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産業革新機構・朝倉陽保氏×コモンズ投信・渋澤健氏×ゴールドマン・サックス・アセット・マネジメント・山田俊一氏「資本主義と金融の本質とは何か」

投稿日:2009/09/08更新日:2023/05/30

廣瀬:今日は素晴らしい方々にご登壇頂いています。まずは自己紹介がてら、昨年発生した金融危機の評価を含めて、金融界の現状認識をお話しいただけますか。

グローバルな供給過剰はかなり根が深い(山田)

山田:先輩方に交じってパネリストを務め、感無量です。特に廣瀬さんとは、カーネギー・メロン大のMBAの先輩後輩の間柄です。私は現在、ゴールドマン・サックス・グループにおります。グループには大きく三つの部門があります。M&Aの仲介や資金調達をする投資銀行部門、株や債権のセールス・トレーニング部門、それから資産運用部門です。私は資産運用部門で、投資家の資金をお預かりして、どんなところに投資をしたらいいかと戦略立案・遂行を統括するのが仕事です。

投資銀行は日本の証券会社のような形態ですが、ゴールドマン・サックスの投資銀行部門は昨年9月、銀行の形態に変わりました。証券会社と銀行の大きな違いは、米国では証券会社はSEC(証券取引委員会)が監督している。銀行はFRB(連邦準備制度)が監督している。SECは市場の公平性やインサイダー取引の有無などを監視していて、必ずしも証券会社の経営を監督していませんでした。それに対して、FRBは銀行の経営を監督しています。SECは公平性を見ていたけれども、会社としての健全性を見ていないので、「監督不行き届きではないか」という大きな批判を受けたわけです。結局SECがFRBに統合する前に、投資銀行がみんな銀行になりました。昨年は投資銀行がウォールストリートからいなくなった年です。

今回のバブルについては、マスコミ的には、「金融機関の倫理観の欠如」がホットトピックになっていますが、少し客観的に見てみましょう。バブルが発生するのは、資金を必要とする人とそこに資金を出す人、この両者がいるからですよね。今回の主人公は特に米国の個人でした。貯蓄が文化の日本とは違い、米国では消費が文化です。それでも以前は年収までしか消費できなかった。ところが2002年くらいから住宅の市場価格がどんどん上がってくる。家を持っていると、その家の価格が上がる。つまりP/L(損益計算書)は変わらないが、B/S(貸借対照表)での資産価値が上がって、上がった分も使える。米国の個人の間で、「家を持っていると年収よりもお金を使える」ということが、段々と浸透していってしまった。実際に、「運転免許証のような身分証明がなくても、家を買おうと思えば審査が下りる」ぐらい、杜撰な状態でした。

そんな資金ニーズに対して、どうして資金が供給されたのか。通常ならそういう人には、銀行は金を貸さないはずですよね。証券化が背景にあります。ローンを組んでも銀行がすぐ証券化してほかに転売すれば、銀行としてはリスクがなくなります。それまで銀行が自身でB/Sのリスクを負って貸出をしていたのが、B/Sのリスクを負わなくても貸出ができるようになった。そのため、たがが緩んでしまったわけです。

証券化したものを誰が買うかというと、非常に低金利で金が回っていたところや、石油で儲かっていたところです。そういったところから、リスクマネーがどんどん供給されました。しかもその先にヘッジファンドがあり、デリバティブの市場が非常に大きくなった。金余りの中で、しかも通常の自分の資金だけではなくて、さらに何倍もお金を増やして投資した。その結果非常に大きなバブルが発生してしまいました。

当初これは、レバレッジ・貸出しの急速な収束というところから、信用不安が起こり金融危機になりましたが、とりあえず金融危機の状況はリーマン・ショック前くらいまで収束しています。日々の株価のボラティリティ、クレジット・スプレッドと呼ばれる負債金利などが収まってきているんです。

問題は、過去数年間、米国の消費者が自分の年収より多く消費することでGDPが成長していた。それを踏まえて供給のキャパシティをつくってしまったことです。これからは米国人が過剰消費をしない中での供給になるわけですから、今後深刻な問題になってくると思います。4〜6月期で景気が落ち着いたと思っている方が多いでしょうが、これは減産し過ぎたことによって在庫が足りなくなったので、取り戻すために工場がまた稼働し出したという短期的な復活です。根本的には米国の個人消費が戻らない限りは、中国に頼るしか、グローバルな供給が過剰になっている状況は解決できません。これはかなり根が深い問題だと思っています。

巨大なリスクマネーの登場で、一気にルールが変わってしまった(朝倉)

朝倉:私はこの7月の後半から、産業革新機構のCOOになる予定です。産業革新機構は、環境エネルギーや医薬分野など、高い成長が期待できる研究開発の事業化を支援する官民出資の画期的な政府系の投資会社です。政府保証もあわせると最大9千億円という投資能力を持ち、日本の産業競争力向上につなげるという革新的なチャレンジです。6月末までの約8年半は、カーライル・グループにお世話になりました。その前はグロービス・キャピタル・パートナーズの前身、エイパックス・グロービス・パートナーズにいました。通算10年間、投資ファンドで仕事をしています。その前は15年、日本の伝統的な商社で仕事をしていました。

現状の金融情勢について、投資ファンド的な観点からお話しします。サブプライムローンがきっかけとなっていますが、おそらくあれは問題の根本ではなく、一つの現象でしかないと思います。もっと本質的なところに問題があります。その問題が蓄積しつつあるということは、金融業界関係者は2年前くらいから知っていたでしょう。

我々投資ファンドの業界でいうと、2007年頃に巨大なリスクマネーが日本にも入ってきました。投資ファンドの巨大化が始まったのです。03年以降はいい投資ができていましたが、巨額のお金が入ることによって、一気にゲームのルールが変わってしまった。結果として、08年、09年に金融危機を招いたのではないかと思います。

投資ファンドそのものが今後どういう方向に向かうかは議論の過程ですが、今やっていることは、「投資の判断基準を厳しくして、新規投資のスピードを落とす」。はっきり言って、それ以外のアイデアが出ていないのが現状です。日本の金融業界は海外に比べると傷が浅く、まだ健全な状況にあると言えます。しかし、私が個人的に心配しているのは、この金融危機の結果、日本の産業全体が大きなダメージ受けたことです。金融は確かに重要な機能の一つを果たしていますが、日本全体を考えた場合には、企業活動そのものが停滞してしまった事態は深刻です。これを解決していかなければならないということが、現在の最大の課題ではないかと思っています。

バブルや環境問題など「合成の誤謬」という矛盾がある(渋澤)

渋澤:ここ1年くらい、「グローバル資本主義」という言葉が流行っていますが、悪玉論が展開されています。私は20年以上、グローバル資本主義の中にいるプレイヤーとして、それはちょっと違うのではないかと感じています。要するに資本主義は手段であって、それに良い悪いはないと思います。

私自身は円の金利やデリバティブのトレーディング、為替のオプションのディーリング、株式のデリバティブ、それから自分の会社でオルタナティブ投資の分野のアドバイザリーをしてきました。コモンズ投信は、ちょうどリーマン・ショックのあった昨年9月から改名してローンチした会社です。

コモンズ投信について若干説明させてください。市場からは「日本の資本市場には長期資金が欠如している」との声をよく聞きます。経営者の方々からも、「株主が短期的な収益を目指しているので、経営まで不安定になりがちだ」との声が聞こえてきます。日本には、1500兆円もの個人金融資産があります。その大切な資源が、日本の将来の原動力になる民間企業の発展のために使われていないことは、もったいないかぎりです。ここに工夫の余地があるのではないか、という想いを持ったメンバーが集った独立系投信会社です。

投資信託を通じ、一般の生活者の皆さんにとっては、優良企業を具体的に応援・サポート出来る関係を、また、企業にとっては、長期資本を提供する生活者の方々との長期的な関係の構築を支援しています。これまでの金融業界にないユニークなモデルになるはずです。

グローバル資本主義が機能するには、三つの「共通言語」が必要ではないかと思います。一つは数字。数値化できることが大事です。二つ目は効率化。資本主義社会において、生産性を高める意味での効率です。三つ目が成長。投資するには、当然のことながら成長が必須条件です。ところが、この三つの「共通言語」の中に限界があり、その限界を知るべきではないかと最近、感じています。

一つ目の数値化について。例えば自分の価値を出すとき、体重、身長、IQなど一部は測れますが、全ては数値化できませんよね。つまり、見える資産と見えない資産がある。見えない価値のうち、なかなか数値化できない価値がある。例えばリーダーシップやコミュニケーション、企業文化など。我々は数値化できないところにも、企業の価値があると考えるべきです。

二つ目の効率化による生産性についてです。昨年のリーマン・ショック、サブプライムローンは、個々のプレイヤーが合理的、効率的に動き、収益性を上げようとした。ところが個々が効率的に動いても、必ずしも全体が効率的、合理的にはならなかった。いわゆる「合成の誤謬」という矛盾があることを、我々は認識すべきです。効率化・合理化して生産性を高めることにこだわり過ぎると、ショックに脆い面があると思っています。

三つ目の成長についてですが、実は自分自身がまだ整理できていません。例えば投資の立場では成長は必須です。極端な話、投資先の企業が収益性を10年後、20年後、30年後の成長まで先取りし、株価が上がり、エグジット出来れば、投資という観点では問題ありません。従来の投資の考え方ではエグジットを意識するので、なるべく収益を先取りしようとします。

しかし、ゴーイング・コンサーン(企業の存続可能性)の観点からすると、収益をすべて先取りするのはどうなのか。もう少し大きな話をします。例えばこの世界から戦争がなくなり、パンデミックがなくなり、飢餓がなくなるとすると、人類がどんどん増えますよね。これが地球の自然にとっていいのかという問題があります。日本は過去の20年くらい成長していないからダメだと言われます。そして経済成長をするために、人口を増やそうという話もあります。しかし逆から考えれば、人口が減るということは、成長の必要がないのかもしれない。維持さえできればいいのかもしれない。ちょっと整理できていないのは、これほど国が大きな借金を抱えている中で、経済的成長がないというのはさすがにまずいかなと思うからです。経済成長というのは、ある意味で投資や資本主義を考える大前提になっていましたが、果たしてそうなのかというのが、自分に対して今投げ掛けている問いであります。

廣瀬:今日この会場には、金融セクターで働いていらっしゃる方がかなりいらっしゃると思います。私自身も、最初は新生銀行という名前に変わりました日本長期信用銀行にいて、次にAIGという会社で働き、結果的に個人として、公的資金を受ける仕事を人生の中で2回も経験しています。愛着を持っている金融業界の大きな変化を身をもって体験してきました。その変化に対する評価は、きっと後世になってわかるでしょう。

山田さんの話の中では、資金を出す人と資金を使う人をつなぐのが金融で、金融が過剰な流動性を持つシステムをつくってしまったという構図が見えました。朝倉さんの話は、日本の金融業界への傷は浅いけれども、産業全体のダメージが心配だということ。渋澤さんは、例えば効率性・生産性を高めたり、投資して成長することは重要だけれども、それには限界があり、例えばバブルや環境問題などの合成の誤謬を避けられないという話をされました。それでは、金融の本来あるべき姿はどんなものなのか。そもそも金融とはどういうものか。それぞれのお考えを伺いたいと思います。

日本はリスクマネーのバラエティが少ない(朝倉)

朝倉:ビジネスサイドから金融を見てみたいと思います。金融と事業は表裏一体です。ちゃんとした金融機能がないと、企業活動ができないわけです。それから市場メカニズムの大原則として、金融市場から大事な情報が伝わってくるという事実があります。金融市場というものを、常に経済界がまっすぐに受け止めなければならないということでしょう。しかし金融システムそのものは、必ずオーバーシュート(=相場が予想外に大幅な変動を起こすこと)をする性質を持っています。米国では、「金融システムはオーバーシュートをするものだ」という前提があります。型にはめない。「オーバーシュートすることによって、またバランスを取り戻す」という考え方をとっている。一方で日本の金融システムは、「オーバーシュートさせず破綻させない」という考え方だと思います。この二つの金融の考え方があるわけです。

企業活動から見たとき、果たしてどちらがいいのか。日本企業は、管理された金融機関を前提とした企業財務戦略をとっているのが伝統的な形でしょう。これが本当に、日本企業の成長性につながっているのだろうか。戦後から1990年代までの成長期においては、この金融システムと日本の経済成長はいい関係で動いていました。ところがその後の20年、日本の金融システムが日本企業のためになっているのかどうか、少し考えてみる必要があろうかと思います。具体的に言うと、リスクマネーのバラエティが日本には少ない。金融が自由に設計できる米国には、多種多様なリスクマネーがあります。日本には非常に単純なリスクマネーしかないということで、これが企業活動を制限しているのではないかと、個人的には危惧しています。

端的な話をすると、グローバルなオーバー・キャパシティ(過剰負債)の問題。これがエクイティのフィールドでは、非常に明確に伝わってきます。グローバルな投資ファンドが投資先に求めることは、キャパシティのダウンサイジングの中で、キャッシュフローをいかにつくるか。それに対応して、米国は非常に早いスピードで、産業の再生が行われている事実があります。これは米国人がそういう意識を持っていることだけではなく、米国の金融システムがそうさせていることは間違いありません。翻って日本はどうなのか考えると、そういう大きな動きが金融業界から産業界に伝わってくることはあまりない。特に最近はグローバルな投資ファンドが、どんどん日本から撤退しているので、まったくそういうメッセージが、グローバルな金融市場から伝わってこなくなっています。私自身はそれを危惧しています。

廣瀬:ちなみに朝倉さん、日本では柔軟なリスクマネーを提供する仕組みがないというお話でしたが、そういう土壌が生まれない背景、理由はあるのでしょうか。

朝倉:先ほど申し上げたように、日本の金融はオーバーシュートさせないことが前提です。新しいアイデアがあってもそれをビジネスにしにくい環境であることは間違いありません。ウォールストリートでは、世界中からエッジのとがった、スマートな人間を集めて、とにかく好きに考えて儲かる仕組みを提案するよう、自由な発想のもとでいろいろなものが生まれてくる。したがって、金融監督当局よりもプロダクトの開発者の自由度が高いので、どんどん新しいものが出てきます。しかし集中管理型の日本の金融市場では、そこまで自由にプロダクトを出せません。

リスクマネーの主役は個人だ(渋澤)

渋澤:去年の秋くらいに、米国人のビジネスパートナーがこう言いました。「逆境には何か絶対に意味がある」。バブルは常に起こり得るものだけれども、次のステージに行くときの示唆があるのではないかと思っています。本来あるべき姿という質問については、理想論かもしれませんが、リスクマネーのダイバーシティという観点では、その主役は誰かというと、個人だと思います。

グロービス経営大学院のあすか会議に参加するのは今回が初めてですが、皆様から非常に熱いものを感じます。一人ひとりが優秀ですが、そういう人が組織に戻ると、「どうしちゃったのかな」と首を捻ることがあります。埋没する。組織の中では一人ひとりのパッションが出しにくい。でも個人ということで言うと、自分が王国の主ですから、それを表現することができます。

これまで私の仕事は大口投資家・機関投資家向けだったものが、今は個人投資家向けの仕事となりました。前は100億円、1000億円単位でしたが、今は1万円のお客様もいます。「これは川下に来てしまったのか」とふと思ったことはありましたが、「逆ではないか。私は川上に来たのだ」と思い直したんですね。

どういうことか。私の祖父の祖父に渋澤栄一という人物がいます。日本で最初に銀行をつくったといわれている人です。その銀行を開業したのが、明治6年のことですが、当時銀行が存在しなかったわけですから、銀行がどういうものか世間に伝える際に、こういう例え話をしたんです。「銀行に集まってこないようなお金は、ポタポタ垂れているしずくと何ら変わらない。銀行に集まってくるお金は、大河になって国の原動力になる」。それが栄一の描いた、銀行間接金融の話です。

栄一が「ポタポタ垂れているしずくのような」と表現したお金は、先程言った、「長期的な時間軸を持てるような」お金になり得ます。説明責任がありますから、金融機関にはできません。金融機関は、生命保険であろうと年金基金であろうと、法律上、自分の行動を常に誰かに説明しなければならない。でも個人なら自分の判断で出来る。パッションをお金に変えられる。「これでいい」という想いさえあれば、自分だけで判断できますよね。今年、来年、再来年といった短期的な収益は求めなくてもいい。投資先を信じる。「伸びていってほしい」という想いを、お金で投資できるのは、個人ではないかと思っているんですね。

あるべき姿として期待しているのは、個人の一人ひとりの想い。個人は色々な想いを抱えているので、自然と多様化する。資本主義で大切なことは、正しい、間違った価値観はないということ。多様な価値観が自由に参加できるということが、健全で深みのある市場につながると思っています。

廣瀬:日本の戦後の歴史を見ると、預金を通して、国から統制された銀行が、伸ばしたい業界に対してお金を流していく。そうして日本は成長を続けてきましたよね。個人が責任を持って、パッションによって自分たちでお金を投下していこうということは、自己責任を伴うわけです。熱い想いを持った人はともかく、全体の流れに変えていくのは難しいことのように思えます。その中で、誰が何をしていくべきなのか、ご意見があればお聞かせ願えますか。

渋澤:やり方はいろいろあります。戦前は情報が我々国民の手元には来ませんでしたが、今の時代、世界の情報が検索するだけで手元に来るわけです。情報の差が、昔と比べて極めて少ないですね。

集まってきた情報を選別したうえで、自分なりにストーリーメイクをするというのが現代の投資のあり方かなと思います。それでも「そんなことはできない」と思う人は当然いるでしょう。そのときファンドというのは、見えないものを見えるようにする役割を持っている。個人投資家向けもそうだし、プライベート・エクイティのような一般の人ではアクセスできないようなものもあり、選択肢の幅も広いです。そういう意味では、自分の感性に訴えるような、ナビゲーター、ファンドに投資するのも、一つの考え方ではないか。

株主価値の極大化は本当に企業の使命なのか(山田)

山田:今考えなくてはならないのは、一つは金融機関のあり方。もう一つは「株主価値を極大化することが会社の使命である」という考え方。この二つが見直されるべきでしょう。

私はグロービス・マネジメント・スクールでファイナンスを教えていますが、受講生もやはり、「会社の使命は株式価値の極大化」というフレーズに違和感を持つようです。近視眼的になっていることが一番の問題です。なぜ近視眼的になるかというと、報酬が単年の成功報酬になっている。するとボラティリティが大きければ大きいほど、儲かってしまう。そうするとどうしても倫理観を歪めていく。「株主価値の極大化が使命」とは言っているが、自分の短期的な収入の極大化になってしまうわけです。

よく説明するときこんな言い方をします。「会社は誰のものかというと、それは株主のものです。ただし、会社は誰のためのものかと聞かれたら、これは株主だけのものではありません」と。株主価値以外の価値を評価する機能を、金融機関としても力を入れていかなければならないと思います。

金融機関のあり方については、資金のニーズと資金の出し手をつなぐことが主な役割です。ちょうど商社・卸売り会社に、中間的な決済権があるように、金融機関もお金の決済権を持ちます。例えば商社の重要な機能の中には、その商品を評価することがあると思います。この評価する機能が、金融にも求められていると思います。

金融機関には、間接金融と直接金融があります。間接金融は、銀行が自分でリスクを取って貸す。直接金融は、証券仲介業務のように、投資家が直接リスクを負う。この二通りです。今回の金融危機の背景には、米国での間接金融から直接金融への急激なシフトがありました。証券化にシフトしたことで、投資対象のリスクを分からない人が買っている。サブプライムという実はかなりリスクが高い商品に、格付け会社がトリプルA評価を出したりした。投資家はこの格付けに安心して、投資をしてしまった。

リスクをちゃんと評価してくれる人が不在だったわけです。間接金融の銀行であれば、投資対象のリスクを評価して、きっちりと貸す。直接金融であれば、投資対象のリスクがどの程度あるのか、ちゃんと評価して投資家に伝えていく。そういうことが必要です。

資源をいかに配分すれば、最も世の中が良くなるか。共産主義は、国家が資源を統制して振り分ける方がいいという前提だった。資本主義には、市場に任せておけば効率的に資金が配分されるだろうという前提があります。しかし、市場の中にきちんと評価をする人がいて、お金の流れをつくることが重要です。そこは改めて認識すべきです。

最後に日本のことを言うと、日本には米国に比べて銀行の数は非常に少ない。その結果として、大企業と中小企業への貸出しの資金の大きさがかなり偏っています。例えば、米国では大企業に勤める人と中小企業に勤める人の賃金格差は、1対0.8くらい。対する日本は、1対0.6くらいです。つまり、中小企業にお金が流れていないということです。

銀行に過度の期待をすることは困難です。貸出しやローンはアップサイドがないけれどダウンサイドはあります。株はアップサイドもダウンサイドもある投資法です。同じ企業に融通するのでも、アップサイドのあるやり方でないと、なかなか中小企業に投資しにくいものです。そういう意味では銀行に期待するよりも、制度的にベンチャー・キャピタルなどを大きくするべきではないでしょうか。

廣瀬:「株主価値の最大化が企業の目的とは限らない」という話がありましたが、朝倉さん、渋澤さんに伺いたいと思います。お二人の立場において、何を企業の一番重要な目的と捉えて、これから仕事をしていきますか。

朝倉:「株主価値を究極の目的にするかどうか」という議論がありますが、株主価値を意識した経営はしなければならないと思います。会社の価値を測る一つの指標にはなりますから、これを意識した経営をすることは大事です。しかしそれ以外の要素も重要で、一番大切なのは、企業が持っている技術やアセットを、最大限に活用し、長期的に維持していく意識。これが企業活動において一番重要なことだと思います。もちろんその中には雇用という要素もあります。ただ何か一つのために会社があるわけではないので、人的資産も含めてアセットの効用を最大限引き出すということが企業業活動のミッションでしょう。その結果として、企業がどういう状態にあるかという“通知表”には、株主価値という欄があることを忘れてはいけない。株主価値を無視する経営はあり得ません。

渋澤:補助線を引きます。1970年にミルトン・フリードマンが有名な論文を出しました。「会社の目的はただ一つ、プロフィット・マキシマゼーション(利益の極大化)だ」という内容です。社会貢献などは、個人個人ですべきであるということです。これは効率的・合理的な考え方だと思います。

一方で数年前、グラミン銀行のモハメド・ユヌス氏がノーベル平和賞を受賞しました。彼はこう言います。「企業は多様な世の中に存在する。プロフィット・マキシマゼーションがすべてではない」。

考え方が20世紀と21世紀で変わってきているのだと私は感じています。20世紀は基本的に産業革命の延長として、生産性・効率性の向上によって、先進国がおおむね同時に豊かになってきた。21世紀になると、日本のように成熟した社会もあれば、インドや中国のように成長している社会もある。アフリカ諸国や南アジアのように、成長はまだ先だという社会もあります。しかし、情報は先程言ったように、どこでも同じようにパソコンに届くわけです。したがって、非常に多様で混沌とした世の中です。

フリードマンの説は20世紀モデルです。21世紀モデルというのは、もっと多様だと思うんですね。自分が株主であれば、プロフィット・マキシマゼーションを会社の目的にしてもらいたいと思うでしょう。しかし従業員であれば短期的な収益よりも、長期的に持続し続けることを望むでしょう。地域の住民からすれば、工場などを存続してほしいと願うかもしれません。ステークホルダーごとに色々な視点があり、どれが一番正しいのか、はっきりいって分からないです。おそらく答えはないでしょう。

山田:「株主価値の最大化」というのは、背景に米国独特の宗教観もあります。儲けた後でその利益を寄付するという習慣ですね。一旦儲けて、後で社会に還元しようということです。つまり会社の活動の中でするのか、それとも儲けた後に個人で寄付するのか、という思想の違いがあります。米国の会社がまったく社会還元を考えていないわけではない。倫理観が違うのです。

ただ米国の会社というのは歴史が長いようで短い。ゴールマン・サックスのような歴史ある会社であっても、高々140年です。一方日本の企業には、何百年もの歴史があり、その中で、商人道や武士道などが身に付いてきているわけです。そこから欧米企業が学ぶべきことは多くあります。

一方で日本企業は、株主価値を知らなさ過ぎる面があります。海外の投資家たちは、リターンを生む投資先と日本を捉えていない。年金基金なども、エマージング株を多めに持つ動きにどんどんシフトしてきています。リスクマネーが日本から離れているという現実を直視した時、やはり株主価値をもっと意識すべきと言わざるを得ない。

子供や孫のためにも、時代を超えた投資をしよう(渋澤)

廣瀬:今日は会場に皆様から、たくさん質問してもらいたいと思っています。その前に、会場の皆さんへのメッセージをそれぞれお願いします。

朝倉:今日お集まりの方は金融セクターの方が多くいらっしゃることと思います。金融の本質はリスクです。金融業に携わる人は、リスクを取らなくてはなりません。ただ、金融の知識というのは、金融業以外で活かされる可能性があります。金融の知識を持った方が、産業界の中で役割を見出していく例も多くあります。企業活動の中で金融の知識はマストだからです。金融のあり方を考えたり論じたりすることももちろん大切ですが、金融知識をどう生かすか考えると、非常に大きな可能性が見えてきます。思い切った人生のチョイスをして欲しいと思います。

渋澤:私が立ち上げたコモンズ投信には、三つの特徴があります。一つ目は、30年の先を見据えた投資。これは気の遠くなるくらい長い時間軸を伴いますが、自分の子供や孫のためにも、時代を超えた投資をしようということです。要するに金融でもストーリーメイクができるわけです。二つ目は、日本株。しかし、30年の目線でインデックス投資を持ちたいかというと、私は持ちたくありません。ストーリーがないし、魅力を感じないんですね。私の期待としては、上場企業4000社くらいの中で、30社くらいは30年後もキラリと光って、世界の舞台で価値を出し続けてほしい。その応援の意味も込めて、投資をしたいんです。三つ目は、対話。これもストーリーメイクです。「モノを申す株主」というのがここ10年くらいで、キーワードとして浮かび上がってきました。しかし、モノを申されると疲れます。でも、モノを申す側も疲れてしまうんです。だから数年前にはバリバリモノを申していた人たちのほとんどは、今他の事に目が向いていますよね。

企業には、経営者や従業員と消費者など多くのステークホルダーがいる。そこで対話すれば、企業価値を高めるための、一つのきっかけが見つかるかもしれない。だから対話を特徴としているんです。「一緒に30年後までのストーリーメイクをしましょう」ということです。30年後のストーリーをつくるために、一番大事なのは今日です。今日を積み重ねることで、30年後ができるわけですから。今日という日がすごく大切だということが、私からのメッセージです。

山田:ビジネス的に言うと、渋澤さんと一緒で、日本株は全体ではなく厳選しなければならないと思います。会社の資本や利益というのは、平均するとGDPの成長率とほぼ一致するという話があります。先進国全体で、今後の実質のGDPの成長率が2%。エマージングが7%で、グローバルで4%です。その中で実は日本は2%に満たない。GDPが成長するのは、生産性が上がるか、人口が増えるかのどちらかが要因です。これから労働人口が2050年までに30−40%減ると言われている日本で、人口減を上回るような生産性上昇が起こるかというと、マクロ的には厳しい。

ただもう一つは、利益などファンダメンタルのブレに対して、株価はもっとブレる。つまりファンダメンタルに対しての「評価」が非常にブレるんですね。ファイナンスの中で、例えば割引率という数字がありますが、これが世の中でブレています。バブル時は「低い割引率で投資しろ」となり、逆に信用不安に陥ると、「高い割引率でないと投資できない」となります。同じキャッシュフローでも、評価がまったく変わる。だから、企業価値を見るときには、ファンダメンタルな業績と、その評価を、区分けしながら考えていくのが重要です。そこを持ち帰ってほしいですね。

廣瀬:私が壇上で思ったのは、適切な判断による投資が国を豊かにすること。あるいは経済をしっかりさせるには、適切な情報開示とそれに伴いリスクマネーがしっかりと供給されることが必要ということです。おそらく20年、30年前と、金融のあり方が根本的に変わってきたと、つくづく感じました。日本としての金融モデルを、どうつくっていくのか、しっかりと考えていくべきだと思っています。会場の皆さんは、どうお考えでしょうか。

リスクマネー供給を米国民に頼らなくてはならない日本の現状(朝倉)

会場:渋澤さんのまとめの話の中で、30年後のストーリーをつくっていこうというものがあり、共感をしました。個人の投資がこれから重要ではないかというご意見でしたが、私もまったくその通りだと思います。もし個人の投資が盛んになるようなアイデアがあれば、ぜひ教えていただきたいです。

渋澤:ストーリーメイクの考え方は、自己責任というより、自己表現です。自分のストーリーを表現しましょうということです。その表現に辿り着くために、何十億も掛かる話ではありません。我々の場合は、スポットで1万円から購入できます。生命保険の引き落としのように、毎月3千円から積み立て投資もできます。金額面で個人が金融商品にたどり着けないということはありません。

我々が苦心しているのは、「証券会社を使いたくない」という意識がまだ根強いこと。これまで日本の投信の役目は、販売会社がいて、販売会社が売れるというものを供給することだったんですね。手数料をもらうことで成り立つビジネスモデルです。必ずしもファンドマネージャー自身が、心からいいと思っているファンドではなく、売れるファンドを提供しようというのが、大雑把に言えば従来型の投信会社ではないでしょうか。

我々はなるべく、直販でいこうとしています。この直販には、コモンズ投信のウェブサイトにアクセスすればたどり着けます。販売会社を使っていませんが、北海道から沖縄県まで、鳥取県を除いて全国網羅しています。指先を動すだけ、というビジネスモデルです。

会場:朝倉さんに質問です。日本の資本主義というのは、基本的に銀行が産業機構の大きな役割を背負ってきたことは異論がないところです。しかし、私が銀行系のファンドマネージャーと会うと疑問に思うことがあります。株主が銀行であるためにリスクマネーを取りきれていない。他人事のように発言をするファンドマネージャーが非常に多くいます。ここに日本の制度としての資本主義の限界があると思います。状況を変えるためには、個人が重要だという話は、とても理解できます。しかし例えば個人のファンドマネージャーが立ち上がったとしても、そこにリスクマネーを供給してくれる、例えば外資系のプレイヤーなどが引っ張るための制度が浸透していない。何か解決策はありますか。

朝倉:確かに投資ファンドと一口に言ってもいろいろあります。プライベート・エクイティ・ファンドに関しては、ご指摘の通り大きな金融機関の一部門として行う場合は限界があるということで、なるべく専業の組織で行う必要がありますね。そのような専業をつくったとしても、資金の貸し手、即ちリミテッド・パートナーと呼ばれる人たちがどういう人たちかによって、当然のことながら投資判断は影響を受けます。

非常に残念なのが、日本の場合はいわゆる独立系ファンド、あるいは外資系ファンドに資金を提供しているのは、中東のソブリン・ウエルス・ファンド(政府系ファンド)もありますが、米国のペンション・ファンドが圧倒的に多いわけです。それも二つあって、一つはパブリック・ペンションと呼ばれる公的機関の年金ファンド。最も有名なのはカリフォルニアのカルパース(カリフォルニア州職員退職年金基金)です。もう一つは、企業年金。例えばGMのペンションなどは、実は大きな資金をファンドで運用しています。これらは米国市民のお金ですから、明確なメッセージを持っています。つまり、米国以外の国に関しては、とにかく儲かる案件以外は一切投資する必要はないということです。リスクマネーを米国の国民に頼らなくてはならないということが、今の日本の状況です。これを解決しないと、日本自身の経済成長が阻害されることにもつながります。

会場:私は某都市銀行に勤めておりまして、自戒を込めての質問をいたします。日本の産業構造が硬直化しているということで、一つの解決策がベンチャーだと思っています。日本にベンチャーが活性化していませんが、それはなぜなのか。これは官庁の縦割りの弊害なのか、気力が出てこない国民性そのものに問題があるのか、市場制御があるからなのか。二つ目は、明治初期に渋澤栄一さんが無から有を生み出した。銀行がなかった時代に、銀行という制度をつくった。では、ベンチャーを活性化するベンチャー・キャピタルなどの延長線上ではなく、まったくなかったものから何かを生み出すイノベーション、そういうものはできないものでしょうか。

会場:私はものづくりの企業で現場側の立場にいます。廣瀬さんの話を伺ってきた中で、適切な投資のためには、適切な情報開示と判断基準を持って投資しなければならないというご指摘がありました。判断基準はどちらかというと、金融業界が示すものでしょうが、適切な情報開示は金融を利用して価値を上げていく我々企業側が行わなくてはならないと思っています。先般、JSOX法(日本版SOX法)適用の内部統制を調査したところ、適正意見が出されなかった企業が日本では2%あり、米国では13%あったとの報道がありました。

日本に経営者にはまだ、所有と経営が分離されてないような意識があって、内部統制やJSOX法を推進すると、外部監査法人の言いなりになりながらも、なあなあの関係でやっていると思います。だからこういう開きがでる。そういう状況の中で、外部監査法人は本質的な企業価値を上げるために、どのようにコントロールすべきかを見ていない。これを防ぐための内部統制のあり方を、そろそろ確立していかなければならない時期に来ているのではないでしょうか。その観点で、日本企業の課題を聞きたいと思います。

朝倉:ベンチャーに関しては、定義をめぐって様々な見方があると思いますが、日本に戦後できた会社はみんなベンチャー企業だったわけです。だから決して、日本はベンチャー企業ができにくい国だとは思っていません。間違っていけないのは、米国のシリコンバレーを意識すべきではないということです。あそこは米国の中でも特殊で、実験場のような環境です。米国にはシリコンバレー型ではない、普通のベンチャー企業はいっぱいあります。そしてそういうところにファイナンスしている、ローカルのベンチャー・キャピタルもいっぱいあります。むしろこちらのほうが、日本にとってはずっと参考になるでしょう。要するに、世界を席巻する技術を持たないとベンチャーにならないという考え方は、間違っているということです。そういう場所は米国の中でも、シリコンバレーにしかありません。だから、もっと広くベンチャー企業を捉えるべきです。ただし前提条件となる、ベンチャーを支えていくリスクマネーの投資の仕方や、支えていく社会的認知はまだ足りたいことは確かですね。

コンプライアンスの情報開示について言えば、これは本当に大きなイシューの一つだと思います。日本の場合、ルールが分かりにくい。日本独特のルールがあって、投資家からすると分かりにくいということがあるわけです。しかし、いわゆるパブリックな会社の情報開示と、ノンパブリックな会社の情報開示は全く意味が異なります。私自身は、主にノンパブリックな会社に投資する仕事をしています。正直言うと、監査法人のコメントやリポートは重要ですが、それは一つの参考資料でしかありません。会社を自分の目で見に行くことが必要です。我々が投資するときには、必ず会社や工場に行って、自分の目で確かめるし、経営者の顔を見て、その会社の匂いを嗅ぎます。肌で感じるということが、投資にあたってとても重要です。やはり与えられた情報+αを見つけにいくことを、あらゆる投資活動で大切にしなかればなりません。

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