森喜朗氏の失言から学ぶ、伝えるための論理思考~ クリティカル・シンキングで「女性蔑視発言」の論理構造を読み解く ~

東京オリンピック・パラリンピック大会組織委委員長(当時)の森喜朗氏が、女性蔑視と取られる発言で国内外から批判を浴びたことを受け、2月12日の会見で辞任を表明しました。後任に橋本聖子氏が就任したことでこの騒動は終息したように見えます。しかし、これで世の中から性的蔑視発言がなくなるわけではありません。

会見では、「私の不適切な発言が原因で、大変混乱をきたした。大変迷惑をかけて申し訳ない」と謝罪しましたが、女性蔑視については否定。森氏は「女性蔑視という気持ちは毛頭ない」、「女性の皆さんをできるだけ称えてきた」と自らの実績を挙げて主張。加えて、「解釈の仕方だと思うが、当時そういうもの(女性蔑視のこと)を言ったわけではない」、「意図的な報道があったのだろうと思う」と、報道に対する不満を述べました。[1]

森氏の女性蔑視発言は批判されて当然です。しかし、本人はその意図がなかったと言っています。では、森氏は一連の発言を通じて何を伝えたかったのでしょうか。また、本人の意図が正しく相手に伝わらなかったのはなぜでしょうか。

本稿では、森氏の発言をピラミッドストラクチャーで整理することで、リーダーに求められる論理思考力について考えます。発言を丁寧に読み解いていくと、この件は決して他人事ではないことに気づくと思います。

最初に、問題とされた発言の内容を確認

問題となった2月3日の発言を確認する前に、発言の前提を確認します。発言があったのは、2月3日のJOC(日本オリンピック委員会)の臨時評議員会(オンラインも含めて51人が参加)です。会議では「今年6月の役員改選に向けた規定の改正」が報告され、「女性の理事の割合を40%以上にする目標」が示されました。森氏の女性蔑視とされた発言は、「女性理事の割合を40%以上にする目標」に対応しています。

評議員会に出席した森氏は最後にあいさつとしての発言を求められ、40分間ほど話をしました。森氏は終始この話題に触れていたわけではありません。その構成は ①JOCの本部が入っているビルの移転に関するエピソード(森氏は移転後、初めての来訪)、②オリンピック開催に向けてのお願い、の2つです。女性蔑視とされる発言は②の中で飛び出しました。以下が、その部分の内容です。[2]


  • これはテレビがあるからやりにくいんだが女性理事を4割というのは文科省がうるさく言うんですね。だけど女性がたくさん入っている理事会は時間がかかります。これもうちの恥を言いますがラグビー協会は今までの倍時間がかかる。女性がなんと10人くらいいるのか今、5人か、10人に見えた(一同笑い)。5人います。
  • 女性っていうのは優れているところですが競争意識が強い。誰か一人が手を挙げると、自分も言わなきゃいけないと思うんでしょうね、それでみんな発言されるんです。結局女性っていうのはそういう、あまり言うと新聞に悪口書かれる、俺がまた悪口言ったとなるけど、女性を必ずしも増やしていく場合は、発言の時間をある程度規制をしておかないとなかなか終わらないから困ると言っていて、誰が言ったかは言いませんけど、そんなこともあります。
  • 私どもの組織委員会にも、女性は何人いますか、7人くらいおられますが、みんなわきまえておられますみんな競技団体からのご出身で国際的に大きな場所を踏んでおられる方々ばかりです。ですからお話もきちんとした的を射た、そういうのが集約されて非常に我々役立っていますが、欠員があるとすぐ女性を選ぼうということになるわけです。

※ 組織委には現在、理事35人中、女性は7人


森氏が女性に関して言及したのはこの部分のみで、そのあとはオリンピック開催に向けての強い決意を述べました。40分に及ぶ話を通じてご本人がもっとも伝えたかったのは「これまで準備してきた関係者の方々や、何よりアスリートのためにも、オリンピックの開催に力を貸してほしい」です(全文を読むと分かります)。しかし、ご本人の意に反して、途中で触れたこの発言は最も注目される結果になりました。

ピラミッドストラクチャーで整理すると何が分かるか

最初に、この発言の前提となっている「イシュー(中心となる論点)」と、それに対する森氏の「メインメッセージ(最も言いたいこと、結論)」を確認します。

  • 発言と「言いたかったこと」のズレ

イシューは、「JOCの女性理事の比率を現状の2割から4割に上げるにはどうすべきか?」です。メインメッセージはこれに対する返答になります。このイシューに対する森氏の主張は、「欠員があるとすぐに女性を選ぼうということになる」です。これは、問いに対してストレートに答えていません。

さらに森氏は、本来のイシューを微妙に変えています。JOCの会議では、文科省からの要請で「女性理事を2割から4割に増やすにはどうすべきか」について議論していました。それなのに、森氏は「女性理事の比率を4割に上げるべきか?」というイシューに変えています。これは、文科省の設定したイシューそのものに疑義を呈している可能性があります。つまり、意図的にイシューを微妙に変えているということです。

そう考える根拠は、森氏の2月4日の会見での発言です。記者から女性登用についての基本的な考え方を問われ、「どなたが選ばれたって良いと思いますが、あまり僕は数字にこだわって、何名までにしなきゃいけないというのは、ひとつの標準でしょうけど、それにあんまりこだわって無理なことはなさらないほうが良いなということを言いたかった」と返答しています。森氏の発言を意訳すると、「女性理事を4割にするのは(すぐには)無理なことなので、そういうイシューの設定自体が受け入れられない」ということです。ただし、あくまで性差別の意図はなかったと述べています。「そういう認識(女性を登用しない)ではありません。女性と男性しかいないんですから。もちろん両性っていうのもありますけどね」(2月4日の会見)。

主張と根拠がつながっていない

続いて、主張と根拠の関係を確認してみましょう。

結論とそれを支える根拠のつながりに違和感があります。仮に「女性が多い会議は時間がかかる」という森氏の認識が正しいとした場合でも(この箇所は後で扱います)、「理事は欠員が出たら女性を選ぶ」という旨の結論にはなりません。

こうした結論を導くには、「活発な発言によって、会議が長くなるのは良くない」というルール・前提が必要です。森氏の論理には、こうした前提が隠れています。

【隠れた前提】

法則(隠れた前提):会議の時間が長くなるのは良くない。

事象:女性が多い会議は時間がかかる。 ※ これも、森氏の非論理的な思い込み

結論:会議に女性を増やすべきではない。

森氏の発言の意図をくみ取って発言を整理すると、以下のような論理構成になります。

  • 根拠の妥当性に疑念

これで主張と論理のつながりは見えてきました。その上で、主張を支える根拠の内容にも疑念があります。

ひとつは、「活発な発言によって、会議の時間が長くなるのは良くない」という部分(隠れた前提)です。これについては、森氏はオープンな議論を嫌い、密室での談合や事前の根回しで物事を決めることを良しとしているのではないか、という指摘があります。もしそうだとしたら、JOCは公益財団法人なので、ガバナンスの健全性が懸念されます。

もうひとつは、女性蔑視とされた発言「女性が多い会議は時間がかかる」の部分です。これは、ラグビー協会で森氏が経験したこと事象を女性全般に一般化しているようです。この発言は一般常識と乖離しており、本人の思い込みの可能性が高いです。これを「軽率な一般化」といいます。

【軽率な一般化】

事象:ラグビー協会では、女性理事の割合を増やしたら、一人が発言すると他の女性も発言するので、会議に倍の時間がかかるようになった。

解釈:女性が多い会議は、一人が発言すると他の女性も発言するので、時間がかかる。

森氏の女性蔑視とされる発言が飛び出した理由として、女性に対するバイアス(偏見)が影響している可能性が指摘されています。これは、「軽率な一般化」によくあることです。

「女性が多い会議は時間がかかる」発言の背景

森氏は「女性がたくさん入っている理事会は時間がかかります」と発言したあと、ラグビー協会の事例に続き、女性について独自の見解を披露しています。それは「女性っていうのは優れているところですが競争意識が強い。誰か一人が手を挙げると、自分も言わなきゃいけないと思うんでしょうね」という発言です。女性は競争意識が強いという部分は、断言しています。

この前提は、話し手の中では当然のことになっていますが、聞き手には共有されていないこと、つまり「隠れた前提」です。そして、この前提が論理的に誤りなのは明白です。

【論理の飛躍】+【隠れた前提】

法則:女性は優れているものの、競争心が強い。 ← これが誤り

事象:ラグビー協会では、女性理事の割合を増やしてから、女性の発言が増えたことで、会議に倍の時間がかかるようになった。

解釈:女性は競争心が強いので、ひとりが発言すると他の女性も発言するため、時間がかかる。

これは論理の飛躍です。森氏は、ラグビー協会で女性の委員が積極的に発言する様子を見て「女性は(同性に対する)競争心が強いからだ」と捉えましたが、それは森氏が普段から女性に抱いている偏見が影響しています。この偏見が前提となり、ラグビー協会での事例を女性全般に拡大して「女性の多い会議は時間がかかる」という結論に至ったのだと思います。

このように、森氏の「女性が多い会議は時間がかかる」という偏見は、「女性は(同性に対する)競争心が強い」という別の偏見から生じています。論理の誤りによって、ひとつの偏見が別の偏見を作り出す状況に陥っています。

次回は、ここからビジネスリーダーが得るべき教訓をお伝えします。

グロービス経営大学院の「クリティカル・シンキング」では、論理思考力を鍛えることができます。また、体験クラスも行っています。

[1] 東京新聞 TOKYO WEB 2月12日 【全文】森喜朗会長が辞任表明、女性蔑視発言は「解釈の仕方」「意図的な報道あった」
[2] スポニチアネックス2021年2月5日「森氏 3日の発言「女性がたくさん入っている理事会は時間がかかります」

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