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頭が固すぎない? -例外の撲滅

投稿日:2010/12/15更新日:2019/08/15

問題です

以下の警備員Aさんの考え方の問題点は何か。

ある病院にて。

Aさん: 「あっ、そこに自動車駐車しないで。ここから数分のところにパーキングエリアがあるからそこに停めてね。ここは駐車禁止区域なの」

Bさん: 「えっ、ここなら他の方の邪魔になるわけではないと思いますが・・・」

Aさん: 「確かにその位置なら邪魔にならないかもしれないけど、一応、そこも駐車禁止区域なんだよね。ルールには従ってもらわないと」

Bさん: 「でも、父が今まさに危篤なんです。すぐに病室に行きたいんです」

Aさん: 「事情は分かるけど、規則だからゴメンね」

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解答です

今回の落とし穴は、「例外の撲滅」です。これは、ルールをひたすら守り、一切の例外を認めようとしないというものです。それなりの根拠もあるのですが、往々にして、極めて硬直的な意思決定や組織運営を招くことがあるため要注意です。

例外のないルールは、判断を下す人間にとっては非常に楽です。とにかく、ルールに当てはめて演繹的に(三段論法的に)結論を出すだけで済むからです。論理展開で示すと以下のような形です。

(ルール)「○○に該当する場合は▲▲になるものとする」

(ケース)「Z氏は○○に該当する」

(結論)「Z氏は▲▲になる」

今回のケースで言えば、

(ルール)「どんな理由があろうが、このエリアは駐車禁止である」

(ケース)「Bさんは、このエリアに駐車した」

(結論)「Bさんはルールを犯しており、要対応だ(最も単純な対応策として、車を移動してもらうべきだ)」

となります。「論理展開」という意味では、ここだけ見れば全く正しい考えと言えます。判断も簡単ですから、マニュアルとしては非常に分かりやすいと言えるでしょう。

しかし、現実的にAさんの対応が正しかったかというと、多くの人は、「さすがにAさんも頭堅すぎだよなあ。実質的に迷惑かからないなら、このケースの時くらい融通きかせて認めてあげればいいのに」と思われたのではないでしょうか。

演繹法におけるルール(大前提)は、大きく、

過去の事実から帰納された一般論

恣意的に定めた「○○は▲▲とする」という「決め」

の2つのパターンがあります。

前者の例としては、学問における法則やセオリーが対応します。「哺乳類は肺呼吸する」「経験曲線の傾きはどんどん小さくなっていく」などです。ただし、こうしたルールは、例外(反例)に対しては寛容です。実際にそういう事例が存在する以上、そのルールを振りかざしても意味がないからです。

たとえば、先日、リンではなくヒ素をDNAに取り込んでいる細菌が発見されました。これは、「生物は、DNAの構成元素として、水素、炭素、窒素、酸素、リンのみを用いる」という、それまでの法則を覆すことになりました。「そんな例外は認めない」と言ったところで、実際にそういう生物が存在するのですから、全く説得力がありません(その後、その細菌の存在に疑問の声も上がっていますが、ここでは、そうした疑問はいったん無視できるものとします)。

ルールの方を、たとえば「生物は、DNAの構成元素として、ほとんどの場合、水素、炭素、窒素、酸素、リンを用いる。ただし、例外的にリンの代わりにヒ素を用いる生物もいる」と変えないと仕方がないのです。

経営学でも同じです。たとえば、「顧客獲得コストは、顧客数が増えるにしたがって増す」というルールは、リアルの世界では非常に強力なルールでしたが、ネットの世界では、経済性が異なり、「顧客が顧客を呼ぶ」というネットワークの特性が働きやすくなるため、必ずしもこのルールはあてはまりません。

もともと経営学は、自然科学に比べると普遍性がやや弱く、適応範囲を強く意識しなければいけない分野です。四角四面にルールを当てはめるのではなく、例外をどう解釈し、(適用範囲や前提条件も含め)ルールを再構築するか検討が必要な分野と言えるでしょう。

今回の冒頭ケースのルールは、こうした、過去の経験から帰納された法則ではなく、の恣意的に定めた「○○は▲▲とする」という「決め」の話になります。もちろん、多くのルールは、それによって個人や組織が良い結果を得られるように、過去の経験を活かして決められたものですが(例:憲法における国民主権、三権分立など)、このタイプのルールは、「例外」とどう付き合うか、非常に悩ましい問題を抱えます。

ルール墨守派が良く持ちだす根拠は、「例外を認めてしまっては、なし崩し的にルールが崩れてしまう」あるいは「例外対応が多くなりすぎると、そのための細かいルール決めなどが必要になり、運営コストがかさみすぎてしまう」というものです。

これはこれで一定の説得力のある話です。事実、「自分の会社では、いったん決めた規則は例外なく守る」と断言される経営者の方もいらっしゃいます。

しかし、時代は変化しますし、それまでに想定しなかったケースが起こるのも、不確実性の高い現代の特徴です。ルールは、(功利主義を前提とするなら)、「最大多数の最大幸福」をもたらすために設定されるものであり、あくまで手段にすぎません。守るためにルールがある、では本末転倒です。

法律の世界でも、たとえば住居に許可なく侵入することは、通常は犯罪行為になりますが、火事の際に消防士が入り込むことを止めてはいません。緊急事態には緊急事態なりのルールがあるということです。

どこまでルールに拘り、どこまでの例外を認めるべきか(あるいはルールそのものを変えてしまうか)については、絶対的な正解があるわけではありません。だからこそ、徒にルールに固執するのではなく、柔軟な発想を持ち、例外とどう付き合うといいのかをしっかり考えたいものです。

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