、宅急便のインフラを有効活用して新たな物流を提案していくというビジョンだ。そのなかで、併せてアジアとのシームレスな物流も実現したい。「クラウド型のネットワーク」、「物流の見える化」といった5つのエンジンを掲げたうえで新たなイノベーションを起こしていくという構想だ。(10:37)
程:続いて安武さん。ちなみに安武さんは優勝セールの関係で、昨日から徹夜に近い状態のまま本会場へ駆けつけてくださったようだ。(11:55)
安武弘晃氏(以下、敬称略):私のことは「楽天で最も古いエンジニア」と認識していただければ覚え易いと思う。創業期はプログラムを書いてeコマースサイトの裏側をつくっていた。机にサーバが一台置いてあるだけのような、よちよち歩きの時期から裏方の技術を担当している。ちなみに私はシステム担当なので優勝の瞬間を仙台で見ることは出来なかったが、優勝が決まった30分後にはじめたセールでは過去に見たこともないトラフィックがあった(会場笑)。過去にもセール企画でトラフィックが急上昇することはあったが、昨日はそのおよそ2.5〜3倍。ピーク時は総務省が発表する国内全トラフィックのおよそ10%を占めていたのではないかと思うほどだ。(12:37)
事業を簡単にご紹介すると、最近は楽天市場や楽天トラベルといったサービスのほか、「kobo」のようなデバイスや「楽天スマートペイ」というカード決済リーダーも提供している。インターネット上のサービスとリアルな世界のサービスとを分けず、色々な領域でITを使い、とにかく便利なサービスを提供していきたい。(13:56)
最近はVikiという会社も買収した。これは各国の動画権利を購入し、それを世界中のコミュニティで一気に多言語へ翻訳して貰うビジネスモデルだ。たとえば韓国のドラマを買って、韓国ドラマが好きな方々の翻訳コミュニティに訳して貰う。そんな風にして瞬く間に100を超える言語へと翻訳されるのだが、そのクオリティも機械翻訳と異なり極めて高い。それで最近は台湾ドラマがウクライナで、あるいは韓国ドラマがペルーで大人気になる等、ITを通して国境を超えた人と人との繋がりも生まれている。そうした、今までなかった新しいサービスの提供にも取り組んでいる。(14:43)
また、まだそれほど知られていないが、最近はグループの活動領域も世界に広がっており、全世界の社員数と拠点数をすぐ正確に答えるのが難しいほどだ。日々、世界中の仲間とコミュニケートしながら仕事を進めている。時差もよく分からなくなるから私は冗談で「MST(ミッキー・スタンダード・タイム)」と言っている。三木谷(浩史氏・楽天代表取締役会長兼社長)のいる地域が標準タイムゾーンになるような感じだ。(15:48)
それに伴い社内の英語公用化も進められた。当初は「英語ができない役員は2年後にクビになる」といった報道もあったが、実際に解雇された役員はいない(会場笑)。ただ、「この日までにTOEICの点数をクリア出来ないと降格」というところで最後の最後にクリアした人間は数名いた。それほどシビアなものだったが、そうした英語化のおかげで世界中の仲間とともに働く環境が実現している。たとえば会議では室内に大きなモニタを設置し、世界各国と繋いでいる。技術会議ではマネージャーの半分以上が日本人でないという状態だ。本当にグローバル化が進んでいる。社内ITシステムを含めて世界中と繋がった状態で仕事を進めており、環境は劇的に変わったと思う。(16:26)
デジタルの時代になり、マルチナショナルから真にグローバルな商品づくりに転換を迫られた(長谷島)
安武:私が入社した当時は社員数10人程度だったが、私はその前から学生アルバイトとして楽天の立ちあげを手伝っていた。そのとき、三木谷に「こういうシステムをつくるにはどうすればいいか」といったことを聞かれたことがある。それで、「それはプログラムが書けないと無理ですね」と答えたら、「じゃあ行こう」と、車に乗せられて八重洲ブックセンターに連れて行かれた。「で、どの本を買えばいい?」と(会場笑)。それで「このあたりですかね」とC言語の棚を指したら、三木谷はそれらをがばっと9冊掴んで購入し、自分で勉強していた。そんな風に当時は三木谷自身がコードを書いていた。現在の社長室には、プロダクション環境で動いていた三木谷作のコードを印刷したものが、ハーバードのボードなどとともに飾られている。(18:00)
そんな風にして三木谷自身がハンズオンで技術を理解し、自分でコントロールするということを大事にしていることもあり、技術に対する理解は深い。先週はテクノロジーカンファレンスも開催した。社内外に関わらず日本の技術者を元気にしようと、色々な技術のネタを集め、世界中からお客様を呼んだりもしている。とにかく、技術でも野球でも「元気にしていこう」というマインドが社内全般にあるのだと思う。その意味でも今回のイーグルス優勝で震災復興が活気付いたことは心から嬉しかったが、そういうことをITだけでなくやっていこうと思っている。(19:03)
程:では続いて長谷島さん。今日はまずソニーという長い歴史を持つ企業のなかで、ICTに関してどのような取り組みをしてきたかというお話からお伺いしたい。(19:51)
長谷島眞時氏(以下、敬称略):ソニーに入社したのは1976年だが、昨年2月末に退社するまで、36年近くシステム部門に籍を置いていた。そこでプログラムを書いて運用していた時代から、自らソフトウェアをつくらなくても済むような時代を経て、2004年9月からCIOを足掛け8年務めた。そこでエレクトロニクス事業に加えて、個人情報および情報セキュリティに関するグループ全体の責任者を務めていた。(21:20)
私がCIOになったのは、すべての商品がアナログからデジタルに切り替わっていた時代だ。それまでの家電はアナログだったから、ものの作り方や売り方が国や事業部門オリエンテッド。要はマルチナショナルなビジネスモデルを展開していた。テレビ一つとっても日本とヨーロッパ、そしてアメリカでは放送形式もデザインテイストも違う。アメリカでは広いリビングループにコンソール型のものを置きたがるが、ヨーロッパではまったく違ってモダンかつシンプルなデザインが好まれる。日本はその中間ぐらいだ。また、色の好みも音色に対する感覚も違う。従って、国や地域に根差した商品設計とものづくり、そして商習慣や物流に合わせたビジネスを展開していた。国や地域に最適化したオペレーションを築きあげていた訳だ。恐らく他社も同様だったと思う。(22:29)
それがデジタルの時代になって一変する。商品自体がマルチナショナルでなく真にグローバルなプロダクトとなってくる。で、そういう時代が来ると、ものづくりを支える仕組みというかビジネスモデルも、マルチナショナルあるいはマルチビジネスユニットからグローバルなモデルまたはプロセスに転換していく。そこで後発メーカーは最初からグローバルなモデルで展開していったが、日本メーカーはすでにマルチナショナルなビジネスモデルあるいはビジネスプロセスを持っていた訳だ。(24:12)
それをサポートする仕組みに関してもまったく同じことが言える。日本の仕組みづくりに関して一つ特徴を挙げると、ばらばらのオペレーションをシステムが高度にサポートしているという状態がある。それはそうだ。日本のベンダーさんは言われたことを正確に反映するような仕組みづくりが得意だから。ただ、そうした仕組みでつくりあげて来たため、よりスピードと効率を求めたグローバル競争環境のなかでビジネスモデルを転換するのは大変なことだった。(25:02)
しかし、それをやらないと競争に負ける。私がCIOになったのはまさにそういう時代だ。マルチナショナルから真のグローバルへの変換期。これはなかなか大変だ。組織も体制もばらばらであり、「そこで一番良いものをつくって何が悪いんだ?」と。「何故、今更世界で?」という話になる。もちろん個々に見ると市場や商習慣の違いは歴然と存在するが、しかしそのなかでもグローバルな標準化やプラットフォーム化を、どうやって矛盾なく実現していくのか。CIOとしてそういうことに奔走していた数年間だったと思う。で、これはまたあとで議論になると思うが、マルチナショナルあるいはマルチビジネスユニットから真のグローバル化までの距離は、日本企業にとっては今でもかなり大きいのだろうという風に見ている。(25:46)
ITは人のためにある。そして、すべての技術はより上手く使うことで人を幸せにする(安武)
程:経営においてICTをどのように役立てていくかという視点で議論をさらに進めたい。どのような領域でICTを使っていくかというテーマ設定は、どういったプロセスまたは発想のもとで行われているのだろう。まずは小佐野さん。(27:00)
小佐野:当社でも最初は事務の効率化が目的だった。宅急便の単価は数百円程度だが、荷物一つでもきちんとコンピュータ管理しなければ利益に結びつかないからだ。ただ、最近ではライバル会社との差別化を実現するためのより強力なツールにしていこうと、常に先手を打って新しいITインフラを立ちあげている。その意味では、「場所に届けるんじゃない」というビジョンは…、現会長の木川(眞氏)が言いはじめたものだが、非常に良い言葉だと思う。とても分かり易い。お客様に対するサービスの質向上と同時に、実は業務効率化にも繋がっていくという側面がある。(27:59)
日本人のお客様は遠慮がちな方が多く、「今週末は自宅にいないので月曜夜に持ってきて欲しい」といったご要望をなかなか出さない。「そんなことを言ったら迷惑がかかるのでは?」と。とんでもない。どんどん指示していただきたい。指示をして貰えたら貰うほど、我々の業務効率も高まる。現在、たとえば一人のドライバーが荷物を100個トラックに積むとすると、実はそのうち30%前後が1回目は配達出来ない。そうするとまずはプラス30回配達しなければいけなくなるが、その30個のためにもさらにプラス15回前後の配達が必要となり、結局は1日150回ほど配達することとなる。(29:06)
そこでお客様から指示をいただけると一発で配達出来る。それによって150回の配達がたとえば120回になったとしたら、20%の効率アップだ。20%効率アップしたらどれほどの利益増に繋がるかという話になる。お客様とすれば「自分の要望を聞いてくれて嬉しい」ということになるかもしれないが、我々としても業務効率が上がる。まさにICTにおけるコミュニケーションの部分だ。コミュニケーションを密にとることで、そうしたことが実現していくのではないか。(30:14)
程:楽天さんも創業時から顧客との対話で成り立っていたと思うが、どのような発想でサービス等を設計していくのだろう。(31:03)
安武:ITは人のためにあると思っている。今のお話であればお客様もハッピーになって経営効率が上がるだけでなく、恐らく配送距離が短くなることでCO2排出量も減るし、ドライバーさんもご家族と過ごす時間を増やせるかもしれない。そんな風に、すべての技術はより上手く使うことで人を幸せにすると考えている。楽天創業時も同じだった。楽天市場もそれ自体が目的でなく、「どのような商売をしようか」という議論のなかから生まれたものだ。インターネットがまだメジャーではなかった時代、「これを使えば廃れゆく商店街を活性化出来る、あるいは地方に眠る良いモノを届けることが出来るのでは?」という仮説があった。それではじめた側面が大きい。(31:36)
技術は本質的には情報のマッチングだと私は思っている。本当に良いモノやコンテンツを欲しい方に届けるという、そのお手伝いをするためにあるのではないか。で、それはどんどん変化していく。今はネット通販の3〜4割がモバイル端末からのものとなっているが、2000年頃に「iモードでお買い物が出来る機能をつくるように」言われたときは、正直、「こんな機能は誰も使わないだろう」と思っていたほどだ。(32:29)
当時、そこに何かしらの戦略があった訳ではない。結局のところ、技術の進化とともに人々にとって最適なライフスタイルが変遷しているという話なのだと思う。パソコンがスマートフォンやタブレットになった通り、これから先も技術の進化とともに変わっていく。その先にいるお客さまに、どうやって幸せになっていただくか。サービス会社としてはそれだけが追求すべき項目だと考えている。(33:09)
程:楽天さんは非常にスピードのある会社だが、具体的にはどのような切り口で開発をしているのだろう。(33:41)
安武:ノリと勢いだろうか(会場笑)。先を見据えること自体が楽しいということもある。社内の雰囲気を見ていても、やはり元気やエネルギーがあって新しいもの好きな人間が多い。また、今はシリコンバレーだけでなく世界のあちこちで新しい事業や面白いサービスが次々と生まれているし、彼らに負けず劣らず新しいことを生み出したいという気持ちもある。「少しでもなんとか先を行けないかな」と。正直、自分たちではスピードがあるとまったく思っていない。動きの早い世界のIT企業についていくだけでも精一杯で、「もっと早く動かなければ」という焦燥感のほうが大きい状態だ。(34:09)
程:技術者のおよそ半分が外国の方というのも大きいと思う。(35:03)
安武:英語化で日本人にあまり人気のない会社になってしまって(笑)。現在は私もスカイプで、毎週何十件と採用インタビューをしている。そうしたなかで、「ぜひ楽天で仕事がしたい」という方々が入ってくれるようになった。(35:09)
PCが市場で“腐る”と分かっていたのに当初は在庫を持っていた・・・。技術と仕組み、経営理念は整合しなければ意味がない(長谷島)
程:ソニーにおける経営陣とIT部門の距離感はどうだったのだろう。(35:36)
長谷島:十数万の社員がいることであるし、一言で語るのは難しい。ただ、私がお付き合いしたマネジメントのなかで、「こういう感覚や思いでシステム部門と付き合ってくれるのが理想的ではないかな」と、今でも思える方が一人いらっしゃる。現在ソニー生命保険の名誉会長で、2〜3世代前のソニー社長であった安藤国威さんだ。(36:12)
ちょうどソニーが「VAIO」を立ちあげた頃の話だ。1997年夏に日本で発売したのだが、安藤さんは当時、「システムは戦略だ。そういうつもりでシステムをつくってくれ」とおっしゃっていた。ソニーがPCを手掛けたことはその前も何度かあったが、都度しくじっていた。それはそうだ。サムシングユニークなPCなんてつくっていては絶対に駄目。だからユニークでない、ソニーらしくない業界標準的な商品をつくるということで、商品の差異化にすべてを掛けていたソニーとしては大変扱いづらい商品だった。(37:00)
また、ソニーは当初、PCの売り方も従来のコンシューマAV製品と同じようにしていた。つまり在庫を持つということだ。で、出来るだけ早くお客様に届け、売り逃しをミニマムにするというビジネスモデル。それで…、当時の我々はPCというのが市場で腐ることを頭では分かっていたのだが、実際、それを目の当たりにすることとなった。インテルのチップが一世代変われば商品の市場価値は一気になくなる。当時のテレビやオーディオはそこまでドラスティックに市場価値が下がることはなかったが、そこで深く反省した訳だ。「あ、我々は新しいインダストリーに参入したんだ」と。だからそこに合わせた仕組みやオペレーションをつくるしかない。それで安藤さんとお話しした際、在庫を持たないビジネスモデルをつくるということになった。(38:17)
それで倉庫に完成した商品を置かず、基本的には受注生産型のビジネスモデルに転換をした。これは大変なことだ。ほかの商品は皆在庫を置いて売っているのに、「この商品だけ違うやり方をするぞ」と言っても難しい。一度は失敗した経験もある訳で、当時の僕は“カモネギ”で販売会社へ行って人質になり、「おたくのシステムじゃ駄目だ」と怒鳴られたこともある。ただ、安藤さんは「既存のものでは駄目だと分かっているのだから」と。併せて仰っていたのが、「システムは戦略だ」ということだ。だからROI(投資利益率)を問われたことは一度もない。「VAIO」をはじめた2年目だったか、「これだけ使え」と言われた額を使えなかったことがあり、その年末に翌年度の事業計画を策定していた際、安藤さんに「何故使わなかったんだ」と怒られたことがある。(39:25)
結局、ソニーにも色々な人がいるし色々な仕組みがあるし、どういう仕組みでやっていくかという点に関して言えばメリハリを効かせないといけない。何もかも一緒くたに「安くしろ」という時代ではなくなっている。そのなかで情報技術の発展やその活用方法について考えていくと…、先ほどお二人が仰っていた通り、今起きているのは「技術が企業理念を支えることが出来る」ということだ。かつてはそれが難しかった。理念は理念、仕組みは仕組みだった。しかし現在の仕組みや技術は、企業理念のイネーブラーとして非常に有効な手段になっているのではないかと、自らの経験を通して、あるいは皆さんのお話を聞いていても感じる。(40:42)
程:今日の結論を言っていただいたような(会場笑)。ただ、「どこまで投資したら良いのか」というのは現実的に頭の痛い問題だと思う。今後はIT投資が企業にとってますます重要な課題になると思うが、その辺についてはどうお考えだろう。(41:38)
後編はこちら。