言葉は知っていても、本質まで理解されていないサブスク
「サブスク」とは「サブスクリプション(subscription)」の略で、商品やサービスを「購入」するのではなく、一定期間「利用」する権利に定額料金を支払うビジネスモデルである。従来の「買い切り型」や「都度払い型」とは異なり、利用者が解約しない限り、提供者は継続的に収益を得られる。
この点までは多くの方がご存知じだろう。ではなぜサブスクが注目されるのか。企業活動をどのように変えたのか。財務にどのような影響を及ぼしたのか。サブスクの本質を正しく理解しているだろうか。こうした問いに応えるのが本書である。
サブスクが広がる背景
かつては、高価なブランド品、自動車、家などを所有することが、豊かさや成功の象徴とされていた。しかし、現代の消費者、とりわけ若い世代は、「所有」に伴う煩わしさや負担を敬遠する傾向にあると言われる。サブスクは、これらの所有のしがらみから消費者を解放する。例えば、高額な自動車を所有するのではなく、月額料金で乗り換え放題のサブスクを利用すれば、維持費や駐車場の心配がなく、常に最新の自動車に乗る体験ができる。洋服のサブスクなら、流行に合わせて多様な服を着る体験をクローゼットのスペースを気にせず楽しめる。
サブスクの拡大は、「所有」の重荷から解放され、「体験」や「利便性」を重視する現代の価値観に合致していることによる結果だと言える。消費者は、限られた資源(お金、時間、スペース)を、より豊かな「体験」に振り向けるようになっているのである。
サブスクをアカウンティングの視点から解き明かす
本書は、注目を集めるサブスクをアカウンティングの視点から論じている。企業の活動を定量化して表すのがアカウンティングである。その枠組みを用いることで、サブスクの表面的な部分だけでなく、その裏側にある経済的な仕組みや、経営者がどのような指標をもとに意思決定をすべきかが解説されている。サブスクを体系的に学び、その全体像を捉える助けとなるはずだ。
例えば、従来の「売り切り型」とサブスクでは、収益の考え方が全く異なる。本書は、収益が「いつ、どのように発生するのか」を会計的に解説することで、サブスクビジネスがなぜ黒字化に時間がかかるのか、なぜ将来の収益が予測しやすいのかといったサブスクの収益構造の特性を明らかにする。
また、LTV(Life Time Value:顧客生涯価値)、CAC(Customer Acquisition Cost:顧客獲得コスト)、チャーンレート(Churn Rate:解約率)、MRR(Monthly Recurring Revenue:月次経常収益)など、サブスク事業の健全性や成長性を測るために不可欠なKPI(Key Performance Indicator:重要業績評価指標)について、その意味や計算方法を詳細に学ぶことができ、事業の成否を測る実践的な指標の習得も可能だ。
特に重要なのが「顧客中心の経営」の必要性の理解だ。サブスクは顧客との継続的な関係が前提となるため、顧客満足度を高め、解約率を低く保つ「カスタマーサクセス」が非常に重要となる。本書は、このカスタマーサクセスが、LTVやチャーンレートといった経営指標にどう影響を与えるのかを会計の視点から解説し、顧客中心の経営がなぜ利益につながるのかを論理的に示している。
サブスクの本質
一見するとサブスクは顧客の支払い方法が変わっただけのようにも見える。しかし、その本質は顧客との関係性の変化にあり、それがビジネスのKSF(Key Success Factors:主要成功要因) を根底から変える。著者はサブスクの特徴として以下の4つを挙げている。
・収益の「予測可能性」の高さ
・「契約してからが勝負」
・「関係が長期化するほど儲かる」
・「経営の安定」が見込める
本書ではこの4つの特徴について詳説されている。サービス提供者の観点から、身近なサブスクを理解するうえで最適な一冊である。
『サブスク会計学―持続的な成長への理論と実践』
著:藤原 大豊、青木 章通 発行日:2025/3/24 価格:2970円 発行元:中央経済社
























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