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前回はAI(人工知能)について書きましたが、AIはアルゴリズムでしかなく、それだけでは何の意味も成しません。元となるデータを集め、AIを活用して分析することで、初めて新たな発見を導き出せます。
そのデータ取得の追い風となっているのが「IoT」(Internet of Things)です。今後、IoTが進み、様々なデータを取得できるようになることで、AIを活用した分析もより効果的なものになるでしょう。
データ (IoT) ✕ アルゴリズム (AI) = アウトプット (新しい発見)
一方で、政府や企業によるデータへの「食欲」は、個人情報保護の観点から大きな懸念が上がっています。2014年はプライバシー問題を露呈させた象徴的な年になりましたし、政府であれ民間企業であれ、個人情報問題を無視して未来を語ることはできなくなっています。
今回は、そんな飽くなきデータへの食欲について、少し考えてみました。
IoT普及によるデジタルデータの蓄積
「モノのインターネット」と呼ばれたりするIoTの本質は、アナログデータのデジタルデータへの変換であると考えています。センサーを通じてモノの状態や環境をデジタルに変換することで、データを低コストに取得・保存・発信・分析できるようになり、効率化や自動化を実現します。
インターネットに繋がるデバイスは、今後5年で約3倍になると予測されています(Cisco Systems)。2020年には、産業機器、家庭用電気製品、自動車、家具、衣服、家畜、ペットなど、あらゆるモノが、常時データをどこかのサーバーに送信していることになるでしょう。
Harvard Business Schoolのマイケルポーター教授は、IoTデバイスは「Monitoring(モニタリング)」「Control(コントロール)」「Optimization(効率化)」「Autonomy(自動化)」の4段階の進化を経ると提唱しています。(Harvard Business Reviewの記事)
IoTがもたらす効率化と自動化は、人類の生産性を向上させ、生活をより便利にしてくれることは間違いありません。巨大な風車が自動的に発電量を最大にするよう向きを変えることも、Google MapがAndroid Phoneの位置情報を使って渋滞状況を把握するのも、赤ちゃんの体温を24時間自動で管理するのも、すべてIoTがもたらす良い変化でしょう。
データに対する無限の食欲
IoTの普及は、政府や民間企業による「データに対する食欲」を増進させることでしょう。Google、Facebook、Apple、Microsoft、Amazonといった企業は、IoT普及以前から様々な方法でデータを取得しています。
Googleは、「世界中の情報を整理し、世界中の人々がアクセスできて使えるようにすること」というミッションのもと、あらゆる情報を取得しています。Gmail、Google Calendar、Google検索履歴、Chrome閲覧履歴、Android Phone 位置・通話・通信履歴、などなど、ユーザーについての何かしらのデータを毎分毎秒取得していると言っても過言ではありません。FacebookやTwitterも同様に、ユーザーの投稿や「いいね!」を蓄積し、ユーザー一人ひとりの日々の生活や思考を分析することができます。今後のウェアラブルデバイスの普及により、民間企業に蓄積されるデータは爆発的に増加するでしょう。
さらに食欲旺盛なのが政府です。スノーデン事件は、アメリカ国家安全保障局(NSA)が他国政府や自国民の通話・通信データを取得していることを暴きました。AT&T, Verizon, Google、Apple、Facebookなど企業のサーバーへもアクセスすることができ、全ての個人情報が筒抜けだったという話もあります(NSAは否定していますが。Wired記事)。NSAが昨年、ユタ砂漠に建設した巨大なデータセンター(東京ドームのグラウンド10個分以上)は、世界中の通話・通信データをリアルタイムで記録していると言われています(NSA)。
ジョージ・オーウェルの小説「1984年」では、ビッグブラザーと呼ばれる政府が国民の生活を監視・管理し、一切の自由が許されない社会が描かれています。これは1949年に出版されたフィクション小説ですが、その描写は検閲と言論規制が続く中国や、NSAによる監視が続く世界を彷彿させてしまいます。
未来を「1984」にさせないために
昨年後半から今年にかけて、データ取得・活用における法規制・業界ルール作りの風潮が強まってきたように感じます。数多くの個人情報漏えい事件では企業が個人データを保管することのリスクを知らしめました。1月初めにラスベガスで開催されたCES(Consumer Electronics Show)では、連邦取引委員会(FTC)会長が、IoT企業に対して、(1)セキュリティ対策強化、(2)取得データを最小限に、(3)データ活用におけるユーザー許諾の強化、などを指針として掲げました(Techcrunchの記事)。今後、このような風潮は強まると予想され、規制化された暁にはスタートアップに対しても徹底が求められるようになるでしょう。
政府による監視については、スノーデン事件やウィキリークスが一石を投じ、その全容が見えたことによって議論の俎上に上がるようになりました。安全保障が関わる問題のため、全ての監視を取り止めるのが良いとは思いませんが、善良な市民の個人データが悪用されることがないよう、その監視プロセスを第三者機関がモニタリングするべきだと思います(IAEAが原子力の利用をモニタリングするように)。
テクロノジーはツールであり、それ自体に善悪はなく、そのツールの活用方法次第です。IoTの実現には、安心してデータ提供できる社会基盤が必要ですし、それが普及の起爆剤になるとも思っています。今後もデータ取得・活用に関する規制化の動きに注目していきたいと思います。
※本記事は湯浅エムレ秀和の個人ブログから転載したものです(初出: 2015年1月13日)