※前編はこちら
「9割9分の上場企業経営者はしつこい。粘着質だ」(牧野)
会場:社員を少人数から人を一気に増やすとき、どのような成長戦略を描いたか?
会場:事業の踊り場に来たとき、何を拠り所にして事業を続けたのか?
牧野:少なくともこの20年間で上場した会社は…、先行してデットを重ねている会社というのはデットを一気に返すことが出来るということで、たしかに安定的な資金を確保出来ている。ただ、比較的キャッシュリッチな会社は上場して得た資金をほとんど使えない。使うと赤字になってしまい、株価が暴落するから。そうなると、「ではなんのために上場したのか」という話になる。うちも上場したときに何十億かの資金を調達したが、「なんのためだったのか」という疑問があった。そうした矛盾を当時から感じていて、それがのちのMBOに繋がったとは思う。(47:07)
「どのように成長戦略を描くべきか」、「踊り場での拠り所は何か」というご質問にはまとめて答えたい。9割9分の上場企業経営者と一般経営者の違いが何かと言えば、前者はしつこい。「まだいける」と思うからしつこくやり続ける。それが出来る理由として、頭のなかでは「こうなれば、こうなって、こうなる」というイメージが描けているからだと思う。そうなると…、色々な人から忠告も受けるが、実際には良い忠告が1%で99%は「無理なんじゃない?」といったものだから、色々言われても関係なく、しつこくやり続ける。結局、そうしたイメージを持ち続ける会社が成長するのだと思う。イメージがない状態でも頑張れば伸びるかというと、伸びないと思う。皆、粘着質だよね。(48:10)
井上:皆、頑固だ。やると言ったら絶対にやり続ける。ちなみに先ほど牧野さんから「何十億か調達しても使えない」というお話もあったが、我々は少し違っていた。36億調達し、上場後今までに使ったお金はおよそ60億にのぼる。結局、使っても利益を出すことが出来る範囲であれば、次の売上拡大に繋がる成長戦略ということでバランスをとれば良いのだと思う。僕らには今後3〜4年でさらに40〜50億投下していく戦略を立てている。恐らくITベンチャーと言っても利益が出る範囲でお金を使える会社と、ビジネスモデル上それが難しい会社の両方があるのかなと思う。(49:14)
それと最初のご質問にお答えすると、特に我々のようなサービス業では人が競争力の源泉となるので人への投資が売上・利益の成長ドライバだ。一方、鉄鋼業についてはよく存じ上げないが、いわゆるメーカー型産業だとすれば人よりも技術力や工場の生産能力といったアセットのほうが価値源泉として大きいように思う。そうした価値の重みとして、もし「アセット7:人間3」という話であれば7割のほうに投資すべきなのかなと思う。すべての会社が人に投資をすれば勝てるという訳ではないと思う。(50:14)
それと踊り場での拠り所ということで言えば、志というと簡単になってしまうが、個人的には次のように考えている。時間軸と地理的環境を考えると、今の日本に生まれたのは“超”恵まれた状態だと思う。今はその恵まれた状態のなかでさらに0.1%の確立で上場を実現して、さらにそのなかでも1%の確率でメガベンチャーを目指している訳だ。貰い過ぎというほど恵まれていると思う。だからこそ自分たちのためだけにやるのでなく、世の中に還元し、世の中を良くするという使命感がある。そうであれば踊り場に差し掛かろうが逆境になろうが、「もう止めた」なんていう無責任なことは言えない。(51:12)
ではどうやって逆境を切り抜けるか。大切なのは内省・内観し続けることだ。トヨタが「何故」を3回繰り返すのと同じ。私自身、「どうしたら出来るだろう」と四六時中考えている。その意味ではしつこいし、決めたら頑固だ。そういうことを何度も経験していくと、「あ、また踊り場が来たけれども大丈夫」という確信を持てるようになる。そのなかでさらに大きくなっていくのかなという気がする。(52:11)
石坂:最初にご質問をされた方は恐らく二代目というか、ファミリー企業という話だと思うが、僕の周りにもそういう人たちがいる。で、そういう人たちを見ていて感心するのだが、彼らは相当チャレンジしている。アントレプレナーシップの塊だ。ゼロから創業することだけがアントレプレナーシップではないと思う。自分の親父も会長としてまだ健在という状況下、彼らは30〜40代で社長になり、そのなかで「どうやって親父の息がかかった人たちと向き合うか」といったことを懸命に考えている。そして小さな会社でも自分の思いをきちんと持ち、戦略を立て、「こうやらないと生き延びることが出来ない」ということで、すごくイノベーティブにやっている訳だ。そこで自由に動けるようになったとき、社内の組織や制度を相当いじくり変える人たちはいる。鉄鋼業にも知り合いはいるが、彼らは相当斬新なことをやっている。それは直感かもしれないし計算しているのかもしれないが、とにかく頑張ってビジネスモデルのてこ入れをしていると思う。(53:47)
それと踊り場に差し掛かったときの考え方について言えば、性質的なしつこさに加えてもうひとつ。これは少し極論になるが、ステークホルダー等に「おかしい」「上手くいく訳がない」といったことを言われれば言われるほど、僕は燃える。どこかにきちんとした計算はあって、そのうえで燃える。皆が賛同するものには付加価値も付かない訳だし、それによる差別化も出来ない。逆に反発を受ける、あるいは摩擦を生むようなことが正しいという話は皆さんもよく聞くと思う。(55:23)
牧野:皆が賛同しているようなものはレッドオーシャンになってしまうので、そこに行かないというのは重要だと思う。その意味で、海外に打って出ていった知人のエンジニアリング企業経営者もいる。技術やクオリティに対する日本の考え方が海外で評価されて、それで現地でも雇用を増やしていると。売上高は日本と変わらないレベルだが、そういう方向も面白いとは思った。「日本って偉いんだな」と。(56:30)
神原:先週、スイスのIMD(International Institute for Management Development)でファミリービジネスに関するコースを受けたのだが、そこでは「1〜2代目はトップのパーソナリティで経営出来るが、そこから代替わりする際、意思決定プロセスなどをシステム化する必要がある」といった話をしていた。代替わりにあたり、先代の周りにいらした方々とはこれまでと異なるコミュニケーションをしていく等、やり方を変えるのも大きなポイントだと思う。それと、ワークスのMBOに関するご質問もあったが。(57:17)
牧野:MBOしたとき外部株主もいたが、当然、彼らとは「ここまでに成長します。そのあいだは赤字でもなんでも文句を言わないで下さいね」といった“握り”が出来ていた。従って、どこかのタイミングで彼らが望むイグジットをさせてあげないといけないのだが、そのために日本の市場で再上場するかどうかは分からない。どこの市場にするかはファンドマネージャーや金融参加者の意識で決めていく。BtoBでは売上高が毎年倍々で延々伸びていくということはない。従って、「当面は利益を増やすことはないし、場合によっては赤字になるかもしれない。ただ、成長という意味ではこういったドライバがあり、今後5年間らいでコミットします」と伝えたうえで、それを最も高く評価してくれる市場に上場したい。日本の市場はそういう考え方を世界で最も評価しない市場だ。(58:29)
「従業員に対しては、『上場したらバラ色になるよ』、『これが俺たちの夢の実現の第一歩だ』といったことを一切言わなかった」(井上)
会場:上場にあたり、人や組織のマネジメントで留意した点は?
会場:資本を直接・間接で調達するとき、その比率と理由は?
井上:最初のご質問に関してだが、まずインセンティブについて言えば我々はストックオプションを発行した。ただ、そこで注意したことがある。従業員に対しては、「上場したらバラ色になるよ」、「これが俺たちの夢の実現の第一歩だ」といったことを一切言わず、「これは単なる通過点で、何も変わらないよ」と言い続けた。ただ、結果としてのストックオプションを多少…、人生が変わるほど入ってしまうと人間も変わってしまうので、多少のインセンティブプランということでつけた。(59:58)
それと労務管理に関してだが、東証審査が云々といった話以前に日本の労基法そのものがおかしいと思う。働く自由を奪ってがんじがらめにしている。その労基法を守らないと上場させないという審査部がいるのだから、もうがちがちの組織になってしまう訳だ。これは自由にチャレンジするベンチャーの気風を削ぎ落としてしまう。反省すべきは、当時の僕らも「そうは言っても上場すべきだから」と言いながらそれをやってしまったことだ。しかしその後は少しずつでもがんじがらめの体制を解きほぐしていかないと風土そのものが変わり、組織が死んでしまう。それと資本政策におけるデットとエクイティの比率だが、うちはデットがゼロだった。完全にエクイティだけ。それもVCを入れず、事業ドライブがかかる事業会社との業務および資本提携しかやらなかった。(1:01:16)
石坂:上場準備の過程で準備室等の人間に直接言われることと、その人たちが「社員はこういう風に言っていますよ」ということのあいだに色々と温度差がある。だから「こういうことを考えている」というのをきちんと伝える必要はあると思う。ただ、ストックオプションは配るべきだと思うし、それをどこかで実際にキャッシュアウト出来るのは良いことだと思う。我々程度の会社であってもそれを元に起業した連中が何人かいた。志がある連中にとっては次の卵を産み落とすための資金源になっているのも事実な訳だ。上場すればそういう機会を得ることも出来る。事前にそれをあまり気にするべきではないが、そういう効果も生むということを信じてやっていくことが大事だと思う。(1:03:07)
牧野:我々の頃は上場の審査が今と比べて緩かった。で、これは12年前だからかもしれないが、我々のときは上場準備をしたいという人間が多かった。だから準備室等専門のチームをつくらず、「じゃあ、お前はこれで、お前はこれね」という感じで進めていった。そこに僕が入っていって、それで皆で一生懸命作文していたという感じだ。だから井上さんと同じ。上場後も続けることの出来る制度は残し、「これは上場後に続けられないね」というような形で進めていった。まあ、上場後に続けることの出来ない制度を残している東証もどうかと思うが。(1:04:01)
うちもストックオプション等は特に出さなかった。当時の僕が思っていたのは、「結局、従業員に報いるのは給与しかない」ということだ。給与を上げ続けるのが一番だと思ったからそれ以外のケアは一切しなかった。そして当時上場準備をしていた人間は今ほとんどスピンアウトしている。恐らく5〜6人が上場支援のコンサルティング会社をつくった。何もかも自分たちでやって、ものすごく詳しくなったためだ。(1:04:36)
会場:創業期の苦しい時期をどのように乗り越えたのか?
石坂:苦しい時期があるのは仕方がない。ただ、疲労困憊していてもやり続けようという精神力はあると思う。だからこそ体のケアも大切になると思う。創業当時の僕は毎日夜中まで仕事をしていたのだが、翌朝はいつもゴルフ場営業をしなければならなかった。ただ、当時の僕はその営業で朝早く起きる自信がなかったので、いつも朝一で恵比寿にある24時間営業のマッサージ店に行っていた。1時間後に必ず起こしてくれるから。それで寝坊もせず、体のケアも多少出来ると。そんな風にしてなんとか体力を維持していた時期がある。馬鹿みたいな話かもしれないが、そんなケアも大事だ。歯を食いしばってやるべき時期であることに変わりはないが、その辺のバランスをとる必要はあると思う。(1:06:35)
井上:スタートアップ時が大変なのは皆一緒だと思うが、一言で表現すると、その分野で誰にも負けない努力をしているか否かが大事になると思う。「この分野では俺が世界で一番やっている」という状態に持っていくこと。それと、その内訳を振り返ってみると、論理的に思考するという部分は僕の場合20%で、残りの80%はとにかく動くということだった。トライアンドエラーをものすごい速度で1日20時間やり続ける。そして2時間しか寝ない。そんな生活を何年も続けることが出来るか。「そこまでやって駄目なら諦めがつく」というところまでやり切れているかが大事だと思う。(1:07:13)
牧野:その通りだ。それをやっても駄目だった人間はたくさんいるが、本当にそこまでやれば後悔はしないと思う。僕らも今まで何度か駄目だったことはあった。ただ、そのときに僕と阿部と石川でいつも言うのは、「俺様たちがやって駄目だったんだから誰がやっても駄目だったに決まってる」という俺様論理だ。それで納得することにしている。(1:07:48)
会場:後継者を選ぶ際に大切にしたいことは?
井上:後継者に関しては…、めちゃくちゃ難しい。経営者にとって最も難しいのが後継者の育成・選択だ。ただ、僕は飛行機に乗っているとき、いつも「この飛行機が墜落して僕が死んだら次は誰にするかな」ということを考えていて、今はそれに関して7つほど項目が出来た。「理念や使命感をきちんと持っているか」「人格・人徳者であるか」「専門性がどこまであるか」等々。で、それらを一言で集約すると「自分の人生を掛けてその事業をやり切ろうとしている人物かどうか」。究極的にはそれが大事だと思う。(1:08:57)
「僕がいなくなったらうちの会社は潰れた方がいい。顧客サポートのため最低限の守りの経営をすればいい」(牧野)
牧野:後継者に関しては、正直言ってどうでもいい。何故なら会社そのものは僕が辞めた時点から成長しなくてもいいと思っているから。ただただ潰れなければいいと思っていて、それはお客さまへの継続的サポートのため。僕にとって重要なのは「この会社から新たな創業経営者がどれほど現われるか」であり、うちの会社自体には僕がいなくなった時点でなんの興味もない。たとえばうちの会社が今後さらに大きくなっていくと、またぞろベンチャーにとって邪魔な存在になる。規模ばかりが大きくなってそこに優秀な人材が吸着してしまい、結果として多くのベンチャーに人が行かなくなる。だから、はっきり言って「潰れちゃったらいいな」と(会場笑)。顧客サポートのために潰すことは出来ないが、そうであれば守りの人間が経営者になればいい。そして守ることが嫌な人間は皆辞めて次々に起業する。そしてうちの会社と変わらないサービスをつくり、さらには彼らのほうが主役になっていく。そうなればベストだと心の底から思う。(1:10:11)
石坂:今のお話のあとにコメントしづらいが(会場笑)、社長を降りて会長になるといったステップでなく、たとえば自分が海外支店長になるといった選択肢もあると思う。「ちょっとこういう事業をやりたいな」というものがあればそれをスピンオフさせ、その子会社で社長をやる等、形としては色々あると思う。「そんなこと出来る訳はない」と言われると思うが、自分が「そうしたい」と思う姿形でやっていれば後進もステップアップしてくれるのではないか。自分としては、出来ることなら次は思うままにやりたいと思う。(1:11:27)
神原:今日は三者三様、それぞれに突き抜けたお話を聞くことが出来た。今日のお話が今後に向けて皆さまのお役に立てばと思う。ありがとうございました(会場拍手)。(1:11:50)