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固定費――増やすのは簡単だが簡単には減らない「鬼っ子」

投稿日:2021/01/13

2020年8月発売の『KPI大全–重要経営指標100の読み方&使い方』から「084 固定費」を紹介します。

固定費は、変動費に比べ「稼働率のリスクを自ら取った、ハイリスク・ハイリターンの費用」です。順調に売上げが伸びている時には、損益分岐点さえ超えれば企業に大きな利益をもたらしますが、逆に損益分岐点に売上げが到達しないと、非常に大きな赤字をもたらします。つまり、変動費型のビジネス(流通業などは除く)は、儲かるときもそこまで儲からないけど、損をするときもそこまで損をしない、という特性があるのに対し、固定費型のビジネスは、儲かるときは非常に儲かるけど、損をするときには巨額の損失を出しうるという特性があるのです。固定費はまた、増やすのは簡単ですが、減らすのは容易ではないという特性もあります。特に正社員の指名解雇が難しい日本企業ではそれがあてはまります。VUCAの時代と言われて久しいですが、企業が将来を見通してどのくらいの固定費を持つかは、今後ますます難しい課題となっていくのです。

(このシリーズは、グロービス経営大学院で教科書や副読本として使われている書籍から、東洋経済新報社のご厚意により、厳選した項目を抜粋・転載するワンポイント学びコーナーです)

固定費

短期的なマネジメントサイクルにおいて、仮に売上げが生じなくても発生する費用。資源購入にコミットした費用ともいえる

KPIの設定例

先行きが見えない中、固定費を減らすことは急務だ。現在15億円の固定費をこの1年で14億円程度には減らそう。それを各事業部に割り振ると……

数値の取り方/計算式

「KPIの見方」を参照。簡便版としては勘定科目法が用いられるが、慎重を期すなら回帰分析法もあわせて用いるのが好ましい

主な対象者

経営者、財務責任者、事業責任者

概要

固定費の具体的な内容としては、正社員の人件費やオフィスの賃借料、減価償却費などがあります。広告費や開発費も固定費的要素の強い費用です。売上げに応じて増減する変動費(原材料やアルバイトの人件費)に比べ、一般的には、より企業活動にとって重要な費用といえます。

会計(特に管理会計)においては、固定費と変動費の別、次項とその次の項で紹介する限界利益率や損益分岐点売上高を非常に重視します。どのようなタイプのコストで自社のビジネスが成り立っているかを知ることで、目標とする売上高を決めたり、自社のリスクについても理解が深まるのです。

固定費は「自ら売上変動のリスクをとった費用」とみなすこともできます。それゆえ固定費の大きなビジネスモデルは、同業の固定費を変動費化したビジネスモデル(例‥製造業におけるファブレスメーカー)などに比べると、ハイリスク・ハイリターンとなり、βも大きくなります。

KPIの見方

固定費は企業活動の中核となる重要な費用である一方で、簡単には減らせないという難しい問題もあります。これを固定費の下方硬直性といいます。特に日本においては、仮に赤字になったとしても正社員を指名解雇することは非常に難しいですし、すでに設備投資してしまった工場の減価償却費を減らすことも容易ではありません。

そこで悩ましい問題となるのは、特に成長を志す企業にとって、どのくらいまで固定費を増やすべきかという問題です。成長に自信があるのであればどんどん正社員を採用し、オフィスもどんどん借り増せばいいのですが、そのようなことをして仮に売上げが停滞すると一気に赤字体質となってしまいます。一方で、慎重になりすぎて成長できる機会を逃すのも好ましいことではありません。経営者にとって、どこまで固定費を増やすかの判断は容易ではないのです。

なお、固定費額の見積もりは、簡便法としては費用項目ごとに「これは固定費、これは変動費」などと分ける勘定科目法がよく用いられます。その他に、月次ベースや四半期ベースでの売上げと費用の挙動から回帰線を引いて求める回帰分析法などもあります。

KPIの使い方

固定費の設定は、事業ごとの売上げ成長予測などを踏まえたうえで、最終的には経営者が決めることになります。そしてそれを改めて各事業部に割り振ることとなります。近年はリスクが増していますので、比較的権限移譲されている企業でも、固定費増額についてはより上位層の承認を得る必要があることが多いです。

補足・注意点

近年、固定費を変動費化する企業が増えています。正社員を減らして契約社員を増やすといったことなどがその典型です。ただ、これは企業にとってはリスク低減になる一方、安定雇用を望む従業員の満足度を下げたり、採用競争力を低下させる可能性もあります。製造業におけるファブレスメーカーへの転換(特に海外への製造委託)も、製造ノウハウの蓄積が止まったり、製造業の発言力の源泉でもある「地元での雇用創出」を減らすことにつながります。

リスク低減と企業力強化のバランスの中で、どのくらい固定費(特に人件費)を持つかを決めるのは難しい問題なのです。

関連KPI

変動費率、限界利益率、損益分岐点売上高

グロービス出版

  • 嶋田 毅

    グロービス経営大学院 教員/グロービス 出版局長

    東京大学理学部卒、同大学院理学系研究科修士課程修了。戦略系コンサルティングファーム、外資系メーカーを経てグロービスに入社。累計150万部を超えるベストセラー「グロービスMBAシリーズ」の著者、プロデューサーも務める。著書に『グロービスMBAビジネス・ライティング』『グロービスMBAキーワード 図解 基本ビジネス思考法45』『グロービスMBAキーワード 図解 基本フレームワーク50』『ビジネス仮説力の磨き方』(以上ダイヤモンド社)、『MBA 100の基本』(東洋経済新報社)、『[実況]ロジカルシンキング教室』『[実況』アカウンティング教室』『競争優位としての経営理念』(以上PHP研究所)、『ロジカルシンキングの落とし穴』『バイアス』『KSFとは』(以上グロービス電子出版)、共著書に『グロービスMBAマネジメント・ブック』『グロービスMBAマネジメント・ブックⅡ』『MBA定量分析と意思決定』『グロービスMBAビジネスプラン』『ストーリーで学ぶマーケティング戦略の基本』(以上ダイヤモンド社)など。その他にも多数の単著、共著書、共訳書がある。
    グロービス経営大学院や企業研修において経営戦略、マーケティング、事業革新、管理会計、自社課題(アクションラーニング)などの講師を務める。グロービスのナレッジライブラリ「GLOBIS知見録」に定期的にコラムを連載するとともに、さまざまなテーマで講演なども行っている。

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