テーマと出演者
テーマ:「動画メディアの未来」。
発言のポイント
1)アベマの事業戦略について
・テレビをネット上で再発明しようと考えていた。テレビを観なくなった若い子にどうやってコンテンツを届けるか。テレビの前に引き戻すのでなく、スマホを覗く習慣のなかで簡単に観ることができるものをつくろう、と。
・基本的には広告で収益を成り立たせたいが、中途半端な規模では売りづらい。ヤフーのトップはネット上で1番大きなメディアだから1本500万でも売りやすかった。だから、アベマもWAUが1,000万に届かなければ事業は失敗だと考えていた。
・今はWAU1,300~1,400万で推移している。ただ、大きな特番があったりすれば数は跳ねるけれど、それ以外が閑散としていたら意味はない。大事なのはベースアップ。今後も粛々と改善を重ねていく。
・今は年間200億前後の赤字が毎年20億ぐらいずつ減っている。この事業は長くやればやるほど勝率が高まると考えているから、短期的な黒字化のために無理をする経営はしたくない。コストを下げるとコンテンツの魅力が落ちるし、コンテンツ業は多額の金を突っ込んだほうが強くなりやすい。その意味では、かつかつの収益にせず、大変な赤字か大変な利益が出ているというぐらいの状態にしたい。
・正直、マネタイズの手段はなんでもいい。今は競輪事業もはじめていて、足元は黒字化して大変な高収益事業になった。高収益事業を持っているとコンテンツに十分な投資ができる。競輪もアベマというメディアを持っているから参入が認められたし、今はアベマで毎日競輪の番組をやって伸ばしている。
・アクセスは、テレビのようなリニア放送とオンデマンドでだいたい半々。そうなると広告が半分に散ってしまって1,300~1,400万のWAUを完全に捉えきれないから、今はそれをすべて捉えきることのできる広告の開発というか、UIのリニューアルを進めている。
・なんとなくチャンネルから流れてきて、それが面白いという話ではだめ。「尖っているものにしてくれ」と言っている。一方では息の長い定番をつくることが視聴習慣をつくることにもつながるから、長い目で見てしっかり定着するコンテンツもつくっていく。
2)動画メディアの現状
・テレビ業界は疲弊している。コンテンツにお金をかけられず、縮小再生産のなか、あと2~3年で破綻するローカル局も出てくると思う。今はコロナがさらなる収益悪化を招いていて、キー局も制作費を一律でカットしている。それで結局は視聴率が取れなくなって売上も落ちるという流れで、地上波テレビの未来は本当に厳しい。
・メディアビジネスに限界が来ている。広告枠を売るビジネスが、コンテンツとチャネルが増えていくなかで広告価値を維持できなくなってきた。
・テレビはそれほどひどい状況でもないと思う。最も大きなYouTubeですら地上波の1/20ぐらいで、まだまだ大きい。それに、大晦日は紅白、正月は駅伝等々、アベマで番組ブランドをつくろうとしている立場からすると、テレビ局のブランド力には大変な価値がある。変に安売りせず、伝統と格式をしっかり守る方向に舵を切っていくべきではないか。
・制作費が縮小しているのは危険。お金をかければコンテンツが良くなるのは間違いない。だから、収益を他で確保するか、やりづらいとは思うけれどコストを削ることも必要だと思う。
・放送は総務省管轄の免許事業。各県域で電波が分け与えられていて、それが既存放送局事業を守ってきた。しかし、ラジオの世界ではradikoが完全にエリアを越えていて、それによって弱体化していたラジオが、完全復活とはいかないものの持ち直している。そのTV版みたいなものができたら、と思う。
3)動画メディアの未来はどうなっていくのか
・今は想像以上に危険な状態だと思う。役者の方とすればギャラが良いことに加えてNetflixはグローバルに配信されるから、ドラマが当たれば世界にファンができる。そうなれば「Netflixに出たほうがいいや」となっていく。月1,000円でこれほど多くのコンテンツを提供できるのも恐ろしい。最初に勝ち逃げしたところが大変な高収益でコンテンツにコストをかけられるようになり、中途半端なところは皆苦しくなる。加入者数が足りないので、損益分岐点を超えた収穫逓増モデルに乗せられない。Netflixはそこを超えている。
・サイバーエージェントの社員は皆、「NetflixとYouTubeを観ている」と言う。アベマと言わない(笑)。いわゆるF1&M1層に向けた編成をアベマはやってこなかった。YouTubeは最初から“いいとこどり”だし、勢いはさらに増していくと思う。
・テレビ局のネット進出が遅れているとの声はあるが、テレビのコンテンツをネットにすべて乗せてしまったら、いよいよテレビは必要なくなってしまう。もともと地域のしばりや著作権の問題があったし、ゼロからつくったほうがのびのびやれるので、アベマはテレビ局のコンテンツを持ってくるのでなく、自力またはテレビ朝日と組んでやっている。
・メディアの背骨はニュース。広告でマネタイズできないし、課金すると見てもらえなったりするけれど、最もアクセスを集めるのもニュースだ。それでメディアを大きくしているという意味では十分役割を果たしている。だから、良質なニュースチャンネルを維持するためにも他で収益をあげなければいけない。
・メディアとしての価値を高めてくれるものに十分お金をかけるためにも、番組ごとにペイしているかどうかを見るのでなく、トータルで高収益にできればいい。アベマは周辺事業もたくさんやっているし、そこでなんらかの収益をあげながらニュースを守るという立場になる。
最後のディスカッションにご参加してくださった皆様
今後の予定
G1@CH⑮「2050ゼロエミッションに向けて真正面からエネルギー政策を論じよう」国際環境経済研究所 竹内純子 × エネルギーアナリスト 大場紀章 × 堀義人
G1@CH⑯「社会の機会平等の確保と格差是正」今村久美 × 堀義人 (coming soon)
G1@CH⑰「コロナ禍だからこそ考える企業のwell-being」プロノバ 岡島悦子 × 予防医学研究者 石川善樹 × 楽天 北川拓也 × 堀義人