水野:皆さんこんにちは。コラーキャピタルの水野です。
さて、パネリストには政策当局の方と中央銀行の方、そしてエコノミストの方にご登壇いただきます。投資家である私を加えさせていただき、日本の財政を議論するにはとても良い組み合わせだと思います。
本セッションのタイトルは「日本経済は破綻するのか」とありますが、破綻するのは経済主体であって“経済”は破綻しません。私としては、本セッションは「財政は破綻するのか」という趣旨であろうという判断をした上で進めさせていただきます。
日本の財政に関して私は投資家の立場から見ているのですが、とにかくこの10年間というもの非常にいらいらしておりました。経済状況は改善せず、その間に財政はキャッシュフローもバランスシートも悪くなる一方です。ですから政府にも日銀に対しても、評論家の方々にもフラストレーションが溜まっていました。
ちなみに、ムーディーズが現時点で日本の格付けである「Aa2」をネガティブウォッチにかけていますので、最悪の場合には「A」まで落ちる可能性はあります(注:ムーディーズ・インベスターズ・サービスは8月24日、日本国債の格付けをAa2からAa3に1段階引き下げた)。しかし、ムーディーズの定義によれば「A」は「経済財政制度が強固であり、債務返済について中期的に重大な懸念がない」ということになっています。ですから格付け機関が「日本は中期的に破綻する」と見ているわけではないのです。
実は私、2002年にムーディーズが日本の格付けを「A2」に下げてボツワナと一緒にした時、日本の某使節団の通訳としてムーディーズを訪問したことがあるのです。彼らはいろいろと説明しました。私は通訳だったのですが聞いているうちに我慢できなくなってきて、「要するに、あなた方はどうなったら日本が破綻するというのか。日本の国債が破綻するシナリオを教えてくれ」と聞いたのです。「日本国債は円で発行し95%は日本の投資家が持っている状況で、どうなったら破綻するのかが分からない」と。彼らは全く答えることができませんでした。それは今でも変わっていないと思います。
パネリストの皆様には、日本の財政が破綻するとすれば「Xデー」はいつで、どんな破綻のシナリオがあり得るのかを伺いたいと思っています。破綻しないという意見も含めて。ではフェルドマンさんからお願いします。
「財政再建のための5つの政策」を打て!
フェルドマン:よろしくお願いします。
私が初めて日本に来たのは1970年です。高度成長期の終わり頃ですね。当時の日本人は本当にハングリーだったと思います。ただ、この40年間でその精神は大きく変わってしまったという感じがします。私自身は過去20年間日本に住み続けていますが、いつも希望を持って仕事をしています。最近の2〜3年間は「はたして希望を持って良いのか」という雰囲気もありますが、私としてはまだまだ希望はあると思っています。
これは私の基本シナリオではないのですが、もし破綻があるとすればこういうシナリオもあり得るかもしれません…。
2011年9月15日、増税路線の政権が発足します。日本はどうなるのか。
東北の復興のため、日本全体の復興のためということで、15兆円という巨額の補正予算を組みました。ではその財源はどうするのか。「増税」です。増税しながら大きな歳出を行う。しかし大きな政府になるだけで生産性向上に関する政策は入っていない補正予算ですから、おそらくデフレが続くだけでしょう。次の選挙は2013年。2011年の秋から2013年の秋ぐらいまでデフレが続き、税収も伸びない状況が続くため、「やはり日本国債は売りだな」という雰囲気がさらに広がっていくでしょう。
ここ20年間はずっと同じ状況でしたが、選挙改革をやらないので爆発寸前になっている。要するに、日本は高齢者のための国だという前提で動いているのです。デフレがのろのろと続き、負債は貯まる一方になる。そうすると実際に「売り」を仕掛ける人が出てきます。それで長期金利が若干上がっていきます。これまでは、長期金利が少し上がると「買いだ」という雰囲気になっていましたが、今回はデフレ政策が2年間変わらないという状況下で「長期金利が上がったら買いではなくて売りかな」と思う人が少し増えるわけです。そしてさらに長期金利が上がります。長期金利は小さな上げ幅であれば「買い」ですが、大きな上げ幅になると皆が怖がって売ってしまう。
JGB(日本国債)市場はプレーヤーがあまり多くないから非常に寡占的です。すると「あいつが売るなら俺も売らないと損をする。売るんだ」という雰囲気になって長期金利が一気に上がりやすくなります。すると政府は長期金利が上がり過ぎるのは困るので、日銀に対して「(国債購入を)お願いします」と頼む。ところが、日銀は「日本政府は生産性向上のための政策を何も講じないのだから、国債など買えるわけがないでしょう」と切り返して、さらに金利が上昇します。政府は「それなら日銀法改正だ」と脅かす。日銀が国債大量購入に動いて、大インフレを招く。その結果、JGB市場は“爆発”してしまう——。そういうシナリオはあり得ると思います。
そうならないために何をすべきか。新政権がやるべきことは“財政再建の五輪”とでも言うべき5つの政策を打つことです。第1に、人口が減ってもGDP(国内総生産)を伸ばすために生産性を高めるような政策に大きく舵を切る。第2に補正予算などによって早急なデフレ脱却政策を打つ。第3に若老層間の不公平感を解消するために歳出再編を実施する。第4に累進税率を下げるなど税制のインセンティブ改革。第5に選挙改革です。
水野:フェルドマンさんのシナリオはインフレによる実質デフォルトということですね。価値が下がることによってデフォルトが起きるという。
フェルドマン:そうです。
1日でも早く消費税率を10%まで上げるべき
水野:分かりました。では田村さん、お願いします。
田村: 2002年に財務省を退職して選挙に出ることにしました。元々は東京育ちですが、静岡4区という清水市と富士宮市で出馬しまして、現在は3期目になります。財務省へ入ったのは1991年、平成3年です。ちょうどバブルが崩壊した年です。財政再建だけではなく構造改革も進めなければいけない状況でしたが、自民党政権も、頭の固い官僚も何もしない。政権交代しかないという思いから民主党議員になりました。政権交代を実現したところまでは良かったのですが、鳩山さんでも菅さんでも全く思うようにいかず、申し訳ない気持ちでいっぱいでございます(会場笑)。
まず一言申し上げておきたい点があります。民主党で私と同様に財務省出身という経歴を持つ議員は、藤井裕久さんや古川元久さん、そしてグロービスさんとも付き合いの深い大串博志さんなど何人かいます。私たちは「財務省の回し者」などと言われることがあるのですが、それは全く違います。私たちは自民党政権や当時の官僚体制に対して危機的な問題意識を持っていました。変えたいという強い思いがあったからこそ財務省を飛び出したのです。仮に考えが同じであった場合でも、財務省に言われたからではありません。財政が非常に危機的状況にあるという意識は強いですし、これをなんとしても健全化しなければいけない。財政危機の回避は私自身にとって中心的な課題の1つなのです。
鳩山さんが行き詰まって菅さんが首相となり、ようやく支持率も回復して「さあこれからだ」という去年の夏、参議院選挙で菅さんが消費税引き上げ発言をなさいました。それで民主党はぼろ負け。消費税を上げなければいけないということは、全員ではないにせよ多くの民主党議員が思っているところです。思いは共通しているのですが、残念ながら菅さんの場合は少なくとも2〜3年前まで財政に関する危機意識というものが薄かったのです。
ところが昨年、鳩山内閣で財務大臣を務めて考え方が変わった。財務省官僚に丸め込まれたわけではないのですが、財政状況を聞いたり、ギリシア危機に対する国際会議での議論などを見たりしているうち、ようやく財政に大きな危機意識を持ち始めた。急激な危機意識から前のめりになってしまい消費税アップの発言をしてしまったのです。危機意識としては良いのですが参議院選挙の戦略としては大失敗でした。何よりねじれ国会が最短で6年間も続く状況になってしまった。まだ5年もある。「それまで民主党がもつのか?」という人もいますが、とにかくねじれがずっと続く大変不幸な状況を招いてしまった点について、菅さんの責任は大変重い。もちろん菅さんだけの責任ではないのですが、大きな引き金の1つではありました。
いずれにせよ財政危機は回避しなければいけません。6月30日、政府・民主党は「社会保障・税一体改革成案」を打ち出しました。難しい言葉ばかり並んでいるのであまりピンとこない文章ですが、後ほど政府のホームページでゆっくりご覧になってください。その中でも大きな柱となったのが、社会保障のための消費税引き上げについてどう考えるかという点でした。
元々の案は2015年に消費税を10%に上げるというものでした。しかし増税に反対の議員は民主党にもいまして、結局は「2010年代半ばに経済状況を見ながら消費税増税をする」という案になったのです。
実際、菅さんはあと2カ月ほどで“区切り”をつけて下さるとは思っています。しかし本当はもっと早く決断すべきだった。その意味でもここ1〜2カ月、皆様にもたいへん申し訳ない気持ちでいました。ただ、菅さん以外の誰かが新しい首相になってもねじれ状況は変わりませんから、自民党か公明党か、両方ではないにせよどちらかが賛成をしてくれないと増税法案は通らない。そんな状況が2015年まで続きます。2013年に衆議院選挙があるものの、参議院の状況は変わりません。
ですから衆議院選挙のあと2015年に消費税引き上げを実現したいと思っても、そもそもそれが通るのか。もし通れば財政破綻を回避できるのではないかと期待していますが、そもそも消費税の前に復興財源をどうするのかという重要な議論があります。復興財源で増税できず、2015年の消費税引き上げも実現できなかった場合はどうなってしまうのか。マーケットから見たシナリオとしては先ほどフェルドマンさんがご指摘されたように、日本国債が暴落する可能性はあると思います。
最近は私の周辺でも「5年以内の財政破綻はあり得る」とか「国債暴落があり得る」と言う人が増えてきました。それを回避するためにも、1日も早く消費税をまずは10%に上げなければいけないと思っています。
日銀は高インフレを招く金融政策を採らない
水野:増税が実現しなければ財政破綻がかなり現実味を帯びたシナリオになるというお考えですね。では梅森さんお願いします。
梅森:日本銀行で金融政策の企画・立案を担当しております梅森と申します。この1年を振り返ってみますと、日本銀行は、昨年10月に、株式投信や不動産投信などの買い入れを含む「資産買入等の基金」を創設し、本年3月の震災後には、週明けの3月14日にそれを急遽増額しました。こうした政策の企画・立案の仕事をしております。震災関連では、被災地の金融機関を支援する資金供給オペレーションも設けました。また、中小企業や新興企業に元気になって頂きたいということから、金融機関が成長分野の企業に出資や貸し出しをしたら、日銀がそれをバックアップしましょう、具体的には安い金利で長い期間のリファイナンスをしましょうといった施策の企画も担当しています。
金融政策の企画・立案に際して自分自身に課していることが1つあります。今はデフレ脱却に向けて非常に大事な時ですし、東日本大震災からの復興に向けて日本の国力が試されている時でもあります。ですから企画・立案にあたっては、なるべく自由に、国債の引き受け以外は何物をも排除しないで幅広く考えるということを自分に課しています。
本席で自由な議論をするために、あらかじめ申し上げておきたいのですが、本日、私は、金融に多少詳しい一個人として参加しております。私の発言は日本銀行の見解を代表するものではないことを強く申し上げておきます。
さて、財政破綻についてですが、「生じるか生じないか」というご質問は少し他人事のような感じがしませんか? 財政破綻が良いか悪いかと言えば、これはもう断然悪いことです。その悪いことは、震災のように天災として起こるものではなく、人が起こしてしまうものです。ですから「財政破綻を回避するためにどうすべきか」ということこそ、真剣に議論すべき問題設定だと思います。
日本の財政状況は主要国の中で一番厳しい状態にあります。財政赤字の累積で見ますと、ギリシアよりも厳しい状況です。一方、国債の金利は世界一低くかつ安定しています。この背景は2つあると思います。1つ目は、マクロ経済的なフレームワークからすると、まず、個人や企業の貯蓄超過がたくさんあって、次にそれを仲介する金融システムも安定しています。国債が安定的に消化される状況が整っているといえます。
もう1つの背景は、国債市場の参加者が、日本について「現在は財政的にとても大変だが、中長期的には財政再建に取り組む意思がある」と見ている点です。そしておそらくは成功するであろうと信じていることです。これはとても重要なポイントです。
日本銀行は物価安定の下で、経済が持続的成長に復帰することを目指した政策運営をしています。フェルドマンさんには「まだ金融緩和が足りない」とたびたび叱られますが、われわれが“いけいけどんどん”な金融政策をとっていないことも、国債に対する市場からの信認形成に貢献していると思っています。
もちろん現状に安心してはいられません。まさしく今、欧州の周縁国が経験しているように、財政が悪化して金融システムが痛み、実体経済も調子が悪いということになりますと、マイナスの相乗作用が働き、財政のサスティナビリティに対する疑念が生じてきます。そうすると国債市場が非連続的に日本国債の見方を変えるということが起こり得ます。ですから、そうならないように、「われわれ日本国民は財政再建に向けた意思を持っているし、それに取り組んでいる。中長期的には増税の意思を持っている。また、日本銀行は高いインフレを招くような金融政策は行わない」ということを常に明確にし、国債に対する信認を維持していくことが大切だと思っています。
復興財源の捻出は消費税の増税が基本
水野:ありがとうございます。私は国債または財政破綻の議論というのは原発の話に似ていると思っています。時間軸もよく分からず、正体も分からないのに怖がっている。「事故は起こさない」「事故は起きない」などと思ってばかりいても仕方がない。万が一に起こるとすれば、どういったシナリオがあり、どのように対応するかという点については考えておくべきだと考えます。
恐れているもの、お化けの正体は何かということについて皆さんのご意見をお伺いしたいと思い、先ほどのようなご質問をさせていただきました。ちなみに私の意見は同じでして、テクニカルに言えば日本でデフォルトは起きない。何が起きるかというと、国債の売り浴びせに始まる高金利、そこから逆算して今度は国債価格が下がるという実質的な部分デフォルトによって金融システム、銀行システムの方が崩壊していくというシナリオではないかと思っています。
ではなんとなくお化けの正体について話した後、今度はこれから何ができるのかというところを議論していきたいと思います。今回の東日本大震災ではおよそ20兆円でしょうか、復興にそれぐらいのコストがかかるのではないかと言われている一方、日本は昨年トロントで開催されたG20で2020年までにプライマリーバランスをゼロにするという国際公約をしています。これらをバランスさせながら、経済を傷つけないよう運営していくためにはどうすればよいのか。ぜひ皆さんのご意見をお聞かせください。それでは田村さんからお願いします。政府としての視点で。
田村:政府としては復興財源を増税で賄う方向になっています。私自身は現在政府に入っていませんが、復興構想会議では増税すべきという提言がまとめられました。現在の菅政権は復興財源のための増税を決定していませんが、今回は何らかの増税が避けられないと考えている人の方が多い。一方で「どさくさ増税は良くない」という意見もあります。
まず、復興財源となる増税に関しては、消費税、所得税、法人税の3つで議論が出てきます。「消費税はやめて所得税と法人税だけにすべきだ」とか「景気の問題があるから所得税だけにすべきだ」とか、そんなふうに意見が分かれます。
ただ、社会保障費を捻出するためにいずれは消費税を引き上げなければいけない状況下で、来年か再来年に2〜3年分前倒しで消費税を引き上げるのは、あくまで復興財源としても“どさくさ増税”だからやるべきではないという意見もあるのです。増税反対派の議員の方々はそのように考えています。しかし私は消費税も引き上げるべきだと思います。来年は間に合わないかもしれませんが、再来年にはやるべきです。
法人税は現在の40%を少なくとも35%にまでは下げようと、民主党政権は震災前から言っていました。ところが震災後は「逆に上げるべきだ」という声が一部で上がっています。しかし日本経済のためには絶対にそうすべきではない。やはり40%から35%に引き下げるべきです。
所得税については高額所得者に対する増税という議論もありますが、そもそも母数が少ない。消費税率を1%上げれば2兆5000億円の税収増になると言われますが、それだけの額を所得税から新たに取るのは難しい。基本的には消費税なのかなと考えています。
部品を見て車全体を考えないから「火の車」になる
水野:フェルドマンさんはいかがですか? 経済への影響の観点からコメントをいただければと思います。
フェルドマン:今の財政に関する議論は、部品を考えて車を考えていないと思うのです。税をどうするかというアプローチだけでなく、税が経済にどのような影響を及ぼすのか、生産性にどのような影響を及ぼすのか、本来ならそういった議論が不可欠なのに、その視点が抜けている。
部品を考えて車を考えないような議論が進みますと、“火の車”になってしまう(会場笑)。おじさんジョークですみません(会場笑)。財政の議論では正しい数字と正しい概念を把握しなければいけない。本当の数字を見てどこに問題があるのかを把握し、すべての部品を集めて車になるようにしなければいけない。
ここで会場の皆様に伺いたいことがあります。それは日本政府の規模がどのぐらいかということです。政府の大きさ、つまり歳出総額がいくらか。90兆円、150兆円、200兆円の中から選択してください。90兆円だと思う方…(注:会場挙手が最も多い)。150兆円だと思う方…。200兆円だと思う方…。はい、典型的な反応になりました。なぜこうなったかと言うと、年末の予算編成時に財務省が政府の一般会計として出す数字が現在はおよそ90兆円になっているからです。
実はこれ、あくまでも政府の一部分です。企業の決算であれば親会社の数字だけを見る人はいません。子会社も含めた連結ベースで見ますよね。ところが政府の話になると誰もが連結という発想を失ってしまう。これは大きな問題です。正解は200兆円です。これは債務ではなく毎年の歳出です。中央政府、地方政府、そして社会保障基金を連結ベースで見た数字です。まず正しい数字を使いましょうと申し上げたい。
正しい数字を把握するために必要な考え方がもう1つあります。ビジネスラインで分けるという考え方です。公的部門のビジネスラインを私は基本的に4つに分類しています。(1)公共財の提供、(2)債務に対する利払い、(3)金融機関としての活動、(4)社会制度を経営すること——の4つで、それぞれに歳入と歳出があります。
この考え方で一般政府歳出入を見てみましょう。まず利子収支では利子所得が約8兆円、利払いが約13兆円です。つまり、年度ベースでマイナス5兆円前後。GDPの1%ですからこれは小さい。
次に金融機関としてのラインですが、投資への払い戻しが来ていて、年度によって異なりますがネットベースで5兆〜10兆円ぐらい。すなわち、払い戻しでお金が入っているということです。
公共財は少し難しいのですが、目的税ではない税収についてすべてのレベルを合計するとおよそ85兆円になります。それに対して歳出は75兆円ぐらい。ですから公共財…、つまり防衛や教育についてはだいたい黒字になっています。
最後に社会勘定を見てみましょう。我々の社会保障負担はだいたい55兆〜60兆円になりますが、歳出は年金が60兆、医療費35兆、その他を合わせて105兆円ぐらいです。つまり、明らかに社会保障というビジネスラインが大きな赤字になっていることが分かります。
社会保障における歳出をよく見ると、大半は高齢者向けです。ここが問題なんです。収入は増えているのですが、歳出の急激な増加に追いついていない。「高齢化社会だから仕方がない」と思われる方がいるかもしれませんが、そうとは言い切れません。高齢化は1980年代の前半から進んでいましたが、赤字はGDP(国民総生産)の5%程度で安定していました。1990年代のどこかで財政が規律を失ってしまったのです。
ですから「増税するかしないか」だけでなく、どのようにして社会保障の歳出を減らしていくかが大切なのです。特に高齢者向けのお金を減らして、その分を若い人のために使っていくべきです。若い人のために使えば生産性が上がるし、成長持続性のある経済になります。このようにして部品ではなくて全体像を見ることが重要なのです。
水野:ありがとうございます。国を企業に例えたお話は面白いですね。「日本には資産がたくさんあるから正味の借入金は少ないのだ」と言う方がいますが、フェルドマンさんはどのようにお考えですか? また、企業であれば再生のためにまずやることと言えば通常は資産売却です。イギリスは空母「インヴィンシブル』までオークションに出して財政赤字を解消しようとしているなんていう話がありました(笑)。日本が空母を売れるわけではないのですが、それにしても資産売却というのは国家としても普通に考えるようなアプローチだと思います。なぜそういった話が出てこないのか。
フェルドマン:ネットデットかグロスデットかというのはすごく難しい議論ですが、どちらにしても大変だというのが1つの結論です(会場笑)。もう1つは、国の担税力がどのぐらいあるのかということが負債の議論の背景にあるという点です。担税力は税率ではなく経済の規模と成長率です。ですから私としてはグロスを使ったほうがむしろ分かりやすいと思っています。
一方、資産をなぜ売らないのかという点ですが、私は実は売っているのだと思います。政府による金融機関としての活動で毎年払い戻しが来ているということは、ある意味で資産を売っているという解釈ができます。
まずは「入るを量りて出ずるを制する」の正攻法で
梅森:フェルドマンさんのご意見に同感です。フェルドマンさんは、成長力について言及されました。やはりこれだけ悪くなってしまった財政ですから、そう簡単には再建できないことをまずは覚悟しなければならないでしょう。その上でやはり大切なのは成長力の強化だと思います。しかも、名目ではなく実質ベースでの成長力強化が必要です。
「デフレで税収が上がらないから財政再建できないのだ」という意見がありますが、これは必ずしも正しくありません。財政バランスの改善は、インフレによる名目成長率のかさ上げで実現できるものではありません。物価が上昇すれば税収は上がるかもしれませんが、歳出も当然膨らみます。長期金利も上がり、国債の利払い費も上がるでしょう。決して「インフレになれば自ずと財政再建できる」ということではないのです。
では、財政再建に向けて何をすべきかというと、やはり正攻法で「入るを量りて出ずるを制する」しかないと思います。ここまで財政状況が悪くなった以上、成長力の強化だけでは財政再建はできません。増税は必ずどこかのタイミングで必要になりますし、当然、歳出カットも必要になると思います。
水野:インフレになった場合の税収と、国としてのコストとの弾力性の問題ですね。それに対するコメントを伺う前に1つ質問です。「外貨準備金の米国債を売れば良いではないか」と、いろいろな人が言っていますが、どういうことになるのでしょうか。
梅森:外国為替資金特別会計(以下、外為特会)が持っている資金ですね。現在、100兆円ちょっとの残高があると記憶しています。円はドルに対して長期的に高くなっています。昔は1ドル=360円でした。従って、外為特会が保有しているドルを、今のドル相場の80円で円に換えれば、かなりの損失が出てしまいます。ですから外貨準備を売って円に換えるというのは現実的にはなかなか難しいと思います。また、取引の類型としては、ドル売り介入をやっているのと同じようなものですので、ますます円高になってしまう可能性もあります。
生産性向上だけでは解決不可能、1〜2%のインフレを
フェルドマン:しかも日本にとってはデフレが悪化してしまう。なぜかというと外貨準備金を売ると外為特会が縮小します。そうすると日銀から借りたお金を返さなければいけないので日銀のバランスシートが縮小します。その結果、デフレが悪化する。そういう可能性があるのです。
私はインフレにして財政問題を解決することはできると思います。ただ、それは非常に苦しいやり方なんです。インフレを起こすと実質所得が減る高齢者が増えます。これは政治的問題ですから持続性がないのです。むしろ梅森さんが今おっしゃったように実質成長、すなわち生産性の伸び率を大きく上げる政策を採った方が今の名目歳出を維持しつつ問題解決できると思いますし、それが得策だと考えています。
生産性の加速がどれほど必要かを計算してみたのですが、これがすごいんですよ(会場笑)。今の約1%から私の計算では2.6%に上げなければならない。これから毎年20年間にわたって1%を2.6%にして初めて問題が解決されるということです。ですから生産性の加速だけで問題を解決できるわけではないのです。足りない分は、なんとかデフレ脱却して1〜2%のインフレにして、もちろんそれ以上はだめですが、税制や歳出の改革を進めていく。むしろそのほうがバランスの取れたやり方だと思います。デフレ脱却するぐらいのインフレにすること。それがもう1つの必要な部品だと思います。
「社会保障の給付減」も行間ににじませてある
田村:財政破綻というか国債暴落の恐れがあって、増税が不可避だという認識は皆で共有していると思います。しかし、増税反対、永遠に反対ではないにしても「最低数年間は復興財源でも社会保障でも景気が上向きになるまで増税すべきではない」と主張する方は、専門家や学者にも少なからずいます。民主党の議員でも、例えば小沢グループをはじめ、ある程度はいるのです。そういう方々は「今あるいは1〜2年以内に増税をすると景気回復に水を差す」と言います。「経済が上向くまで増税はいけない」という一点張りです。
もっとたちが悪い人たちは「財政破綻などということは当分起こり得ない」と言う。例えばテレビによく出ている森永卓郎さんや財務省の先輩でもある高橋洋一さんです。そういった方々は「国の財政赤字は1000兆円だけれども、日本には2000兆円の資産があるから全く大丈夫だ」と言うのです。
しかし、国の借金、政府の借金は国債を買う人がいないと成立しないのです。個人で国債を買っている人は今はほとんどいません。皆さんが預けているお金で金融機関が買っているのです。ですから金融機関が国債を買うのを止めたらその時点で国債は売れなくなり国が借金できなくなるということです。それなのに「大丈夫だ」と極めていい加減な議論をする専門家がいるのです。
かつての自民党政権も今の民主党政権も、成長力を強化しなければいけないとは思い続けています。ですから我々民主党でも2009年末に「新成長戦略〜輝きのある日本へ〜」を打ち出し、「とにかくやろう」ということで昨年から動き始めています。ただ、フェルドマンさんがおっしゃったように、それだけで財政を健全化させるというのはほとんどあり得ない。経済成長はもちろん目指しますが、その一方で近い将来には増税も決断しなければならない。景気とは関係なくやらざるを得ないだろうと思います。
歳入増とともに、社会保障における給付減もやらざるを得ないでしょう。そこにはまだ民主党政権も踏み込んでいません。そういうことをやると選挙に負けるからです。しかし高齢者はどんどん増えていて、年金に関しては現状レベルをこの先5〜10年維持するのはもう不可能です。我々もまだはっきりとは言っていませんが、行間にはかなり書いてあります。世代間のアンバランスを解消するために、結局のところ少しずつ給付額を削減するというのが具体的な政策になりますが、そこまで言うと本当に選挙が危うくなるので言えないというのが現状であります。
「ここまで来てしまった」
水野:ありがとうございます。紀元前4世紀ぐらいの話だったと思います。古代ギリシアのディオニュシウスが当時の1ドラクマ通貨を2ドラクマにして借金を返済して以来、国債の歴史を振り返ると政府にはいつも「インフレにして実質的に返すのを止めてしまおう」という誘惑が働いていたようです。そういう中でやはり日銀と政府のバランスというか、調整機能、牽制機能というものがますます重要になると思いました。
最後の議論では日銀と政府の役割分担について伺いたいと思います。まずは梅森さんからお願いします。
梅森:日本銀行は、デフレから脱却し、持続的な経済成長に復帰するために現在3つの分野で対応しています。具体的には、(1)強力な金融緩和の推進、(2)金融市場の安定確保、(3)成長基盤強化の支援、を行なっています。
「強力な金融緩和の推進」では、2010年10月に資産買入等の基金を新設し、国債、社債・CP(コマーシャル・ペーパー)のほか、株式投信や不動産投信まで買うことにしました。株式投信や不動産投信を日常的に買っている中央銀行というのはおそらく歴史上日本銀行だけだと思います。「ここまで来てしまった」という感じです。
なぜ「ここまで来てしまった」かというと、超緩和政策を維持・強化してきた結果、短期金利には引き下げ余地がなくなってしまったのです。2010年10月には、翌日物金利について、実質ゼロ金利政策に戻ることを、改めて確認しています。金利は長期になるほど、中央銀行がコントロールすることは難しいのですが、日本銀行は長めの金利の低下を狙って、期間1〜2年の長期国債や社債を買っています。それに加えて、リスクプレミアムを下げる観点から、株式や不動産の投信も買っているのです。
「金融市場の安定確保」という点では東日本大震災後には、大量の資金を金融市場に供給、日本銀行の当座預金残高は既往ピークを更新する42兆円程度まで拡大しました。これによって、金融市場に対する大きなショックは避けられたと思っています。
最後に「成長基盤強化の支援」です。金融政策は循環的な景気の調整に一定の役割を果たすことができますが、構造問題へ対応することには限界があります。ですから、成長戦略という面については、まずは当事者である民間セクターに頑張って頂きたいのです。その次に政府に頑張ってもらう。政府には特に規制緩和などによって新たな需要を作ることを真剣に検討していただきたい。
とはいえ、「だから日銀は経済成長について何もやらない」というわけにはいきません。ですから、持てる力を最大限に利用しながらやってみようということで、2010年から成長分野に融資をした民間金融機関を対象に、別途担保を取り、0.1%で最長4年までお貸ししますということを始めました。民間金融機関からは、比較的好評で、約1年間で融資額が3兆円の上限に達しました。
インフレをドカンと起こして金利を上げよ
水野:日銀の立場としては分かるのですが、将来それが問題にならないかなと思える部分があります。金利を下げるという方向へ行くことによって金利本来の機能である競争促進と、競争力のない会社を淘汰するという機能が失われていくように思えるのです。長期的に見て成長を促すような動きになるのかフェルドマンさん、どうでしょうか。
フェルドマン: 日銀が金利を上げられない状態ということが一番の問題だと思います。それはやはりデフレだからです。本来の機能を発揮するような世界を作りたいのであれば、インフレを一度ドカンと起こしたほうがむしろ正しいのです。そうすることで金利機能がまた働き始めて経済成長につながるのです。ただし、ドカンと金利を上げた場合、良い企業も悪い企業も淘汰されます。良い企業だけ残るとは限りません。優良な企業は残る。でも将来性のある企業が残るとは限らない。目的とは違う結果を招く恐れもあります。
私は日銀と政府が一緒になって何ができるのかを考えることがポイントだと思います。今はお互いにお互いを信頼できない状況だと思います。どうやって信頼関係を作っていくのか。そのためには政府が「やる」と言ったことをきちんとやることです。行間に書くんじゃなくて、「やるぞ!」と。
例えば、「日本のエネルギー問題を解決するためにこれだけの予算を作りますよ!」「素晴らしい新しいソーラーセルを開発するための予算を作りますよ!」と。日銀が「そのためにお金を刷ります」ということになれば素晴らしい。一緒に日本の将来へつなげることになります。日銀と政府は役割分担というよりも、むしろ役割の共有化を図っていくというのが、むしろ正しい考え方だと思います。
かつてアメリカにアポロ計画というのがありました。9年間かけて月面に人間を送るという計画。9年かけて20兆円の費用だったんです。同じようなことができる科学者は日本に絶対にいますよ。ですから政府がまず戦略を出して「こういう用途でお金を使いますから日銀さんお金を刷ってください」ということであれば、同じ方向で動くのですから、役割分担というより役割共有になってもっと日本経済が良くなると思います。
水野:日銀法が壁になっているという議論がよくあります。日銀法を改正して金融政策を思うようにハンドリングできる能力が今の政府にあるのか。やるなら、財務大臣を含めてそういう能力のある人にやってもらわないと困るのですが、田村さんはどう思われますか?
田村:おっしゃる通りです。ただ、そこは首相、財務大臣、日銀総裁が一緒に決めていくということであって、もし改正するとしても財務大臣が総裁に命令するという一方的な関係にはならないと思います。ただ、いずれにせよ首相や財務大臣は経済政策について相当の考えを持っている人でないと確かにいけません。
水野:分かりました。そろそろQ&Aに進みたいと思いますが、何か言い残したことがあればどうぞ。
フェルドマン:質問というよりお願いです。先ほど田村さんが「行間に書いてあるような表現」とおっしゃっていましたが、いつかその分野の辞書を作っていただきたいなと思いました。霞が関語、永田町語、日本語で本当の意味が分かるような辞書です(会場笑)。
断行すべき政策を主張すると選挙に落ちるという現実
水野:では会場のほうに開きましょう。ご質問のある方はいらっしゃいますか。
会場1:フェルドマンさんから日本を企業に例えるとデットがどれほどあるかというお話があり、大変なことになっているというお話がありましたが、まだピンときません。どれぐらい大変になっているのか、もう少し教えてください。
フェルドマン:私は若者の負担がどれぐらい上がるのかという視点で測るべきではないかと考えています。日銀元副総裁の岩田一政さんという日本経済研究センター現理事長が、以前、面白い数字を出していました。今65歳以上の人は社会保障制度で3000万円ほど得をしているというのです。貰ったお金から払ったお金を差し引くと3000万円のプラスになると。その一方、例えば今日生まれた赤ちゃんは生涯で6000万円のマイナスになるそうです。これは普通の人たちの感覚でもよく分かる数字ですよね。
私は現在58歳で、あと10年ぐらい働くのでしょうが、私の場合は食い逃げですよ(会場笑)。若者に大きな負担を残しているのです。どの指標が正しいかということにこだわるよりも「どれを見ても大変だな」ということが分かれば良いと思います。とにかく1人当たりの労働生産性が毎年3%ぐらい伸びるようにしなければ、生活水準は下がる一方なのです。
会場2:社会保障費の削減には大きな痛みが伴いますがどうしても行う必要があり、選挙権上も優遇されている60歳以上の世代にもなんとか痛みを分かち合ってもらうためにはどのようなシナリオがあるでしょうか。
田村:まずは与党、政治家がしっかり発信をしていくことが大事だと思います。増税も大変です。賛成しているのは国民世論のまだ半分ですから。反対している方にも分かっていただけるように、いかに財政が厳しいかということを私自身もしっかり訴えていくつもりです。
社会保障の給付削減というに領域に踏み込んでいく場合でも、しっかりと国民に納得してもらえるように説明するのが政治家の責任です。これは愚痴になってしまいますが、日本ではメディアのレベルが低い。特に大手の新聞とテレビのキー局。財政危機にしても意識の高い人はもう10年以上前から話していたことですが、1990年代以降はとにかく「景気対策が大事だ」という話ばかりでした。景気対策で財政出動ばかりすれば財政はますます悪くなるのに、当時は「それでも今は景気だ」と言い続け、マスコミがそれを煽った。財政が大変だと真剣に言い出したのは最近です。ですから社会保障に関してもこのままでは維持できないことをマスコミにも分かってもらい、良識ある方々と共にどんどん意見を発信していきたいと思っています。
フェルドマン:まずは高齢者の医療負担を今の1割から5割に上げること。私はこれが十分に払わない食い逃げ現象を解消する1つのやり方だと思います。国民がフェアかどうかを判断しなければいけない。私はものすごくフェアだと思います。
もう1つは、生涯を通して医療制度からもらうお金に上限をつけること。例えば「1人当たり1000万円以上は払いませんよ」というキャップの考え方があります。保険の概念を使うアプローチもあります。ここまでは払うけれども、これ以上は払いませんよという仕組みです。そういった制度で自己負担、自己責任という雰囲気を作る。
ところが、そういう政策をやりましょうと言って政治家が駅前で演説をすると、落選します(会場笑)。そういうことを言っても落ちないような選挙制度にすべきです。すなわち「1票の格差」を是正することです。これによって国会の先生もやるべきだと分かっているようなことがずいぶんできるような環境になると思います。
縦割り排除、新成長戦略、リスクテイク税制に勝機あり
会場3:収入を増やすための増税、支出を減らすための社会保障費削減、そして成長力の強化という3つが財政再建の道筋であると受けとめました。ではどうやって成長させるのかと考えたとき、優先順位として皆様が高いと考えていることを聞かせてください。
なぜなら増税や支出削減は意思決定の問題なので決めればできると思いますが、成長力強化だけは意思決定のみでは実現できないと思うからです。企業であれば「この事業を伸ばそう」とか「この分野で頑張ろう」という戦略で成長の意思決定をすると思います。ではそれを政治や経済全体に当てはめる場合、どのように考えていけばよいのでしょうか。
梅森:例えば、規制緩和は重要なポイントだと思います。企業経営者の方からは、「行き過ぎた安全性の重視」とか「縦割り行政による調整コスト」とか、そういったものを取り除くことで需要創出が可能な分野はまだあるという話を伺っています。
一例を挙げると、福祉をやっている人からは、特別養護老人ホームを作ろうとしたのに許認可の関係でなかなか実現できないとか、高齢者専門住宅と特別養護老人ホームの所轄が違うために、お年寄りの方が高齢者専用の住宅から特養にスムーズに移ることができないとか、いろいろな課題があると伺っています。各種の規制にはそれぞれ理由があるのだとは思いますが、見直すべきところを見直せば、ビジネスチャンスが広がるという面があると思います。
田村:今のご質問は分科会1つ分に相当するテーマですから語り始めると1時間以上になると思います(会場笑)。基本的には前段でお話した新成長戦略のダイジェストをぜひご覧ください。環境、健康、観光、農業などを重点分野にしています。そこに震災からの復興というものが加わりました。それらの重点分野に被災地の復興をいかにからめていくかという視点が重要になると思います。
フェルドマン:経済成長がいつ、どんな状況で起きたかということを過去にさかのぼって振り返ってみますと、やはり技術革新なんです。既に存在している技術や開発中の技術をいかに商業化していくかという点は重要なポイントになると思います。
具体的には、まずリスクテイクを促す税制。例えば配当金への2重課税をやめる。あるいはキャピタル・ゲインに対する課税をなくす。そんなふうにしてリスクテイクを促していく税制にしていくことが重要だと思います。もう1つはデフレ脱却ですね。今は実質金利が高いのですがデフレから脱却すればしばらくの間は実質金利もマイナスになります。現在、アジア全体ではマイナスになっています。「お金を借りると得だ」ということになれば技術開発もさらに進むと思います。
移民政策も必要です。いろいろな国や地域の人に来てもらい意見交換をしながら良い技術を作り出していく。そして、コーポレート・ガバナンスの改善。資源を適切に配分した会社の税率は下げるとか、そういうことも必要です。
そして最後ですが、やはり司令塔問題です。経済財政諮問会議を復活させること。そうすれば諮問会議で総合的に戦略を組み立て、いろいろな官庁に総理の命令として「これをやれ」と言うことができます。そうなれば政策も組みやすくなると思います。今いくつかお話しした中でどれが一番大事かというと私はリスクテイクの税制だと思います。
水野:ありがとうございました。私は個人的には人材の流動性を高めるべきだと思っています。日本では成長性の低い産業ほどたくさんの人間が働いている状況が続いています。そこの移動をもう少し活発にすればもっと成長していけると思います。
本日はありがとうございました(会場拍手)。