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「歴史」から学ぶリーダーシップ〜出口治明×為末大

投稿日:2021/06/09

本記事は、G1ベンチャー2015「歴史とリーダーシップ~“破壊的”イノベーションを生み出す“武器”としての歴史~」の内容を書き起こしたものです。(全2回 後編)

為末大氏(以下敬称略):出口さんは、リーダーに必要な資質のようなものは何だと思いますか?

 出口治明氏(以下敬称略):まず夢を持っていることは絶対大事ですよ。「自分はこれをやりたい」ということがなかったら、リーダーでも何でもないので。ただ、難しいのは、自分のやりたいことや意見は愚直に変えないことが大切ですが、同時に、愛嬌みたいなものが必要だと思いますね。「なんか、ここまでリーダーが熱心にやっているのなら、協力してあげてもいいかな」とか、そういう人っていますよね。逆に「あの人は言っていることは立派だけれど、なんかカチンとくるから、足を引っ張ってやろう」という人もいます。ほんのわずかな差かもしれませんが、歴史上、大帝国をつくったり、ものすごく大きい集団をつくるリーダーは、愛嬌があるというか、好かれるという人が多い気がしますね。

為末:なるほど。では会場からの質問に入りたいと思います。

Q.今、日本が抱えている課題が人口減少です。今までの日本の歴史では、人口はずっと右肩上がりに増え続けてきた時代から、これからどうやったら、ある一定のところで下げ止まることができるか、歴史をずっと俯瞰してこられた出口さんはどう思われますか?

出口:このままいけば明治時代の時の人口に戻るという予測もありますが、明治時代と全く違うのは、明治時代の人口になっても人口構成がまったく違うということですよね。だから私は、個人的にいえば、日本の一番の課題は、一にも二にも三にも、人口を増やすことだと思っています。一番のモデルになるのは、やっぱりフランスの考え方がしっくりする気がします。「シラク3原則」という極めてシンプルな原則がありますけれど、この第1原則は、男は赤ちゃんを産むことができないので、赤ちゃんを産むか産まないかは女性が100%自由に決めればいいという原則です。でも、赤ちゃんを産むということはコストがかかるわけですから、その女性に経済力がなかったら赤ちゃんを産めませんよね。だから、女性は産みたい時にいつでもいいと。でも、そのときに困らないように、極力、税金でそこの格差を縮めると。「子どもは社会の宝である」というのが第1原則です。

第2原則は、いつでも産めるといっても、基本的には仕事をしないと生きていけないので、地方自治体の役割として、待機児童ゼロというのはマストですというものです。「いつでも赤ちゃんを産んでも働けますよ」という状況をつくることが第2原則です。

第3原則は、意外に知られていない気がするのですけれど、元のポジションに元の地位で戻れることを法定化したことです。私は以前、大企業にいたのですけれど、例えば10人いたら、最近は民間も厳しくて、1番から10番まで順位をつけるのですよね。「今年頑張った人」と、「人事の評価です」と。で、ある女性がそのグループで2番だったとします。で、産休で休んだと。そうしたら、1年働いていないわけですから、前の会社では、上司が働いていない人に対して、「この人は、今年は働いていないのだから、10番にしよう」とか言うわけですよ。でも、これをやっちゃうと、もう明らかに会社に戻れないのですよね。シラク3原則の第3原則は、2番で休んだ人は2番で戻さなきゃいけないということを法定したのですよね。そうすると、男でも女でも安心して休める。留学と同じだと。こういう枠組をつくったことで、1996年ぐらいが出生率1.6少しだったのが2005年には出生率2.0ぐらいまでに戻っているので、10年ぐらいでこういうベーシックな政策をきちんとやれば、たぶん0.4とか0.5ポイントは上げることができると思います。
それから、これももうご存じと思いますけれど、私がフランス人に聞いた限りでは、このシラク3原則の元になった考えは何かといえば、パリにINSEADという英語の大学院ができたこともあり、フランス人の若者の50%以上がフランスワインを飲まなくなったと。むしろビールとか、あるいは他のものを飲んでいる。フランスがどんどんアングロサクソン化していくと。そこで、「フランス文化というのは放っといていいのだろうか」という問題提起が社会全体で起き、フランス文化を残そうとなりました。で、フランス文化を残すということはどういうことかと議論をすれば、それは「フランス語を話す人口を増やさなければ、絶対、文化は残らない」となったのです。それがシラク3原則ですよね。
ですから、私の知る限り、フランスのアプローチは、社会保障がどうかとか国の生産性がどうかというより、フランスの文化を残すためにはフランス語をマザータングとする人口を増やさなきゃいけない、ということでした。フランスで産まれる赤ちゃんを増やすために、このシラク3原則を始めたのです。この話を聞いて、私はすごく腹落ちしました。

為末:一夫多妻はあんまり効かないですか(会場笑)。

出口:これ、誤解があってですね、例えば日本を除くG7の国では全部、婚姻外で産まれた赤ちゃんのほうが多いですよね。フランスではたしか、法律婚以外で産まれた赤ちゃんが6割近いと思います。でも、これは一夫多妻とか、不倫とか、すぐ考えそうなのですが、実は違うのです。G7の他の国では全部、女性が初めて赤ちゃんを産む年齢と、初めて結婚する年齢がずれていて、赤ちゃんを産んでから2、3年後に結婚しているのです。つまり、二人で住んでいて、かわいい赤ちゃんが産まれたら、どちらも責任を感じて法律婚にするというパターンなのです。ところが、先進国の中で日本だけが、婚姻年齢の方が早いんです。婚姻してから赤ちゃんが産まれているのです。これはなぜかと考えたら、やっぱり無意識の社会差別があるからでしょうね。

為末:「できちゃった婚」をむしろ奨励したほうがいいっていうことですね。

出口:はい。というか、子どもというのは社会の宝で、人間というのは次の世代のために生きているわけですから、どんな子どもであっても社会の宝なので、女性が赤ちゃんを産んでくれたら、社会みんなで「ありがとう」と言うべきです。そういう社会にしていけば、この問題はなくなると思うのですけれど。だから、むしろ婚姻外の赤ちゃんがたくさん産まれているというのは、結婚していないわけではなくて、先に赤ちゃんを産んでしまうというのが数字的に大きいですね。

為末氏:なるほど。じゃあ、次の質問です。

Q.出口さんが面白いなと思えるリーダーがいれば教えてください。

出口:生きているリーダーでなくてもよかったら、私は、クビライはすごいと思いますね。なんですごいかといえば、クビライの生きた時代というのは十字軍の時代で、ヨーロッパでは宗教の違いで人を殺していたのですよね。クビライの言葉が残っていますが、「思想とか信条とかいうのは、あるいは宗教というのは目に見えない。その目に見えないもので人の首を斬っていたらもったいない。人間については、何をやりたいのか、おまえは何が得意なのか、よく聞いて、使ったほうが得である」と。この寛容の精神というのはすばらしいと思います。

Q.出口さん、為末さんが歴史を学ばれて生かしている原理原則、そして実際に行った意思決定などあれば教えてください。

出口:歴史を学ぶ意味は、原理原則もありますけれども、私はケーススタディの要素の方が多いような気がしますね。いろいろなことが起こった時に、人ってどんな判断をしたんだろうと。だから、原理原則もありますが、私は、歴史というのは最高のケーススタディだと思っています。

歴史から学んだことといえば、やっぱりダイバーシティの大事さですよね。ライフネット生命をつくるときに「私はどういう人だろう」と抽象化したら、「年を取っていて、保険のことはちょっとは知っているよね」という属性ですよね。「じゃあ、パートナーは誰が考えても、若くて保険のことを知らない人のほうがいいよね」という理由で岩瀬大輔氏を選んだと。

 為末:私はあんまり詳しくないのですけれども、歴史が面白いなと思うのは、断片的な情報なのですね。事実があるのと、もう一つ見方があって、それはつまり活字なのですけれど、「この人はこう見た」という、「13世紀の農民はこう見ていたけれど、漁師はこう見ていた」みたいな、そういうのを集めて「こうだったのじゃなかろうか」という推論を出すというところが、これから先を見る上でも大事な点かなと思っています。

もう一つ、おっしゃっているような原理原則とはちょっと違うかもしれないですが、プラトンという哲学者がいて、彼はオリンピアンだったのですね。レスリングのオリンピックで、彼は銀メダルに終わるのです。プラトンはその後、哲学を志して哲学者になります。私は自分の人生は銅メダルで終わっちゃったので、次の人生で「もう一発勝負がある」というのは、スポーツ選手にとっては希望なのですよね。それはすごく勇気づけられた。本当の話かどうかわからないですけれど、でも、裏を取って元気がなくなるぐらいだったら、この話を信じておけばいいかなと思って。

 Q.出口さんが注目する歴史上の女性リーダーとは?

出口:奈良時代は、昔は「女帝の世紀」と習ったと思います。その理由は「草壁皇子とか文武天皇とか聖武天皇が病弱で幼かったから、しっかりした女性が中継ぎで継いだ」と、こういうふうに習った記憶があると思います。でも、これはまったく嘘だと思いますね。650年から700年の間、奈良時代の前の中国を治めていたのは、女帝の武則天ですよね。彼女はめちゃくちゃ優秀だったので、おそらく日本でいえば、持統天皇はそれを知って、そうしたら「日本は私が仕切っても何もおかしくないだろう」と思ったと思うんですよね。だから、ロールモデルがあったからこそ奈良時代は女性が活躍できた。

中国の北魏から隋・唐という王朝は、学者は拓跋(たくばつ)帝国と呼んでいますが、拓跋部という部族がつくった王朝です。全部異国人なのです。このグループは、ものすごく女性の力が強いのですよ。なぜかよくわからないですが。だから、武則天だけではなくて、馮皇后とか、それから韋皇后とか、本当に優れたリーダーが山ほど出てきているんですよね。だから、おそらく日本の奈良時代というのは、持統天皇というのは鸕野讚良(うののさらら)という名前ですけれど、彼女は明らかに天照のモデルですよね。古事記とか日本書紀ができた時代で、彼女はおそらく藤原不比等という官僚を使って、物語を全部、日本の建国を成し遂げているので。そういう意味では、日本という国を本当につくったのは持統天皇だと私は思っています。つまり、日本は女性がつくった国ですよね。

 Q .なぜ歴史上、バブル崩壊のようなことを繰り返すのか?

出口:これは荒っぽい議論なのですけれど、自然界にあるものと人間の社会って割とよく似ていると思うのです。「振り子」ってありますよね。振り子って振り切らないと元に戻らないんですよ。だから同じように、いろいろな作用・反作用があるのですけれど、社会ってやはり、ある方向に流れたら、あるところまで行かないと元に戻らないところがあるような気がしますよね。だから、社会って振り子のような気がします。
それからもう一つは、バブルって振り子で考えたら、熱中したらピークに行くまでは終わらないのですよね。いくらクールな人がいて「これはおかしい、おかしい」とか警鐘を乱打しても、社会全体としてはやっぱり極限まで行っちゃうので、そういう癖を持っていると。だから、バブルで極限まで右に振れて、あとはどこまで戻すかというのは、その社会の対応によって違うのですが、バブルというのは必ず起こるので、それは振り子が振り切れるところだというふうに考えたらいいのかもしれないと思います。

為末:それでは、時間になりましたのでセッションを終了いたします。ありがとうございました。(会場拍手)

 

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