グローバル企業の人事トップらが語る「中・欧米・日企業のリーダー輩出」(前編)
Ningyu Tang氏(以下、敬称略):Liさん、Chiangさんのプレゼンに対して皆さまから素晴らしい質問をいただきました。この時間は主なものを取り上げ、ディスカッションしていきたいと思います。まずは中国に進出した日本企業の経営モデルに学ぶべきところがあるかどうか?これについてはいかがでしょうか。
Junder Chiang氏(以下、敬称略):Delphi在籍時、矢崎総業、住友電気工業、そして横浜ゴムなど、様々な企業との取引がありました。そのなかで私が感じたことは、中国企業だけでなくグローバル企業も日本企業のリーンマネジメント、サプライチェーンマネジメント、そして品質を追求する態度や姿勢を学ぶべきであるという点です。自動車産業やエレクトロニクス産業といった製造業にはそれがよく表れています。日系企業によるリーンプロダクション品質管理システムについては、短期的に見ても学ぶべきところが多いと思います。
Chun Li氏(以下、敬称略):Goodbabyは、日本、ヨーロッパ、そして北米に製品を輸出していて、工場には日本市場向け生産ラインがあります。そのラインでは日本人社員に品質管理を担当してもらっています。このラインを通じて品質に対する要求が大変高い日本市場向け製品を作るとともに、ほかの生産ラインにもその技術を導入して品質向上を促しています。ちなみに弊社は1万4000人の工員を抱えています。そして、日本向け生産ラインは「和風ライン」と名づけています(会場笑)。
Tang:私からも1つお話します。「日本企業から何を学ぶべきなのか」という点について数十年前、日本のある学者が研究を行っていました。当時の日本企業は国際化およびグローバル化を進めていた頃でしたし、そのような研究はアメリカでも注目されていました。皆さんもご存じかと思いますが、アメリカの3大自動車メーカーはある時期まで非常に高いパフォーマンスを示していましたが、1980年代にトヨタやホンダがアメリカに進出すると大きな試練に直面しました。
だからアメリカ企業は日本企業を必死になって勉強した。そこで分かってきたことがChiangさんが仰っていた品質管理やリーンマネージメントです。チームマネジメント、つまりチームワークが重要視されているモデルであったこともポイントです。そこには日本的な企業文化もありました。それは長期的なコミットメントに基づいた文化であり、アメリカ企業に足りない部分でした。
そこで80年代以降、アメリカ企業はチームワークの研修にも力を入れてきました。アメリカは元々個人主義の国でしたが、日本企業からチームワークを学んだのです。例えばWilliam Ouchi博士は『セオリーZ』(Z理論)という著作を発表し、アメリカ企業と日本企業の中間にあるモデルを求めました。
私たちもアメリカと日本が持つそれぞれの長所を採り入れたモデルを作りたいと思っています。中国企業は“集団”と言っていますが、多くの中国人が集まると1匹の虫になります。集団にはいろいろな形があるかと思いますが、この集団の文化をチームワークへどのように採り入れるのか。ここは中国企業も日本に学ぶべきであると思います。もちろん前のセッションでChiangさんが仰っていた持続的カイゼンの精神なども勉強すべき点です。
中国流、米国流、日本流。さまざまなマネジメントスタイルをいかに自社に適用するか
Li:アメリカの会社でキャリアをスタートさせた私ですが、中国企業ではボスから「アメリカのスタイルは中国企業にふさわしくない」と言われました。アメリカ企業のスタイルが人材の流動性を促しているからという指摘です。ですから日本企業と同じように社員のロイヤリティを高めるよう指示を受けました。ここはアメリカ企業がうまくいっていないところですね。中国企業も同様です。Chiangさんも先ほど仰っていたことですが、離職率が高過ぎるという問題がある。この点については私も研究不足なのですが、なぜ日本人社員のロイヤリティがこれほど高いのか。中国企業としてどのようなところを参考にすべきなのでしょうか。
Tang:「なぜ日本企業の社員のロイヤリティがこれほど高いのか」というご質問をいただきました。会場の皆さま、いかがでしょうか。
会場:ロイヤルティは終身雇用から来ていると思います。会社での時間は人生の中の重要な部分を占めるので、ただ生活のために働くのではなくて、そこで自分自身を成長させるとか、(会社に対しても)ただ利益を上げるだけの存在ではなく、社会的な意義をもたらすことを求める気持ちが、日本人には強いと思います。今の日本企業ではそれもだいぶ崩れてきてはいますが、根底に企業というものに対する考え方が、欧米と中国とではかなり違うと思います。そこに関して私からも質問させていただきたい点があります。技術のある会社をM&Aで買って拡張していくというアプローチが中国企業のイメージとしてありますが、買収された側の従業員、有能な技術者をどのように管理しているのでしょうか。そこでHR面の問題は発生しないのでしょうか。昨今は技術者に限らずスペシャリストが中国系の企業に嫌気をさして転職していくトレンドもあるように思いますので。
Chiang:(日本語で)難しいですね(会場笑)。私は17〜18年間にわたるHRのキャリアのなかで9回のM&Aを経験しておりますが、すべて大変でした。M&Aは企業行動ですが、HRの視点で考えると非常に難しい仕事です。最近では2008年にM&Aを2年ががりで行いましたが、この時は親会社の従業員数が800人だったのに対し、買収された側の企業は1000人もいたのです。
M&Aにあたっては職階や給与、あるいは福利厚生といったHR制度を統合しなければなりません。我々にとってはそれが非常に大きなチャレンジです。日本企業と異なり、買収後はそれぞれの会社にあったポストも1つに統合されます。同じ職階なら2人の財務部長は1人になり、2人の人事部長は1人になります。これは非常に悩ましいことです。モラルに対して大きな影響を及ぼすからです。1つのM&Aは1つの傷になる。M&Aで重要なのは表面的な技術や市場あるいは顧客を取得する一方で、そういった傷をいかに癒すかというアプローチでもあります。
弊社では、仕事の量が増える、顧客数が増える、ボーナスが増える・・・、そういったメリットを社員に提示しています。しかしそれでもM&AのプロセスはHRにとって大きなチャレンジであり、大変な仕事と言えますね。財源に関わることでありますので。この点、アメリカ企業は結果主義であり、リストラすれば儲かるという認識を持っています。これは日本企業との大きな違いです。私としては、リストラするときにはまず尊重、次に尊敬、そして社員の次のキャリアを考えることが大事だと思っています。
Tang: 2つ目のご質問について補足します。M&Aを通じた技術取得はグローバル化を進める中国企業が採用する1つの方法です。M&Aを通じて迅速に相手の技術を取得していくのです。しかし、これを唯一の動機づけとすると問題が発生するかもしれません。相手もなかなか技術を提供したくないときはありますから、そこで衝突になる。中国もそれで傷を負ったことがあります。Shanghai Automotive Industry Corporation(上海汽車)が韓国Sang Yong Motor Company(双竜自動車)の技術をM&Aで手に入れようとしたときも韓国側の抵抗に遭って合意に至らず、結局は失敗してしまったことがあります。この点について、現在は中国企業もよく考えるようになりました。
別の視点から見ますとChiangさんが仰った通り、M&A後の管理も重要になります。これは時間がかかりますね。面白い事例があります。2004年にLenovoがIBMのPC部門を買収したのですが、この後Lenovoは様々な困難に遭遇しています。IBMの社員が辞めていってしまったのです。賃金システムなどの点でLenovoとIBMに大きな差があったためです。Lenovoはそこでコンサルティング会社に統合を依頼しました。その会社は3年間をかけて給与システムを統合していくことになります。そしてM&Aから7年が経った今年、同社の創立者であるLiu Chuanzhi(柳伝志)さんは引退しました。2004年、会社が困難に陥ったときにCEOとなった彼は今年引退し、Yang Yuanqing(楊元慶)さんにバトンタッチしました。この道程は平坦なものではありませんでした。
ではどうして失敗するのでしょうか。中国企業は資本を持っていますが、それで技術を買おうとすると相手に嫌われてしまいます。ですから平等な姿勢で相手と付き合わなければいけない。統合には時間も労力もかかります。M&Aの前には冷静に物事を考えなければいけないということです。
もう1つの事例をご紹介します。民間企業であるGeely Automobile(吉利汽車)がVolvo Carを買収したケースです。Geelyは小さな自動車メーカーであり、生産していたのはローエンドの車でした。当時、CEOのLi Shufu(李書福)さんは「VolvoはVolvo、GeelyはGeely」と言っています。Volvoは自分の力で自分を救うことができると言っていたんですね。実際、昨年Volvoの経営は良い方向に転じました。昨年12月に戦略共同委員会を設置するとLiさんが提案したんですね。
その委員会メンバーはVolvoから半分、Geelyから半分ずつ集められたもので、Liさんはそこで委員長を務めました。その中でM&Aを議論していった。Liさんは「Volvoは中国市場の発展に適応していかなければならない」と言っています。スピードが重要であるということです。北欧ではスピードを求めておりませんが、中国市場に入るのならばスピードを求めなければチャンスを掴み損ねてしまいます。そこで9カ月後、M&Aの話が議題になってきました。
会場:そのときのコンサルタント会社はどの国の企業だったのでしょうか。
Tang:アメリカの会社です。
会場:ということは、アメリカ流のM&Aマネジメントにしたということですね。
Tang:はい。非常に良い質問をいただきましてありがとうございます。先ほど上海交通大学のMBA学生から「M&Aを通じて中国企業はアメリカのやり方をさせられたのか、それとも自らアメリカのやり方を勉強したのか。国際化させられたのか、国際化したのか」という質問がありましたが、それとも通じていると思います。私も商学院で授業をやっていますが、ほとんどの場合、アメリカの理論を学生たちに紹介しています。
なぜかというと、20世紀にマネジメント理論を最も多く作り出したのがアメリカだったからです。ただし現在では「アメリカのやり方が本当にベストなのか」という反省もしています。先ほども事業の評価ツールについて触れましたが、中国は90年代後半から欧米のバランスシートやKPI(Key Performance Indicator)といったものを受け入れていきました。それまで使わなかったものです。少しずつアメリカ化されていたのです。もちろん中国も他者の長所を採り入れることはできますが根底には中国のやり方を据えており、欧米の理論は1つのツールとして利用しているという形です。
中国の現代企業は80年代の改革開放以降、成長プロセスのなかで自分なりの道、自分に相応しい道を探してきました。ですから考え方については中国的なのですが、具体的なツールなどはアメリカに近いと言わざるを得ないでしょう。ただ、それを具体的に実施する段階で中国人の情とも言える部分が入っているのかもしれません。
例えば人事評価でも中国はいわゆる「ワーストワン淘汰」、つまり下位10%を切るという制度を導入していると言われます。ところが中国では本当に切るには到りません。10%の人にも「10%として切られますよ」という警告を出した後、実際には切らない。切ったとしても10%も切らない。IBMとLenovoの件でも同様です。
情報が多すぎる場合は「何が自分にとって良いのか」を考えることが重要です。自分に良いものはとりあえず持ってくる。そこから少しずつ消化し、改善していくというやり方です。
会場:日本企業ですとレナウンや三洋電機の白物家電事業が買収されました。最後は三越もと言われています。今、私が着ている服はレナウンなので中国製ということになりますね。そんなふうにして中国資本の会社がどんどん進出してきておりますが、彼らはどのような経営をするのでしょうか、あるいはどういった人材を採用するのでしょうか。
Chiang:そこはLiさんのグローバル化に関する考え方が参考になると思います。中国のグローバル化には2つあります。1つはChina Mobile Communications(中国移動通信)、China Petrochemical Corporation(中国石油化工集団公司)など、国が後押しする企業が世界各国で経済的影響力を持つパターンです。もう一つは、自身で出ていくもの。Huawei Technologies(華為技術)もアフリカなどにすでに投資しており市場に浸透しています。自動車産業もそうですね。中東、イランや南米でNo.1シェアを獲得している企業があります。Goodbabyもその1つです。
Li:Goodbabyの戦略は、ローカルの人材に消費者の習慣を研究させて、ローカルの人に好かれるやり方でマネジメントするというものです。北米の場合はアメリカ人が担当します。アメリカ人にアメリカ人の考え方を研究してもらうわけです。アメリカ人が一番良いと思うやり方でアメリカの消費者に商品を受け入れてもらう。アメリカ、日本、ヨーロッパ・・・、各地を任されているのは、皆、現地の人材です。
そうすることで2つのメリットを得ることができます。1つ目は人材を惹きつけるというメリット。中国のやり方でそのままやろうとしても、例えば日本では絶対に嫌われます。「中国のやり方で良いのか。これまで日本企業で普通にやってきていたのになぜ中国企業に合わせなければいけないのか」と言われます。人材を惹きつけるのは、ローカル人材が自分のやり方を新しい職場でも通すことができるからです。
私たちは自身のやり方を通す起業家精神を持った人材を求めていますから、市場をリードしたいという人材が数多く集まります。我の強い人が来るわけです。「私はルールなどに縛られたくない」といった起業家精神や強いパッションを持っている人々が集まってきます。
そして2つ目ですが、私たちはそもそも北米や日本、あるいはヨーロッパ市場についてあまり知りません。ですから時間をかけて市場を知っていかなければならない。そこで戦略的に考えると、少なくとも初期はローカル人材を活用しなければいけません。それによって現地の市場、あるいはローカルで有効なプロセスを勉強する時間を稼ぐことができる。全体の戦略としてそのようなことになっています。
ベストプラクティスでは足りない。ベストフィットしなければならない
Tang:ありがとうございます。それでは他のご質問に関しても進めてみましょう。先ほど、日本企業、中国企業、そして欧米企業におけるそれぞれのモデルについて、あるいはその3者における相互学習やM&Aのチャレンジに関するご質問をいただきました。人材管理方法の違いについても併せてご質問いただきました。こちらはいかがでしょうか。
Chiang:3者で採用される管理モデルの差に関するご質問かと思いますが、私としてはどういったモデルが自分たちの企業にフィットするのかをまず理解することが重要になると考えています。単に「このモデルは日本のもの」とか「そのモデルはアメリカのもの」と決めてしまうような簡単な分類は行いません。そうすると企業内部に派閥が生じてしまうためです。一番良いのは、現在、具体的にどのやり方が役立つのか、そしてどういった考え方が会社の長期的戦略に合うかという判断をすることだと思っています。
一例をご紹介します。日本の現場管理、具体的には可視化あるいは見える化の管理は生産ラインの現場に大変効果的であると思います。アメリカの企業はこの点があまり良くない。アメリカ企業の強みは統計を作ることです。私自身も副社長として会社の事務を管理しています。私のレストランでも可視化の管理をしています。どういうことかというと、大きなホワイトボードを置いて食べた皆さんの意見を書いてもらいます。それに対するレストラン側の回答もホワイトボードに書きます。サービスを受ける人に、その実行あるいは改善の状況を知ってもらうというものです。これは日本の知恵だと思います。
こういうやり方はアメリカでは通用しませんが、アメリカにはアメリカなりの良いところもあります。たとえばイノベーションを奨励するシステムです。アメリカ企業では社員自らイノベーションに向けた意見を出すことが強く奨励されています。そのためにボーナスも出すし、表彰制度も作る。そういった部分は中国企業や日系企業でそれほどピックアップされていません。個人ではなくチームの成果が強調されていますから。
日系企業もそうだと思いますが、中国企業にもやはり年功序列的な部分があります。しかし、年功序列は社員の能動性発揮とイノベーション奨励にとって壁となっています。ですからこの点において、私は欧米企業に学ぶことを好みます。幹部社員と一般社員のギャップを縮める。誰でも自分の意見を出すことができるようにする。この点では中国企業にも弱みがあります。ただし中国人は反省もできますから、社員に年功序列だけではいけませんよと教えています。
具体的な事例として、たとえば欧米企業はオープンなオフィスの配置を導入しています。ハイレベル社員は皆オープンなオフィスで仕事をしています。閉鎖されたオフィスというものはない。一部の日系企業や中国企業ではオフィスの大きさが職階と直結しています。これは先ほどLiさんが仰っていたような年功序列的要素ですが、若い社員はそういった状況に抵抗があると思います。
Tang:もう少しお話を続けてみたいと思います。ここまでいくつか実例をご紹介いただきましたし、中国企業にとって良い方法があれば採り入れるということですが、ここで理論的にはぶつかりが生まれてきます。
例えば2つのモデルがあるとします。そのうちの1つはベストプラクティスであり普遍性を持つ最も良いやり方であると。どの国でも使われる共通点かもしれません。しかし一部の学者は「ベストプラクティスだけでは足りない」と言う。「ベストフィットしなければならない」と。つまりマッチング、自分に最も合うものを探すべきであるということです。ですから中国企業では、その2つを両立、折衷できるものが求められています。最も自分に合い、そして最も良いやり方を探しているということです。この場合、何が良いのか分からないので時間はかかります。やはり模索していくなかで発展するということだと思います。ここまで、モデルの比較についてコメントしてきましたが、他にはいかがでしょうか。
会場:CEOの年齢が37歳、というお話がありましたが、「37歳問題」についてお伺いしたいと思います。この問題はお話いただいたコンテクストにどう関わってくるのでしょうか。
Li:もちろん企業規模にも関係しますが30代でCEOになるのはやむを得ない選択肢であると考えています。他の選択肢がないのです。創業しかできない。
Tang:中国ではここ数年、民間企業がものすごい速さで発展してきました。中小企業は中国全企業の大多数を占めています。ですから現在は人材が不足しているのです。このような企業ではCEOの年齢も若年化していくと思います。企業規模はそれほど大きくないのですが、CEOの若年化というものは確かに表れてきていると思います。
一方、もう少し大きな民間企業ではこの10年間、転換期にありました。第2世代へのバトンタッチです。こういう民間企業はやはり自分の子どもに受け継がせています。跡継ぎの子どもは若いので、そういった民間企業のCEOは若い。ただし、これからの10年間でそういったCEOたちは安定して年齢と経験を重ねていくのではないかと思っています。
中国の国有企業、大企業のCEOはそれほど若くありません。副局長級の幹部に昇格していくのはだいたい40代になると思います。ですからこういった人々は、やはり大企業と国有企業のCEOになっていくと思います。中国企業のCEOは行政の局長級あるいは所長級ですから、所長や局長に昇格するのはだいたい40代だと思います。また、大きな国有企業のCEOは副大臣級になり、おそらく50代になると思います。
Li:面白い分析があります。当社はさまざまなビジネスユニットを持っていますグループのCEOは歳をとっていますが、ビジネスユニットのCEOは若年化しています。すると意志決定のスピードが速くなり、冒険的なCEOが登場してきたのです。このような若者たちは現時点で中国の国情に合っていると思います。もっとも、国情はこれから変わっていくかもしれません。たとえば高い品質を求める方向などへの変化です。ただし現段階では企業の規模が小さいので意思決定の速さが求められます。チャンスを捕まえるスピードが求められているのです。
Chiang:私からも1点補足があります。中国の現状を示したあるレポートを見たことがあるのですが、これはもうインスタントヌードルと同じなんです。とにかく速く作り出し、速く追いつこうと。そして限られた資源で限られた人材を求めています。ですから中国の人材価格は高騰しています。市場でも競争相手がどんどん増えてきており、皆が利益を追いかけています。もしその利益を上げられないと競合他社が殺到してきて利益を奪っていくからです。ですから迅速に市場に入り、迅速に利益を取得する。このような短期的考え方です。これは変わるかもしれませんが、現状では目先の利益しか見ていない。私としては数年後の転換を期待しております。
会場:中国のCEOの方が働き続ける動機は、お金なのか、短期的な成功なのでしょうか。昨日のTAO教授のお話で、数千万の給料をもらっている人が一部にいるということでしたが、そういう中で、どういうことを普段から意識しているのかをお聞かせください。
Li:もちろん人によってそれぞれ異なると思いますが、たとえば私のボスについて言うなら、彼は夢のために生きている人間であります。世界で自社ブランドを乳児用品メーカーの代名詞にしようというのが彼の夢です。彼は現在62〜63歳でお金もたくさん持っています。そんな彼がまだ一生懸命働いているのは夢のためです。これはおそらく達成感や成就感から来るものでしょう。成果に誇りを持っているのです。また、それによって数多くの人から尊敬されてもいます。たとえば江蘇省地域で私のボスはモデル経営者となっています。外国の元首や政府要人が訪問するときにはGoodbabyへ見学に来ます。そういったことに誇りを持っているというのが大きな背景としてあるのだと思っています。これは第1世代の起業家が持っている夢です。
その一方で、商人的な考え方をする人もいます。お金のために働き、常にリターンを求めていく。結局、何のために働くのかは人によって違うので一概には言えません。共通している願いは自分の企業を強く、大きくさせていくことではないかと思っていますが。
Tang:私もお2人の意見に賛同します。私は以前、上海で国有企業の総経理と副総経理を対象に仕事の動機を調査したことがあります。すると1位は「成果」、2位は「やりがいのある仕事」、そして3位は「ボスからの指示」という結果でした。3位はボスからの指示でこの仕事が面白く感じているという意味です。これは国有企業を対象にしたものですが、民間企業を対象に調査をしてみると成功している企業の経営者はやはり夢や理想を持っておりました。これは生まれ育った時代との関係が非常に大きいと思います。1950〜60年代生まれの方々は共産党の教育を受けていますので。
たとえばLenovoの例ですが、IBMのPC部門を買収したLiu Chuanzhiさんはある野望を持っていました。それは中国企業を世界市場で生き残る企業にするという夢です。また、Lenovoというブランドの認知を高めていくという夢も持っていました。だからこそIBMのPC部門買収というアプローチを取ったわけですね。HaierのCEOであるZhang Ruimin(張瑞敏)さんも強い文化を持っています。それは「精忠報国」という四文字です。宋の時代に生きた岳飛という民族英雄の背中に精忠報国の四文字が刻まれていました。成功してお金も持っている企業の動機づけというのは、やはり夢なんです。Zhangさんは現在もHaierのCEOを務めております。
ひとことに中国と言っても極めて濃厚な地域性がある
さて、ではここで別の視点から再度議論を深めていきたいのですが、先ほどクロスカルチャーのお話がありましたね。中国自身も国土が広く人口が多い国です。今日のご質問には「企業のあいだにはどのような差があるか」というものもありましたが、中国では地域による違いも大きいかと思います。この点についてはいかがでしょうか。
Chiang:私はこれまでに、北は長春、南は広州、西は成都、東は上海・・・、様々な地域で仕事をしてきました。ですから私自身が経験した労使紛争を例にとってご説明してみたいと思います。例えば従業員による訴訟が起きたとき、広州では仲裁を通じて解決していきます。上海では2002年のリストラが新聞報道にもなりました。幸いにして暴力は発生しませんでしたが、社員は会社の前で横になって反対をしました。長春ですと暴力行動が発生するかもしれません。トヨタの天津工場で私はHRの方とお話をしたこともありますが、南北の違いはかなり大きいと思います。
Li:私も地域の差をご紹介したいと思います。たとえば弊社では上海人の社員が嫌がられてしまいます。その理由が地域による特徴なんですね。上海出身の方は比較的、苦労を嫌います。また、細かく計算します。計算高い(笑)。そして3番目として賢過ぎるために何かが起きると、それをうまく他人のせいにしてしまうのです。
もちろん上海人にも良いところはあります。彼らは穏やかでルールを守ります。そして約束したことについては有言実行を貫く。これに対して北京の人は口がうまい。美しいビジョンを語りますが実行しません(会場笑)。たとえば契約の時、上海人は詳しく読みますし、いろいろと質問もします。そこできちんとした答えをもらえなけえばサインをしない。しかし北京の人は契約書を渡しさえすれば読まずにすぐサインしてしまいます。しかし何かあると勝手に辞めてしまう。そういったことが実際に中国で経験した地域ごとの違いです。
そして北方の人は強い。気性が激しく、何かがあるとすぐ喧嘩になります。暴力的になりますね(会場笑)。南の人は比較的穏やかです。浙江省や上海の南である広東省、福建省の人はビジネスがうまい。ですから、事業部を管理して貰います。どのようなモデルにすれば良いか、どのようなモデルにすればお金を稼ぐことができるのか、上海人にはそういったことを考えてもらうと良い結果が出やすいかもしれません。プロセスを細かく定着させていきたいなら上海人に任せるのが良いでしょう。
そんな風に中国では地域ごとの特徴がありますのでそれを理解したうえで、企業はどの特定の時期に、どこの人を使えば良いかを考えなければなりません。
Tang:同じ企業内でも社員は異なる地域から特徴を持って集まってくるので、それぞれに異なる対応をする必要があるかもしれません。
このほか中国企業のあいだで存在する違いには、所有性も関係していると思います。つまり国有企業なのか、外資なのか。外資のなかでもさらに独資企業と合併企業では違っています。もちろん民間企業も違います。その中でも私たちがエスタブリッシュと呼んでいる成熟企業はあるし、成長したばかりの企業もあります。
HR管理のモデルもそれぞれの企業で非常に大きな違いがあると思います。簡単な例では報酬の部分。賃金が違いますね。同じHR管理者でも欧米の独資企業が最も高い。次に合併企業ですが、現在はその合併企業にパフォーマンスの良い一部の民間企業や国有企業が近づいてきたという状態です。創業間もない企業では比較的低い。一方、国有企業を見てみると給料は少ないかもしれませんが、福利厚生が充実しているかもしれません。たとえば祝祭日になると何かもらえたりですとか、そういったものがあります。
外資系企業のHR管理ならばボーナスは年に1度だけでなく、たとえば年末にも1〜2カ月分出るかもしれません、しかしほとんどの国有企業では管理者にしても営業にしても半年や1年に一度のボーナスになります。しかもそれは給料で計算するのではなく、いろいろな評価とともに複雑な計算を経て算出されます。そういう違いもあると思います。ですから地域という要素以外に所有性も見なければならないと、私としては考えています。
Li:私としては人材が多様化したチームの管理という点では、グローバル企業で学んだことが適用できると思います。大切なのはそのチームの中で「あなたは上海の考え方だ」とか「北京の考え方だ」だとか「河南省の考え方」だとか、そんなふうに強調しないこと。強調すべきは目的が何か、どの方法が一番良いのかです。この点はグローバル企業と同じですね。アメリカ人、日本人、中国人と強調するのではなくて、やり方を強調する。ですから「これはどこどこのやり方だ」という言い方すらできません。それをやると派閥の闘争が永遠に続いてしまいます。
Tang:これはやはりコミュニケーションのコーチングにもある「自分の立場を忘れてください」という考え方と同じですね。私たちは共通点を見出さなければいけません。ですから最終的な企業の目標を持って異なる地域から来た人々を結束させていく。Liさんが仰っていたことはそのようにまとめることができるのではないかと思います。
ではここまでの流れで、ご質問にありました日本、欧米、中国企業の差について、そして互いに勉強すべきところについて、そして中国企業のリーダーにとって何か良いことがあるかについてお話しできたと思います。
中国企業における重要課題の一つに離職率
今度はHR部門で働く人に関わる問いを見てみましょう。まずHR部門というと、離職率の問題について考えることが多いかと思います。中国では離職率が比較的高い。データを見てみますとここ数年、上海の平均離職率は16〜17%。比較的高い水準ですね。これは業界によって異なります。自動車製造業は低い水準です。この2〜3年間、7%前後でした。IT産業は平均より高く、およそ30%にもなります。そうなると中国の離職率は高いと思われがちですが、HR部門で働く人もどんどん離職しているのです。そういう離職を通してキャリアを築いていく。それについてはいかがでしょうか。
Chiang:私はGMに14年間在籍しておりました。GMを離れたのは、もう破綻寸前だったからです。まず私はHRは中国に大きな市場があると思っています。中国の離職率を日本の水準に押さえるのは不可能でしょう。中国に長くいるうちに、やはりシステムによって離職を管理しなければならないと感じるようになりました。私としては、まあ16%という数字はそれほど高くないと思っています。メキシコにいた頃は毎月14%の離職がありました。最初の1年間でほぼ全員が入れ替わるというぐらいでしたから(笑)。主な離職原因としては他社の給料が良いというものです。
ここでHRにできることは、まず情報を伝えること。今はキャリアが重要視されています。いわば会社へのロイヤルティではなく、社会的なロイヤルティですね。社員は企業ではなく仕事に忠誠心を持ちます。日本の場合は会社に忠誠心を持ちます。その点で中国人と日本人の価値観は違っています。キャリアを通してそれぞれの仕事が変わり、プロジェクトが変わる。「このプロジェクトがこの会社で手がけられるなら在籍します」となります。できなければ転職するという考え方です。
Li:私自身を例にします。大学を卒業して最初の仕事は5〜6年続けました。しかしその後の仕事はいずれも3年半で辞めています。そして現在の中国企業で就いている仕事はすでに6年半続けていますが、これが一番長いキャリアです。
最初の仕事は私にとって勉強のチャンスでした。次の仕事を3年半で辞めた理由は、会社自身の変化も大きかったと思います。買収されたり、売却されたり、合併されたり、あるいはトップが変わったり・・・、アメリカの会社は変わりやすい。それが1つの要因です。そして2つ目の理由は、中国ではチャンスが多いということです。選択肢が多い、あるいは誘惑が多いと言っても良いかと思います。転職で給料が上がったことは事実です。
そして現在の中国企業に6年半在籍しているのは、まず中国企業での仕事は挑戦が大きいからです。これは人によって違うとは思いますが。異なる時期に異なる挑戦が生まれてきます。そういう時に私の働く意欲、パッションが煽られるんですね。ですから私としては、情熱的な人材を適切な時期に適切なポジジョンに置き、エキサイトしながら仕事をしてもらえたら良い結果が出ると考えています。2つ目はボスです。社長は私に優しかった。体調が悪かったりすれば相談に乗ってくれますし、辞めようとすると一生懸命引き留めます。辞めようと思った時、社長が私の両親まで呼んで一緒に食事をとって引き留めようとしたんです。その日は帰宅後に両親からお説教をされました(会場笑)。「あんなに良いボスなのにどうして辞めるなどと言うのか」と(笑)。
これがアメリカの会社ではどうだったかというと「辞めます」と言えば「辞めないで」と1回目は言ってきました。2回目も引き留めてきます。しかし3回目には「もういいです、辞めて下さい」と。これが起業家になると違います。起業家は誰かのことを良いと思ったらもう必死になって、どんな手を使ってでも引き留めてきます。実際、私もそういうことがあって退職を踏みとどまりました。
Chiang:Liさんのご指摘はとても重要ですね。欧米企業のトップはやはりプロフェッショナル・マネジャーに近い。そこでは絆というか、緊密な繋がり、あるいは感情的なものがあまりありません。中国の民間企業でも社員は入社時こそ「ボスのために入ったのではない」と言いますが、離職するときはやはりボスと関わりが生まれてきます。ですからLiさんのお話にはまったく同感です。
外資系企業と合併企業では、民間企業にあるような精神的絆が比較的少ないように思います。「行くつもりなら行きなさい」という関係です。私はGMに14年間いましたが、退職時は「ああそうですか。じゃあ行きなさい」と言われました。
Tang:これも中国的な考え方ですが、中国人は人を引き留める時に3つの方法を駆使します。感情で引き留める、仕事で引き留める、そして待遇で引き留める。これは90年代初頭、外資系企業が進出してきたばかりの頃によくありました。待遇面では外資系企業に及びませんから感情や仕事の将来性が使われていたのです。ただ、そんな中国も変わりつつあります。私が思うところでは一部の欧米企業は中国企業のようなやり方、つまり情と仕事の可能性で引き留めるようになってきました。それに加えて待遇が良ければ社員は安定して仕事を続けるというわけです。
例えばIntelは、中国ではその面でうまく振舞っていると思います。社員への魅力ですね。Intelもトラブルはありました。2年前のことですが、上海にあった工場を内陸の成都へ移すとき、ほとんどの社員は家庭を上海で持っているので行きたくなかった。デモが起こりましたが、工場前で静かに立っているだけでした。引越しに反対していただけだったのです。私が思うに、これは互いにとって勉強になったと思います。
会場:ロイヤルティよりもキャリア、そして会社よりも仕事という価値観、優先順位というお話を伺いましたが、その一方で今中国では、管理方法が人から法律へ、そして企業文化にシフトしているというお話もありました。ただ、ロイヤルティよりもキャリア、仕事へ過度に優先順位を置くことになると、企業文化(への共感を醸成すること)による管理と全く相容れないものになってしまうような気がします。文化は企業に根付くものであると私は思っていて、現在、日本企業もその再確認に入っているところが多いように思えます。その点についてはどのようにお考えですか?
Chiang:すべての企業は文化によって収める方向に進んでいると思います。ロイヤルティを比較してみると、中国国有企業の離職率は非常に低い。いくつかの例があります。1つは終身雇用制に近い制度をとっていることです。また、研修教育などの人材育成が重要視されていますし、会社内に病院や幼稚園まであります。例えばShanghai Automotive Industry Corporation(上海汽車工業)やFirst Automobile Works(第一汽車)も同様ですが、離職率は極めて低い状態です。
離職率が高いのはほとんど外資系企業です。会社へのロイヤルティがあまり高くありませんし、Liさんが仰った通り、中国にはほかにもチャンスがたくさんありますので。そこで中国の新興産業であるヘッドハンティングが盛んになるわけです。たとえばプロフェッショナル・マネージャーとしてのヘッドハンティングを1日10社からいただいたりします。もし中国で会社を辞めたらすぐヘッドハンティング会社に連絡します。
これはグローバル企業が抱えている問題です。先ほど日系企業ではロイヤルティが非常に高いと伺いました。忘年会やコンパもよく行われています。日本企業では仕事と生活が一緒になっているのです。多国籍企業では仕事と生活が分かれています。ですからそこで選択が必要になります。先ほどLiさんが仰った通り、仕事と生活についてです。ボスがご両親まで食事にお誘いになったとのことですが、そのように仕事と生活が一緒になることで離職率が低くなるのではないかと思います。
リストラに反映される経営の価値観
Tang:HRMに関する2つ目のご質問についてはいかがでしょう。中国における人事部の職責、あるいは役割についてご紹介いただけますでしょうか。
Li:私の経験ではアメリカのHR部門は中国のそれと若干違うように思います。当初はこの方法が正しいのかどうか分かりませんでしたが、実践を通して良い方法だと判断していました。ただ、職責には共通点があります。私はこれを4つに分けています。
HR管理による会社への貢献を4つの視点から見ると、まずHRが組織の発展に応えられるかどうか。2つ目は組織の中で従業員が高効率でかつ楽しく仕事をすることができているかどうか。これは文化的環境を意味しています。3つ目は、組織の中で管理者が適切なツールを持っているかどうか。これはつまりKPI(Key Performance Indicator)システムや評価システムといったツールが不可欠ということです。4つ目は、組織の中で人事問題に耳を傾ける人がいるかどうか、有効なアドバイスをしてくれる人がいるかという点です。これらはいかなる組織でもHRMの基本条件です。もちろん時期が異なればニーズも異なります。
かつて、中国企業における人事部はいわゆる「組織部」のような役割を果たしていました。リーダーの選抜と、警察的な役割ですね。誰かがルール違反をしていないか、ルール違反をした場合はどのように処分するか。そういった役割を担っていました。これはボスが要求していたことでもあります。伝統的な要素もあったでしょう。管理システムが整っていないからこそ警察の役割を果たしてもらわなければならなかったという事情もあったと思います。だから人事部門は嫌われるのです。そこで私はGoodbabyでHRのシステムを顧客志向に転換していきました。そうなると現場の業務を勉強しなければならなくなる。そのような変化を通じて人事部の人間は嫌われる存在ではなくなったのです。
Chiang:意思決定のプロセスに参画する役割も果たしていると思います。例えばM&Aやリスクアセスメントといった仕事です。私はGM時代、韓国でDaewoo Motor(大宇自動車)のM&Aに当たりました。そこで様々なアセスメントを行い、意思決定のプロセスに参加しました。また、新工場の立ち上げでは立地の選択にも参画しました。南京にするのか、昆山にするのか。これはHR部門が担当していました。工場閉鎖の際にはHR部門も参加してリスクアセスメントもしました。ある時広州の工場を閉鎖しようということになったのですが、HR部門では工場弊社によるリスクを評価してその結果を上層部に提出しました。すると該当工場は閉鎖されず、別の機能を持った加工工場に変わったということがあります。これはHR部門が果たした成果でした。
Tang:ご質問に関して、Liさんからは中国における従来の人事部門と現在のHR管理部門の違いに関するお話がありました。そこで中国企業の発展を振り返ってみますと、改革開放以前の国有企業はほとんど人事部でなく組織部と名乗っていましたね。それが90年代以降、人的資源部という名前に変わっていきました。もちろん名称だけの変更ではなく名前通りの機能を実際に果たしている企業もあります。しかしその一方で、労働人事の役割を果たすこと・・・例えば単なるファイリングや受身的な仕事をする企業もまだあります。
また、創業間もない企業には人事部門はありませんでした。トップ1人で総務事務をすべて担当していたのです。多国籍企業では人的資源部の機能が明確になっています。人事部には企業形態によって異なる役割があると思います。
ところで先ほどリストラのお話もありましたが、日本ではリストラを進めるのがなかなか難しい。Chiangさんにお聞きしたいのですが、HR部門を代表してリストラを行うときはどういったお考えを持って進めたのでしょうか。
Chiang:リストラは非常に難しいですね。18年に渡って2000人ぐらいをリストラしました。その1つ1つが私にとって辛い仕事でした。一番辛かったのはインドでの仕事ですね。リストラ自体は企業の決定ですからHR部門で決められることではありません。
これまでのリストラを通して分かったことは、HRは謙遜、そして相手を尊重する態度を持って進めなければならないということです。まず最初にできることはアウトプレースメントです。ある工場のリストラをしたことがあるのですが、近くにはヤマハやホンダといった企業がありました。1社ずつ足を運び、「20人引き受けてもらえないか」などとお願いをしていった結果、400人余りのリストラ対象社員全員に再就職先を見つけることができました。また、リストラにはお金がかかります。法律で定められたリストラ対象者への支払い義務が5カ月分だとすると、会社はそれプラス3〜4カ月の給料を支払うことでリストラを進めていきました。
もちろん地域が違えば反応は異なります。インドでは最も抵抗が強かった。後になって分かったことですが、リストラされてから1週間後、自身に火を放って自殺未遂を起こしてしまうという方もいました。命だけは取り留めましたが大きなショックを受けました。ですから根本から考えなければなりません。
リストラに関する私の考えは「自分がやらなかったらどうなるか」と考えることです。長期的に見て企業にとって良いか悪いかを自分自身に問いかけていきます。先ほどの例では、その400人を残せば企業にとってはデメリットです。その400人を企業に入れたのは政府でした。政府の人事は変わりますが、企業は残ります。結局、企業は政府による行動の結果を受けなければならなかったのです。ですから誠実にコミュニケーションをすること。とにかく自分の知っている情報を隠さないことが大切です。
リストラというのはその従業員1人ではなく、その家庭に対する行為でもあります。多くのアメリカ企業はコスト削減を行う際、最初にリストラを行います。数だけを減らす。しかしHRではその数字を家庭の所得に変換しなければなりません。そうなると自分自身の行動も慎重になっていきます。社員をサポートして再雇用の出口を見つけてあげて、その困難を解決してあげる必要があるからです。一番まずいのは会社が儲かっているのにリストラをすることです。これでは説得し難いですね。たとえば1〜2四半期で損をすると、アメリカ企業はその時点でリストラを行います。あるいは給料をベースダウンする。
私自身、リストラは非常に辛かったプロセスですが、皆に理解してもらえるよう説明する自信はあります。リストラされてから数カ月後に私と接触する人もいるほどです。リストラされた当時はやはり抵抗されますが、時間が経過すれば感情も落ち着いていきます。ですから人事担当者としては企業にとって長期的な利益となる方法を選ぶ。普段であればリストラは企業のメリットになります。しかしすべてのケースで必ずそうなるとは限りませんし、私にとってもやはりそこがアメリカ企業でのHRで最大のジレンマでした。やはりアメリカの会社は目先の利益を求め過ぎる場合があるからです。
Tang:リストラについて先ほどMBAの学生からも質問をもらいましたが、日本企業はリストラをどう見ているのか。日系企業ではやはり終身雇用制を主流とした契約精神が重要視されています。そういった環境で日系企業のリストラをどう見ていらっしゃるか、どなたかいかがでしょうか。
会場:先生のお話にもありました通り、利益を追求することは会社ですから当然ですが、社会的責任を果たすべきという観点もあり、できるだけリストラを避けようという動きはあります。日本にはリストラ文化が根付いていないかもしれないし、そう頻繁には行われないかもしれません。現在の日本では大きな会社がリストラをやると大ニュースになります。そこで会社としてもブランドが傷つけられることにつながりかねないので、やはり企業としてはそれが及ぼす社会的影響がリストラの躊躇につながるのではないでしょうか。個人的な視点も含みますが、リストラについては日本ではやはりハードルは高いと思います。個人にとっても良い話ではないですし、ある意味で、「リストラがあるかもしれない会社には入りたくない」という感覚も高まります。それは日本人の就社、ビジネスというよりもその会社に勤める、その会社に貢献したいというロイヤルティの裏返しでもあると思います。それが日本的労働慣行の背景になり、崩れそうで崩れない、というのがある種の日本企業の文化かなと感じます。
会場:私が在籍しております企業では11年前に合併がありました。そこでは1つのポストを巡って、それぞれの会社から来た2人が取り合いをしました。ポストを2つ作ることはしなかった。そこで余ってしまった人をどうしたかというと、一時期は人数も増えましたが、他のポジション、別のセクション、あるいは関連会社に移しました。時間をかけましたのでドラスティックな施策ではありませんが、組織のスリム化についてはそれほど大きなリストラをせずとも実現できたのではないかというのがこの10年間です。
一方で日本企業の考え方として、リストラはマネジメントの失策であると言う方が多いと思います。それは先ほどの就社とかに連なっていると思います。決してリストラが有り得ないわけではないですが、いずれにせよ環境のせいにすることはできない。「もっと自助努力の余地があるのではないか」ということで、ある程度いびつにはなってしまいますが、採用人数を抑えたり、グループ会社への出向をしたりするなどして調整しながら何とかやりくりしていく。もちろんローテーションもよく考えていきます。「この人材がほかで生きる部門はないか」とか・・・そうした悪戦苦闘を企業内部で相当やっているのではないかと思います。
会場:今後将来に向けてもその姿勢を持ち続けるということですか?
会場:そうですね。例えば新しい分野を開拓するとか、もっとグローバルに展開するとか、商売の仕方を考えるとか、そういうところにはまだまだ工夫の余地はあると思っています。それをやっていかないと日本企業の付加価値が上がらないと思います。
Chiang:1つ補足があります。リストラというプロセスを通してアメリカ企業と他のグローバル企業を比較すると、株価を見ればすぐに分かります。つまり短期的変化ですね。ウォール・ストリートの投資家はリストラを後押ししているように思えます。GEがリストラをするときは株価が上昇します。これはほかの地域と違うところです。ですから間接的に短期的な行動を煽っているように私には思えます。リストラをする会社の株価が上がる。これがアメリカ企業のやり方です。リストラされる側の人間からすれば考えられない話ですよね。自分がリストラされることで会社の価値が上がったというのは・・・。
Tang:私からも1つ。理論的な角度から考えてみますと、もし避けられない事態であれば人々の挫折感を減らしていくことも重要になると思います。背後には管理の問題もあるでしょう。つまり人材を採用するときは、「ここで一旦採用して、その後簡単に会社から出すことができるのか」を考えなければなりません。これは体系的エンジニアリングであると思います。このような状態をどれぐらい続けられるのかを考えなければなりません。
雇用される立場から見ての中・欧米・日企業の相違点
では最後に上海交通大学の学生から寄せられた質問をご紹介してみましょう。もし日系企業で国際的に活躍していくことを目指した場合、人材にはどのような資質が求められていきますか?いかがでしょうか。
会場:クライントの中で、世界で戦っているある会社は分権化を中心にしています。一般的には日本の会社では事業責任を負うのは40代半ばが多いのですが、その会社は30代前半で事業責任を負います。会社の中でミニアントレプレナーがいます。その環境下で人をグローバル化の中に突っ込んでいく。もう1つ、グローバルに戦える会社があります。また、私は英語MBAをやっているので多くの会社のグローバルエグゼクティブ育成に関与していますが、グローバルエグゼクティブと言う時に3段階あるのです。1つ目は日本人ばかりがメンバーになっている、2つ目は日本人とオーバーシーがほぼ同じ数になっている、3つ目は国籍は関係なくメンバーを集めている。3つ目まで行っているところは勝ち残るだろうと思っています。日本企業はいろいろな形の中で対策をしています。ですから一概に日本企業として見るのではなく、ベストプラクティス、ベストフィットを地域、業種ごとに見ることができたらいいなと思っています。
会場:実力があればどんな会社でも働けると感じます。しかしやはり、日本の企業で活躍するのであれば日本企業独特の価値観への理解がないとなかなか難しいのではないかと思います。例えば家庭と仕事のどちらを優先させるか、良い悪いはともかく、アメリカの工場で仕事をしていると、日本時間で仕事が始まるのがアメリカ時間の夕方5時くらい。毎日ではないですが、夜の8時になって東京とのやりとりを行ない、そこで解決となります。しかしそうした時アメリカ人の多くは夕方6時に帰宅してしまう。すると問題は日本人同士でしか解決できないことになり、アメリカ人がその判断から外れてしまいます。良い悪いではなくて、こういった点で日本企業のやり方に理解があるかないかがポイントになると思います。
もう1つは国を離れて移動すること。日本に来るのであれば入った企業だけではなく、ヨーロッパやアメリカへ行けというところでチャンスを取る。自分の国に固執せずグローバルに活躍しようという覚悟が必要になると思います。
さらに言えば、日本企業ではチームワークが重要になるので、会社で働くという意識があります。それが良いと思うことも重要ではないでしょうか。会社のメンバーと働きながら自分も成長するのだと考えるのがキャリアだと思います。例えばイギリスから日本に来て3年間の経験を積んだ後、イギリスに帰ろうという時になって「良いポジションじゃないと帰れない」とか「倍の給料じゃないと意味がない」といった短期で判断してしまうとなかなかやっていけません。長い目で見てその会社でやっていくという思いも必要であると思います。グローバル企業といっても日本のグローバル企業ですから、その価値を理解し、そして自分が成長することがキャリアであるとコミットする意識が必要になると思います。それがあれば実力のある人は日本企業も大歓迎だと思います。
会場:その辺りについてMBA学生としてはどのように考えますか。
会場:まずグローバル化とローカル化には矛盾があります。ですから企業文化を理解するときにはローカル化あるいは現地化にハードルが出てくると思います。つまり日本文化が強すぎると海外に進出した場合にローカル化をなかなか進められないのではないかと。この点で言うと北欧企業とアメリカ企業とのあいだには大きな違いがあると思います。北欧企業ではローカル文化がそれほど強くなく、多様性を重視していると思うからです。ですから私としては北欧のグローバル企業モデルに強い興味を持っています。
会場:私の経験から言うと、東京で4年働いて、昨今の経済状況では海外での研修などがあまりない状況です。もちろん海外で通用する人材になるには、海外の文化を経験し、外資系の方と仕事をすることが必要ですが、コストカットで叶わない状態。若い人材にもう少し投資をして、海外で経験をさせてはどうかと思います。
会場:私はアメリカの6つの州で10年間働いていました。欧米企業と日本企業を比べるとeコマースの面ではよく似ているのではないかと思っています。私はeコマースの業務に携わっていますが、毎日12時間働いていました。競争が本当に熾烈であるために結婚を考える暇もありません(笑)。ただ、文化面については東洋人と西洋人の間には大きな違いがあると思うのですが、このギャップを埋めるには様々な方法があると思います。例えばeコマース企業では独身の方が多く、金曜の夜には会社内のラウンジがバーになっていました。ビールが3ダースも提供されていて、そこで皆、交流を通じて相手側の文化を勉強することもできました。
会場:私は台湾から来た学生で、現在、中国でMBAを勉強しています。台湾企業で働いていたときのことですが、サプライヤは日本企業もあればアメリカ企業もありました。彼らと付き合うときに大きな違いを感じました。アメリカ企業は収益を求めます。日本企業は堅すぎるという特徴があり、日本企業とうまく付き合うことができませんでした。また日本企業は価格の確定、そしてクライアントの確定においてはよく指示されておりますが、ここで柔軟性が足りないということも感じました。
会場:これまで北欧企業とアメリカ企業で働いていた経験があります。日本企業と付き合うチャンスはそれほどなかったのですが、友人から聞いたところ、中国に進出した日本企業では中国人社員の昇格が難しいという話がありました。これは文化的な要素があるのではないかと思います。海外へ進出するときにはやはり現地化を進めなければなならないと思いますが、そこで考えてみると現在、中国の文化は欧米化されております。ですから日本企業も日本から離れていったときは終身雇用制を廃止したら良いのではないかと思いました。また、中国人社員がなかなか昇格されていないといった問題も併せて解決していけば良いのではないかと考えています。
やはり人材をグローバル化しなければならない
Tang:ありがとうございます。大変盛り上がってきましたが、時間の関係もありますのでそろそろエンディングに向かいたいと思います。本日はお2人のスピーチ、グループワーク、そして皆さまからのご質問を通し、皆さまにも新たな考えが生まれてきたのではないでしょうか。HRについてさらに理解を深くしていただけたのではないかと感じます。
まずは異なる文化背景に持つ企業の経営モデル、そしてHR管理を比較することで、皆さまが関心を持っている欧米企業、日本企業、中国企業の違いがより見えてきたのではないでしょうか。そして日系企業による発展プロセスのなかで、やはり中国企業そして欧米企業が勉強すべきところもあると感じました。例えば品質へのこだわりですね。またHR管理でも日本企業は長期的な約束を重要視しています。絆を大事にするという点は中国企業も欧米企業も参考にできると思います。そしてチームワークも同様に学びになると感じました。
中国企業は現在、ハイスピードの成長期にあります。過去10年間、中国のGDPは毎年7〜8%あるいはそれ以上の成長を遂げており、金融危機後もその勢いを維持してきました。このような背景とともに外で主張するチャンスも増えてきています。HR管理にとっても、より良いチャンスを探し続けることができる環境になりました。ですから中国はハイスピードであることが特徴なのです。その速さ故に目先の利益を求めてしまう現象も一時的に表れていると思います。中国ではそんな特徴がありますので、中国で企業活動をするのであればやはりある程度の柔軟性は大事になるのではないでしょうか。そうしなければ中国でビジネスチャンスを掴むことは難しいと感じます。
もちろん欧米企業もそれぞれ特徴があると思います。先ほど「ヨーロッパの企業はグローバル傾向が強い」というお話がありました。これは「生まれつきのグローバル化」という言い方もあるように、地域によっては電車で30分も進めば外国という「生まれつきの国際化」が大きな特徴として存在していることも意味していると思います。
また、20世紀まで私たちは多くのケースにおいてアメリカ的管理の考え方を勉強してきましたが、ある程度まで来るとそれを反省しながら「アメリカのツールを中国的に使えないか」と修正をかけるようになりました。それで中国として良い道を実現できないかといったお話も出てきました。それぞれ国の特徴を比較しながら、そんな結論に至ったと思います。
逆に国内では中国企業同士でも違いが出てきています。特に地域文化の違いによって社員の仕事に対する態度もそれぞれで、人柄や仕事のやり方も異なる。また、地域だけでなく所有性の違いによってHR管理の制度も違ってくるのではないかというお話がありました。
以上はパターンの比較ですが、HRそのものに目を向けるとHR部門の方自身の転職について議論がありました。中国は90年代以降、労働力市場の開放によって雇用のあり方が大きく変わっています。このような転換のなかでHR管理者が真っ先に影響を受けました。例えばヘッドハンティング会社と最初に知り合うのはHRの人間です。ですから雇用あるいは転職のチャンスも比較的多いことになります。そうすればHR部門に携わる人の移動が頻繁になります。対応としては、ある程度まで成長したら挑戦的な仕事をローテーションで組んでいく、感情的な絆を作る、そして社員にアイデンティティを与える。そういった様々なやり方もあるというお話もありました。
この点についても日本に学ぶところがありますね。日本では1950年代からすでに感情、仕事、待遇で人材を引き留めるやり方が定着していました。今後は情や絆で人材を引き止めていくという考え方も、我々にとっては1つのアプローチであると思います。
現在の中国企業ではHR管理部門の位置づけもそれぞれ違っています。しかしその職責というのは西洋の人事に近いのではないでしょうか。組織の発展をサポートできるかどうか、戦略的に役割を果たすことができるか、人材管理を通して社員に楽しい環境を作ってあげることができるかどうか。さらにHRツールを提供して現場の管理に貢献できるかどうか。戦略的役割、良いツールを使って現場の管理者をサポートできるかどうか、社員のために良い環境を作ることができるか、そういうことに集約されたのではないかと思います。
HRを通して人材を引き留め、惹きつけ、そして育成していくことも大きな目的です。このようなプロセスも戦略的役割のなかで行われていくべきものです。中国企業の国際化に伴い、M&Aなどの方法を通して中国企業の組織業務に携わり、組織が重要な意思決断をするときにHR部門ならではの役割を果たすという点も重要というお話でした。
また、本日はリストラにも焦点を当てていきました。確かに日本企業とアメリカ企業を比較すると大きな違いがありますが、中国企業は日本とアメリカの中間にあるのではないかと思います。リストラが避けられない場合、できるだけ社員に対する悪い影響を回避するのもHRの重要な仕事です。例えば次の仕事を見つけるとか、そのようなやり方を通してリストラによる社員への悪い影響を低減または回避していくべきでしょう。
そして本日参加された日本人の皆さまからいただいたご質問も大変意味のあるものでした。つまりリストラを回避するための手段があるのかどうか。例えば生産性や仕事の効率を高め、新しいビジネス分野あるいはチャネルを増やしていく。これは企業経営で高いパフォーマンスを示すだけでなく社会的責任でもあるということです。
中国企業は日米の中間にあると言ったのは、中国国有企業は特定の場面でこのような社会的責任を果たしているという意味があります。政府は2009年の金融危機において国内の大型国有企業に命令を出しました。その内容は「結束してこの困難を乗り越える」というものです。金融危機のなかでさらなるリストラはできませんということです。ある会社は4人以上のリストラをすると政府の管理部門に報告して許可をもらわなければならなかったのです。これはやはり所有性の違いで管理上の違いも出てくることを意味しています。
そして最後にどのような人材がグローバル人材が言えるのかという問いがあり、これも日本の皆さまから貴重なご意見をいただきました。日本の組織のなかでもやはりそれぞれ異なるHR管理モデルがあります。共通点はあるが違いもある。もう1つ、能力はやはり大事であるということ。それとともに日本の文化を受け入れなければなりません。日本企業で働くためには日本企業の文化を熟知しなければなりません。それを認めるアイデンティティを持つ。そうすれば自分にキャリアとしても有意義な結果を得ることができます。そして海外に行くという、故郷を離れるということに耐えられるかということなど。最終的にはやはりチームワークが大切になります。チームワークに対して積極的になることは自分自身にとっても良いことであるというお話がありました。
そして上海交通大学の皆さんからも良い意見をいただきました。皆さんの経験はやはり中国文化の影響もあると思いますが、やはりその調整・適用は中国企業にとって現在も大切なことだと思います。以上、簡単に本セッションでの議論をまとめさせていただきました。
Li:日系企業におけるグローバル人材像の特徴を伺いまして、弊社が今グローバル人材に要求していることと大変合致していると感じました。ですからより多く、日本企業にも人材を見出したいと思うようになりました(会場拍手)。
Tang:最終的には人材をグローバル化しないといけないということですね。
会場:今のセッションはとても勉強になりました。専門外なので非常に新鮮な意見、今の日本企業、中国企業の状況が分かりました。これから帰らなければならないのが非常に残念です。あと1日半、またGoodbabyを訪問したり、工場の方々がどうやって働いているのかを見たいと思っていましたので残念です。それからTangさんには素晴らしいコーディネートをしていただきました。上海交通大学は素晴らしい。Daewooのリストラに関するお話もありましたが、私自身はDaewooの会長と非常に仲が良かったので、ちょうどIMFのときにGMに買収された経緯をずっと見ていました。確かにたくさんの自殺者も出ましたし、離婚も増えた。IMF離婚と言われるものが流行りました。大宇グループもばらばらになってしまい、会長はフランスへ亡命しました。
企業活動というのは、やはり非常に社会的な問題をはらんでいるのですね。単にゲームをやっているわけではなく、たくさんの人の生活がかかっている。ですから企業というのは文化でもあるし、社会そのものでもあるし、法律でも政治でもある。そのようにいろいろなレイヤーからグローバリゼーションというものについて考えることが大切であると私は感じます。グローバリゼーションが良いことかどうかも分かりません。文化のグローバリゼーションのことも考えていかなければいけませんし、それは社会全体の制度を変えていくことでもあります。それは政治にも影響してくると思います。そういう意味でも本日は非常に示唆に飛んだ素晴らしいセッションでした。グロービスの皆さま、本日はこのような機会を与えてくださって大変感謝しております。ありがとうございました(会場拍手)。