手続きの悪用とは - 議論から逃げるための危険な手法
手続きの悪用(Malicious use of process)とは、議論の内容そのもので負けそうになった時に、プロセスや手続きの妥当性に問題があることを理由として、その正当性に異議を唱える行為のことです。
より広い意味では、ある目的を達成するために、法律的には問題がなくても、道徳的な観点から見ると疑問のある行為を指します。身近な例では、国会における牛歩戦術などがこれにあたります。
つまり、本来であれば議論の中身で勝負すべきところを、手続きやルールの不備を理由に議論そのものを無効にしようとする、ある意味で**「ずるい手段」**と言えるでしょう。
なぜ手続きの悪用が問題となるのか - 組織に与える深刻な影響
手続きの悪用が問題視される理由は、組織の意思決定や成長に大きな悪影響を及ぼすからです。この問題を理解するために、まず手続きやプロセスの本来の役割から考えてみましょう。
①手続きの本来の価値と重要性
プロセスや手続きを重視すること自体は、決して悪いことではありません。むしろ手続き的公正の観点からも非常に重要です。
法律の世界では「デュー・プロセス・オブ・ロー」という考え方があります。これは、刑罰などを科す際には適切なプロセスに従う必要があるという原則です。実際に、実体法(民法や刑法など)に加えて、手続法(民事訴訟法や刑事訴訟法など)が詳細に定められているのも、この手続き重視の考え方が反映されています。
②悪用が組織に与えるダメージ
しかし、手続きの悪用は、こうした本来の価値を歪めてしまいます。議論で不利になった時の言い訳として利用されることが多く、これが組織にとって大きな問題となるのです。
企業では、スピードを重視した意思決定が求められる場面が多々あります。しかし、手続きの悪用によって無駄な時間が費やされると、競争上の不利益を被ってしまう可能性があります。
手続きの悪用の詳しい解説 - パターンと背景を理解する
手続きの悪用について、より深く理解するために、その具体的なパターンや発生する背景を見ていきましょう。
①よくある悪用のパターン
手続きの悪用でよく見られるのは、議論が自分にとって好ましくない方向に進んだ時に、突然これまでほとんど使われていなかった死文化したルールを持ち出すパターンです。
たとえば、新しいプロジェクトの提案が承認されそうになった時に、「この件は〇〇委員会での検討が必要だ」「正式な文書での申請が必要だ」といった、普段は無視されがちなルールを突然持ち出すケースです。
こうした行為は、表面上は「ルールを守る」という正当な理由があるように見えますが、実際には自分の意見を通したいという私的な動機に基づいていることが多いのです。
②悪用の背景にある心理
手続きの悪用の背景には、多くの場合、狭い視野から自分の主張を押し通したいという気持ちや、単に議論に負けたことを認めたくないという偏狭な自尊心があります。
これは組織にとって非常に有害です。なぜなら、本来であれば建設的な議論を通じて最適な解決策を見つけるべきところを、個人的な感情や面子によって阻害してしまうからです。
③組織への具体的な悪影響
手続きの悪用が続くと、組織には以下のような悪影響が生じます。
まず、意思決定のスピードが著しく低下します。本来であれば迅速に決定できる事項も、不必要なプロセスを経ることで時間がかかってしまいます。
また、創造的で革新的な提案も、余分なプロセスを経ることでエッジが削がれ、平凡なアイデアになってしまう可能性があります。これは特に、変化の激しい現代のビジネス環境では致命的です。
さらに、こうした行為が横行すると、組織内の信頼関係が悪化し、建設的な議論の文化そのものが失われてしまう危険性もあります。
手続きの悪用を実務で防ぐ方法 - 健全な組織運営のために
手続きの悪用を防ぎ、健全な組織運営を実現するための具体的な方法を考えてみましょう。
①プロセスの本質的な目的を明確にする
手続きの悪用を防ぐ最も効果的な方法は、プロセスや手続きの本来の目的を明確にすることです。
なぜそのルールが作られたのか、何を守ろうとしているのかを組織全体で共有することが重要です。たとえば、承認プロセスが設けられている場合、それが「リスク管理のため」なのか「情報共有のため」なのかを明確にしておきます。
目的が明確になっていれば、その目的に照らして本当に必要なプロセスかどうかを判断できます。また、時代や状況の変化に応じて、ルールを柔軟に見直すことも可能になります。
②公正性と納得感を重視した運用
プロセスや手続きで重要なのは、関係者全員が**「公正だ」「納得感がある」**と感じられることです。死文化している条文を機械的に守ることではありません。
そのためには、定期的にルールの見直しを行い、現実に即した運用ができているかを確認する必要があります。また、新しい状況に対応するため、既存のルールを柔軟に解釈したり、必要に応じて変更したりする仕組みも重要です。
③建設的な議論を促進する文化づくり
最終的には、組織内で建設的な議論ができる文化を育てることが最も重要です。
これには、失敗を恐れずにアイデアを出せる心理的安全性の確保や、異なる意見を尊重する姿勢の醸成などが含まれます。また、議論に負けることを恥とせず、より良いアイデアが生まれることを歓迎する文化も大切です。
管理職やリーダーは、手続きの悪用を見つけた時には毅然とした対応を取り、同時に建設的な議論を積極的に評価することで、組織全体の意識を変えていく必要があります。