なぜ言語化に注目が集まるのか
「言語化」といえば、近年ビジネス書の世界でも一大ブームとなっているスキルです。
現代のビジネスシーンは、変化が激しくかつ不確実な環境下で、従来とは異なる顧客ニーズを発掘し訴求していかなければなりません。そこでは、今まで明確には意識されていなかったような思いやビジョンに形を与える=言語化する必要が高まっています。
また、職場で関わる人々の多様性は否応なく増すばかり。これまでは暗黙のうちに共有されていた価値観や思考回路が通用しなくなり、細かいところまで言葉にして伝えないとコミュニケーションが取れないという状況もあります。
加えて、コロナ禍を経てリモートワークが急速に普及しました。ウェブ会議やチャットツールではノンバーバルな情報が伝わりにくい分、口頭にせよテキストにせよ言語化された情報の影響度がいよいよ増しています。
言語化力が向上させるリーダーに必須の5つの能力
本書は、そんな言語化の力をいかに高めていくかにフォーカスしています。「言語化力」というと、ともすると「新奇なアイデアや未発見の洞察、ビジョンをいかに上手く表現するか」といった創造性や、「ふんわり、モヤモヤした自分の中の感覚や思考をいかに的確に顕在化させるか」といった自己開示のことと連想されるかもしれません。
これはこれで重要ですが、本書はビジネスリーダーが日常的に仕事を進める上での言語化力に踏み込みます。具体的には、以下の5点での能力向上を目指して構成されています。
1. 論理的思考力・説得力が向上する
2. 問題解決力が向上する
3. 人を動かすことができる
4. 組織を成長させるための仕組みをつくることができる
5. 創造的思考力を高めることができる
特に、2の問題解決力や4の仕組みづくりにおける言語化力は、ビジネスリーダーとして成果を残すのにきわめて重要と言えるでしょう。
解説+自ら考える演習で体得できる実践書
本書は単に考え方やチェックポイントの解説が書かれているだけではありません。タイトルに「トレーニング」とあるように、上記の5項目それぞれについて演習問題としてビジネスシーンでありがちな設定が示され、その条件で自分ならどう言語化するかを考える仕掛けになっています。たとえば「期待の若手を重要な役目に抜擢するべく、勇気づける形で説得するには何というか」「法人向け営業担当者に対して、商談相手のキーパーソンを聞き出すテクニックを言語化するには何というか」という具合です(実際の本文中にはもう少し詳細な設定が書かれています)。
解説とともに載っているOK例、NG例と照らし合わせることで、より具体的に改善点を意識することができます。筆者も実際に演習を解きながら読み進めてみて、
- 素っ気なさすぎ、紋切り型になりすぎずに、細かいニュアンスまで言葉を尽くす
- かといって余計なことに寄り道せずに、言いたいことを端的に絞る
- 同じような意味のことを言っていても、書き手の熱意や臨場感が伝わる表現や演出を工夫する
- 心理的安全性は保ちつつ読み手の予定調和を破り、一段深い思考を促す鋭い問いを投げる
等々の点について、いかに多くのチェックポイントが要求されるかひしひしと感じました。
これを体にしみ込ませられるところが、本書が意図したトレーニングの最大の効果でしょう。自分自身の力を高めるためだけでなく、部下や後輩の指導・フィードバックの際にも活用することができます。
複数の部下がついたり、直属の上長に留まらず関係各部署との交渉・調整が必要となったりと、リーダーの階段を昇り始めたビジネスパーソンに特におススメの一冊です。
『思考力を高める 人を動かす MBA 言語化トレーニング』
著:グロービス経営大学院 著・編集:嶋田 毅 発行日:2024/5/22 価格:1,870円 発行元:PHP研究所
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