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洋画家・岡野博氏―心を空っぽにすることから個性は生まれる(あすか会議2006「文化芸術」)

投稿日:2007/07/09更新日:2019/04/09

グロービスMBAプログラムの受講生が集う「あすか会議」。2006年7月8日から9日にかけて開かれた第2回あすか会議では、文化芸術をテーマに、一流のアーティストに生き方や一流であるためのスタンスを尋ねるセッションが催された。ここでは、洋画家の岡野博氏の講演録を掲載する。

本記事は2006年に開催された、第2回あすか会議のレポートです。2007年7月7日より開催された、「あすか会議2007」のレポートについては、7月下旬頃より順次掲載を予定しています。いましばらくお待ちください。

「絵描きになる」と決めた学生時代 自分のスタイルが確立できずもがく

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画家になったきっかけには、幼少期の良い師との運命的な出会いがある。絵画教室の先生であったその人は、子供が自由な発想で描くことに対し、度量を持って受け止めてくれた。私は学校の授業などで「もっと、こういうふうに描きなさい」と指示されることが非常に嫌だったので、絵画教室に行けばのびのびと描くことができ、嬉しかったのだ。

今でも忘れられないのは、初めて油絵の具を手にしたときのこと。小学生の私には、使った印象が強烈だった。水彩絵の具は、互いに溶けて混ざるため、色が濁ってしまう。ところが、油絵の具を使ったら、心にイメージすることが、そのままの色彩で表現できた。以来、油絵の具という存在が、好きで好きで仕方がない。

そんな思い出のある私は、卒業時の作文などにはいつも、「絵描きになりたい」と書いていた。高校3年生で進路を決定する際、やはり「絵を続けたい」と思った。しかし、美大受験をするための専門的な勉強をしてきたわけではなく、結局、2年の浪人生活を経て、武蔵野美術大学に入った。

入学して最初のうちは、やりたいと感じることと学ぶことの間にズレを感じてモヤモヤとした思いのまま過ごした。そんなある日、図書館で見たロシア人画家の絵に心を動かされた。非常に澄み切った世界観があり、私自身の心象風景としっくりくるものだと感じた。そのとき初めて「絵描きになろう」と本気で思った。ただ、「絵描きになろう」と思ったところで、なるための方法論があるわけではない。描いても描いても、そのロシア人画家の絵と同じスタイルになってしまい、自分のスタイルを確立できないでいた。そうこうしていて、あっという間に大学の4年間が過ぎてしまった。

外に出て自然に触れたことで 自分らしい絵を描けるように

卒業後、スタイル確立の糸口を求め、欧州を旅した。その際、「油彩をやるのであればフランスに住みたい」と考え、フランス国立装飾美術学校の壁画科に編入した。壁画科を選んだのは、教会などに見られる壁画のスケール観が、大好きだからである。フランスには旅をするのではなく、住みたいと思った。実際に生活をすることで、歴史や宗教観などから生まれる様々な想いが積み重なって出来たフランスの社会の本質を理解できるように感じたのだ。

フランス国立装飾美術学校に通い、学生たちと交流する中で、彼らが既に確固とした自分のスタイルを見つけていることに驚いた。自分自身と比べて、こうも違うのかと圧倒された。

当初予定していた2年間の滞在は瞬く間に過ぎてしまい、「ここで帰るのはもったいない」と結局、13年間もフランスで過ごした。

自分のスタイルは、ずっと探し続けていた。静物などの頭で考える絵を描き続けていた。だがあるとき、外に一度出てみようと思い、5月の自然に触れたことが突破口となった。自然界の作り出す美しさや、そこから感じ取るものが自分自身の作風の核となり、徐々に自分らしい絵を描けるようになった。

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私は、感性を磨くということは自分自身を「空っぽ」にすることだと考える。人間は元々個性を持っており、協調性とか社会通念といった阻害するものが存在するだけだろう。それら阻害要因を横に置いたプリミティブな心境が、個性を最も容易に出せる状態なのではないか。だからこそ私は、辛くなったら、描いて描いて描きまくる。そうやって、頭よりカラダで考えるような状態に持っていく。そのとき、今回のタイトルにある客観的な指標である「一流」を目指す感覚はない。アーティストは、自分自身の世界を掘り下げる気質を持っており、自分自身の能力を高め1歩でも多く前進させることで精一杯だからである。

余談ではあるが、世間でよく言われるように、私も海外に出たことで、日本をより深く理解できた。自分自身が日本人であることを強く意識するようになった。例えば、日本にいたときには全く興味もなかった小津安二郎の映画をフランスの映画館で上映されているのを観にいくと、隣の席のフランス人が感動して涙を流していたりする。そうした体験を経て、二国間の違いを意識すると同時に、共通項も見出せるようになった。共通項として思い浮かぶのは自然の風景。フランスは欧州の中では最も四季がはっきりとしている。印象主義が日本に早い時期に浸透したのには、そうした影響があるのではないだろうか。

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