問題です
以下のAさんの問題は何か。
ラーメン屋に入ったAさんがメニューを見ると、「麺類」の欄に、さまざまなラーメンのメニューがたくさん並んだ下の方に、1行空けて別枠で「中華うどん」というメニューがあった。わざわざこのメニューだけは黄色い枠で囲まれている。
Aさんはこう考えた。
「これだけラーメンが並ぶ中で、あえて目立つようにメニューに載せているからには、美味しいものなのだろう。よし、これを注文するか」
解答です
今回の落とし穴は、「アイソレーション効果」です。これは、多数の中で目立つものがあると(アイソレーション=Isolationの元の意味は「分離」など)、それに目がとまりやすくなったり、記憶にも残りやすくなったりするという効果です。アイソレーション効果は、一般的には、単純にインパクトの強さを意図して使うことが多く、必ずしもそのインパクトがポジティブかネガティブかを含意するわけではありませんが、往々にして、「目立つのは、重要だからだ」「目立つのは、良いものだからだ」という印象を与えることがあるため、広義には、そうした効果を含んで用いる場合があります。
今回のケースでは、Aさんはまさに、たまたま目立った「中華うどん」について、「わざわざ1つ目立たせているのは、それが良いものだからだろう」と類推してしまいました。もちろんその可能性は否定されるものではありませんが、店の方は、単に、麺類の中で普通のラーメン(中華そば)とは違う、ということを示したかっただけかもしれません。Aさんの方で、目立っていることに勝手な意味づけをしてしまったわけです。「中華うどん」が美味しいメニューでAさんが満足することを祈るばかりです。
アイソレーション効果は、ビジネス実務では、たとえば文書などにおける物理的な効果としてよく用いられます。たとえば、今回のケースのように、他のパートと分けてハイライトしたり、色を変えたり、そこだけ別項目にして独立して説明することで、注意をひきつけるといったやり方です。
ここでのポイントは、本当に重要なもの、記憶に残してほしいものを目立たせるということです。よくある失敗は、たとえば、単に物理的な分量が多いから、ページを分けて説明したら、そこだけが目立ってしまったというパターンです。多くの人が「目立っているのは、それだけ重要だからだ」と考える習性があることを忘れてはいけません。
アイソレーション効果は、対人コミュニケーションの中で、ユーモアと合わせて用いられることもあります。たとえば、重要な話を忘れないように印象付けるために、ユーモアやジョークを交えて説明することで印象付けるというテクニックです。これは、うまくはまると、非常に強いインパクトを残すことになるため、有効なテクニックと言えます。
しかし、こうしたコミュニケーション、たとえば講演や講義などに慣れていない人はしばしば、大事ではないところでジョークを連発してしまうという失敗をしてしまいます。本来、ユーモアやジョークは非常に記憶に残りやすいものであるということが、強調したいことと絡める目的です(こうした効果をユーモア効果などということもあります)。
これを理解しないままジョークを乱発すると、ジョークは記憶に残ったけれど、話の重要なポイントはすべて頭から抜けてしまった、ということになりかねません。おそらく皆さんも、昔の学校のクラスなどを思い出すと、そうした教師の1人や2人、心当たりがあるのではないでしょうか。
日本語ではあまり適訳がありませんが、「bizarrenesseffect」というものもあり、これもアイソレーション効果と並べて論じられることがあります。Bizarrenessとは、「突飛なこと」「奇妙なこと」と言った意味合いであり、やはり人々の記憶に残りやすいものの1つです。講演などで奇抜な演出をするのであれば、それはやはり記憶にとどめてほしい事柄と絡めなくては意味がありません。
ぜひ、常日頃の言動を振り返って、人々に印象を与えそうな言動が、本当に重要な事柄と重なり、人々の記憶に有効に働きかけているかをチェックしてください。