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あなたの会社にも訪れている?「構造的無能化」を脱する――『企業変革のジレンマ』

投稿日:2025/02/26更新日:2025/02/26

「なぜ、この組織は変わらないのか…」

大なり小なり、何かしらの変革に挑む人なら、誰しも一度はぶつかるこの問い。努力が報われない焦燥感に、足を止めたくなる瞬間もあるだろう。

もし今、あなたがそんな状況に置かれているなら、本書は突破口を見つける道標となるはずだ。

あらゆる組織が陥りうる慢性疾患「構造的無能化」

本書が扱う“企業変革”は、経営危機からの劇的な復活ではない。それよりも、多くの企業が直面する、緩やかな衰退からの回復に焦点を当てている

この状態を、著者は「急性疾患」ではなく「慢性疾患」と喩え、その解決策を探る。

私も現在、この「慢性疾患」に苦しむ組織で変革に挑んでいる一人だ。当初は希望と意欲に満ちていたが、いざ変革に取り組み始めると、現実は決してそれだけで突破できるような容易いものではなかった。現場の意識や行動が追いつかないことへの焦り、そして変革が停滞することへ苛立った経験は一度や二度ではない。

なぜ、企業変革はこれほど難しいのか。本書はその背景に、組織が抱える「構造的無能化」の存在を指摘する。

自ら変われない「断片化」「不全化」「表層化した」組織

構造的無能化とは、組織が考えたり実行したりする能力を喪失し、環境変化への適応力を喪失していくことをいう。

本書では、この状態に陥るメカニズムを「断片化」「不全化」「表層化」の3つの段階から解説している。

  • ① 断片化

    効率的な事業運営を目指す企業は、分業化とルーティン化を推し進める傾向にある。しかし、これらが進むと、各部門はいつしか全体像を把握せずに、与えられた仕事をこなすだけになってしまう。

  • ② 不全化

    断片化が進むと、組織は課題の捉え方や仕事の仕方が狭まっていき、やがて外部の変化を捉える力を失ってしまう。すると、新たな事業を生み出す能力を喪失していく。

  • ③ 表層化

    不全化が進行すると、視野はますます狭まり、過去のルーティンに囚われ続けてしまう。その中で、例えば収益の悪化や離職者の増加などの問題が発生しても、その本質を掴むことができず、問題認識が表面的なものに留まる。

この「断片化」「不全化」「表層化」の三つ巴の状態が循環し合い、組織は負のスパイラルから抜け出せなくなってしまう。これが「構造的無能化」のメカニズムだと本書は指摘する。

変革時に乗り越えるべき3つの壁「多義性」「複雑性」「自発性」

ところで、こうした状況を引き起こす「悪者」は誰なのだろうか。

実は、誰も悪くはない。むしろ、組織の一人ひとりは「会社を変えたい」という思いを持ち、その能力も十分に備えていることが多いという。

しかし、この「構造的無能化」に巻き込まれることで、個々の認識が次第に狭くなり、問題を適切に捉えられなくなっているのである。結果として、それぞれが変革を起こすアクションを取れない状況に陥るのだ。

では、こうした悪循環から組織はなぜ抜け出せないのだろうか。本書によれば、「多義性」「複雑性」「自発性」という3つの壁を乗り越える必要があるという。

  • 「多義性」の壁

    ある状況について複数の解釈が存在していても、その状態を捉えられなくなる。例えば、新興勢力の業界参入を脅威と捉えるかどうかは解釈がわかれるが、よくあることと軽視し、問題があることを捉えられなくなってしまう。

  • 「複雑性」の壁

    ある事象に対して複数の現象が絡み合い、状況が明確に認識されず、解決策もわかりにくくなる。例えば、全社的な変革が進まない場合、主導側や現場側など、立場により状況や原因は多岐にわたるだけに、何が問題なのかも特定するのが難しくなってしまう。

  • 「自発性」の壁

    変革の方向性を打ち出しても、現場で積極的に実行されなくなる。例えば、エンゲージメントサーベイの数値が悪い組織に改善を促しても、現場がその必要性を感じられず、協力も得ることができずに、変革が進まない状況が続く。

経営とは変革であり、変革とは対話である

ここまで経営に不可欠である企業変革の難しさや、その背後にあるメカニズムに触れてきた。しかし、変革を進める際、何が大きな鍵となるのだろうか。

本書では、先述の壁の乗り越え方や、(1) 全社戦略を考えられるようになる、(2) 全社戦略へのコンセンサスを形成する、(3) 部門内での変革を推進する、(4) 全社戦略・変革施策をアップデートする、という4つのプロセスを示した上で、鍵になるのは「対話」であると主張する

この「対話」の力は、私自身も企業経営に携わる中で深く実感している。だからこそ強調したいのは、著者が説く「対話」は決して簡単ではないということだ。

本書における「対話」とは、「他者を通じて己を見て、応答すること」と定義されている。具体的には、先入観や偏見を脇に置き、相手の視点で物事を捉え直すことによって、自分自身を変化させるプロセスである。

この「対話」は、一見シンプルで簡単に思える行為だが、実際には非常に難しい。特にその実践が難しいのは、メンバーを導く経営リーダー自身だと考える。

先に書いたプロセスからわかるように、「対話」の場に臨む際、人は「わかっていないのは自分である」という前提を持って臨まなくてはならない。経営リーダーにとって、これは簡単なことではない。なぜなら、リーダーたるゆえんでもある、これまで積み上げてきた知見や経験、そして自身の権威をも一旦手放し、同じ立場で向き合う覚悟が求められるからだ。時にはリーダーとしての信頼や自信が揺らぐ瞬間もあるだろう。相手と同じ立場で対話を重ねることで、葛藤や不安が生まれることも少なくない。

このように考えると、変革を進める者にとって、著者の提言は難易度が極めて高い課題だと感じられるかもしれない。しかし、このチャレンジこそが、現状を打破するための大きな糸口となり得るのも確かだと思う。

本書を読み終えた今、私自身は著者から挑戦状を突き付けられたかのような感覚に襲われた。しかし、同時に、大きな希望も感じている。変革の最前線で奮闘し続ける人々にとって、ぜひ手に取ってもらいたい一冊だ。


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