「どこの国でも我々はまずシンプルに出す。それで当たれば当たったでいいじゃないか、と」(森川)
本荘修二氏(以下、敬称略):まず御三方から議論の材料を提供していただくということで、森川さんから。森川さんは面白い方だ。「どのように経営しているのですか?」と聞くと、「保守的に経営しています」とおっしゃる。我々から見るとアグレッシブな経営をしているように見えるのだが・・・。(4:18)
森川亮氏(以下、敬称略):恐らく普通のことしかしていない。その結果が普通ではないから、「何か変なことをやっているのでは?」と思われるが。まずは会社を簡単に紹介したいが、我々は韓国発の会社で、元々はNHN Japanという社名だった。韓国で創業1年後に立ちあげられた会社だ。で、私自身は創業3年目に入社し、現在は社長になって7年になるが、我々は当初日本だけにフォーカスしていた。まずはゲーム事業で年間売上高150億円前後の売上を達成し、そのあとライブドアを買収して検索事業をはじめ、さらに「NAVERまとめ」というサービスがヒットした流れだ。それまでは国内で粛々とやっていたのだけれど、そしてLINEが生まれたのは2年ほど前だが、それがたまたま成功したことで一気に海外へ出ていくこととなった。(5:34)
LINEに関して言うと最初からスマートフォンにフォーカスしていた。「スマートフォンのコミュニケーションでNo.1になろう」と。何故コミュニケーションにこだわったかというと、コミュニケーションが必要ないという人はいないから。だからその領域で成功すれば世界中で使われるだろうと考えた。では「コミュニケーションって何?」と考えると、普段最も使われているのはメールだ。従って、「スマートフォンに特化したメール(のツール)をつくれば世界No.1のサービスになるのでは?」と考えたことがきっかけになる。(6:17)
そうして色々なプランを立てているなか、震災が起きた。あのときは電話が繋がらなかった一方、ソーシャルメディアが急激に伸びた訳だ。当時の我々は大崎の本社を封鎖して20人ほどで福岡に移り、悶々とした日々を送っていた。ただ、そこでソーシャルメディアが一気に伸びていた状況を目にしており、およそ2週間後に東京へ戻ってから1カ月半で一気にLINEを開発した。リリース当初はスタンプも電話機能もなくメールが出来るだけのものだったが、ポイントは身近な人とのクローズドなコミュニケーションにフォーカスしたことだ。(7:12)
現在はユーザー数も急速に伸びている。日本で4500万、台湾とタイで1500万、スペインで1000万等々、全世界で1億8000万ユーザーになる。アジアではかなり広がっていて、先週はインドでテレビCMも開始した。インド、フィリピン、ベトナム、マレーシア、インドネシア、タイ、台湾、香港、シンガポールでCMを出している。他の地域を見てみると、ヨーロッパではスペイン。で、そこからメキシコに移り、今は南米でも出している。(7:56)
本荘:たとえばタイの警察はコミュニケーションツールとして公式にLINEを採用しているが、これは彼らが勝手に「無料だ。いいな」と言ってはじめたのだろうか。(8:18)
森川:まあ…、勝手に(会場笑)。(8:22)
本荘:一昔前、たとえばホンダさんが海外へ車やバイクを売るときは、「行くぞ!」という感じで頑張っていたと思う。しかしLINEの場合は、たとえば中近東でも勝手に広がっているようだ。何かせずとも他の国に受け入れられるようなレシピがあるのだろうか。(8:58)
森川:アプローチは二つあると思う。シンプルなものを出すやり方と、ここにしかないというものをしっかり作り込んで出すやり方。で、今までの日本企業はどちらかというと日本ならではの部分にこだわってつくり込んでいたと思う。しかし私たちはシンプルにした。よく言うのだが、水に近いのかなと思う。水は、「日本の水はこうだ」と言って何か色をつけてみたりするより、体に良くて美味しくて、そして安ければ消費者に受け入れられていく。LINEも同様だ。シンプルかつ無料で使い勝手が良く、バグもないと。そこにメイドインジャパンのブランドがついている。その辺が本質かと思う。(9:41)
本荘:国民性や地域のニーズによって利用方法等が変わることはないのだろうか。同じ水でも、砂糖水とか塩水みたいな違いはあるのか。(9:59)
森川:これはチャレンジになるが、たしかに「その国にあったものをやらなければいけないのでは?」という意見も多い。ただ、我々はまずシンプルに出す。「それで当たれば当たったでいいじゃないか」と。無理をして当てようとも思っていない。まずは出して、反応を見て、反応が良ければ拡大していく。テレビCMも基本的にはある程度伸びてから出すようにしている。従って、よく戦略について聞かれるが、特に戦略はない。まあ…、当たったらそこで頑張るという、それだけのシンプルな考え方だ。(10:37)
本荘:結論は「無理をしない」(会場笑)。では間下さんにも伺おう。ビデオ電話というと企業も数多く参入しており厳しい市場だと思う。そのなかでもブイキューブはシェアを伸ばし、クラウド市場で6年連続市場シェアNo.1となり、かつ国際展開も進めている。(11:19)
「アメリカ勢が弱い、つまり英語を喋ることが出来ない国々を中心に攻めている」(間下)
間下直晃氏(以下、敬称略):我々はエンタープライズ(企業)向けのサービスのみを提供する会社で、消費者向けサービスをやっていないので、会場の皆さんはご存知ないかもしれない。今年で設立15年目になる。当初は受託開発等もやっていたが、2004年ぐらいから現在の、我々が「ビジュアルコミュニケーション」と呼ぶ事業に特化して展開している。社員は220名ほど。日本に180名、アメリカに5名、シンガポールに10名、マレーシアに10名、インドネシアに5名、中国に15名と…、合計で220にならないが、とにかくそれぐらいの人数でやっている。特徴的なのは私自身もシンガポールに移っている点だ。家族ごとシンガポールに移って本格的に海外展開を進めている。(12:31)
我々の言うビジュアルコミュニケーションとは、テレビ会議やウェブ会議、あるいはオンラインセミナー等、映像や音声を使って離れた場所を結ぶコミュニケーションだ。また、あすか会議も一部配信させていただいているが、来場せずともイベントに参加出来るようなサービスもあれば、オンラインで資料など見せながらモノを売るサービスもある。現在では遠隔教育、大学に通わず大学の勉強をしたり、塾に行かず塾の勉強をしたり。さらには遠隔医療のようなものにまでどんどん広がっている。会議に関して言えば、「Skypeと何が違うのか?」と感じる方もいらっしゃると思うが、我々が提供するのは法人向けのサービス。たとえば10〜100におよぶ複数の拠点を繋いで映像をやりとりするようなものになる。法人の会議やコミュニケーションに必要なサービスを月額課金で提供していくモデルだ。(13:38)
グローバル展開に関して言うと、アプリを配信するやり方でなくひとつずつ地味に売っていくアプローチになる。各国に拠点を設けたうえでパートナーをつくり、市場を拓いていくという比較的地味な展開だ。その結果、現在の国内シェアは現在37%ほどになった。競合には大手も多いが、おかげさまで非常に良い戦いが出来ていると思う。(14:13)
市場について言えば、多くのみなさんが弊社のサービスをまだ使ったことがないと思いますが、現在の普及率は数%前後。100億未満の状態だ。しかしそれが2020年にはおよそ1000億となり、皆さんが当たり前のように使う時代が来るだろうと言われている。アジアにおける我々のシェアも、2010年が12.2%、2011年が17.7%ということで少しずつ伸びている。とは言っても他のアジア市場は日本より小さいというか、確固たる市場がまだ存在しない。日本ではそこそこ大きな市場となったが、今はアジア市場の開拓を考えている状態だ。我々が目指しているのはアジアNo.1のビジュアルコミュニケーションインフラ。アメリカにもオフィスはあるが、我々が狙っているのはAPAC(アジア太平洋)等アジアの領域だ。特にビジネスでは欧米とアジアでコミュニケーションのスタイルがだいぶ違うこともあり、まずはアジアというローカルでNo.1サービスにしたい。(15:38)
現在、ITの世界はほぼすべてアメリカのサービスで成り立っている。特にエンタープライズ領域では、ローカルのサービスでアジアに広がっているものがほとんどなく、アメリカのコミュニケーション文化をそのまま押し付けられている状態だ。しかし我々はアジアのコミュニケーション文化に合わせたものをアジアの会社としてやっていきたい。(16:11)
私自身は現在V-Cube Global Services Pte.というシンガポールの会社にいる。そこが中間持ち株会社となり、その下に各国の事業会社がある状態だ。ただ、それでよく「本社をシンガポールに移したのか?」と聞かれるが、移していないし、移す気もない。本社は日本のまま。日本を軸にやっていく。ただ、一部の機能をシンガポールに移す等、シンガポールに地域の統括機能を持たせていく形で今は進めている。(16:42)
また、現在はアジアを攻めていくにあたって各国にインフラもひいている。というのも…、先週もミャンマーに行ってきたが、アジア各国の回線環境が悪い。その辺を解決するために「独自のインフラを持とう」と、アメリカ企業等、他のどこもやっていないことを今は進めている。それで海外へ打って出る日本企業のサポートもしたい。また、アジアの国々はそれぞれが小さいので各国間を飛び回っている人が多い。そうした方々によるコミュニケーションの円滑化も追求したいと思っている。(17: 20)
あと、我々がアジアにフォーカスしている理由もご説明したい。今狙っているのは英語を喋ることが出来ない国々だ。何故なら資本の戦いでアメリカ企業に負けるから。実際、規模とすれば我々の1/10でも、アメリカ企業の競合であれば100万ドルを調達出来る。私たちにはそれが出来ない。そうした資本論理を前にした瞬間、勝てなくなる訳だ。従ってアメリカ勢が弱い、つまり英語を喋ることが出来ない国々を中心に攻めている。代表格は、日本、中国、タイ、インドネシア、ベトナム。日本は伸びないかもしれないが、今後も成長していくであろうこれらの国々を中心に今は考えている。(18:19)
あとは先ほどお話しした通り、アジアのコミュニケーション文化にしっかり合わせていく。各国の言語対応も重要だ。英語を喋れない国々に英語バージョンを持っていったら嫌がられる。私たち自身はたとえばタイ語版等をチェック出来ないが、そういったものをしっかりローカル化していくことで現地のビジネスに食い込んでいきたい。(18:31)
それと、やはりアジアは日本に優しい。最近の中国は若干厳しいが、アジアではどこへ行っても日本人または日本のサービスというだけで格上げになる。アメリカではやはり人種的偏見もあってか、たとえば日本食に対する評価が高くとも、日本のサービスに興味を持つ人はあまりいない。従って…、ITはアメリカが総本山という認識が強いからそちらを目指す会社は多いが、どちらかと言えばアジアを狙ったほうが日本の良さを生かせるし、日本より大きなボリュームの市場を狙えるのではないかと思う。(19:10)
最後にひとつ。私自身はシンガポールに移った理由ということで、必ず所得税等の税金対策について聞かれる。まあ、長い目で見ればそうしたメリットもあるが、私が考えているのは本社のグローバル化だ。たとえば日本の本社から現地に人を送ってオペレーションをさせるとどうなるか。現地では色々なことが起きるが、それらをベースに「こう変えて欲しい」と本社に言っても、本社は忙しい訳だ。伸びているから。しかも市場としては海外のほうがまだ小さいから、すべて後回しになってしまう。
(19:52)
そんなことをしていたら、ただでさえ難しい海外で成功出来る筈がない。それで時間が過ぎていくうち、「海外事業は儲からないから撤退しよう」という話になってしまう。今までどれほど多くの会社が海外に人を送り、しばらく駄目な状態が続き、そして日本に帰ってきているかということがそれを証明していると思う。(20:10)
しかし私自身がシンガポールに行けば、現地(例えばシンガポール)が言うことに対しても本社が動かざるを得ない。そうして意識が変わっていく訳だ。それで今はやっと日本語版と英語版を同時に出せるようになった。現状ではこれさえ出来ない会社が多い。そんな状態でグローバル展開なんて無理だ。各国語版を同じタイミングで出す等、プライオリティを合わせていかなければ成功出来ないと思う。そういうことをやるために私自身がシンガポールへ行っている。また、アジアの企業はトップダウンであることが多く、トップ同士で話をしないと商談もなかなかまとまらない。今はそのためにも行っているということをご理解いただければと思う。(20:47)
「もともと米Yahoo!の日本支社のため、厳密に言うとYahoo! JAPANは世界に行けない(笑)」(小澤)
本荘:海外展開のきっかけも伺いたい。たとえば国内の顧客から「ほかの国でもサービスを提供してよ」といったニーズがあったのだろうか。あるいは日本で大手以外の競合を蹴散らしたすえ、「じゃあ次は海外だ」となったのだろうか。(21:23)
間下:海外と繋げたいと言う国内のお客さまはたしかに多いが、今はそこよりも海外のローカル企業を狙っている。たとえばタイのお客さまはすべて現地の政府や銀行だし、どちらかといえば今後ニーズが強くなる地域に展開しようという意図のほうが大きい。また、長期的に見れば日本企業も今後グローバル化する訳だ。我々もグローバル化しなければ、グローバル展開が前提のアメリカ企業に勝てない。今は幸いにして日本で勝っているが、このままでは市場が広がったときに資本力で負けてしまうという危機感がある。そうなる前にマーケットを押さえたい。(22:07)
本荘:ローカルのコンペティターはどうなのだろう。(22:59)
間下:アジア企業はまだまったくない状態だ。我々はローカルのアジア系としてすでに最も大きいが、2番手の中国企業は我々の1/3程度。これがASEANになると、それぞれの国が小さく市場もないため、もうまったく存在しない状態になる。(23:19)
本荘:「国によってはお値段が取れなかったりするのでは?」と心配していたが。(23:31)
間下:グローバル企業向けの価格とローカル企業向けの価格で分けている地域もあるが、思ったよりも日本で提供する額と同じ額で入れてくれる顧客が多い。現地で攻めている大手企業や銀行あるいは政府や大学には予算があるから。逆に小さいところはまだ導入してくれない。セキュリティーも機能も気にせず、安ければ良いという考え方なので、我々としてはある一定のラインで切っている状態だ。(24:13)
本荘:お客さま開拓は現地の人だけでやっているのだろうか。(24:20)
間下:日本からの駐在もいるが、基本は現地化しているので現地の人員で行う。(24:27)
本荘:言葉は…、‘No English, please.’でしょ? (24:37)
間下: (笑)本当に通じない。現地でやっていて一番辛い部分だ。ただ、面白いことがある。世界的に見れば日本人の英語力も低いが、あちらはそれと同じかそれ以下だったりする。だから逆に言えば強気にいける(会場笑)。相手がぺらぺらのネイティブだと強そうに見えるから、それで押されることは結構あると思うが、今お話ししている地域では意外とこちらが押せる。何回も会う必要があるのでしんどいが。(25:27)
本荘:では続いて小澤さんに伺っていこう。(25:45)
小澤隆生氏(以下、敬称略):「世界に突き抜ける〜」というお題だが、我々はそもそも世界に出ようと考えた米Yahoo!が日本戦略として設立した日本支社。従って、厳密に言えばYahoo! JAPANはこれからも世界に行くことが出来ない(会場笑)。ただ、それでもどうにかしたいとは思っている。日本ではかなり儲かっていて、昨年は2000億弱の利益が出た。で、「これからはグローバルに打って出て行かなければ」といった話も社内では出ている。それで子会社もふたつ設立した。Yahoo! JAPAN AMERICAとYahoo! JAPAN U.S.(会場笑)。ちょっとよく分からない状況になっている(会場笑)。ただ、いずれにせよ今日はYahoo! JAPANという枠組みでお話をしても面白くないと思うので、皆さまと同じ環境で世界戦略についてどう考えているか、どうしてきたか、失敗も含めお話ししたい。(27:29)
世界へ出て行くためのやり方はいくつかある。我々はソフトバンクグループに属しているが、その総帥が、それこそ“突き抜ける”やり方で世界へ出ようとしている。実際、スプリント(・ネクステル)やアリババを買収し、資本の論理で一気に打って出ている。これは面白いやり方だと思う。言語も支社も関係なく、およそ2兆円を使って一気に世界を獲りにいく。ベンチャーではまったくないが(会場笑)。ただ、そこで橋頭堡が出来る訳だ。たとえばスプリントの買収とともに、アメリカで何十万〜何百万台と販売される携帯にYahoo! JAPANの、つまり日本が誇るモバイルコンテンツをぶち込めないかと考えている。これは世界進出の強烈なやり方だ。もちろんYahoo! JAPANとして入らなくても良い。Yahoo! JAPANが開発した別のブランドもあるし、ソフトバンクグループでは「パズドラ」というものもつくった。そういったものをぶち込んでいく。(29:16)
一方、私が管理するベンチャーキャピタル部門もある。投資という手法で世界へ打って出ていこうと。ブイキューブさんのような会社に出来るだけ早いタイミングで投資を行う。何しろ現金が4000億ほどあるから、それを使って世界へ大いに羽ばたいてくださいという訳だ。我々自身は出ることが出来ないから(会場笑)。(29:49)
また、日本国内でYahoo! JAPANは大変なトラフィックを実現している。今はひしひしとLINEさんに脅威を感じてはいるが、PCではそれなりにある。従ってベンチャーに関してはこのトラフィックとお金を使い、「国内はYahoo! JAPANと提携していれば大丈夫」という状況をつくる。そのうえで「海外で思い切り勝負をしてくれ」と。海外展開をするような会社には、出来れば非言語の領域で行って欲しい。技術あるいはコンテンツに強い会社に投資をしていきたい。(30:39)
さて、Yahoo! JAPANとしてここでお話が出来るようなものはこれぐらいしかないが、それだけではまずいので少し個人の話もしていこう。世界に突き抜けるベンチャーということで、実は個人としてひとつだけ成功している事例がある。『TOKYO OTAKU MODE』というコンテンツだ。ユーザーの99.9%は英語圏またはスペイン語圏の人々で、内容としてはその名の通り、東京のオタク文化を世界に発信するサービス。あるとき、電通とソニーの方が面白半分で、「小澤さん、こういうことをやりたいからお金を出してください」と言ってきたので、「うん、やればいいじゃん」という感じではじめた。今でも私の家に事務所があるという会社だ(会場笑)。(31:39)
これは1〜2年前にフェイスブックページの運用からはじめたのだが、現在は1300万の「いいね」を獲得し、クール・ジャパン・プロジェクトの方々にも注目されている。これまで日本文化に興味がある人々を1300万人集めたメディアは日本にない。彼らにこちらの都合で情報を送ることが出来るメディアを我々2〜3人で手に入れた。(32:10)
つまり日本から世界に打って出るとき…、LINEさんも同じだが、極端な話、支社がいらないケースもある。ものづくり分野の大先輩方は世界へ打って出るとき、物流網や販売網、あるいはメンテナンスの仕組みを大変なご苦労とともに構築してきた。それは本当に尊敬しているが、我々はインターネットを使い、東京しかも私の自宅からいきなりスペイン語圏で600万人のユーザーにリーチしている。それで海外のゲーム会社が「広告を出したい」と言ってきたりして、どんどんメディアとしての展開が出来るようになってきている。これはなかなか面白い状況だと思う。(33:14)
「四の五の言わずに突き抜けたものをつくってしまえば、行ける」(本荘)
小澤:何故こんなことが出来るようになったのか。インターネット上にグローバル展開が行えるプラットフォームが出来たからだ。現在、世界展開が出来ているLINEさんのような会社は、iOSおよびAndroid上で動くアプリケーションを提供している。つまりグローバルに戦えるインフラを使っている訳だ。『TOKYO OTAKU MODE』も同様で、世界中の人が使っているフェイスブックというインフラの上につくったサービスなのです。今まで考えられなかった世界展開の仕組みが生まれてきたということだ。これまで、特に間下さんのようなエンタープライズでは支社が不可欠だった。しかしBtoCでは日本にいながら数人で、いきなり1000万のユーザーを獲得出来る。こうした状況を見るにつけ、「今は新しいルールのゲームがはじまったのだな」と思う。(34:15)
従って、ここにいる皆さんには、たとえばアップルやグーグルあるいはフェイスブックのような地位をLINEさんにとっていただけるよう一生懸命頑張る、あるいは皆さま自身がプラットフォームを獲るといったアプローチで進めていただきたい。そのなかでLINEのような会社が世界の覇権を握るために頑張らなければいけないし、日本は国を挙げてそういう部分を進めるべきだと思う。(34:47)
本来であればプラットフォームを獲りにいかなければいけないと思うが、100歩譲っても既存のプラットフォームを使い倒せば我々のような展開は出来る。Yahoo! JAPANはそうしたプラットフォーム上での勝負もするし、新しいプラットフォームをアジアでつくることも考えている。それで今はインドでの展開もはじめた。ベンチャーキャピタルを通じ、そうしたプラットフォーム上で頑張ることが出来るようなアプリケーションや新しいコンテンツサービスが出来ないかと。それが現在の展開だ。(会場拍手)(35:27)
本荘:私は500 Startupsというアメリカのインキュベーター組織でアドバイス等を行っているが、1年半ほど前、そこのファウンダーと渋谷で飲んだことがある。で、それをどこから聞きつけたのか、そのとき押し掛けてきたのが『TOKYO OTAKU MODE』の3人だ。そこで彼らは超下手な英語を使いつつプレゼンをしたのだが、それで即出資が決まった。そこで私も…、いつもなら「アメリカに行きたいんです」なんて言うだけの“お子ちゃまプレナー”には「少し頭を冷やせ」と言うところだが、彼らの場合はそれを少し超えていた。すでにユーザーベースがあった訳だ。ここで大事なメッセージは、「四の五の言わずに突き抜けたものをつくってしまえば、行ける」ということだろう。(37:06)
という訳だが、御三方のお話を伺っていると、まずはコンシューマ向けとエンタープライズ向けでだいぶ話が違うのかなと感じた。また、良い意味で無理をしないという感じも受けた。ただ、一昔前のコンシューママーケティングであれば、お客さんを財布に足が生えている存在のように見たうえで、「売ってやる」という発想をするケースが多かったと思う。エンタープライズも同様だ。とにかく猛烈営業マンが売りに行くという会社がたくさんあった。そうしたマーケティングやセールス手法がずいぶん変わってきたという意味では共通点もあると感じる。さて、ここで少し相互質問コーナーにしてみよう。私はたくさん質問したので、互いに「あれ? 小澤さんはそう言っていたけれども、これは?」というようなものがあれば。(39:14)
小澤:LINEさんに聞きたい。世界展開・世界征服の野望ということで言うと、今は何%まで来ているのか。…どうしますか(会場笑)。今後の肝は何になるのだろう。(39:22)
森川:LINEのようにシンプルなサービスで重要なのは、初期の段階でどれだけ早く市場を獲ることが出来るかだと思う。我々が今アジアで競っているのは「ウィーチャット」や「カカオトーク」といったところだが、まずはアジアでどれほどのマジョリティを獲ることが出来るか。また最近、アフリカにも進出していて、ナイジェリアに出ている。とにかく目下の戦いとしては、まず市場に入っていってどれほどのユーザーを獲得するか、だ。それを超えるとまた次のステージがあると思う。(39:58)
小澤:開発は1.5カ月とのことだが、その時点で世界展開を考えていたのだろうか。それともLINEのサービスを作ったらたまたま世界展開できちゃったのか、どっちですか。(40:08)
森川:どちらかというと、たまたま。当時は社内にたまたまアメリカ人スタッフがいて、それで英語版も同時につくった。で、「つくったのなら出してみよう」ということで出したらたまたま当たったという。そこでポイントがあるすれば、流れに身を任せるというところだろうか。多くの日本企業は、「アメリカを攻めよう」となると、まずはその計画をつくる。ただ、仮にそれがインドネシアやサウジアラビアで当たっても、恐らくアメリカを真面目に攻め続けるのだと思う。僕たちは違った。最初は何も計画を持っておらず、当たったところに力を入れていくというやり方だった。そこはかなり違う気がする。(41:11)
小澤:このナチュラルで脱力した考え方が大変勉強になる。Yahoo! JAPANには頭の良い人が多くて、彼らはものすごい計画を立ててくる。ただ、その計画を立てて満足している訳だ。大事なのは「とにかくどんどん進めたら良い」ということだろうか。(41:29)
間下:その辺はエンタープライズも一緒だ。計画を立てても絶対その通りにはならない。従って、まずは一気に進め、それで当たったところを獲りにいくしかない。その点で大いに共感する。とにかくやってみないと分からないことは多いから。(41:43)
森川:ちなみに当時は「儲からないものを徹底的にやろう」と考えていた。儲からないものを徹底的に出来る会社は少ない。上場企業であれば3カ月単位で業績を報告しなければいけない訳で、儲からないものを真面目にやっていると怒られてしまうから。(42:03)
本荘:(Yahoo! JAPANが掲げる)「“爆速”経営で利益倍増」という環境では、儲からないものをやるというのは厳しい。(42:06)
小澤:上場企業は掲げるのが難しい目的だ。(42:09)
森川:逆に言えばYahoo! JAPANさんのような大きな会社と戦うために、逆張りをしなければいけないというのがある。(42:19)
「日本で使えるなら他でも使えていい。何故いつもアメリカのものにやられるの?と」(間下)
小澤:たしかに『TOKYO OTAKU MODE』もまったく儲けを考えていなかった。「世界の人が喜んでくれるこの素晴らしい文化をいかに世界へ届けるか」という、純粋な心だけでやっていた。つまりはその辺からという話なのか…。間下さんは世界展開をどういう風に考えていますか。日本で上手くいったので次は世界ということだったのか。(42:40)
間下:単にその事業で海外に行ってみたかった。「日本で使えるなら他でも使えていいじゃない」と。「何故いつもアメリカのものにやられるの?」という気持ちがあった。(42:55)
本荘:アメリカでもそうだが、最近は頭で考えたビジネスより、「やりたいからやる」というエモーションやパッションではじめてものが当たるケースが多いと感じる。(43:09)
小澤:日本のインターネット関連企業はほとんど海外展開に失敗している。すべて討ち死にのなかで2社は成功している訳だ。ただ、その御二方は口を揃えて「やりたいからやると」とおっしゃる(笑)。この辺はすごく特徴的な気がする。(43:30)
森川:今までのインターネット業界では、どこか当たったものに追随するというアプローチが一般的だったと感じる。しかし、その回転が早くなって追従しきれなくなってきたのではないか。スマホ業界では何か当たると一気に同じようなものが出てくる。そうなると逆に誰も出さないものを出したほうが良いのかもしれない。(43:54)
本荘:お二人は「やりたいことをやっているだけ」とおっしゃるが、センスが良いのだと思う。ぼうっとやっていたら何も出来ない。(44:03)
小澤:「追従しない」というお話を聞いて思ったことがある。ベンチャーから相談を受けていても感じるのだが、日本のベンチャーや新規参入する大企業は、「アメリカで流行っているこのサービスを日本で展開したら」という発想からなかなか抜け切れていない。Yahoo! JAPANが言うなという話だが(会場笑)。(44:27)
本荘:Yahoo! JAPANほどのスケールになったら、セブン-イレブン・ジャパンによるサウスランド買収のようなこともありだと思うが。(44:38)
小澤:そのぐらいまでいけば本物だと思う。ただ、アメリカで流行っていたものを日本でやっている会社が世界展開出来る訳はないという思いもある。(44:49)
本荘:DeNAもeBayのようなものをやっていたが、結局は転換した。それで現在のように「俺たちの事業」という風にやって成功した訳だ。そうならざるを得ないのだと思う。(44:59)
小澤:ブイキューブさんも今はまったく市場がないという海外で日本発のものをやっているし、LINEさんも海外を真似している訳ではまったくない。その意味では日本独自のものが一周廻って当たり前になっているということなのだろう。(45:19)
間下:アメリカにも同様の市場はあるが、スタイルが少し違う。(45:24)
本荘:その意味ではその通りだ。ビデオ会議等の市場は競争が大変激しい。そのなかでブイキューブはよくここまで来たと思うし、感動する。(45:41)
間下:潰れなくて良かった(笑)。結局、一番大きかったのは、自分たちが使いたかったからつくっていたという点だと思う。正直、当初はアメリカに同様の市場があると、単純に知らなかった。ある程度大きくなってから、「あれ?アメリカにでかい連中がいるな」と気付いたような状態だ。競合製品を研究したことも当時はなかった。(46:08)
本荘:邪念がないというのは一番良いことなのかもしれない。(46:14)
小澤:純粋に「良いものをつくり続ける人が勝つ」といのが、とりあえずの結論か。(46:19)
森川:以前はお金や人数の規模が大事だったと思う。しかし今は逆で、そうなるとフットワークが重くなることもある。今は恐らく、意思決定のスピードや意思決定プロセスにおける気持ちといったもののほうが重要なのかもしれない。(46:39)
本荘:Yahoo! JAPANさんはベンチャー支援や投資を通じ、世界へ突き抜けそうな会社の特徴やパターンを何かお感じになっただろうか。また、その分野はどうだろう。(47:12)
小澤:日本が強い分野はある。モバイルの領域は圧倒的だ。ただ、先ほど申しあげた通り非言語の領域で勝負していただく必要があると思う。普段は日本語というバリアのなかで勝負している会社がほとんどだからだ。いずれにせよモバイルのプラットフォームやインフラに近いレイヤー、あるいはアド配信技術等が強いと思う。あとはゲーム。今もコンソールゲームでは任天堂さんやソニーさんが勝負出来ている訳で、絶対に強いと思う。そんな風にいくつかの分野があるだろうということで投資をしている。(47:55)
本荘:ではそろそろ会場にも質問を募ってみよう。いくつかまとめて受けたい。(48:55)
会場:欧米とアジアのコミュニケーションは、具体的にはどのように違うのだろう。英語が通じるか否かといったお話以外に何かあればぜひお伺いしたい。
会場:面白いものやお客さんが喜ぶものをつくるという考え方と、いつかは資金を回収しなければいけないというロジックを、どのようなバランスさせていくべきだろう。また、現代において大きな差別化要因となる経営スピードの高め方も伺いたい。
間下:コミュニケーションに関して言えば空気を読むか否かの違いがあると思う。多民族で英語を使う国は、空気を読んだらやっていられないから、空気を読まない。もちろんそうでない国もあるが、日本や中国では人の顔色や空気を見ながら関係を築いていくスタンスが強い。アジアにはそういう国が多いし、そうした地域のビジネス慣習は欧米とだいぶ違う。ビジネスのプロセスや個人とチームのプライオリティが違っていたりする訳だ。また、たとえばアメリカでは取締役会議等も含めてすべてを電話で決める会社が多い一方、日本企業は「とりあえず会いに来い」という話になる。これだけではないが、とにかくそうしたコミュニケーションの違いを仕組みにまで落としていくと製品自体もかなり変わってくる。それが使い安さや使い勝手に恐らく紐づいてくるのだと思う。意外だったがメキシコなどのラテン系はアジアに近いと感じた。従ってそういう地域での展開も面白いかもしれない。(50:54)
それとスピードについてだが、正直悩んでいる。会社が大きくなるに従って遅くなってくるからだ。200人前後しかいない当社でもそういう悩みはある。法人ビジネスをやっていると、特に日本企業が求めてくる品質への要求とスピードとのあいだでどのようにバランスをとっていくかで悩み続けることになる。ただ、現時点では“押して”いくしかないだろう。社内にかっちりやる人たちがいて、それをぶち壊しながら、そのなかでバランスをとっていくしかないなと。この辺はむしろ教えて欲しいところだ。(51:35)
「定例会議はほとんどない。必要なときに必要なだけ会議を行う。それと、情報共有しない」(森川)
森川:まずスピードに関してだが、何に時間をかけているかの分析が大事と思う。実はほとんどが議論している時間と考えている時間だ。しかしモノを生み出す観点で言うと、つくる時間に最も集中すべきだと思う。その意味で言うと、私たちでは設計書をつくっていない。設計書を書く時間があるのなら、なるべくビジュアル化して絵や動画で見せていくか、実際につくっていく。また、会議もなるべくやらないようにしている。定例会議はほとんどない。必要なときに必要なだけ会議を行う。それと、情報共有しないというのもある。情報共有ばかりしていると余計なことが気になって本業に集中出来ないときがあるから、それを共有すべき人たち以外には情報を出さない。あと、当社ではなるべく空気を読まずに本音トークを心掛けている。空気を読み出すと時間がかかるから、もう率直に駄目なら「駄目」と言うようにしている。(52:50)
小澤:面白いことやお客さんが喜ぶこととお金を稼ぐこととのバランスについて言えば、LINEさんがひとつの解決を提示してくれたと思う。つまり圧倒的なユーザー数を獲得すればお金はあとからついてくると。これはインターネットの世界で古くから言われていることだが、フェイスブックやLINEさんはそれを実現している。人さえいれば最終的には広告も入るし、ゲームでも遊んで貰える。そこで重要なのが、「その状態を達成するまでどうやって食い繋ぐか」だが、ベンチャーにはなかなか難しい課題だ。(53:37)
そこでYahoo! JAPANの出番になる(会場笑)。4000億円の現金を使って、「ユーザーが1〜2億人になるまでは我々のお金を使え」と。そういうことが出来たらなんと気持ちが良いだろうと思って、今は会社でそういうことができないか、と話をしているところだ。100〜200万人という中途半端なユーザー数で10〜20億稼ぐというのは駄目だと思う。特に世界を獲るのであれば、1〜2億のユーザーにサービスをぶち込んだうえで、「お金についてはあとで考えましょう」と。アマゾンやフェイスブックが一体何年赤字を出していたか考えてみて欲しい。黒字化を達成するまでに使ったお金は100〜200億にのぼるだろう。(54:35)
それとスピードについてだが、Yahoo! JAPANは大変遅い。私はつい最近まで楽天にいた訳だが、Yahoo! JAPAN入ってみて、「これは困った」と思った。で、そういう場合はベンチャー企業への投資という判断に切り替える。社内で頭の良い人があれこれと考えたものでなく、ベンチャー企業が考えたものに「とりあえずやればいいんじゃないの?」と。そんな風にして、なるべく外に出していく形になる。Yahoo! JAPANはこのままいくとお金だけがある会社になってしまうが(会場笑)、上手に使えというミッションをいただいているのが私だ。頑張って使わせていただくので、ここにいる皆さま方も早く起業して、一刻も早く世界を獲って欲しいと思う(会場拍手)。(56:00)
本荘:では、さらに質問をいくつかまとめて募っていこう。
会場:今後は自動翻訳等のテクノロジー進化に従ってコミュニケーションギャップも薄れると思う。そうなると、ブイキューブさんによる「コミュニケーションギャップを突いて非英語圏を攻める」ための前提も変わると思うが、その辺はいかがお考えだろうか。
会場:プラットフォームを使い倒してコンテンツ等を世界へ広めていくためのポイントを教えていただきたい。
会場:これまでの成功を導いた意識や行動のなかに、どのようなファクターがあったと皆さまご自身ではお考えだろうか。どういったことを心掛けていたのかを伺いたい。
間下:たしかにコミュニケーションのあり方は変化すると思う。ただ、大事なのはタイミングではないか。10年後はたしかに状況も変わるだろうが、それを前提にして今から設計出来る訳ではない。むしろ絶えず変化していく世の中に合わせていくことが重要だと思う。その意味では現在とその少し先しか見ていないが、とにかく「変化に合わせて私たち自身も変わっていこう」というスタンスだけは守りたいと思っている。(57:00)
また、エンタープライズの世界はコンシューマの世界に比べるとはるかに変化が遅い。アメリカであればフォームに名前を入力したうえでカード決済といったことが法人向けでも行われているが、アジアでは未だにオンラインで買う文化がないし、フリーミアムモデルを試しにやってみても使わない。これ、今後10年で変わるものでもないと思う。ただ、もちろん20〜30年後は分からないから、結局はそれに合わせて我々が変わっていくしかないし、そうした変化を注意深く見ていくしかないと思う。今を生きているという感じだ。(57:48)
小澤:プラットフォームがある前提で、いかに面白いコンテンツを的確に届けるか、というご質問にお答えする。非常に重要なポイントだ。どうして漫画の現著作権を持っているような大手出版社でなく、我々が作った『TOKYO OTAKU MODE』のようなサラリーマンが片手間でやっているようなサービスが世界で1300万もの「いいね」を獲得することが出来たのか。それは、最初は権利などを一切気にせず「日本ってこんなにすごいんだぞ!」ということを伝えたい一心でやっていた。一方、コンテンツを持つ会社さんを見ていると、海外にライセンス等を行うことで今度はご自身による積極的な情報発信が出来なくなるようなケースが多々見られる。恐らく権利問題だけでなく社内の枠組み等もあり、がんじがらめになって意思決定が出来なくなっているのだろう。社長に何度説明しても「フェイスブックって何? 顔?」なんていう話になって(会場笑)。(59:38)
『TOKYO OTAKU MODE』は当初、ある意味では、その辺をいい加減に進めることで一気にファンを獲得した。もちろん現在は権利問題を含めオールクリアだ。ただ…、映画『ソーシャル・ネットワーク』はご覧になっただろうか。彼らは当初、女子大生の顔を比べる「フェイスマッシュ」なんていうことをやっていた。出だしはそんなものだ。あとできれいにすればいい。難しく考えず、伝えたいものをシンプルに伝える。そういう話だと思う。(1:00:40)
間下:面白いポイントだ。実は我々もYouTubeがはじまる少し前に動画共有サイトをはじめていたのだが、きっちりやり過ぎた。だからYouTubeにも一気に抜かれてしまった。立ちあげ時は物事を真正面から考えてはいけないこともたくさんあるのかなという気がする。我々が今それを出来るかというと難しいところだが、新規事業の立ちあげ時はまた違うアプローチでやるべきかもしれない。(1:01:11)
森川:事業には成功もあれば失敗もあるから成功し続けるのは無理だと思うが、私なりに考えると、失敗したときに余力を持っているか否かが重要だと感じる。会社には常に、ある周期でチャンスが訪れるような気がする。で、そのチャンスが来たときに余力があるかないかで会社の未来が決まる。出来れば早めに失敗しつつ、チャンスが来たときにきちんとそれを掴むことの出来る力を残しておくことが大切ではないか。(1:02:26)
会場:「こういうことをしたら成功するね」というのは、ある程度は分かるという感覚がある。むしろ御三方が失敗したことがあれば伺いたい。それをどうやってリカバーしたうえで成功に導いていったのかも併せてお聞かせいただけたらと思う。
会場:皆さまのように信じることを真っ直ぐやり続ける、その折れない気持ち、あるいは真っ直ぐ向かい続けるための鍵を教えていただきたいと感じた。
会場:「とりあえずやってみる」ということで手を打つにしても、事業のコアは外せないと感じる。そうしたコアの捉え方を教えていただきたい。
森川:具体的な失敗談はご披露出来ないが、自身の失敗を振り返ってみると、「早過ぎた」というケースが圧倒的に多い。いずれ必ず来る流れであっても、それを手掛けるのが早過ぎたと。そのため、実際の流れが来る直前で資金がショートし、止めざるを得なかったというようなものが一番辛くもある。従って、タイミングがすごく大事なのかなと思う。あと、「続ける」というのは、私としてはあまり勧めない。無駄なものを続けるよりは確実に当たるものへシフトしたほうが賢いのかなと。失敗したものは早めに諦め、成功するものに集中するというのが私なりの考え方になる。(1:03:37)
「孫さんも三木谷さんも弱音を吐かせてくれない。永遠に部活を卒業しない部長がいるようなもの(笑)」(小澤)
間下:私としては、「これは絶対世の中のためになる」と感じ、本当にやりたいと感じたことなら、もうありとあらゆる人を巻き込んで続けるしかないとも思う。続けることが出来ずに終わるビジネスは多いし、続けることで残るビジネスもある。私たちが今まで辛うじて成長することが出来たのは、やり続けることが出来たから。さらに言えば、そうした継続をサポートしてくれる人が周りにいたからだ。そうした方々を巻き込むだけの思いを持つことが出来るかどうか。巻き込むことが出来ないという程度の思いならば止めたほうが良い。ただ、続けることの強さというのもかなりあるような気がする。(1:04:27)
小澤:私は失敗談が大嫌いでして(会場笑)。美味しい料理をつくろうとしてクックパッドを見るとき、「まずは失敗したレシピを見て参考にしよう」という人はいない。もちろん私自身も失敗はするが、それはあまりご披露しない。何故なら失敗の仕方なんていうものはいくらでもあるからだ。(1:05:28)
それと、心折れずに事業を続けるための鍵に関して言うと、私としてはふたつある。1点目はシンプルで、折れない上司の下にいるときだ。なにせ私の場合は三木谷浩史(楽天代表取締役会長兼社長)と孫正義(ソフトバンク代表取締役社長)。もう絶対に折れない。どれほど私が弱音を吐きたくても、吐かせてくれない。永遠に部活を卒業しない部長がいるようなもので(会場笑)、これは恐ろしい話だ。それと2点目は、「1+1=2になる」と自分のなかで絶対の確信を得ているときだ。今は上手くいっていないかもしれないがゴールは見えている状態で、「これが絶対に正しい」と思っているときは折れない。もう信念に近い。そういうときは誰の意見も聞かずにやり続ける。三木谷さんや孫さんはそれが見えていらっしゃるから部下にも同じことを求めるのだろう。それが同じ“絵”の共有無しに、命令という形で来るからしんどい訳だが(会場笑)。(1:06:36)
コアとなる考え方についても、結局はその話に繋がる。「1+1=2」というコアと、その周辺を分けて考える。「俺がやりたいのはこれだ」というのが決まっていたら、そこは動かさない。ただ、そうしたコアになる考えと、戦略あるいは戦術は分けて考えること。AはBであるというコアを証明する方法自体は色々あるかもしれないからだ。『TOKYO OTAKU MODE』のコアは、「東京のおたく文化は世界に受け入れられる筈だ」という考え方であり、そこで「フェイスブックを使おう」というのは戦術という話になる。(1:07:36)
本荘:では時間も迫ってきたので、最後に御三方から一言ずついただきたい。(1:07:49)
森川:今はお金も人もそれほど必要とせず世界に出て行ける。従って何かひとつ、「これなら勝てる」というものをまずは出してみて、その結果を見てから考えたら良いのではないか。日本人は責任感が強いからやる前に色々と考え過ぎてしまい、かえってスピードが遅くなる場合もあるが、まずは考えずに進めたら良いかなと思う。あと、「続けるか、止めるか」というお話だが、申しあげたかったのは、「やり方を変えることに躊躇しないほうが良い」ということだ。ゴールへ至るまでのやり方は、「これでないといけない」ということはなく、変化する。そうしたやり方に関しては、ある程度柔軟性を持ったほうが良いかなということをお伝えしたかった。(1:08:45)
間下:私が今シンガポールに住んでいるのは、実は先ほど会場に入ってきた堀(義人:グロービス経営大学院学長)さんのせいだ。以前、堀さんに「海外へ打って出るにはどうしたら良いですか?」と聞いたら、「日本にいたって出来るか」と言われた。たしかにそうだ。もう外へ出て突っ走るしかないと思った。実際、今はそれでどんどん変わってきていると思う。これからも本当に、世界、少なくともアジアにおけるインフラ構築を実現するため、なんとかしてやり抜いていきたいと思っている。(1:09:27)
小澤:ひとりでも多くの方に起業していただき、あるいは会社からスピンアウトしていただき、そこでYahoo! JAPANから投資をさせていただきたいと心から祈っている。私たちは世界に出ることが出来ない。皆さま方は出来る。出ることが出来ないのにお金を持っているのが我々だ。この4000億を皆さま方に使わせて欲しい。機会はたくさんあるし、我々が考えても結構だ。我々との合弁であれば、日本国内ではそのサービスをYahoo! JAPANに乗せて儲けていただき、そのうえで海外へ行きましょう。その結果として儲けることが出来たらと思う。よろしくお願いします(会場拍手)。(1:10:20)