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情報非対称ゲームの考え方: 情報不足を補うヒントを見逃すな

投稿日:2015/05/03更新日:2019/04/09

このシリーズは、グロービス経営大学院で教科書や副読本として使われている書籍から、重要パートを厳選して、抜粋掲載していく、ワンポイント学びコーナーです。

今回は、『グロービスMBAマネジメント・ブック』の「ゲーム理論・交渉術」章から「情報非対称ゲームの考え方」をピックアップしました。なにか取引を行う際、両者が同じだけの情報量を持っていることは稀です。情報が少ない立場のプレイヤーとしては、相手が発するさまざまなシグナルを注意深く把握し、それをヒントとして情報不足を補う必要があります。ただし、相手も本音を簡単には見せませんし、手の内を見せないように嘘をつくこともあるので、それを見極める観察眼や、駆け引きのずるさも時には必要となります。最も良いのは、お互いが相手を信頼し、信頼ベースの中でやり取りできるような関係を構築することです。

情報非対称ゲームの考え方

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【POINT】
情報非対称ゲームにおいては、一部のプレイヤーが情報面で他のプレイヤーよりも有利な立場にある。情報非対称のゲームの分析では、各プレイヤーが相手の行動パターンや現在置かれている状況について、いくつかの可能性を考え、それぞれに確率を割り出して考えることが必要になる。

◆情報対称ゲームと情報非対称ゲーム

これまで見てきたゲームでは、ゲームに参加するすべてのプレイヤーは、ゲームのルールに関して同じ情報を共有し、そのことを互いに承知していることを前提としてきた。こうしたゲームを「情報対称ゲーム」(Game with Symmetric Information)と言う。しかし、実際のビジネスでは、一部のプレイヤーが情報面で他のプレイヤーよりも有利な立場であることが多い。たとえば、商品売買では往々にして、生産者や販売者のほうが消費者よりも多くの商品情報を持っている。このようにプレイヤー間で情報量に差があるゲームを「情報非対称ゲーム」(Game with Asymmetric Information)と言う。

◆ビジネス現場における情報非対称ゲームの事例

「情報非対称ゲーム」の例として、銀行がベンチャー企業に無担保で融資をしようとする場合を考えてみよう。銀行は、将来この企業が貸金を収益弁済できるかどうかを評価しなければならない。財務諸表や会社見学、社長との面談などを通じて、銀行はこの企業の将来の価値を評価しようとするが、その会社の実力について、実際の経営者である社長と同程度の情報を持った状態に到達するのは難しい。

こうした「情報非対称ゲーム」では、情報面で優位なプレイヤーの行動(「シグナル」と言う)を見て、情報面で劣位なプレイヤーが優位なプレイヤーの持つ情報の中身を推測して戦略を選択する。このようなゲームを一般に、「シグナリング・ゲーム」(Signaling Game)と言う。シグナリング・ゲームは、「情報非対称ゲーム」の中でも最も応用範囲の広いゲームの1つだ。

仮に、ベンチャー企業の社長が「新規の投資プロジェクトに資金が必要だ」として、銀行に融資を申し込んだとしよう。このとき、社長自らがこのプロジェクトに資金を投入している場合と、自己資金はまったく拠出せずに銀行の融資のみに頼っている場合を比べると、銀行がより融資しやすいのは前者だ。自分の財産をリスクにさらすという行為が、そのプロジェクトは成功する可能性が高いという情報を社長が持っていることのシグナルになるからだ。したがって、情報面で劣位な銀行は、その会社の社長が自己資金を投入している場合は優良貸出先と判断して融資を行い、自己資金を投入していない場合は融資しないという決定を行う。このように情報の少ないプレイヤーの戦略が情報の多いプレイヤーの行動に応じて異なってくるケースを「分離均衡」(Separating Equilibrium)と言う。

しかし現実には、分離均衡が成立しない場合も多い。社長が自己資金を投入しさえすれば銀行は安心できるかというと、実際はそれほど簡単ではない。なぜなら、銀行から融資を引き出すには自己資金を投入したほうがよいと社長が知っていれば、融資の呼び水として自己資金を投入し、銀行を欺こうとするかもしれないからだ。銀行がその可能性を加味して、社長の自己資金の投入度合い(シグナル)が不十分だと判断した場合、銀行はその会社が優良貸出先か否かを判断できず、融資をしないという決定を行うだろう。このように、情報の少ないプレイヤーの戦略が情報の多いプレイヤーの行動にかかわらず同じになるケースを「一括均衡」(Pooling Equilibrium)と言う。その場合、本当は優良なプロジェクトであっても断念せざるをえなくなり、銀行も社長も有望な投資機会を失ってしまうおそれがある。

このように情報非対称ゲームでは情報面で優位なプレイヤーと劣位なプレイヤーとの間で、情報の内容をめぐって熾烈なせめぎ合いが起こり、双方にとって望ましくない結果に陥るおそれがある。そうした事態を防ぐには、互いの協力・信頼関係が欠かせない。また、情報非対称ゲームを分析する際には、相手の行動パターンや現在置かれている状況について、いくつかの可能性を考え、それぞれがどのくらいの確率で起こりうるかを考えてみる必要がある。

シグナリング・ゲーム

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次回は、ゲーム理論・交渉術のパートから「交渉のプロセス:4ステップ・アプローチ」を紹介します。

ダイヤモンド社のご厚意により、厳選した項目を抜粋・転載しています)

グロービス出版

  • 嶋田 毅

    グロービス経営大学院 教員/グロービス 出版局長

    東京大学理学部卒、同大学院理学系研究科修士課程修了。戦略系コンサルティングファーム、外資系メーカーを経てグロービスに入社。累計150万部を超えるベストセラー「グロービスMBAシリーズ」の著者、プロデューサーも務める。著書に『グロービスMBAビジネス・ライティング』『グロービスMBAキーワード 図解 基本ビジネス思考法45』『グロービスMBAキーワード 図解 基本フレームワーク50』『ビジネス仮説力の磨き方』(以上ダイヤモンド社)、『MBA 100の基本』(東洋経済新報社)、『[実況]ロジカルシンキング教室』『[実況』アカウンティング教室』『競争優位としての経営理念』(以上PHP研究所)、『ロジカルシンキングの落とし穴』『バイアス』『KSFとは』(以上グロービス電子出版)、共著書に『グロービスMBAマネジメント・ブック』『グロービスMBAマネジメント・ブックⅡ』『MBA定量分析と意思決定』『グロービスMBAビジネスプラン』『ストーリーで学ぶマーケティング戦略の基本』(以上ダイヤモンド社)など。その他にも多数の単著、共著書、共訳書がある。
    グロービス経営大学院や企業研修において経営戦略、マーケティング、事業革新、管理会計、自社課題(アクションラーニング)などの講師を務める。グロービスのナレッジライブラリ「GLOBIS知見録」に定期的にコラムを連載するとともに、さまざまなテーマで講演なども行っている。

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