組織の状況を分析する古典的かつ有効なフレームワークに7S(マッキンゼーの7S)がある。これは組織を7つのS、すなわちStrategy(戦略)、System(経営システム)、Structure(組織構造)、Shared Value(共通価値観)、Style(組織文化・経営スタイル)、Skill(組織スキル)、Staff(スタッフ)の7つの視点から分析し、組織の特徴や強み弱み、あるいはそれらの整合度合いを見るものだ。
どれだけ地頭が優秀な社員が多かろうと、あるいはコミュニケーション力が高い社員が多かろうと、7Sのストレッチ度合いが低かったり(例:戦略目標が低い、評価がぬるいなど)、7S間で不整合を起こしていたりすれば(例:戦略は顧客第一主義を掲げながら、組織文化は自社都合優先となっているなど)、組織全体として出せるパフォーマンスは下がってしまう。それゆえ、会社全体や自部署を分析する際にこのフレームワークを知っておくことは必須である。
7Sはまた、部長が好ましいマネジメントやリーダーシップを発揮するうえでも重要だ。現場の従業員の行動に最も直接的に影響を与えるのはミドルマネジャーの属人的なコミュニケーションや行動だからだ。表層上に見える7Sの要素だけでは実現できない人々の動機付けやスキル向上などはそうした働きかけがあってこそ初めて実現する。
部長として理解しておかなければならない経営フレームワークは多いが、7Sはその中でも上位に入るものといえるだろう。
(このシリーズは、グロービス経営大学院で教科書や副読本として使われている書籍から、ダイヤモンド社のご厚意により、厳選した項目を抜粋・転載するワンポイント学びコーナーです)
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部長が7Sを理解していないことによる不都合
●戦略が矮小化される
人はしばしば、すでに手元にあるリソース、特に「人」や「お金」を前提に「その 範囲で何をすべきか」を考えがちである。一見すると合理的に見えるが、この発想に縛られると、環境変化に適応しながら長期的に勝ち続け、成長し続けるという企業本来の目標を達成できなくなる危険がある。
本来、戦略は「顧客のニーズ」や「ありたい姿」から出発し、その実現のために組織やリソースを変化させたり新たに調達したりするべきものだ。既存の制約にとらわれすぎることは、特に変化の激しい現代では致命的である。
アマゾン・ドットコム創業者のシェフ・ベゾスも次のように述べている。
「新しい分野に事業を広げようと考える時、最初に『自分たちにはそのスキルがない』と考えてしまうと、企業の寿命は有限になる。というのも、世の中は変化していくため、かつての先端スキルもすぐに不要になってしまうからだ。むしろ『顧客には何か必要か』という問いから始め、そこで見つかったギャップをどう埋めるかを考えるほうが、はるかに安定した戦略になる」
買収などがしやすい米国IT企業という背景を差し引いても、日本の管理職も学ぶべき視点である。
●組織構造が効果的でなくなる
組織構造は戦略に従うべきものである。たとえば、IBMはかつて「製品販売」から「顧客へのソリューション提供」へと戦略を転換した際、組織構造を製品別の事業部制から業界別の事業部制へと変更した。これは経営的に理にかなった対応であった。
一方で、組織構造の変更は部長個人の役割や職掌に大きな影響を及ばす。場合によっては「部下なし担当部長」となってしまう例もあり、人によっては受け入れがたい事態となる。また、大規模な組織変更では、求められる役割や部下が変わり、それまで培ってきたスキルや人間関係が活かせなくなることもある。こうした変化は一時的な「痛み」を伴うため、部長が抵抗勢力となって変革に反対し、結果として戦略に即した最適な組織構造が実現できなくなるおそれがある。
●7S間の整合性が取れなくなる
7Sは、組織変革期などにおいて一時的にすれが生じることはあるが、基本的には相互に整合していることが望ましい。部長がこの点を理解していないと、部下に誤ったメッセージを発してしまう危険がある。
たとえば、リモートワークを推進していた会社で、経営陣がコミュニケーション活性化のために「週3回は出社」を求め、さらに「週当たり平均3回の出社を半年間続けた社員には賞与に1万円を加算する」という評価報奨制度(System)を導入したとしよう。もし部長がその際に「半年で1万円なんて意味ないよね」と囗にすれば、部下は「リアルでのコミュニケーションは重視しなくてもよい」と誤解するかもしれない。さらには「会社の方針を軽視してもよい」と錯覚する可能性すらある。これは部署内の組織文化・経営スタイル(Style)を望ましくない方向へ誘導してしまうことにつながる。企業においては、こうした小さな綻びが大きな崩壊の引き金になりうることを忘れてはならない。
●最適なマネジメントやリーダーシップが実現できなくなる
7Sは、一種の「従業員を特定の方向に向かわせるための要素群」である。しかし、これが整っていれば従業員全員が自動的に同じ方向へ努力するわけではない。そこで必要になるのが、部長個人による対人的なマネジメントとリーダーシップである。どれほど制度(System)が整備され、組織文化・経営スタイル(Style)が望ましいものであっても、期待通りに動かない社員は存在する。その際に、適切なマネジメントやリーダーシップがあれば、そうした「外れ値」を減らし、組織全体を一体感のある方向へ導くことができる。逆に7Sを理解していないと、部長個人の働きかけも空回りし、結果的に組織運営が難しくなる。
ここまで7Sについて解説してきた。どれほど優れた戦略があっでも、それに沿った組織やシステムがなければ成功はおぼつかない。7Sの完成度を高め、その運用レベルを向上させるためにも、部長が7Sを深く理解することは不可欠なのである。
『グロービスMBA エグゼクティブ・マネジメント入門』
著:グロービス経営大学院 発行日:2026/2/11 価格:3,410円 発行元:ダイヤモンド社















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