特別セミナーの基調講演では、エアバス・ジャパン代表取締役社長兼最高経営責任者(CEO)であり、世界で最大の民間航空機の製造メーカーであるエアバス本社の上級副社長であるグレン・S・フクシマ氏が登壇した。講演は、ビジネス、政治、アカデミズム、法律、ジャーナリズム等、自身の様々な経験を反映した多くの話題に及んだ。フクシマ氏は欧州に活動の拠点を置き、80以上の国の5万7000人の社員を抱えるエアバス社の幹部である事で、ビジネスにおける真のグローバルな視点を持つことができたという。
フクシマ氏は、グローバル化の原動力の主要因について述べ、いかに日本がその現実に最善を尽くして立ち向かっていけるかについて論じた。
まず、グローバル化を動かす6つの大きな要因をあげた。
(1)市場の力の増大と政治上の境界線の縮小(1989年11月のベルリンの壁崩壊に象
徴されるように、冷戦終結がもたらしたものといえる)
(2)利用者、顧客、消費者の力の向上(需要サイドの要因)
(3)国際的な産業が躍起になって実施している合弁、買収、整理統合(供給サイドの
要因)
(4)政府の政策(規制緩和、通商協定、投資ルールなど)
(5)技術革新(情報技術、輸送機関、物流などのめざましい進歩による)
(6)労働市場の変化(高まる流動性、多様性、専門化)
フクシマ氏は、これらの要因によって突き動かされているグローバル化が、政府、企業、そして個人に対して、新たな課題を提示していると話す。特に日本にとっては、世界で通用する人材の採用、成長、維持が重大な挑戦であると唱える。日本が世界市場において競争していくためには、従来の指導者予備軍である60代までの男性だけでなく、女性や年配者、そして非日本人などの労働力をより効果的に活用する必要があると強調。日本は世界規模の“才能の争奪戦”に遅れを取らないよう、対策を講じるべきと話した。
またフクシマ氏は、教育が国際的リーダーを育てていくための鍵を握るだろうと語った。日本の教育機関や民間企業は、学生や被雇用者が世界で戦うためのプログラムを提供するべき。理論的、分析的、戦略的に思考するためのトレーニングはもちろん、多様なバックグラウンドを持つ人々への説明の仕方、説得の仕方、ディベートの仕方、有意義な質問の仕方などのコミュニケーションスキルのトレーニングも必要だ。日本は国際会議での“3S”(スリープ、スマイル、サイレンス)の評判をなくさなくてはならない。そして、最低一つでも外国語が流暢である事がグローバルビジネス成功の必須条件である、と話した。
講演に続いてフクシマ氏とグロービス経営大学院学長の堀義人による討論があった。国際的リーダーが直面する挑戦について、そして文化の違いを乗り越える最適な方法について話し合った。2人は、国際ビジネスの成功に不可欠な「グローバルな物事の考え方」は、早い年齢から頻繁に異なった経歴や文化を持つ人達の中に身を置くことや、国境、政治の枠を越えた、新しく刺激的で、やりがいのある職業や教育の機会を持つことが鍵であるという結論に至った。