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それってちょっと違うのでは -用語の意味のすり替え

投稿日:2010/05/12更新日:2019/08/15

問題です

以下のAの論理展開のおかしな点は何でしょうか

A:雑誌記者

B:その友人

A: 「僕は、何人たりとも、他人の自由を侵してはならないと思うんだよね。君もそう思わないか?」

B: 「まあ、それはそうだろうね」

A: 「今でこそ我々は自由に言論したりすることができるわけだが、昔は、すぐに身柄を拘束されることもあったわけだ。たとえば、治安維持法があった時代には、軍部に不利な発言をしただけで、逮捕されることもあった」

B: 「うん」

A: 「我々は、先人が時には血を流しながら獲得してきた、そうした自由の価値を改めて噛みしめるべきだと思う」

B: 「それは同感だ」

A: 「ところで、最近、プライバシー報道に関する規制が強くなりつつあるんだ」

B: 「ああ、そうだな。雑誌としては大変だろう」

A: 「最初に言ったように、何人たりとも、他人の自由を侵してはならない。これは同意してくれたよね。ならば、プライバシー報道の規制は、そうした自由を侵害するものだと僕は思うが、君はどう考える?」

B: 「・・・(何か違う気がするなあ)」

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解答です

A氏の主張を三段論法の形でまとめると次のようになるでしょう。

「何人たりとも、他人の自由を侵してはならない」

「プライバシー報道の規制は、自由を侵害するものだ」

「よってプライバシー報道の規制は誤りだ」

最初の大前提も次の小前提も正しいように思えます。三段論法のロジックそのものも、一見、誤りがないように見えます。

大前提も小前提も正しくて、かつロジックが間違っていなければ、結論は正しいものが出てくるはずです。しかし、結論を見ると、B氏ならずとも「ちょっと違うよなあ」と感じるはずです。何がおかしいのでしょうか?

これは、途中で用語の意味がすり替わっているという落とし穴にはまっているのです。冒頭に雑誌記者のA氏が主張している自由は、身体の自由や、思想の自由といった類の自由といえるでしょう。これは、(強盗犯の緊急逮捕などの例外を除けば)確かに守られるべき自由です。

一方、次の小前提で主張している自由は、そうした自由とはちょっと違います。よく考えれば、これは「表現の自由」を指していることが分かるでしょう。つまり、A氏は、「自由は侵してはならない」という大前提では、身体の自由や思想の自由といったより広義の自由を言っておきながら、小前提では表現の自由という、やや内容の異なるスペシフィックな自由について言及しているのです。同じ「自由」という言葉を用いながら、指している内容が違うわけです。そのため、一見、「自由」という言葉で三段論法がつながっているように見えて、納得性のない結論が出てしまったのです。

「表現の自由」は、通常は無制限に認められるものではなく、公共の福祉に反しない限り、という条件がつくのが一般的ですから、仮に、プライバシー規制について結論を出すなら、雑誌記者であるAさんにとっては望ましくない結論かもしれませんが、以下のような論理展開が妥当でしょう。

「公共の福祉に反しない限り、表現の自由は認められるべきである」

「公共の福祉に反するようなプライバシー報道がしばしば見られる」

「よって、表現の自由は尊重しつつも、公共の福祉に反するようなプライバシー報道については、何らかの規制も必要となるだろう」

このケースは比較的わかりやすい例だったと思いますが、議論の途中で用語の定義が変わることはしばしばあります。最初は純粋に戦略の話だったのが、気がついたら経営理念まで含まれてしまった、あるいは、顧客の話のはずが、「広い意味での顧客」ということで、外部のステークホルダー全体の話になっていた、などです。

意図的に意味をすり替える人もいれば、無意識にこれをやってしまう人もいます。用語の定義は論理思考のベースとも言えるものですから、何か変だと思ったら、「それってさっきと意味合いが違っていませんか」などと確認するようにするといいでしょう。

これは正しい結論を導くためだけではなく、議論などでは、参加者の知識や理解度を合わせる役割も果たすため、議論をより実りあるものにします。

  • 嶋田 毅

    グロービス経営大学院 教員/グロービス 出版局長

    東京大学理学部卒、同大学院理学系研究科修士課程修了。戦略系コンサルティングファーム、外資系メーカーを経てグロービスに入社。累計150万部を超えるベストセラー「グロービスMBAシリーズ」の著者、プロデューサーも務める。著書に『グロービスMBAビジネス・ライティング』『グロービスMBAキーワード 図解 基本ビジネス思考法45』『グロービスMBAキーワード 図解 基本フレームワーク50』『ビジネス仮説力の磨き方』(以上ダイヤモンド社)、『MBA 100の基本』(東洋経済新報社)、『[実況]ロジカルシンキング教室』『[実況』アカウンティング教室』『競争優位としての経営理念』(以上PHP研究所)、『ロジカルシンキングの落とし穴』『バイアス』『KSFとは』(以上グロービス電子出版)、共著書に『グロービスMBAマネジメント・ブック』『グロービスMBAマネジメント・ブックⅡ』『MBA定量分析と意思決定』『グロービスMBAビジネスプラン』『ストーリーで学ぶマーケティング戦略の基本』(以上ダイヤモンド社)など。その他にも多数の単著、共著書、共訳書がある。
    グロービス経営大学院や企業研修において経営戦略、マーケティング、事業革新、管理会計、自社課題(アクションラーニング)などの講師を務める。グロービスのナレッジライブラリ「GLOBIS知見録」に定期的にコラムを連載するとともに、さまざまなテーマで講演なども行っている。

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