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オイシックス高島社長×クロスエイジ藤野社長「農作物流通に創造と変革を!」(後編)

投稿日:2013/12/04更新日:2021/10/19

前編はこちらから

起業へのあこがれ、目指す分野、そして根拠の伴う自信。起業には三つのレバーが必要と思う」(佐野)

佐野:深い示唆のあるお話だった。実は現在、福岡市で「福岡市スタートアップ都市づくりに関する懇談会」というものが行われている。そこに高島社長と、そして学長代理で私も出席しているのだが、そこでも「起業家を増やすにはどうしたら良いか」といった議論をしている。。これは私の仮説だが、起業を決意するには“三つのレバー”がすべて引かれる必要があるのではないか。。一つ目は起業や経営に対する憧れや興味を抱くこと。とはいえ、「起業したいが何の分野で起業したら良いか分からない」ということもあると思う。従って二つ目は「これをやりたい」というもの見つけること。これは自分自身の興味と強みを知ると同時に、そして「こんなチャンスがある」「人々がこんなに困っている」という市場機会を見つけることだ。

そして三つ目のレバーが「成功出来る」という根拠の伴った自信だ。これらが備わると最初の一歩を踏み出せるのではないか。もちろん経営の能力や経験もあればそれに越したことはないし、仲間も重要だ。また、特に社会人の場合は、結婚している、子供がいる、あるいはレールに乗っている等、色々と事情を抱えている方も多いと思う。それを踏まえて、それでも一歩踏み出せるような生活環境を自ら整えるということも重要だと思う。いずれにせよ、「起業したい」「これをやりたい」「成功出来る」という三つのレバーが揃ったとき、実際に起業が成るのではないだろうか。この辺についてもお二方からご意見を伺いたい。

高島:藤野さんからは「起業家は少し特殊な人」といったお話もあったので、普通の方はためらってしまう部分もあるのかなと思う。実際のところ、少し特殊だと思う(会場笑)。ただ、経営者を経験した方でサラリーマンに戻る人はかなり少ない。何故なら起業はすごく楽しいから。一度知ってしまうと病みつきになる楽しさがある。実はそれをあまり教えたくない。僕らの楽しみだから(笑)。

それともうひとつ。本質的に考えると起業家の増加が経済に大きなインパクトを与えることはない。大事なのは増えた起業家たちがビジネスを続け、それぞれ大きくなっていくことだ。起業によって0を1にすると言っても、会社をつくるだけなら簡単。そこから広げていくことが重要であり、そのプロセスにおいて重要なのが仲間になるのだと思う。その意味では、経営者でなく経営メンバーとしての起業というのも選択肢に加えていただきたいと思う。会場にいらっしゃる方々のなかには、「自分の性格は経営者に向いていない気がする」という思いで起業を踏み切りにくくなっている方もいると思う。しかしそういった方はCFOやCMOで起業に参加しても良いと思う。

僕は2000年以降、ネットバブルの頃に起業した仲間の多くが潰れるところを目にしてきた。そこで思ったのは、社長が優秀か否ではなく経営チームとして優秀であったかどうかが、その後会社が続いて成長していったか、はたまた途中で夢が潰えてしまったかの大きな分かれ目だったということだ。起業というと社長というイメージを持ちやすい。しかし起業に携わる数としては社長以外の人間のほうが多い。社長という役割以外での起業というアプローチは日本で最も足りていない部分だとも思うが、会場にいらっしゃる皆さまのなかにはそういう能力をお持ちの方も多いのではないか。

佐野:藤野さんは現在、経営チームと言える仲間はいるか。

藤野:いるといえばいると思うが、優秀なNo.2やCFOがいるかというと、その辺は課題だと思う。4期目ぐらいからは生え抜きでないにせよ大卒・院卒・第二新卒を採用しはじめており、今は彼らが28〜29歳になってきたところだ。ただ、僕自身も22〜23歳で起業した人間であり、たとえば「35〜40歳のCFOをメンバーに」と言ってもなかなか難しいという面がある。「何故高島社長のところと僕の会社で成長スピードが違うのかな」と思いながら聞いていたのだが(笑)、やはりスタート地点で経営メンバーに差があったというのは大きいのかなと感じた。

高島:僕らが永遠に抱える課題のひとつとして、「大きくなってから良い人を入れるのか」、「良い人を入れて大きくするのか」という鶏と卵の問題がある。その辺については色々なスタイルがある訳で、実際、どちらも正解という面はある。ただし僕の場合は完全に後者だ。良い人を入れて、その人に大きくして貰ったほうがラクだから(会場笑)。また、「こういう給与レベルの人を今採用して大丈夫かな」と思うような人を採用して、それで失敗した経験がほとんどない。その人に見合う会社へ、会社自身が背伸びをしながら成長していく感じだ。

「問題を僕らが選ぶことは出来ない。ただ、問題の解き方を選ぶことは出来る」(高島)

佐野:もうひとつ。御二方ともこれまで何度かピンチを迎えることはあったと思うが、それがどういったもので、かつそれをどうやって乗り越えてきたのかを伺いたい。

高島:楽しいといっても、“楽辛い(たのつらい)”という感じだ。だからMの人にかなり向いていると思う(会場笑)。僕の場合、立ちあげ2〜3年目で配送センターが倒産したという出来事があった。当時は売上こそ伸びていたものの赤字が続いていた状態で、お金がまったく無いということで資金調達でも苦労していた。グロービスにも断られたりして(会場笑)。その状態で、ある日の水曜、栃木にあった配送センターが突然廃業するという話になった。翌週分の受注をいただいていたのだが、いきなり配送センターの社長から「今日で廃業する」という電話がかかってきた。当時は奥様のご病気や「頑張っているのに上手くいかない」といった思い等、色々なことが重なって気持ちが途切れてしまっていたようだ。しかしセンターの操業が止まってしまうとようやくついてきたお客さまが一旦離れてしまう。するとどうなるか。当時の僕らがなんとか資金調達出来ていた唯一のポイントは「毎月伸びています」ということだった。しかしグロービスさんも相手にしないほど大赤字の小さな会社(会場笑)で、一回でも操業を止めたら、「資金調達が出来なくなって潰れる」と、その瞬間に思った。

そこで何をしたか。配送センター移転のプロジェクトをつくり24時間で移転しようと考えた。その間、移転先を探しながら移転環境を整えるチームと、センター社長に1日だけ営業を伸ばして貰うよう説得するチームの二つに分かれて活動した。僕は説得隊長としてその日のうちに栃木へ行き、夜の9時ぐらいから翌朝6時ぐらいまで説得を続けた。そのあいだ怒られっぱなしだったが、それでも朝6時ぐらいには「もう1日やるよ」と言っていただいた。それで木曜は移転の準備に充て、金曜日から新しいセンターで操業を開始する流れになった。準備を進めて契約を行い…、廃業というと取り付け騒動のようになってしまうので、木曜の営業が終わったあとはもう夜逃げのように新しいセンターへ在庫を移した。その間、僕は見張り役をやる感じだ。ただ、新しいセンターに人がいる訳ではない。だからほうれん草と小松菜の区別もつかないような社員たちが徹夜で仕分けを続けた。その状態で1カ月ほど経っただろうか。当時はセンターに行ったきり家に帰らなくなった社員の家族から「行方不明になった」なんていう問い合わせも来たりしていた(会場笑)。で、僕のほうは昼間に資金調達を行い、夜に仕分けを行うと。その間、投資家の方に「センターを見せてくれ」と言われても、「業績が伸びていて今は移転中だから無理です」なんて言ってかわしたりしていた。

そのときに僕たちが何を身に付けたか。水曜日に電話が来た時点で「これは潰れるかもしれない」と考えた。もしかしたら…、最後の戦いではないにせよ、最後を覚悟した戦いになることは間違いないと思った。しかもその辛い状態は数カ月続くかもしれない。そこで僕は緊急ミーティングを開き、そこにフルーツやお菓子をたくさん買ってきてすごく楽しげな雰囲気にした(会場笑)。「とりあえずニコニコしよう」と。また、この危機にあたってテーマソングを決めた。当時、缶コーヒーのCMで使われていた「ToFeelTheFire」というスティーヴィー・ワンダーの曲だ。それで1〜2カ月間、徹夜で本当に辛い時期、夜中に「ああ、もう駄目だ」と思うと、誰かがその曲を大音量で再生する(会場笑)。そうすると皆むくりと立ち上がり、椅子に登って「ファイヤー!」と叫ぶ(会場笑)。なにかもう、おかしなテンションになって、そのあとまた頑張るといった状態だった。

会社では本当にたくさんの問題が起きるし、その問題を僕らが選ぶことは出来ない。ただ、問題の解き方を選ぶことは出来る。それなら僕らは好き好んでベンチャーに自分の人生を使っている訳で、出来るだけ楽しくすべきだということを学んだ。どうせ時間を使うなら前向きに使ったほうが気持ち良いし、問題を解くことの出来る確立も上がるような気がする。その後も致命的トラブルは2年に1度ぐらい発生し、これまでに6曲ほどテーマソングが生まれたが(会場笑)、とにかく当時はそんなことを学んだ。

佐野:非常に具体的な乗り越え方だ。その6曲を集めたCDが欲しい(会場笑)。

高島:それを聴くとつらい思い出が(会場笑)。

佐野:藤野さんは、これまでどのようなピンチがあり、どうやって乗り越えてきたのか。
藤野:ヒト・モノ・カネの面でそれぞれ苦しさがある。商品やサービスに関して言うと、立ちあげ当初は売るべき商品が何もなかったという苦しみがある。で、最初の事業計画書には、「食と農のインフラ整備事業。ISOコンサルティングを元にして農業分野にきちんと企画基準を持ち込んで生産管理をしましょう」と書いていた。ただ、このくだりを聞いただけでも上手くいかなさそうな感じがするでしょ?(会場笑)。農業の生産現場ではISOでなくGAP(GoodAgriculturalPractice)のほうが標準化されていたということもあったが、そもそも当時は農業分野にコンサルティングフィーを払う文化がなかったし、有名な生産法人でもそこまでの財務的余力がない状態だった。だから僕はそこでとにかく歩き、現場の方々が仰っていることを聞くことにした。そこからまた次のビジネスを考えていけば、まあ、それほど大きく間違うことはないのかなと。で、結果として当時はどうだったかというと、「そんなことより販路を」とおっしゃる農家が圧倒的に多かった。「モノはやるから売ってきてくれ。どこか売り先ないのか」と。それで1年目は100万の売上しか立たず、2年目から卸をやろうということになった。

そこではじめたのが農産物の販売代行だ。商品カルテや商品提案書のようなものをつくってスーパーや仲卸さんを訪れた。それで最初に取ったのはアスパラガスの注文だ。国産アスパラガスが底を尽いて相場が上がりそうだったためだ。ところが僕はそういうことをまったく分からないまま提案書を送っていたので、急に来た注文に応えることが出来なかった。産地に聞くと「ない」と言われる。しかしスーパーさんには「もう産直であればどこのものでもいいから持ってきて」と言われ、農家の方に市場から調達して貰って納品したことがある。また、農家の販売代行には消費者ニーズの視点がまったくない点も問題だった。農家も消費者の声が聞こえている訳ではない。それで再び厳しい状態になり、2年目の8月には当時の国金(国民生活金融公庫)に100万の前年売上と650万の赤字という決算書を持っていって、それで500万を貸して貰った(会場笑)。これもまた危機だった。

それで「仕入先のニーズを知らなければ」と思った。で、その頃たまたま東京のほうで立ちあげを行っていた小売産直チェーンと知り合い、「バイヤーが九州で農家を探すのも大変だから仕入れを任せたい。色々提案して欲しい」とのお話をいただいた。それによって、「こういう時期にこの品目がこれぐらい欲しい」という情報が入ってきたので、僕はそれに基づいて農家へ行くこととなった。これはやはり販売先のニーズだ。当時はそのほかにも「農家の探し方が分からないからクロスエイジにお願いしたい」という仕入先があり、そんな風にして販売代行から仕入代行に転換していった。

ただ、3年ほどそんな仕事を行っていたなかでまた新たな気付きがあった。当時は忙しかったにも関わらずなかなか儲からない状態だった。「あれもくれ。これもくれ」という声に対応する御用聞きのようになっていたにも関わらず、一般市場に出ている規格の揃った商品を大量に動かしていた訳ではなかったので、いちいち手間がかかっていたからだ。それで考えたのがクロスエイジでないと扱っていないオリジナル商材。今は30〜40のオリジナル商品がある。それらを押すことで営業効率も上がった。そんな流れになるが、今やっていることは最初に言ったISO云々という話と全然違う(笑)。事業計画のなかで仮説をつくるのは大事だが、やはり現場で貰った情報をもとに少しずつビジネスモデルをブラッシュアップしていくことも重要だと思う。

それとヒトの問題に関しては、僕としては「すべて自分が悪いと思うことにする」という結論だ。誰かが引き抜かれていったとしたら、「あ、うちの待遇が悪かったのかな。魅力的な上司や社長がいなかったからかな」と考え、そこを是正しましょうと。そんな風に考えたほうが相手のせいにしているよりも精神衛生上良いからだ。またお金の問題について言えば、お金で気分が左右されるというのもつまらない人生だなと思う。従って、ないときはないで、「ないよね」と。お金のことはずっとついて廻る問題だけに、そこであまり心を左右されないようにすることが大事だと思う。

佐野:変化への対応力が成功の秘訣なのかなと感じた。ではそろそろQ&Aに移ろう。

「創業の醍醐味は、自分が世に問うたコンセプトが世に広がっていく嬉しさ」(藤野)

会場:自身がまったく知らない業界へ参入する際、どんな苦労があるのだろうか。

高島:強みのほうからお話しすると、業界の人が思いつかない素朴な疑問を思いつくことが出来る。「皆、何故スーパーでパッケージの裏面を見るのかな」と起業前は気付くが、事業でやっているうちに少しずつセミプロのようになり、そうした疑問を覚えなくなってしまう。僕としては、セミプロというのはプロでもなく消費者目線も持てないので一番良くないという意識がある。だから今は月に1〜2回、お客さまのご自宅を訪問している。ときにはそこで冷蔵庫の中を見せていただき、我々がどういった生活のなかに位置づけられているかを考える。難しい作業だが、自分の主観でない経営的直観力を養うため、客観的ケースを自分のなかに数多く取り込むという作業をしている。

会場:ベンチャー起業経営の醍醐味や、そこで最も嬉しく感じることをお聞きしたい。

高島:僕は人の言うことを聞く能力が極めて低い(会場笑)。言われた通りにやるだけでも本当に嫌だ(笑)。たとえば僕はコースターが嫌いで、そこにコップを置けと言われると(コップをコースターからずらして)こう置いてしまう。それほど病的に苦手なので、すべての責任を自分で持ち、そして決断を自分出来る環境は大変過ごしやすい。

そういう病的な感覚以外のお話をすると、「勝利したな」と感じる瞬間を得られることだと思う。僕の場合、日々の生活でそれを得られることは極めて少なく、振り返ってみても敗北のふがいない記憶のほうが圧倒的に多い。「もっと出来る筈なのに何故ここまでしかいかないんだろう」と、いつも思っている。ただ、どちらにしても打席には立っている。時々勝つ。だいたい負けている。けれども、いずれにせよ毎日すごい緊張感のなかで打席に立ち、勝つか負けるかという夢中の日々を過ごすことが出来る。これはひとつの醍醐味だ。それがない生活に戻ることが出来るかというと今は難しいと思う。

藤野:創業社長として僕が感じるのは、自分が世に問うたコンセプトが世に広がっていく嬉しさ。中規模流通という形でビジネスを体系化し、品質にこだわりながら量に応じた販売ルートを構築していく。そうした事業の広がりに伴い、今ではまったく知らない農家の方から著書に関して「こういう本を初めて読んだ」ということで話が来ることもある。また、地域間中規模流通協議会の立ちあげを行うとともに、全国で仲間とのネットワークを全国に広げていくということも今はしている。そんな形で自分が世に問うたコンセプトが広がっていくのが喜びというか、楽しみがある。

会場:「難しいが解けない問題ではない」というお話もあったが、具体的にどういった問題だったのだろうか。また、農業が現在のように儲からなくなってしまった理由についてもご見解を伺いたい。あと、農業に限らず助成金漬けでやっと食べているような分野は日本に多いと思うが、その辺についてのご意見もお聞かせいただきたい。

高島:最初の質問にお答えしたい。私たちが事業をはじめた当時、食品eコマースの成功事例は世界を見渡してもまったくない状態だった。難しかったのは、売れない訳ではないのだが、売れたら売れるほど赤字が大きくなるという点だった。お客さまに許容される価格の範囲でビジネスにするのが難しかった。何故なら一つひとつの利幅が極めて少ないから。また、それを運ぶ必要もある。大根のように大きくて重たいものは利幅も非常に薄く、常温のサプリメント等に比べると温度帯や賞味期限管理もあり、デリバリーコストがかさむ。そういう環境でもビジネスとして成立させることにチャレンジした人はかなりいたが、成功した人はいなかった。それが難しい問題だったのではないかと思う。ただ、僕らは普通の人であれば気付くそうした問題点についてあまり考えず、ただ無邪気に「アメリカ人が成功していないのに俺らが成功したら超格好良くね?」みたいな感じで(会場笑)はじめた。

藤野:農業が儲からない理由をひとつ聞かれたら、「農家の数が多過ぎる」と答えている。農家戸数減少の詳細を見てみると、農業でのみ食べて行こうと思っている農家のほうが減り方は激しい。農業の平均所得が100万〜110万だが、農家としての平均所得は450万ぐらい。つまり日本の農業の大多数は補助金や兼業収入で維持されている訳だ。だから自然淘汰が起きない。大根1本がいくらだろうが、それで食っていけるかどうかは別として、それでもつくり続けている訳だ。だから農業に参入した法人はきつい。給料を払いながら農業をやっている訳で、すべてコストとして出てくる。そこで戦わないといけないために農業がなかなか儲かりにくい環境になるのだと思う。ただ、農家の平均年齢は現在70代後半ぐらいになっていて、「そんな状況がいつまで続くのか」という見方もある。今はまだ辞めないが、80歳を超えてきたらさすがに辞めるだろうということで、今はその瀬戸際ではないか。これから農家が減っていくに従い、プロとして農業で食っていこうという人たちがより儲かりやすい環境にしていくと思う。

それと補助金や委託事業は保護目的ということもあるが、悪い話ばかりでもないと思う。補助金漬けでもたないような分野と成長させていくべき分野の2種類があることを、国ははっきり分かっている。実際、我々のような取り組みをしているところも経済産業省さんやその外郭団体、あるいは福岡県さんから委託事業の話を貰ったり、お金をつけて貰ったりしている。一概に悪いでもないのかなと思う。

会場:競合に対抗するようなシェア維持・拡大の戦略等が何かあればお伺いしたい。

高島:基本的に同業他社さんのことは気にしておらず、調べてもいない。あまり関係がないとうい感覚だ。私たちはマーケットをつくっていきたいと考えており、今ある小さなマーケットを奪い合っても仕方が無いし、そういうことをするためにこの事業をはじめた訳でもないという気持ちがある。実際、らでぃっしゅぼーやさんや大地を守る会さんのような先輩方がいて、そのサービスで満足していらっしゃる方々もいる。そこのお客さんを奪っても仕方がないというか、そこに社会的価値はまったくないと思う。

むしろ私たちの競争相手はお客様。お客様の期待値を超えていかなければいけない。期待値レベルのサービスを提供した時点で「満足」ということなるが、満足ではいずれ飽きられてしまう。人は、100円で買ったミネラルウォーターAに100円の価値を見出したとき、次はミネラルウォーターBを購入したりする。しかし期待値・満足を超えるサービスがときどき提供されると感動していただける。で、そうした感動がときどき起こるとファンになっていただけるのだと思う。その意味では、常にお客様との競争で忙しい。一度感動していただくと期待値もさらに上がるからだ。従って、いわゆる同業他社さんが何をなさっているかという点については大変不勉強だし、かつ今後も不勉強でいたいと思う。その辺はあまり気にせず、全力で我が道を行きたい。

「全国的に見ても強いのが九州の食と農。東に国内市場、西を向けばアジア市場もある」(藤野)

会場:実店舗を出していらっしゃるのは何故か。

高島:「出来るだけ多くの人に豊かな食生活を」というのが私たちの企業理念。その意味ではすでに豊かな食生活を送っている方より、今よりもっと豊かになる余地のある方が事業対象になる。実際、インターネットでリーチ出来ないお客様は5年後も10年後も確実にいる訳で、そこに対して事業をしたいと思っていた。それでようやく2〜3年前、そうした事業が出来そうな感じになったので実店舗をスタートさせた流れだ。それで実際にはじめてみると、インターネット上でいらっしゃる小さなお子様のお母様方に加え、60〜80代のお客様も実店舗にいらっしゃる。また、そうした方々がリピーターにもなってくださっている。そうした方々に豊かな食生活を送っていただくためには、恐らくは実店舗数をさらに増やす方向でないといけないのかなと。従って、ご質問への答えは「企業理念を実現するため」ということになる。

藤野:うちは4年目に「自分たちの手で直接消費者の手に届けたい」とういことで実店舗をはじめた。ただ、小売店舗をいくつか運営というだけでは農業の産業化という理念から少し離れてしまう。そこで卸とコンサルティングを補完するようなアンテナショップ的位置付けでスタートさせた。また、農産物は在庫が効かないので、取扱高が増えてくるとともに在庫をどうにかさばいて需給調整しなければいけないケースも増えてきた。さらに言えば、たとえばサツマイモを5キロの袋詰めにしてスーパーに送ると2〜3本余ったりする訳だが、それが1日50〜100ケースになると余る量もかなりのものになる。そんなときに直営店舗で売ることが出来たら卸が大変ラクになるし、産地や販売先との関係性をつくるうえでもやりやすい。同じような目的で、今はたとえばスーパーさんの地産地消コーナーにも売場を持っている。そんな風にしてトータルな販路を構築し、農家の収益を増やしていきたい。ゆくゆくは5〜6店舗にまで拡大したい。

会場:次にまったく別の新しい事業をやるとしたら何をしたいとお考えだろうか。

会場:農業の生産自体に取り組もうとお考えになったことはないのだろうか。また、最近、クロスエイジさんはインターネットから撤退されると方向と伺っているが、この辺について差し支えがなければ教えていただきたい。

会場:10年後にどうなっているかというビジョンをぜひ教えていただきたい。

会場:「世の中の役に立ちたい」あるいは「まずは起業したい」といった“思い”の順序についてはどのようにお考えだろうか。

会場:ある程度稼ぐことが出来るようになるまでの、調達方法を含めた資金の回し方についてお伺いしたい。

高島:次に何か別のことをやるとしたら、僕は情熱を一番大切にする。夢中になることが出来るかどうか、だけだろうか。マーケットはいくらでもつくることが出来ると思うし、自分自身に大して強いところはないが、その辺も「あとで強くなれたらそれで良いかな」と思う。むしろクレイジーな情熱を持つことが出来るかどうかを重視すると思う。ただ、今の事業には相当クレイジーな情熱を抱いているので、「別の新しい何か」というのは具体的には分からない。それと生産に関してだが、当面やるつもりはない。つくるのはつくるプロフェッショナルに任せたほうが良いと思っているし、僕らとしては売るプロフェッショナルとしての能力をもっと高めていきたいので、当面はそこに専念する。

それから10年後。これはまったく分からないという感じだ。1年後も分からないが、今後も“行き当たりばったり力”を磨きながら進みたい(会場笑)。大事なのは未来より今だと思うし、夢中で進み続けているうちにいつか10年を迎えるということなのだと思う。結構真面目な意味で行き当たりばったり力を最大限に生かしていきたい。で、思いの順序はすごく大事だと思うが、そこは人によって“マイ順序”があると思うし、どういった順序が良いかという議論にもならないと感じる。起業は楽しいけれども困難も必ずあるから、それでも揺るぎない根っこを持つことは極めて重要だ。それが仮に「お金儲けのためだ」という話でもまったく問題ないと僕は思う。とにかく何が自分の価値観として一番大事ということをまず固めるべきではないか。

最後のお金についてだが…、(佐野氏を見て)僕らはもう大丈夫ですかね?(会場笑)。すごく苦労したし、最初の4年間ぐらいはずっと資金調達で駆け回っていた。あの苦労が今自分のなかで何に生かされているのか分からないし、「なかったほうがもっと会社も大きくなっていたのでは?」とも思うほどだから、その辺についてのアドバイスは難しい。
佐野:グロービスも色々学んでいるので(会場笑)。先日も九州・福岡地域に最大30億円の投資を行うと発表したばかりだ。資金調達の面でもベンチャーに貢献出来たらと思っている。念のため(会場笑)。

藤野:まず「何をやりたいか」についてだが、僕も成功への情熱という言葉が好きだ。では成功とは何かといえば、自分は自分で幸せだなと思っていて、はたから見ても「あの人は幸せだよな」と思われている状態だと思う。いずれにせよ成功したいという思いの強さは人によって異なるし、それが起業後の差にも表れると思う。それと今後についてだが、今後何か立ちあげるにしてもやはり食と農に関わる事業にしたい。今やろうとしているのは海外展開。たとえば台湾で良い農産物があったら中規模流通の枠組みで日本に供給するような事業を手掛けたい。ただ、食と農以外の分野ということになると、僕も特に考えていない。

あと、ネット販売に関しては正確に言うと元々力を入れていない。実店舗の「時や」は40〜60代の主婦である方々をターゲットにしているが、そうなると当然、ベビーカーでいらっしゃるような方々もターゲットに入ってくる。それで「一応ホームページをつくろうか。で、時や便で野菜セットを送ることが出来る機能ぐらいはつけておこうかな」ということでサイトを立ちあげた。で、実際には月々10万前後が入ってくる程度だが、それに比べてオペレーションは結構大変だ。それなら対面で地場の農産物を販売出来ることが一番の強みである以上、イメージとしてはお店に来て、「これとこれを東京の親戚に」といお客様をメインのターゲットにしようと考えた。

あと、順序について言うと僕の場合は起業ということが最初にあって、1年後に経営理念を見つけるという流れになった。起業をしたらそれで終わりという訳にはいかないので、そこから色々と現場を歩き、そこで見つけたのが「農業の産業化」という経営理念だ。当初は取引を繋いでも「あとは直接やるからいいよ」と言われ、中間の我々が“飛ばされる”こともあった。そこで「なにくそ」と思ったというのに根っこの部分にはある。それなら自分たちが機能を強化していこうと。そうした根っこの部分でどれだけ強い思いを持つこと出来るかどうかだと思う。

また、お金の回し方に関してはビジネスモデルと同じで、やっていけば色々な方法が分かってくる。知らないから少し不安なだけ。その都度柔軟に対応していけば良いと思う。一番きつかったのは、時や2号店を着工してからお金が出なくなったというケースだ。それで2カ月間、基礎だけコンクリートを固めて待つ状態だった。そのときも結局は資金調達出来たが、まあ、なんとかやり終えると見えてくるかなと思う。

佐野:では最後に一言ずつ、会場の皆さまへのエールをお願いしたい。

高島:皆さんがこれから戦っていくうえで大事なのは心身の健康だと思う。今はお試しセットが1980円で販売しておりますので(会場笑)、皆さん、お体を大事にしてください。それともうひとつ。先ほど申しあげた通り、いきなり起業するのではなく色々な会社へ行くという選択肢もある。そこで、皆さんが福岡で起業することを前提にはしつつ、一旦はオイシックスへ来るのも良いのかもしれない(会場笑)。

藤野:これからも福岡を拠点に頑張っていきたい。起業当初から学生時代に色々動いた九州ではじめたいと考えていた。九州からは農業というテーマであれば、東に向いても市場はあるし、西に向いてもアジアで市場がある。また、食や農業は10%経済圏である九州のなかでも2割を占める。全国的に見ても強いのが九州の食と農だと思う。だから皆さまにもぜひ福岡や九州をテーマにしてやっていただけたらと思う。今日僕が学んだこととしては、経営パートナーを探したいということだ(会場笑)。皆さんのような方々を、あるいはグロービスの方々を紹介していただけたらありがたいと思う。

佐野:それではこの辺で締めたいと思う。どうもありがとうございました(会場拍手)。

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