フェミニスト男性も危ない、森喜朗氏が偏見に気づけなかった理由~クリティカル・シンキングで「女性蔑視発言」の論理構造を読み解く~

森喜朗氏の女性蔑視発言が大きな話題を呼びました。しかし、本人は女性蔑視の意図がなかったと言っています。では、森氏は一連の発言を通じて何を伝えたかったのでしょうか。また、本人の意図が正しく相手に伝わらなかったのはなぜでしょうか。前回は、森氏の発言をピラミッドストラクチャーで整理することで、リーダーに求められる論理思考力について考察しました。今回は、論理思考力の弱さで足をとられないようにビジネスリーダーとして得るべき教訓を紹介します。

森氏の偏見は、差別意識に基づくものか

森氏の論理構造を整理すると、一連の発言の根底にある偏見は、「女性は優れているものの、(同性に対する)競争心が強い」ということが明らかになります。しかし、本人はそれを女性蔑視だと考えていません。その理由は、「優れている」や「競争心が強い」というのは、その言葉自体は誉め言葉にも取れるからだと思います。本人の中では、褒めているつもりかもしれません。実際、この箇所は女性蔑視発言として強い批判の対象になっていません。

週刊誌では、森氏の娘さんや森氏の家族と過ごしたことのあるジャーナリストの話が掲載されています。どこまで信じるかはさておき、次のような話が出ていました。


  • ジャーナリスト:森家は完全なカカア天下でした。食事をした時、奥さんは『あなたが総理大臣で東京で偉そうな顔をしている時に、私は地元を最敬礼して回っていたんだ』と言っていましたが、森さんはそれに一言も返せなかった。
  • 記者:家族から見て、女性蔑視の部分とか感じられることは? ⇒ 家族:もちろんそれは全然ないです。女性のほうが全然人数も多いですし。いつももう私たちのほうがもうしゃべって、しゃべるスキを与えないぐらいなので。
  • 記者:威張ったりすることはないんですか? ⇒ 家族:ないです。そんなのは全然ないです。

森氏の「女性は優れているものの、(同性に対する)競争心が強い」という偏見は、家庭での経験から導かれている可能性があります。そう考えると、一連の発言の根底にある偏見は、差別意識に根差していない可能性があります。

これは、森氏の謝罪会見と辻褄が合います。「女性蔑視という気持ちは毛頭ない」、「女性の皆さんをできるだけ称えてきた」、「解釈の仕方だと思うが、当時そういうもの(女性蔑視のこと)を言ったわけではない」、「意図的な報道があったのだろうと思う」などです。女性蔑視発言そのものは批判されるべきですが、森氏にその意図がなかったとしたら、これは他人事ではありません。つまり、「論理的思考力」の弱さが原因で、差別的な発言をしてしまう可能性があるということです。

どうしたら、論理の穴に気付くことができるのか

論理の誤りに気付くためには、常に「別の論理が成立する可能性」をチェックすることが有効です。森氏の女性蔑視発言を例に説明します。森氏はラグビー協会で女性理事が積極的に発言する様子から、女性が多い会議は時間がかかる、と解釈しました。

もし、森氏が他の可能性を考えていたら、こうした思い込みは防げたはずです。ラグビー協会で女性理事が積極的に発言をする「他の理由」として考えられることは、例えば次のようなものです。

  • そもそも発言量に男女は関係なく、そういう人物が女性だった。(性別は無関係)
  • ラグビー協会に初の女性委員が誕生したのは2013年で、古参が少なく、新しい人が多い。そのため、質問などが増える。あるいは、空気を読まずに躊躇なく発言できる。(理事としての経験年数)
  • 女性はラグビー協会の下部組織の出身者ではない人が多いので(ラグビー競技人口の男女比は19:1)、ラグビー協会の「体育会系的」な上意下達のコミュニケーションスタイルに馴染みがない。そのため、1人あたりの発言が相対的に多くなる。(協会の内部に近い人物か、外部か)

ちなみに、ラグビー協会で初の女性委員が誕生したのは2013年で、森氏が会長をしていた時代です。女性として初の理事に就任した稲澤裕子氏(新聞社出身)は、次のように語っています。「私は初めての女性理事であると同時にラグビーのことを全く知らない素人の立場の理事としても初めてだったのですね。私、分からないことは素直に質問しちゃうんです」。稲澤氏は就任時に協会幹部から「素人の視点こそ大事」と言われたそうです。

このエピソードを考慮すると、発言の多寡は「男女か否か」ではなく、「これまでの理事会メンバーと同質性が高いか否か」が原因になっている可能性があります。

女性の理事が増えることと、会議の時間がかかるようになることの「両方の原因となる因子」に、「理事会メンバーの多様性・ダイバーシティを高くする(同質性を低くする)」があります。こうした因子のことを「第三因子」と言います。第三因子の例を挙げると、「自分のベスト体重を維持できているビジネスパーソンは、仕事で高い成果を挙げている」のような場合、第三因子は自己管理能力の高さになります。

女性の理事が増えたことと、会議に時間がかかるようになったことの間には、(ラグビー協会においては)相関関係が見られたのかもしれませんが、そこに因果関係はありません。

ビジネスリーダーはこの事例から何を学べるか

今回の件で森氏に対して向けられた批判は、女性蔑視に加えて、事前の根回しや談合で物事を決める「密室政治」です。その意味で、森氏は非常に力量の高い政治家だったのだと思います。だからこそ、論理的なコミュニケーションスキルに弱みがあっても(失言が多くても)、首相まで上り詰められたのでしょう。

しかし、昨今は企業でもガバナンスが厳しく問われるようになっているので、密室による根回しだけで物事を進めることが難しくなっています。また、記録メディアの発達やWeb会議の普及、スマートフォンの高性能化と普及によって、様々なところで映像や音声の記録が取られるようになりました。本人にとっては「ちょっとした失言」が、大問題になる可能性があります。

対策としては、日々の言動に気を付けるというのはもちろんです。しかし、森氏もそれは十分承知されていたでしょう。「テレビがあるとやりにくいんだが」と前置きをして話をしていることから、そのことが伺えます。それでも問題とされる発言をしてしまった理由は、ご本人が論理的な誤りに気付いていないからです。本人は至って「筋の通った話」をしたと思っています。こうなると、周囲は防ぎようがありません。

森氏の発言とその後の辞任劇からビジネスリーダーが得られる教訓は、論理思考力、クリティカル・シンキングのスキルを磨くことが重要だということです。

グロービス経営大学院の「クリティカル・シンキング」では、論理思考力を鍛えることができます。また、体験クラスも行っています。

 

(参考資料)本文に出所を明記したものは除く。

・ラグビー協会初の女性理事
・稲澤裕子さん「森会長から私の発言を制止されたような記憶は正直あります|報知新聞社2021年2月5日
・稲澤裕子オールインタビュー|Sports Woman CareerUp
・森喜朗氏の長女が告白「父が問題を理解するのは年齢的に難しい」|NEWSポストセブン
・ラグビーの競技人口はどのくらい?日本は?世界は?|SPOSHIRU

RELATED CONTENTS