手続きの悪用(Malicioususeofprocess)
議論の内容そのもので負けそうなときに、プロセスや手続きの妥当性(の低さ)を理由に、その正当性に異議を唱えること。より広義には、ある目的を達成するために、法律的には問題はないものの、道義的観点からは問題のある行為を行うこと(例:国会における牛歩戦術など)。
プロセスや手続きを強く意識することそれ自体は、手続き的公正の観点からも決して悪いことではない。
法律の世界ではそれが顕著で、「デュー・プロセス・オブ・ロー」と言う言葉がある。刑罰などを受ける際には、適切なプロセス(手続き)に則る必要があるという考え方だ。実体法(民法、刑法など)に対して、手続法(民事訴訟法、民事執行法、刑事訴訟法など)を細かく定めている点にも、法律の世界における手続き重視の考え方が反映されていると言える。
しかし、プロセスや手続きのルールへのこだわりは、往々にして、議論そのもので負けてしまったとき(あるいは負けそうなとき)の言い訳として用いられることが少なくない。たとえば、議論が好ましくない方向に進んだときに、一転して、ほとんど死文化していると思われるルールを引っ張りだし、もう一度議論すべきと主張するなどだ。
こうした方法論は、ほとんどの場合、狭い視野から自分の主張を押し通すこと、あるいは単に議論に負けたことを認めたくないという偏狭な自尊心を原動力としており、企業にとって望ましい結果をもたらすケースは稀である。むしろ、スピードを殺いでしまって競争上不利になったり、あるいは、せっかくの創造的な提案だったものが、余分なプロセスを経ることで、エッジが殺がれ、平凡な提案になったりしてしまう。
プロセスや手続きで重要なのは、皆が「公正だ」「納得感がある」と思えることであり、死文化している文言を四角四面に守ることではない。もともと何のためにプロセスに関するルールが定められたのか、その本質を理解することが必要である。
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