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グローバル企業の人事トップらが語る「中・欧米・日企業のリーダー輩出」(前編)

投稿日:2012/01/27更新日:2021/10/26

Ningyu Tang氏: 本日はこのような機会をいただき、また皆さまと交流することができて大変光栄に思います。本セッションでは、国際化そしてグローバル化が進展する中で、HRM(人的資源管理)部門に求められるチャレンジについてお話をしていきたいと思っています。ゲストもお二方、お招きしました。まず私からお話をさせていただき、そのあとお二人にお話を伺う構成で進めたいと思います。

まずは国際化におけるHRMのチャレンジ、課題について、私自身の考えを述べさせていただきたいと思います。近年、国際化はますます進んできました。中国は海外企業を歓迎しておりますし、中国企業もまた海外進出を積極的に行なっております。そういった国際化のトレンドとともに、昨今は国際化における課題も明確になってきました。企業成長の視点で見ると、人的資源の管理は組織の発展を支えていくものでなければいけません。ここではその点を踏まえながら、三つのポイントをお話ししていきたいと思います。

国際化に向かわなければ、国際化がこちらに向かってくる

まず中国における国際化のトレンドについて概観しておきます。国際化について、私はPatrick Wrightが述べたある言葉をはっきりと覚えています。それは、「国際化に向かわなければ、国際化がこちらに向かってくる」というものです。過去20年間、中国には数多くの外資系企業が進出してきており、1992年からは16年連続で外資系企業が投じた金額の最も多い発展途上国となっています。

2009年2月現在、中国における全企業の3%にあたる外資系企業31万社は上々のパフォーマンスを見せています。例えば、2008年末時点で上海に進出した外資系の企業は178社、R&Dセンターを構えた企業は274社、そして拠点、駐在事務所や支社を置いた企業は224社となっています。もちろん日系企業も数多く進出しています。日立製作所、パナソニック、あるいは東芝といった企業が中国に早くから進出しており、駐在事務所から現地法人に成長していきました。資料のデータをひとつひとつ詳しくご紹介することは出来ませんが、全体としてはまさに「国際化が中国に向かってきている」という現象になってきています。この動きは90年代にピークを迎えました。

次に中国自身による国際化の歩みを見ていきましょう。2009年、我が国の投資家は全世界122カ国および地域でFDI(Foreign Direct Investment)を行っております。非金融FDIは433億ドルにのぼりました。2010年には129カ国および地域で3125社の海外企業にFDIを行い、その金額は対前年比36.3%増の590億ドルに達しています。

また、HuaweiやHaierといった中国企業は海外に現地法人を設立し、グローバル企業へと変貌を遂げていきました。ここではM&Aなども成長に向けた原動力のひとつとなっています。たとえばLenovoはIBMのPC部門を買収しましたし、TCL Corporation(TCL集団)はフランスのThomson SAと共同出資で会社を設立しましたまた、Geely Automobile(吉利汽車)は2010年にVolvo Carsを買収しております。このようなプロセスを通じて国際化を進めてきたわけです。

国際化が進む企業が抱える課題:3つの「相違」

このような国際化のなかで、チャレンジすべき課題も表れてきています。このチャレンジは三つのレベルで示すことができると思います。1つ目は、国家および地域の違いからもたらされるチャレンジ。私はこれを国家相違と呼んでおります。2つ目として、海外企業のM&Aでは組織の違いに対するチャレンジも生まれますね。私はこれを組織相違と呼んでおります。そして3つ目は個人の違い。異なる国家、あるいは異なる組織にふさわしい個人を生み出すチャレンジも存在します。このようにして国際化は企業経営にさらなる課題をもたらすと言えます。国際化において、個人と組織の違いだけでなく国家の違いももたらされてきたということですね。

まず国家相違について考えてみますと、政治、経済、法律、そして文化、さまざまな違いが浮き彫りになっていきます。たとえば国家によって政治の腐敗状況も異なっていますから、ビジネスを進めていくにあたって戸惑うことは多々あるのではないでしょうか。雇用指数も異なりますし、契約における調印の方法もそれぞれ異なってきますね。当然、文化も国家間で異なります。たとえば中国と日本は隣国関係にはありますが、ある面では歴史上の問題に起因した文化の違いがあると言わざるを得ません。

そして組織の相違。共有の価値観をベースとした、戦略、構造、スタイル、制度、人員、スキルといったものも、異なる組織間では違いとして浮かびあがってくると思います。特にM&Aによる2社の統合では、こうした組織レベルの特徴が異なることでうまくマッチングできず、調整に時間がかかってしまうのです。

3つ目の個人の違いについてですが、まず考え方も人それぞれに異なります。たとえば中国人の考え方は弁証的思考、あるいは全体的思考であると言えますが、アメリカ人をはじめとした西洋人の考え方は分析型思考であると言えます。さらに、内的な要因を重要視する人もいれば外的要因を重要視する人もいます。これについて興味深い話があります。組織のパフォーマンスが芳しくないとき、その原因が内部にあるのかもしくは外部にあるのか、考えてみましょう。ミスを犯してしまったときにその原因を外部に見つける人がいますよね。中国あるいは東洋では、ミスを犯してしまったときにその原因を外部に見出す人が多いのではないかと私は考えています。これも大きな違いですね。もちろん意思決定においても違いがあると思います。

国際化においてはこのような相違を調整せざるを得ないケースが出てきます。これには組織の変化そして国際化の進展に伴って、それぞれ対応するプロセスも異なりますので、時間がかかると思います。そのため組織として対応する前にやむを得ずもタイミングを逸してしまう時期もあるのではないでしょうか。
では、こうした相違の調整を行うにあたっての、HRM上の課題について考えてみましょう。私は次に申しあげるような課題について考え、研究しなければならないと思っています。まずはどのようにしてそれぞれの国に対応し得るHRMを構築するか。また人的資源の管理体系をいかに構築し、統合していくか。さらに、こうしたことを成し得る能力を持ったグローバルな社員がいるかどうかも重要と言えます。加えて、社員がそれぞれの文化に対応できるよう会社がいかにサポートしていくか、そして、いかにしてグローバル社員を管理していくかが大切です。

本日は光栄にも企業家であるChun LiさんとJunder Chiangさんにお越しいただいています。ですからお二人の話を伺いまして、グローバル化の中、いかにしてHRMの力で組織の挑戦をサポートしていくべきなのかを一緒に探っていきたいと思います。私の話はここまでとしまして、次にLiさんからお話しいただきたいと思います。ご清聴ありがとうございました。それではLiさん、よろしくお願い致します(会場拍手)。

人事部を「管理」から、社内のサービス部門へと転換

Chun Li氏:よろしくお願い致します。私は1988年に華東師範大学を卒業しておりますが、Ningyu Tang先生とは心理学部で同級生でした。私は中国大陸におけるグローバル企業活動のなかでHRに取り組んだ最初の世代のひとりです。これまでJohnson & Johnson、Pillsbury、Traneといった会社で仕事をし、現在はGoodBabyという中国企業におりますが、中国の会社に在籍するのはこれが初めてになります。

このたび中国企業を選んだ理由は、これまでグローバル企業で長年仕事をしてきた私の経験を中国企業で生かせないだろうかと考えたためです。中国企業での仕事は、グローバル企業を経験している人材にとって非常に大きなメリットがあります。多くのグローバル企業では人材育成のノウハウも構築されていますし、中国における事業展開についてもガイドラインやコンセプトが充実しています。しかし中国企業にはそういったガイドラインや制限がまったくありません。ですからどのようにすれば良いのかを、自分自身で思うままに進めることができるわけです。この点がグローバル企業でのキャリアを持っている人材にとって大きな魅力になると私は思ってます。

GoodBabyはローカルな中国企業からスタートしています。これから皆さまも見学に訪れるわけですが、創業者は中学校の数学教師でした。彼は40歳で起業したのですが、それ以前に企業で働いた経験はまったくありませんでした。GoodBabyは現在、社員数2万1000人の企業に成長しています。研究開発センターは、崑山、香港、東京、ボストン、そしてユトレヒトの5カ所です。各拠点でそれぞれ最も優れた人材に地域での研究を担当させることで、ベビーカーの開発において世界の最先端に立っております。また、製造については10カ所に工場を持っており、部品製造から組み立てまですべてを行なっています。アルミ合金、ゴム、布、あるいはベビーカー、電動車、車のシート、木造製品・・・、すべて内製しております。販売は中国市場と海外市場で分けておりますが、中国では強力な販売チャネルを持っております。すべての省と市に支社を設け、製品のブランド力を確保するとともにリテールも行なっています。一方、国際市場では主に北米とヨーロッパ向けにOEM生産を行なっており、デザインと生産が中心になっています。そして他社ブランドを通じ現地の販売チャネルに入っていますが、北米とヨーロッパ以外では自社ブランドを展開しています。

私は現在、GoodBabyでHRに関する3つのミッションを持っています。一つ目は会社の管理チームを多様化していくこと。これは管理チームのグローバル化を進めることでもあります。私自身は当社に6年半在籍しておりますが、そのあいだに1000名ほどの応募者と面接を行い、70〜80人の管理職を採用してきました。このなかには失敗もありましたし成功もありました。そういった失敗事例の一つひとつを詳しく研究してまとめたものを、のちほど改めてご紹介していきたいと思います。

私の二つ目のミッションは、人事チームの育成です。2万人以上の社員を管理しなければなりませんので、人事チームの育成は非常に重要な仕事になります。私は6年以上をかけて中国企業における従来型人事チーム・・・、つまり事務的なことしか出来ない、あるいは警察のような役割を果たしているだけのチームから、サービス型、業務先導型、あるいは業務パートナー型のチームに変身させていきました。

大きな変化を一つ紹介しましょう。中国企業の社員に「企業のなかで最も嫌いな部門はどこか?」と聞いてみると、興味深いことに大抵は3つの部門名を挙げてきます。財務部、人事部、そして行政部です。この3部門に在籍する人間は一般的に社内で歓迎されません。なぜなら、いわゆる管理側に立つことが多過ぎるからです。そこで私は自身の職務経験を基づいて、人事チームを単純な管理または事務方からサービス部門へと変えていきました。その目標は「社内のお客様」に満足していただき、かつビジネスパートナーになっていただくということです。その結果、私の人事チームは現在、グループのなかでも非常に歓迎され、好まれる部門となっています。誰もが人事チームの人間と相談したくなるようにしたのです。もちろん社内顧客とのコミュニケーションに関するソリューションは今後も改善の余地があります。しかし改善が進んでいます。

そして三つ目のミッションですが、これは現時点であまり成功していないかもしれませんが、大学生の募集と育成、そしてリーダー教育です。当然のことながら外部で人材を募集するだけでは足りませんから、社内で人材育成を行なっていくことが重要になります。この分野では、私個人の研究では日系企業は大きな成果を挙げていると思います。研修が高品質、かつ社員の会社への忠誠心が高い。中国企業における社員の忠誠心向上というのは大きなチャレンジと言えます。これには文化的な背景もありますし、他の会社で働くチャンスもたくさんあるという状況に起因しているかもしれません。

中国企業が求める具体的な人材像とは

続きまして、中国企業が必要としている管理職に関する私の考えをお話しします。我々が現在採用している人材はそのほとんどが多国籍企業からの中途採用ですが、我々が必要とする人材は、企業の特徴を理解し、経営が直面する問題にチャレンジし、トップの要求を理解し、成功例と失敗例を研究する、そしてターゲットの特徴を具体化することができる人です。

多国籍企業からの人材にはどのようなメリットとデメリットがあるのでしょうか。我々は現在、トップマネージャーをヘッドハンティングで抜擢しております。ヘッドハンティング先は中国、日本、あるいはオランダまで多岐に渡っておりますが、我々はヘッドハンティング会社に、我々が求める人材像を説明するオリエンテーション資料も提示しています。資料では、どうすればそのような人材が入社後に生き残っていけるか、あるいはどうすれば成長出来るのかという点も提示されています。

中国企業にとって人材確保は非常に重要であると思います。私がGoodBabyに在籍してきた6年半のうち前半3年間、中途採用で新たに入社した人材は入社後数カ月間で離職していました。ところが次の3年間に入社してきた人材はほぼ年単位で勤務しています。月単位から年単位への変化は大きい。初期に採用した人達が数カ月しか生き残ることが出来なかったのは、我々が適切な人材を見つけていなかったためだと考えています。彼らが我々の文化にはふさわしくなかったということですね。年単位で勤務していった人材の離職については、他にもさまざまな原因があると思います。初期段階での人材教育が大変重要になると私は考えていますが、最終的には、やはりふさわしい人材を採用することになると思います。

中国企業が人材を募集する段階で直面する課題の一つに、自分達がどのような人材を求めているかがはっきりしていないことがあります。多国籍企業は成熟していますからそれがはっきりしています。しかし中国企業では人材像がまだ明確ではありません。トップでさえ求めている人材像がはっきりわかっていません。ですから人材募集には多くの困難がつきまとうのです。

ここで我々が人材に求めている要素を具体化したもの、あるいは人材評価に使われやすい指標を紹介していきましょう。

まずは経営モデルを理解していること。日系企業には良い点、中国企業と異なる点があります。たとえば本日お越しの皆さまはさまざまな企業からいらしたわけですが、皆さまがこれまでさまざまな職種を各企業で経験していらしたということを昨夜伺いました。現在こそ人事を担当していらっしゃいますが、かつてはマーケティングや営業を担当していたという方も多いのではないでしょうか。

しかし中国企業は違います。人事部門の人材は入社してからずっと人事を担当します。私自身は総務・経理を2年間務めたこともありますが、中国企業でそのような経歴を持った人間は少ないと言えるでしょう。するとそこで大きな問題が発生してしまう。私は人事部の人材が人事のみを経験していると、官僚主義に陥りやすくなっているではないかと考えています。ですから私は、自社のグループ内ではある試みを実施するようになりました。製造や販売の現場に携わっていた人材を人事部門に移動させたのです。皆さまも今まで色々な部署を経験していらしたわけですよね。ですから私の試みも成功するのではないかという自信を持っています。

人材評価で用いるそのほかの指標としては、自社の経営モデルや収益モデルが何か、経営プロセスにおいてどのような課題があるか、またはなぜそのような課題があるのかについて、理解していることです。また、それらにおいて人材如何の要素はどこにあるのか、そしてどのような専門性を持つ人が問題解決にあたるべきか・・・、問題解決にあたる人々が会社でどんなポストに置かれているのかもポイントですね。

私たちは以上のような点を明確に把握していく必要があります。それを把握したうえで社内の顧客(社員)と情報をシェアをしていく。そんなコミュニケーションを通じて我々が求めている人材像を明確にすることが出来ると私は考えています。

ただしこのようなプロセスを考えていく以上、我々自身も業務に精通しておかなければなりません。これは人事を担当する人間にとって大きなチャレンジでありますが、人事担当者がさまざまな仕事を経験しているという点は社内顧客に対してプラスの作用を及ぼすと思います。入社後に人事ばかり担当してきた人間にとってこれは大変難しいのではないでしょうか。そしてこの点が、中国のローカル企業とグローバル企業の大きな違いでもあると考えています。いずれにせよ私個人としてはこのようなチャレンジを通してHRのレベルも向上出来ると思っています。多国籍企業に勤務していた時代の仕事はとてもシンプルでした。欧米のヘッドクォーターが方向性を指示してくれていたからです。しかし中国のローカル企業では自分の頭で考えていかなければいけません。試みを実行し、顧客にフィードバックしなければいけない。そして成功例と失敗例を研究し、まとめていかなければなりません。このプロセスは人事担当者にとって大変良い学習になると思います。

グローバル企業出身者が戸惑う、中国企業の特殊事情とは

では次に、中国企業の人材募集における現時点での特徴を分析してみましょう。この特徴は中国らしいと言えますが、目下、中国企業の人材管理は人治から法治へのシフトが起こっています。つまりトップが一人で決定していくというプロセスからの転換です。

人材選びの大前提として、1つ目に、中国企業は巨大な生存競争のプレッシャーにさらされているという特徴があります。資金も資源も不足している環境での生存競争が大変激しいため、結果志向になっている企業がほとんどと言えるでしょう。経験不足のために経営モデルが固まっていないという状況も特徴的です。ですから現段階でのベストモデルとともに、将来の発展モデルも常に模索していかなければなりません。

加えて、ほとんどの中国企業は創業者自らが管理を行なっているという点も特徴のひとつです。それ以前に働いていた企業のトップがほとんどプロフェッショナル・マネージャーだった私の経験を踏まえて申しあげますと、創業者とプロフェッショナル・マネージャーには大きな違いがあると言えます。つまり創業者の思いとリソースがマッチングしていないんですね。もっとも、それは中国人起業家の強みかもしれません。少ないリソースで大きな仕事を成していこうという思いがあるわけですから。省資源で急速な成長を遂げていこうと考えているというのは、プロフェッショナル・マネージャーと創業者の大きく違う点だと思っています。

3つ目に、現在の中国企業では、職責、授権、プロセスがはっきりしていないという特徴もあります。中国では徐々に授権していきます。グローバル企業ではポストによる授権が行われますが、中国企業では人材の信用が高まるにつれて少しずつ権限を委譲していきます。グローバル企業から来た人材は、この点でなかなか中国企業に適応出来ません。これについては中国企業も目下改革を行なっていますが、私は時間がかかると思っています。オーナーとしては徐々に授権していきたい。一括で権限を授けると大きなリスクを抱えることになりかねないと考えてしまうんですね。こういった管理モデルの相違に、グローバル企業からの人材は自身の能力が縛られたと感じてしまい、なかなか対応出来ない現実があります。

以上のような特徴を通し、中国企業でどのような人材マネジメントが必要なのかをまとめてみたいと思います。これは我々がヘッドハンティング会社に伝えていることでもあります。これまでの人材募集では求める人材にめぐり会うことしか出来ていませんでした。つまり「偶然でしかめぐり会えない」人材だったのです。私の仕事はそんな風にしてめぐり会うことしか出来なかった人材を、目的を持って探し出すことです。だからこそ、求める人材のイメージを可能なかぎり具体化する必要があるということです。

在の中国企業が求める優れた人材の8要素

まず求められているのは成功への強い意欲。成功したいという願望です。最初にその点を定義したいと思います。成功したいという強い意思がなぜ必要かと言えば、願望次第でやりたいことも、そしてやり方も変わっていくためです。結果を伴ってこそ、成功体験と言えます。強い意志がなければ仕事でも諦めてしまいがちになります。特に中国企業ではプロセスがはっきりしていない場合が多いので、個人の力で進めていく傾向があります。もちろんグローバル企業でも個人の力は重要ですが、仕事はきちんとしたプロセスによって推進されることが多いと言えるでしょう。しかし中国企業ではそこに個人の強い意志がなければ、挫折という形で終わってしまうことが多いのです。

2つ目に専門性。ここでは専門的な考え方に注目していきたいと思います。専門的な考え方とは、その人材が論理まで理解しているかどうかです。グローバル企業の人材はやり方こそわかっていても、なぜそうするかまでを理解していないことがあるように感じます。しかし仕事では背後に存在する論理まで考えていないと、過去にやった方法を単に新しい仕事へ移植するだけで終わってしまいがちです。それが失敗の大きな原因になってしまう。さらに、目的を持って仕事のプロセスを評価出来ているかどうかも重要です。また、聞き上手な人であるかどうか。上司の考え方を聞いて、その背後にある論理まで理解出来るかどうかが重要ということであります。

3つ目に、こつこつと勤勉に仕事へ打ち込む姿勢もまた重要です。中国企業では第一世代の起業家が非常に勤勉であるという特徴があります。日系企業の状況は詳しく存じあげませんが、欧米の起業家は仕事と家庭のバランスをとても大切にしていますよね。しかしほとんどの中国企業ではその二つをバランスさせるのが難しい。私自身もグローバル企業出身の人間ですからこの点については非常に困っています。中国企業は勤勉過ぎる。私のボスであるご夫妻の仕事ぶりを紹介しますと、彼らは週7日間、毎日夜11〜12時まで仕事をします。

もちろんお二人は極端な例ですが、同様の経営者は少なくありません。我が国では有名な黄光裕(Huang Guangyu)・・・、現在は服役中ですが、私は以前、GOME Electronics(国美電器)のトップであった彼のアシスタントを面接したことがあります。北京外国語大学の修士号を持っている方だったと記憶していますが、その方に4年前に面接した時、GOME Electronicsを離れた理由を聞いてみました。するとその人は「本当に我慢できなくなった」と言うのです。朝の3〜4時ぐらいまで会議をすることがよくあるという話でした。

そういった状況は目下、中国企業では少なからず見受けられます。私もそこまではできませんが、そのようなことができる人を大変尊敬してはいます。中国が世界の工場になった背景として、彼らのような第一世代の起業家が持っていた勤勉さも大きかったのではないかと思うからです。私は彼らのことを「中国の骨」あるいは「支える柱」と呼んでいます。多くの起業家がそんなふうに勤勉でした。ここもまたグローバル企業との違いです。欧米企業では現在、ワーク・ライフ・バランスを強調していますよね。

もちろん人間性あるいは効率の点で見ればワーク・ライフ・バランスが正しいという考え方はできます。しかし現在の中国企業は・・・、皆さん考えてみてください。競争に立ち向かっていこうとしたとき、現時点で我々が持っているのは何でしょうか。ブランド力、リソース、あるいは豊富な経験・・・、我々はそれらをほとんど持っていません。あるのは精神だけ。勤勉さだけです。勤勉さこそ現時点で中国企業が持てる競争力の源だと私は考えています。もちろん現時点ではそのために辛い思いをしている人も少なくありませんし、その状況は中国の姿そのものとも似ていると思いますが。

勤勉な人材を探すにあたって大変重要なのは、いかにしてその具体像を描いていくかです。ポイントは二つ。一つは長時間労働に耐えられるかどうか。そしてもう一つは真面目であるかどうかです。これが勤勉であるかどうかを判断し得る最もシンプルな指標であると私は考えています。

我々が人材に求める4つ目の要素は人柄です。進んで責任を負うことが出来る人間なのか、トラブルがあったら部下に責任を負わせてしまう人間なのか。誠実か、小狡いのか。部下を尊重し、その成長に関心を持つかどうか。これらは人柄を判断する重要なポイントです。人柄が良くなくとも、部下は表向きには話を聞くそぶりを見せるでしょう。ただ、真剣には聞かなくなります。真剣に聞かなければ適切なプロセスを見出すことはできません。適切なプロセスがはっきりしなければ、部下はさらに上司の話を聞かなくなります。ですから人柄は大変重要なファクターであると思います。

そして5つ目の具体的なイメージはビジネスパーソンであるかどうかです。利益を求めている人間なのか、市場やお客様を求めている人間なのか。それは単なるプロセスを求めることとは異なると私は考えます。グローバル企業で仕事をする人の多くはプロセス通り仕事を進めることに慣れていることが多い。習慣としてプロセス通りに仕事を進めようとまず考えます。しかしなぜそのプロセスでやるのかといえば、そこに消費者の需要、市場動向、あるいはどこから利益を得るかといった考えがあるからですよね。

私も生粋の商売人ではないのでうまく説明できないのですが、私のボスは面接において「この人は私と“合わない”」といった話をする時があります。理由を聞いてみるとその人が商売をやる人ではないからと言うんですね。ただ、なぜそれを判断できるかというとボス自身もはっきりとはわかっていない。ではどんな人材が商売に適切であり、どんな人材がビジネスパーソンとして適切であるかという点については、ボスはコミュニケーションの仕方で評価すると言いました。興味深い話です。

では6つ目に参りましょう。研究型あるいは開拓型リーダーであることも私たちが求める人材イメージの一つです。中国でのビジネスには不確定または不透明なことがあちこちで起こります。ですから課題を研究し、開拓していく仕事が好きな人材を見つけなければいけません。中国での人材募集には大きな困難がつきまといます。それぞれの事業部では総務・経理自らがビジネスモデルをつくっていかなければいけない。そこでトップの助けは得られません。しかしグローバル企業の人材は枠組みのなかで仕事をすることに慣れており、それが人材採用の点で妨げになるのです。私たちの仕事に適切な人材が少ないという結果になってしまう。そういった失敗例を研究した結果、私達としては研究型あるいは開拓型リーダーこそ優秀なビジネルモデルを構築できるのではないかと考えるようになりました。

7つ目は個人として仕事の進め方が似ているかどうか、です。これは普遍性を持つ話ではありませんが、そこにこだわる人はいます。一般的に、人は自分に似た人と仕事をすることを好みますよね。少しずつ権限を与えていく中国企業において、その点を判断する指標の一つは、やはり結果になります。結果が良ければ信頼します。2つ目は好きかどうか。仕事の能力に加えて、その人そのものを好きになればすぐに権限を与えていきます。これもユニークですね。中国では上司に好かれることもパワーを得る重要な用件であります。

続いて8つ目。問題解決能力が高いだけではなくチャンスを掴もうとする意欲があるのかどうかも重要な要素です。中国企業のトップはチャンスに対して敏感な人間です。一般的にプロフェッショナル・マネージャーは問題解決のベテランですが、私たちはビジネスチャンスを掴もうとする意思を持っている人材が良いと考えているのです。

人材に求められるこれらの要素についてさらに考えていくと、シンプルに言えば3つのポイントが浮かんできます。1つ目は企業所有者の立場に考って物事を考えること。主人公または当事者として意欲があるということですね。2つ目は専門家としての特徴があること。自分の考え方を持ち、ボスの話を聞くだけではないということです。最後に純粋な人間であるという点。感情を排し事実に基づいた議論が出来る人のことであり、人間関係に縛られない人です。下心を持って物事を考えない人間と言い換えることもできます。 さて、ここまでは我々がどのような人材を探しているかについてお話をしましたが、今度は入社後数カ月間にわたって我々が注目していくポイントも併せてご紹介させていただきたいと思います。ポイントは4点。1つ目は学習意欲を持つことです。上司だけでなく部下からも学びたい、あるいは企業の持つ強みやメリットを見つけていきたいという意欲を持っているかどうか。新しい職場で周りの人をよく観察しない人は多いかと思いますが、周りから学ぼうとする意欲は大変重要だと私は考えています。

2つ目はよく部下を助けることです。また、3つ目は上司が現在最も困っていることが何かを理解していくこと。同時に、自身の経験を通して自分なりにポイントを整理するプロセスを持っていることもポイントになります。そして4つ目が小さな成功を重ねていくことです。小さな成功を通じてトップの信頼を勝ち取り、より多くの権限を勝ち取ることです。このほかにも入社してから重要となる考え方はあるのですが、ここでは時間の関係で割愛させていただきます。

中国企業で働く日本人に、必ず知っておいてほしいこと

今回は中国企業で働く日本人社員の成功例と失敗例もご紹介してみたいと思います。弊社も日本人社員をたくさん採用しています。私たちは通常、採用する日本人社員に3つのアドバイスをします。1つ目は、中国では質よりもスピードを優先する場合があるということ。計画にあまり完璧さを求めず、迅速に行動に移ることも時には大切です。特に日本人社員は計画を完璧に遂行しようとしますが、あまりにも時間がかかる。そのために計画を実行する段階でチャンスが逃げてしまっているケースがあります。これは中国の特徴かもしれませんが、時には質よりスピードが大事になることはあると思います。

2つ目は、上司から指示を貰うのではなく上司にどうすればいいかを教えることが大切という点です。多くの日本人社員が上司の意見を聞きたがりますね。これには尊重の文化などいろいろな理由もあるかとは思いますが、中国企業では上司にどうすればよいかを教えなければいけない。日系企業では上司の話を聞くだけでよいときが多いようです。しかし中国企業では「上司に何をすればよいか」を話して貰うためにたくさんの給料を払っていると考えます。給料が少ないのであれば聞くだけでも構わないのですが。

ここで日本人社員による失敗についてお話ししてみましょう。以前、ある日本人社員のアシスタントからメールを貰ったのですが、彼は日本人社員による失敗の理由を3つにまとめていました。よくまとまっており大変興味深い考察でしたね。

まず彼は1つ目に「日本人社員は堅過ぎる」と言います。そして2つ目は諦めやすい点であると。困難に遭うとすぐに「もういいや」となってしまう。困難に遭ったときこそ自分がやらなければ結果は出ないはずなのですが。そして3つ目は、人が良すぎるということでした。先ほども申しあげましたが、中国人の部下に仕事を任せたときは「任せたのだから向こうはその通りやってくれる」と信じるのではなく、随時チェックしないといけません。そこでミスがあったら修正していく。相手がこちらの言うこと聞かないときははっきりNOと言うことも大切です。これらの点は、たしかに中国で働く日本人社員によく起こる問題点ではないかと思います。

それでは時間も迫って参りましたので私のプレゼンはここまでとさせていただきます。皆さまご清聴ありがとうございました(会場拍手)。

HRには国や文化に寄らない共通の原理原則がある

Junder Chiang氏:おはようございます。本日はまず、私が現在勤務しているAshlandの概要と私自身の経歴からご紹介させていただきたいと思います。そのなかで人的資源管理のシステムについて、体系的な考え方ではないのですが私の経験を皆さまにご紹介したいと思います。

Ashlandは化学メーカーです。中心となる製品ラインナップは、食品、薬剤、あるいは水溶性ペンキなどに使われています。このほか、水処理、微生物処理、製紙、そして印刷および包装等々で使用される製品、ポリマー製品もあります。さらに、ボート、風力発電設備、包装用フィルムなどに使用されるほか、自動車エンジンの鍛造向けとなる複合材料もあります。このほか別の部門では潤滑油も生産しています。これらは1924年に設立された当社の主な業務です。

現在Ashlandにはアジア太平洋地域に2000名、グローバルで1万5000名の社員が在籍しておりますが、当社は2002年から大きく発展、成長してきました。2002年、現CEOにJames O'Brienが就任してからは石油精錬の本業を売却したほか、2006年にはアメリカ最大の部門であったAPAC(Ashland Paving And Construction)を売却しています。そして2008年にはHercules、2011年にはISP(International Specialty Products)を買収。2002年から2011年までの9年間で全事業の7割が刷新されていきました。こういったM&Aの早さは中国企業と違う点であると思っています。これが弊社の概要です。

では次に私自身の簡単なご介をさせてください。私はこれまでずっとHR部門で働いてきました。1988年にはIBMのSummer Studentで仕事をしていましたが、当時は原則として製品や市場、あるいは技術も勉強する必要がありましたから、私はエンジンやコンプレッサーの組み立てもできるようになりました。業務オペレーションや技術が分からないとHRを担当できないためです。1990年からは建設事業を担当し、その後アメリカに渡ってイリノイ大学でMBAと心理学を学びました。

Delphiのサーマル部門に入社したのは1995年、その後GMに入社しました。当時の私は若過ぎてコンサルティング業務がわからなかった。それで転職しました。ちなみにDelphi在籍時にはアメリカで労働組合にも入っており、さまざまな調整業務を経験しています。

その後はシンガポールに移りアジア太平洋地域の業務を担当するようになりました。総務・経理の補佐としてビジネス展開にあたるよう指示されていたためです。そこで1998年のアジア金融危機に遭遇し、1997年から2000年にかけての3年間、リストラ業務を担当するようになりました。タイ工場などでリストラを行なっていたのですが、ここは日系企業と違う点ですね。日系企業では終身雇用制度を採り入れていますがアメリカの企業は短期志向ですから、手をつけやすいリストラに取り組んだというわけです。アメリカの企業はパフォーマンスがよくなければすぐリストラに着手します。マレーシア、タイ、インド、インドネシア・・・、1997年から2000年にかけて東南アジア各地でリストラを行なっておりましたので、私自身は各国の労働法もよく知っています。

そしてそのあとは再びアメリカへ戻り、組織開発の仕事を任されるようになりました。当時、Delphiはグループ内に7つの傘下企業を持っていましたが、私はグループで唯一の外国人ディレクターでした。当時の私は自身の後継者にメキシコ人を採用したのですが、これはDelphiにとってカルチャーショックだったと思います。

その後2002年にはアジアに戻りました。当時のDelphiはAP地域の社員も6000名から1万1000名に増えておりました。毎年1社を増やすテンポで成長していたのです。我々はそのなかで東南アジア地域の工場を中国に移転させたりしていました。2002年から2004年にかけて、私はプロフェッショナル・マネジャーとして1日に16時間働いていました。業績の評価を行うときは「15時間の仕事を期待しています」とボスに言っていました。

そして2004年にGMへ戻り、再びAP地域の組織開発を担当するようになります。東南アジア、中国、韓国といった地域です。当時のGMは韓国のDaewoo(大宇自動車)を買収していたのですが、そこで私は韓国とアメリカの文化の違いも踏まえながら組織をコーディネートする役割を果たしました。オーストラリアでも同様です。オーストラリア人はオーストラリアの会社しか買わないと言われていますが、実際はそうでもありません。私はそこでOD(Organization Development)の仕事をしてきました。

ちなみにGMはタイにも新しい組み立て工場を持っていますが、これはGMのやり方をよく表していますね。つまり景気のいいときには投資を行い、不況のときには撤退するというものです。現在、GMはタイで10%のシェアを持っていますが、トヨタや日産といった長期的投資を行なってきた企業はGMより大きなシェアを獲得しています。アメリカ企業のやり方はやはり短期的ということだと思います。

私自身はその後、2006年に上海GMへ派遣されました。上海はGMにとって中国最大の自動車生産拠点でしたが、私はそこでコーディネーターを担当してます。当時はGMとSAIC(Shanghai Automotive Industry Corporation:上海汽車 GMと合弁会社上海GMを設立)とのあいだには大きなトラブルも生まれていました。GMが10名のディレクター候補者を上海へ派遣したのですが、中国側がそれを拒否したという出来事があったんです。それでパートナー関係が悪化したため、私はその関係改善に尽力していたというわけです。

外資から離れたのは2008年ですね。そこで入社したのはBeijing Capital Airlines(北京首都航空)ですが、こちらは5つの株主を持つ半官半民の企業と言えます。ですから私自身はそこで政府との関係を蜜にしていくための仕事も学ぶことができたと思っています。そしてそのあと家庭の事情で上海に戻り、現在のAshulandに入社しています。Ashlandは2008年、冒頭でご紹介した通りHerculesの買収を行っています。この買収には2年の歳月をかけました。以上が簡単な経歴紹介になります。

このように、私はさまざまな国で働いてきました。北米だけでもさまざまな場所で仕事をしております。オハイオのデイトン、ミシガンのデトロイト、アラバマのタスカルーサ・・・、アメリカの伝統的な南部文化が浸透しているところですね。さらにテキサスのエル・パソとメキシコのシウダー・フアレス・・・、こちらは双子の都市ですが全米で犯罪率が最も高い都市です。このほか、オンタリオ、カナダ、NYバッファローなどにもおりました。一方アジア太平洋地域でも、インド、インドシンガポール、韓国、中国、タイ、マレーシア、インドネシア等々の国で仕事をしておりました。日本でも豊田市で仕事をしたことがありました。

労組ではUAW(全米自動車労働組合)やIUE(全米通信労組)に所属していた経験があります。アメリカでも有名な労組で、ニュースでもとりあげられるようなストライキをやる組合です。当初、私はそこで中国のスパイだと思われてあまり歓迎されなかったので大変でしたが(笑)。いずれにせよそういったさまざまな経験を通じ、さらには中国の国有企業と企業共同体での仕事も経て、現在はグローバル企業で働いています。そんな私にもLiさんが先ほど仰っていたようなことはもっともだと感じています。

それらの経験を通じて私自身が重要であると学んだことを今からお話ししていきたいのですが、まずHRには国や文化に寄らない共通の原理原則があると私は考えています。これまで数多くの文化に触れてきた経験から言っても、「この文化が中国に相応しい」とか「この文化がアメリカに相応しい」といったものを超えた共通点があると思います。

まず、HRではその専門性がベースとして大変重要になると私は思っています。また信頼と尊重を勝ち取ることも同様に大切ですね。それは勝ち取るものであって与えられるものではありません。多くの人は部長ですとか上司といった階級によって信頼と尊重を得ることが出来ると考えているかもしれませんが、そういうわけではありません。さらに言えば野望、願望をもつこと。人は「成長したい」あるいは「参加したい」と願うものですし、その思いはやはり文化の違いに関わらず共通しているものだと思います。このほか・・・、これは皆さまも共感いただけると思いますが、やはり日系企業では上から下へ、上司から部下へという一方通行のコミュニケーションが多いですよね。しかし日本人社員もやはり下から上へのコミュニケーションを望んでいるのではないでしょうか。この考え方は文化の違いも反映しているように感じますが。

もちろん細かく言えば文化の違いを尊重すべき場面はあります。それぞれの地域に文化の違いがありますから、ローカルな文化は尊重しなければいけない。これは日本人の友達とコミュニケーションをするなかで感じたことですが、日系企業は中国に進出した際、日本でのやり方をそのまま中国社員に適用してしまう傾向があるような気がしております。これは問題がありますね。それに新しい環境、すなわちローカルな環境に適応することも成功に向けた鍵になると私は考えています。

そして最後に、他者に関心を持つこと。常に気を配りながら人間自身にフォーカスしていくこともまた、文化の違いに関わらず重要なことではないでしょうか。自由の国である筈のアメリカにおける労組といった矛盾したような文化のなかでも、中国のような革新的文化のなかでも、人間本位、あるいはヒューマン・フォーカスは常に不可欠な要素になると言えます。

リーダーを大至急養成すること、それが中国における最大の課題

では次に、多国籍企業が中国でいかにリーダーを育成していくべきか、あるいはどのようにして人材を募集していくべきかについてもお話をさせてください。

まずHR戦略とは、事業の成長サポートを本来の目的としています。ですからたとえばこれから3つの工場をつくるというのであれば、その3工場でそれぞれどんな人材が必要になるかということと、工場の成果とが密接に関連していくことを理解しなければなりません。実際に弊社では去年、南京に新工場を建設しました。ほぼ100億を投資したかなり大規模な工場でしたが、HR部門はこの工場を発展させられる人材を募集しなければいけなかったということです。

2つ目に重要なのはHR戦略がビジネスの方向性と一致していなけれないけないという点です。たとえばトップの考え方と違う考え方を持つ人材を募集してはいけません。そして3つ目は、先ほどLiさんも仰っていた通り、リーダーとしての特徴です。こちらは昨日Lu Wei先生が仰っていたリーダーシップにも通じるかと思います。

そして4つ目。こちらは皆さんともぜひ共有したいポイントですが、中国の国有企業や日系企業とは違うと思えることがあります。それは将来性のあるリーダーを早く見極めるということです。たとえば「何年経てば課長に昇進出来る」「何年経てば部長に昇進出来る」といったように、日系企業では年功序列があるためにリーダーになるまで一定の年数がありますが、中国ではこのスピードがとても速いと言えます。さまざまな国で働いた私の経験から言っても、やはり中国はここが大変速いと感じます。速いというより、もう飛ぶような勢いですね。ですから将来性のあるリーダーを早めに見つけ、育成しなければいけません。5年間待たなければ課長になれないというような状況ですと、5年後にその人材はLiさんのところへ行ってしまっているかもしれないのです。

5点目はリーダー育成をより的確に、より早く行なっていくこと。さきほどLiさんが仰っていたことと重なりますが、これは皆さまからすればカルチャーショックかもしれません。つまりスピードと質のバランスですね。人材の育成においてよくある問題ですが、私たちが人材を育成するのはその人のほかに適切な人がいないからです。これについて多くの中国人は仕方ないと言います。弊社は来年も2つの工場を立ちあげますが、現時点でそこでの仕事に相応しい成熟した人材がいない。だからこそ現在の人材を育成しなければいけない。そこで将来性のある人材をより早くより適切に成長させていく。

これは中国の民間企業だけでなくグローバル企業でも同じことです。中国には巨大な市場があり、しかもこれまでにないスピードで成長しています。ですから組織の発展は教科書にないスピードで進んでいく。だからこそ、たとえば前年比100〜150%増の成長率にどうやってHRが対応していくか。そこに教科書はない状況なんですね。このほか、HR戦略ではC&B(Compensation & Benefit)、福祉と給料に関する投資も大変重要になります。
では次に、リーダーシップ開発における成功要素として私が考えていることについても話をさせてください。

1つ目は戦略との一致です。戦略との関連なくして単独に存在するHRは失敗すると思います。Liさんのお話にもありましたが、やはりHR部門と事業サイドの緊密なマッチングは不可欠です。業務だけが前に進んでいてHRが遅れているような状況であれば、やはりHRは社内で最も嫌がられる部門になってしまいます。社員から文句や不満も出てきます。日進月歩とまでは言いませんが、転換の早さが大切な鍵になるのではないでしょうか。これは他の国では見られない状況ですね。

社員とのつながりも重要です。成長企業における煩雑なルーチンワークのなかにあっても社員とのつながりは保つこと。これは中国独特の環境ですが、80年代以降または90年代以降に生まれた第二世代の起業家と、それ以前に生まれた第一世代とでは仕事のパターンが違っています。第一世代は1日18〜19時間、ときには24時間勤務も厭いませんが、第二世代ではその状況がだいぶ変わってきています。ワーク・ライフ・バランスが異なる両者ですから、同じスタンダードを要求することはできません。

そして3つ目。外資系企業がはじめからそのようにするのは困難かもしれませんが、人材開発の成果を管理職の評価指標に加えべきであると私は考えています。そうでないと真面目に人材育成に取り組んでもらえないからです。そして、人材開発の成果を彼らの競争に反映させていくこと。管理職による人材抜擢を評価の基準にするということです。

さらに4つ目として、企業文化による管理へのシフトも重要になるでしょう。Liさんもおっしゃったように、人間による管理から法律あるいは文化による管理へとシフトしていくべきです。この点、外資系企業では多くのプロセスによってシステムが管理されますから、人間による管理をしていく必要がありません。

このほか、5つ目はトップマネジメントのサポートも欠かせません。外資系企業のHR管理では上司や上層部のサポートも充実していますが、中国の民間企業では創業者を説得することが大変です。「私のイスを奪うつもりなのか?」と誤解されるかもしれませんから。

そして最後、6つ目になりますが、やはりコミュニケーション、そして進行および進捗の管理が重要になります。人材育成においてコミュニケーションは欠かせません。特に中国ではこそこそ静かにやっていては駄目なんですね。大々的に鳴り物入りでやること。会社の看板にしなければいけません。ここは日系企業と違うのではないでしょうか。日系企業は控えめですから。中国では皆が大々的にやっていきます。これは他の会社に対して「あ、向こうはよくやっているな」という、単なる宣伝かもしれません。しかし実際のところ、日系企業はもっと宣伝を強化してもよいのではないかと私としては感じます。

募集時に人を惹きつける要素と、離職を防ぐ要素は異なる

ここで1つ、2009年に中国でも有名な調査会社であるMercerが発表したデータをご紹介したいと思います。これは皆さまの会社が直面している問題とも重なることではないかと思います。それは人材をつなぎとめ、惹きつける要素のベスト3です。Mercerの調査によると、入社前に注目される要素の1位は給料であり、2位は「企業の将来性」、そして3位は「やりがいがあり、革新的な仕事であること」という結果になりました。

ところが募集時に人材を惹きつける要素と、入社後に社内で人材を引き留める要素は別なんですね。社内に引き留める要素の1位は「今後に向けた発展の可能性」という調査結果が出ていました。入社後は給料が最優先ではなくなるのです。2位が給料。大事ではありますが、やや退きました。そして3位が「仕事と生活のバランス、そして組織文化」です。これは80年代および90年代生まれの人達にとってはとても重要な要素です。ただいずれにせよ、企業文化や自分自身のアイデンティティを保つこと。それが社員が勤勉に取り組むうえでも大きな原動力になるのです。中国の民間企業では残業などが今のところ多いため、ワーク・ライフ・バランスをとるのはなかなか難しいかもしれませんが。

続いて中国のリーダーシップに関する課題を見てみましょう。これは中国の特徴ですが、管理職の需要が旺盛です。中国の社員は若いときにいろいろな会社を経験しようとします。日本では課長になるまで10年を要しますが、中国では5年しかかからないかもしれない。CEOの平均年齢を見てみると、アメリカは50歳でヨーロッパは49歳ですが、中国は37歳です。これは大きな違いですよね。37歳のCEOが何歳の社員たちをまとめているのか・・・、皆さまも想像してみてください。このようなニーズが人材発展の加速化を促してきたということです。

だから現在、中国はジレンマに陥っています。管理力が不足しているんですね。たしかに昇進させたいけれど、それが早過ぎるということです。昇進したリーダーは経験不足であるために組織の中で質問をする勇気も持てませんし、学習する目標も持てない。たとえば30歳の管理職がいたとします。彼が働く会社では30歳でもベテランというケースであれば、これはもう勉強する対象としての人材がいないのです。日系企業には先輩と後輩というものがありますが、中国企業にそのような関係はありません。ですから勉強する相手がおらず、経験不足につながってしまう。そして経験不足によって離職してしまう。中国企業の離職率はインドとともに世界でもっとも高いのではないかと思います。どのような産業においても中国とインドの離職率は最も高い。これは中国の特徴であります。

離職率の高さは、会社へのロイヤリティの問題だけでなく内在的な原因も存在するでしょう。もしかしたらロイヤリティとは関係がないかもしれませんが、とにかくひとつのサイクルが間違いなく存在しています。たとえば早すぎる昇進を経て27歳でディレクターになり、もはや勉強する対象を見つけることができない人がいるとします。それに耐えられず、すぐに離職して別の会社で自己成長を求めていくのです。そんなサイクルによってトップリーダーの流動性が非常に高くなってしまっている、そんな現実が中国にはあります。

お時間があればAshlandの人材育成に関するプランなどについてもお話をしたかったのですが、時間の関係で省略させていただきたいと思います。ご清聴まことにありがとうございました(会場拍手)。

後編のパネルディスカッションは2012年1月31日に掲載の予定です。

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