年末年始のまとまった時間は、ご自身のキャリアとスキルを見直し、未来に向けて「知識をアップデート」する最高の機会です。
本記事では、グロービス経営大学院の現役教員が、激動の時代を生き抜くビジネスパーソンのために、本当に読むべき良書を厳選して4冊ご紹介します。
ラインナップは、時価総額世界一を誇るエヌビディアの経営戦略から、グローバル時代の必読書「文化心理学」、さらには「AI時代の読解力」まで、2026年の成長に直結する視点ばかり。
この連休で、2025年の最新の知見をインプットし、一歩先を行くビジネススキルを手に入れましょう。
※これまでの長期休暇にオススメの書籍シリーズはこちら。
グローバル時代の必読書! 文化心理学が解き明かす「文化の違い」克服法

推薦者:若杉 忠弘
文化心理学の世界的第一人者・北山忍先生が、自身の研究領域を初めて一般読者向けにまとめたのが本書である。
心理学では長く「心は文化を超えて普遍的に働く」とされてきたが、北山先生はその前提に疑問を投げかけた。心の仕組みはどこでも同じではなく、文化によって大きく異なることを示し、従来の心理学の常識を書き換えたのである。
本書で紹介される代表的な理論が、「独立的自己」と「協調的自己」というモデルだ。西洋では、自分を周囲から切り離した独立的存在として捉えるのに対し、日本では自分を他者との関係性の中で理解する。この違いは、感情表現や判断、注意の向け方だけでなく、さらには脳神経の反応や遺伝子レベルにまで及ぶことが、多様な国際比較データとフィールド研究を通じて示される。グローバルに人と協働するビジネスパーソンにとっても、相手を理解するための示唆に富んだ内容だ。
たとえば西洋人は分析的で、注意は特定対象に集中しやすい。一方、日本人は調和を重視し、全体を包括的に捉える傾向がある。強い感情、とりわけ怒りや誇りの表出を控えるのも、その文化的背景と無関係ではない。日本とアメリカだけに留まらず、サブサハラ・アフリカやラテン・アメリカの多様な地域にまで調査は広がり、「文化と心が相互作用し合っている」ことが立体的に描かれる。
話はそこで終わらない。北山先生は文化を「人が生存課題を解決するために作り出した適応装置」と表現する。環境変化など、人類がこれまで直面してきた課題を乗り越えるために蓄積してきた暗黙知こそが文化であり、それが今も私たちの思考、感情、行動を形づくっている、という洞察だ。それを踏まえ、本書には次の印象的な一文がある。
「今私たちに求められているのは、これらの文化的特徴を単なる多様性として分類するのではなく、人類が文化的分断を超えて共通の未来をつくるための文化的、社会的、そして心理的な資源として再解釈する視点ではないだろうか」
今、自らの文化を客観的に捉え直し、それを分断を乗り越えるための資源として世界に差し出す視点が求められている。
冬休み、仕事から少し距離を置き、本書を片手に自分の文化を振り返り、この資源をリーダーシップや未来づくりにどう活かすのか、考えてみても面白い。
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『文化が違えば、心も違う?──文化心理学の冒険』
著:北山 忍 発行日:2025/8/22 価格:1,034円 発行元:岩波書店
カリスマ経営者ジェンスン・フアンの教え:エヌビディアを世界一に導いた成功の哲学

推薦者:嶋田 毅
2025年11月下旬、グーグル(アルファベット)のTPUをメタ(フェイスブック)が使用するというニュースが流れたおかげで、株価が下落したエヌビディア。
しかしその時価総額は相変わらず世界1位である。しかもGAFAMのようなプラットフォーム企業とは異なり、PERは30倍程度と比較的低い水準にある。
成長性の予測も相変わらず堅調と見る向きが多い。GPU一強時代は崩れたとはいえ、今後もその強さは続くだろう。
本書は、創業からおよそ30年でAI時代の覇者に上り詰めたエヌビディアの歴史をリーダーシップや組織文化、技術戦略などの観点から丁寧に紐解いた1冊だ。
注目したいポイントは2つだ。
まずは「GPU」という新しいカテゴリーを創造し、そのなかで局所的オンリーワンになったことだ。
当初はゲーム向けグラフィックス処理のアクセラレーターとして生まれたGPUだが、並列計算能力の高さを武器に、データセンター、そしてAIの学習へと用途を広げていった。
本書は、この市場拡張が偶然の産物ではなく、先見性と賢い投資判断によって実現したことを強調している。
新しいカテゴリーを自ら作る企業こそ勝ちやすいというセオリーを体現した例として興味深い。
もう1つは、CEOジェンスン・フアンのリーダーシップだ。
彼のカリスマ的リーダーシップは、技術に対する洞察やビジョンはもちろん、それ以上に入念な組織づくりや仕事に対する姿勢を強調する点によく示されている。
巻末の語録にある、「常に最高の人材を雇うべし」「将来的な成功の初期の兆しに着目せよ」「知的な誠実さを持て」「これはワールドクラスだろうか?」「使命こそが究極のボスである」「光の速さで動け」などはどれも含蓄に富む言葉である。
こうした点にこだわったことこそが、エヌビディアを現在の地位に導いたのは間違いない。
本書はページ数があり、またテクニカルタームも多いため、読破には時間を要するが、AI時代の経営やイノベーションの起こし方を勉強したい人にはお勧めの1冊だ。
また、同社の初期の悪戦苦闘ぶりはこれから起業を志す人にとっても参考になるだろう。
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『The Nvidia Way エヌビディアの流儀』
著:テイ・キム 翻訳:千葉敏生 発行日:2025/2/26 価格:2,640円 発行元:ダイヤモンド社
<M&Aや投資のための評価方法に関わることについてもっと知りたい方に>
・PERとは何か ―マルティプル法とDCF法の意外な接点│GLOBIS学び放題×知見録
・企業価値評価(マルチプル法) ~M&Aや投資のための評価方法~│GLOBIS学び放題×知見録
「わかったつもり」で終わってない? AI時代に必須の【文章・読解力】を磨く30刷超の名著

推薦者:岡 重文
初版は、2005年と少し前の本だが、版を重ねること三十数回の名著。最近、たまたま手にとった一冊だったが、筆者にとっては大ヒットとなった。
ネタバレはしないが、最初に紹介される小学校2年生の教科書に掲載されていたという「ねこ」の話に対する考察は衝撃だった。
書籍のタイトルの通り、「わかったつもり」とはどういう状態で、それは、なぜ起こるのか。逆に、ちゃんとわかる、読むということについても深く考えさせられる。
全編を通して言及されるのが文脈の重要性だ。振り返ってみると、私たちの意識は、何を語るか、コンテンツ(内容)に関心が行きがちになっている。
ピラミッド・ストラクチャーで、構成とロジックをしっかりと作るということも、コンテンツを考える思考だ。
一方、コンテキスト(文脈)があるからこそコンテンツがわかるというのも忘れてはいけない事実だ。「前提をしっかりと共有しよう」という表現で片づけられがちではあるが、コンテンツと同等、もしくは、それ以上に重要であるといえるかもしれない。
映像のコンテンツであれば、視聴者に理解させるために、注目すべき情報であるということを発信側がわかりやすく提示してくれる。
しかし、文章には、ここが文脈だとか、ここが後々効いてくるといった注釈はない。
また、普段の生活や仕事においても、文脈を自分で切り取り、そして印象に残しておかない限り流れていってしまう。
文章から文脈をしっかりと切り取る、文脈をしっかりと盛り込んで伝えることは、普段の生活や仕事にも直結する重要なスキルとも言えそうだ。
生成AIが言語データを大量に学習し、驚くべきパフォーマンスを発揮している今だからこそ、言語情報のやりとりについて、今一度、理解を確かなものにしておいてもよいのではないか。
文脈を含めて、理解し、文脈を含めて、きちんと伝える、読み書きの本質を見つめ直すことができる一冊だ。
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『わかったつもり 読解力がつかない本当の原因』
著:西林 克彦 発行日:2005/9/20 価格:770円 発行元:光文社
<論理的思考力を高める方法についてもっと知りたい方に>
・ピラミッド構造 ~主張の筋道や論拠を構造的に整理する~│GLOBIS学び放題×知見録
「来年こそ変わる」を達成する!科学的根拠に基づいた"性格スキル"の鍛え方
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推薦者:林 恭子
「一年の計は元旦にあり」。
そんな言葉もあるように、私達は毎年のように、新年を迎える季節に「よし、今年は〇〇をマスターするぞ!」、「そうだ、今年こそ、〇〇を達成するぞ!」との思いを新たにする。
けれど、数か月後には、外部からもたらされたり、内側から発生したりする何かによって頓挫し、「ああ、やっぱり自分はダメな人間だ」、「どうせ自分には無理なんだ」と重苦しい気持ちに支配されてしまう―。
そんな「あるある」なルーティンにサヨナラし、「もう一歩先の自分」に飛躍するためにお薦めしたいのが、この本だ。
著者のアダム・グラントは、米国の名門ビジネススクール、ペンシルベニア大学ウォートン校で、同大学史上最年少の終身教授となった組織心理学者。
『GIVE & TAKE「与える人」こそ成功する時代』など、数々の名著がある。
しかし意外なことに、この本の中では、彼自身が当初は才能に恵まれた人物ではなかったというエピソードが語られている。
彼は自身の経験を通じ、「人はどのようにすれば自らの限界という壁を打ち破り、超えていくことができるのか、その深遠な謎を解き明かしたい」と研究に打ち込むようになり、「誰もが、うちに可能性を秘めている。それをいかにして解き放つか―」をテーマとして書いたのが、この本だという。
広範なメタ分析やグラント自身の研究から、彼が着目しているのは、生まれながらの才能ではなく、後天的に伸ばせる「性格スキル」だという。
気合と根性、ではなく、科学的根拠をもって語られる「性格スキル」の伸ばし方、モチベーションの高め方、そして成長機会を増やすための仕組みづくり。
この「可能性の科学」との出会いと、楽しんで学び続けることが、皆さんの2026年の素晴らしい成長に繋がることを心から願う。
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「HIDDEN POTENTIAL 可能性の科学――あなたの限界は、まだ先にある」
著:アダム・グラント 発行日:2025/10/16 価格:2,200円 発行元:三笠書房
GLOBIS学び放題でも『達人の一冊』シリーズほかで、グロービスの教員や研究員によるおすすめ書籍をご紹介しています。


























