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「迷宮」のガイドを手に、バイアスから自由になる――『女性リーダーはなぜ少ないのか?リーダーシップとジェンダー』

投稿日:2025/09/05更新日:2025/09/19

グロービスの教員・研究員がおすすめの本を紹介するコーナー。今回はリーダーシップとジェンダーの関係を多角的に考察する『女性リーダーはなぜ少ないのか?』を取り上げます。

「ガラスの天井」ではなく、「リーダーシップの迷宮」

「ガラスの天井」という言葉は、女性が上級管理職になる上での見えないバリアを示す表現としてよく知られている。しかし、実際には「天井」に到達する以前の、中位・下位にあっても困難があり、その困難は当事者一人ひとり多様なものだ。
そうした複雑さ、多様さを表すために「リーダーシップの迷宮」という比喩表現も用いられる。

では、この迷宮を構成する障壁にはどのようなものがあるのか。本書は、最新の統計・調査結果と、日本における実証研究を積極的に取り上げ、個人・対人・組織の各レベルに存在する様々な障壁を紹介する。また、リーダーシップとジェンダーに関する研究知見を踏まえ、性別のほか、様々な観点から多様な人材が活躍できる組織や社会を作るためにはどのような取り組みが有効なのかを考察している。

「女性はリーダーになりたがらない」のはなぜか?

「迷宮」における障壁の中でも、管理職の振る舞いや人事制度、職場環境、また、ステレオタイプがいかに女性に影響をもたらすか、といった要素は、性別や役職を問わず、すべてのビジネスパーソンが知っておくべき内容といえる。当事者である女性、職場での影響力が大きい管理職や人事制度の策定・運用の関係者にとっては特に、良きガイドとなるだろう。

例えば、対外的な折衝やプロジェクトのリーダー的職務といったチャレンジングな仕事を多く経験した女性ほど、管理職への昇進意欲が高い。その一方で、全管理職の約3割が、チャレンジングな仕事は女性部下よりも男性部下に与えることが多く、同一組織内の同じ総合職という立場であっても、与えられる職務には男女差があることが明らかになっている。
また、一見女性に配慮しているようで、その実固定観念や偏見に基づいたいわゆる好意的性差別に基づく発言が、女性にパフォーマンス低下や「自分はうまくやれるだろうか」といった自己疑念や自尊心の低下に関わる思考をもたらすことや、否定的ステレオタイプで判断されるかもしれない、という恐れがパフォーマンス低下につながる「ステレオタイプ脅威」の影響は、女性が本来持っている力を存分に発揮できる環境をつくる必要性を強く感じさせる。

「女性ならではのリーダーシップ」は本当にあるのか?

いや、自分は管理職として女性部下を十分支援している、という読者もいるだろう。だが、その際に「女性ならではのリーダーシップを期待している」といった声がけをしていないだろうか。私自身、講師として女性リーダー育成プログラムに登壇していると、参加者から「モヤモヤする」「イラッとする」といった声が聞かれるフレーズである※。そもそも、男女のリーダーで、異なるリーダーシップのスタイルがあるのだろうか。あるいは、向いている部署や仕事内容は異なっているのだろうか。

リーダーシップとジェンダーに関するこれまでの研究からは、どのような状況でも一貫して見られるような「女性ならでは」「男性ならでは」のリーダーシップというものは存在しない、と本書はいう。また、女性のリーダーシップ有効性が男性に比べて低いことを示す証拠も無い。むしろ、アメリカでの調査では、リーダーシップ有効性の他者評価について、女性の方が男性リーダーよりも高く評価されていた。

では、女性の方がリーダーとして有能なのだろうか? 著書は有効なリーダーシップやリーダーとしての適性を、性別と結びつけて理解することには慎重になるべき、と釘を刺す。「特性」に男女差があるように見えても、それはジェンダー規範による社会化や、本人による自己調整の産物であって、多分に変化しうるものである。男女といった集団単位で判断するのではなく、個々人に目を向けて個別に判断するべきという主張に、大いに賛同する

自分らしいリーダーを目指す

女性がリーダーシップを発揮できる社会にするための提言の一環として、筆者はリーダーシップ理論の有用性に言及している。

マネジメントスクールや法人研修で参加者と接していると、従来の「男性的」リーダー像に抵抗を感じる人は、性別を問わず多い。そして、リーダーシップについて学ぶことで「完璧でなくてもいいのだと、肩の荷が降りた感じがした」「気持ちが楽になった」という感想をよく耳にする。

迷宮においては、行きつ戻りつ、粘り強い努力が必要になるときもあるが、ゴールへの道は必ず存在する。本書をガイドとして、リーダーシップについて学ぶことは、誰にとっても「かくあらねば」という固定概念から離れ、自分らしいリーダーシップのあり方を模索することにつながっていくだろう。

※「女性ならでは」がなぜこうした反応を呼ぶのか今ひとつピンとこない、という方には、松田青子氏の短編『男性ならではの感性』(中公文庫『女が死ぬ』収録)をおすすめしたい。


女性リーダーはなぜ少ないのか?リーダーシップとジェンダー
著:坂田桐子 発行日: 2024年8月10日 発行元:ちとせプレス 価格:2,500円

  • 澤田 茉莉

    グロービス・コーポレート・エデュケーション シニアコンサルタント

    早稲田大学第一文学部卒業/青山学院大学大学院社会情報学部 ヒューマンイノベーションコース修了/MBTI認定ユーザー/大学卒業後、システム会社にて幅広い業界のクライアント向けに人事システムの導入開発に携わる。その後コンサルティング会社にて、人事施策の評価や人材像定義といったコンサルティングプロジェクトのほか、ビジネススキルやプロジェクトマネジメントに関わる研修の開発、運営に従事。グロービス入社後は法人向け人材育成・組織開発部門にて、コンサルティング業務、チームマネジメントを担う。現在は、ファカルティ本部にて、人・組織に関わるコンテンツ開発及び、リーダーシップ、人材マネジメント等の講師を務める。

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