ポストコロナ元年は新たなRoaring Twentiesの幕開け―スタートアップの2つの変化

ポストコロナ元年となる2021年は、非連続な変化が起き続ける時代になるでしょう。そのなかでテクノロジー/スタートアップ業界には「社会的な責任」と「社会課題解決」という2つの変化が訪れる。

非連続な変化が起き続けるRoaring Twenties―狂乱の20年代―

ちょうど100年前、第1次世界大戦とスペイン風邪が終息し、人々はReturn to Normalcy(常態への回帰)を待ち望んでいました。しかし、1920年からの10年間は、欧米ではRoaring Twenties(狂乱の20年代)と呼ばれ、社会的にも経済的にも非連続な変化が続きました。大量生産型経済に移行したことにより、自動車、映画、ラジオのような新技術が普及しました。また、ジャズやダンスやアールデコのような新たな文化が次々と生まれました。日本においても大戦特需で経済が発展したばかりでなく、大正デモクラシーをはじめとした政治社会の変化が大きい時代でした。戦争とパンデミックという長いトンネルを抜けた先には、今でいうNew Normalが待っていたのです。

今回のパンデミックは人類の英知により100年前のスペイン風邪よりは犠牲者は抑えられており、世界大戦も起きてはいませんが、社会経済システムへのショックという意味では相当にインパクトが大きい出来事でしょう。結果として、遅々として進まなかったDX(デジタルトランスフォーメーション)が急速に進み、人々は新たな職場環境や生活習慣に瞬時に順応しました。このような変化は利便性をもたらし生産性を向上させるといったメリットもありましたが、一方で繋がりの希薄化や格差の助長を招いた面もありました。これほどのシステミックショックを受けた後の2021年は新たなRoaring Twentiesとなり、非連続な変化が起き続ける時代が訪れるのではないでしょうか。

テクノロジー/スタートアップ業界の2つの変化

では、具体的にどんな変化が起きるのでしょうか?私が身を置くテクノロジー/スタートアップ業界では、大きく2つの変化が起きる(起きている)と考えています。

問われるテクノロジー企業の社会的責任

1つはテクノロジー企業の社会的責任です。近年、テクノロジーの社会経済への浸透は目覚ましい勢いで進んでいます。パンデミックにより加速したDXは2021年も勢いを衰えることなく、今後も職場や生活の様々なシーンで新たなテクノロジーが浸透し、あらゆるものがコネクテッドされ、利便性も生産性も向上するでしょう。そして、テクノロジーの特性の1つであるスケーラビリティ(拡張可能性)により、1つの優れたプロダクトが世界中で使われ、多くの業界で1強もしくは寡占状態を生み出していく構造も続くでしょう。象徴的なのはGAFAM(Google, Apple, Facebook, Amazon, Microsoft)のような巨大テクノロジー企業であり、2020年12月現在、GAFAMの時価総額は750兆円を超え(前年比約1.5倍)、東京証券取引所の全銘柄の総額(約700兆円)をたった5社で上回っています。

一方、このようなIT企業の成長本能が社会的に問題視されることも増えてきました。2020年12月現在、アメリカ連邦政府はFacebookやGoogleを独禁法違反で提訴しており、1990年代にMicrosoftを相手取った激しい攻防の再来が予想されています。また、米中覇権競争を背景とする一部中国企業(Huawei, ZTE, DJI等)への規制強化も加速しており、巨大テクノロジー企業が持つ力に様々な理由で制限をかける動きは拡がっています。

日本においては巨大テクノロジー企業が少ないこともあり現時点で同様の動きは見られませんが、昨今のDXブームにあやかり多くの業界でのテクノロジー活用が進められていくなかで、新しいビジネスモデルの適法性やプライバシー保護といった観点での議論が増えています。Move fast and break things(素早く行動し破壊せよ、Facebook創業期のモットー)が許容される時代は終わりつつあり、今後はスタートアップの強みであるスピード感や新たなビジネスモデルも果敢に挑戦する姿勢は保ちつつ、今まで以上に社会の一員としての責任とリーダーシップを問われるようになっていくと考えています。

社会課題解決がスタートアップのテーマとなる

もう1つが、スタートアップの大きなテーマに社会課題解決が加わることです。スタートアップ業界は時代ごとにビッグテーマが存在していました。1990年代後半から2000年代前半にかけてはインターネット、2000年代後半から2010年代前半にかけてはスマートフォンシフト、そして2010年代後半から現在にかけてはDXです。2020年代はDXに加えて、社会課題解決が1つの大きなテーマになるのではないかと考えています。

100年前と比較して人類は目覚ましい進歩を遂げましたが、一方でSDGs(Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標))に代表されるような社会課題はグローバルにも日本国内にも山積しています。そして、この社会課題は今回のパンデミックにより悪化してしまいました。国連は2020年の1年間で、LDC(後発発展途上国)におけるExtreme Poverty(極度の貧国)人口の割合は32.5%から35.7%に悪化したと予測しており、これは3200万人がExtreme Povertyに逆戻りしてしまったことになります。また、世界各国で子供の教育が中断され、その影響は計り知れません。

これらの大きな社会課題の解決に向けてスタートアップが大きく貢献していくと予想しています。スタートアップにとって、未解決なペイン(痛み)=市場機会です。この市場機会を捉え、テクノロジーを使って効率的に、そして新たなビジネスモデルによりwin-winを作り上げながら解決できるスタートアップは次の時代を担う企業になるでしょう。

そのような企業は既にいくつも生まれています。例えば、GMS(Global Mobility Service)という日本のスタートアップは、与信が足りずに自動車ローンが組めない方々を対象に、エンジンの遠隔起動制御が可能な独自のIoTデバイスを車両に装着し、支払いが滞ったらエンジン起動を制御することで与信リスクを低減させるソリューションを提供しています。

(出典:GMS

これにより金融機関のリスクが下がるので自動車ローン融資が可能になり、ユーザーはUberやGrabドライバーとして稼いだり、郊外の工場に通勤したりして経済的に自立し、家族を支え子供に教育を受けさせることができます。ユーザーも金融機関も自動車メーカーもハッピーにする驚異的なビジネスモデルにより、GMSは日本のみならず東南アジア各国で急速に事業拡大しており、社会課題の解決を実現しながら営利企業として急成長を遂げています。GMSのように、社会課題を巨大な市場機会と捉え、新たなテクノロジーとビジネスモデルを駆使して解決を目指すスタートアップは2020年代の大きなテーマとなるでしょう。

スタートアップへの投資の好循環はDXにより加速

日本のスタートアップによる資金調達額は過去3年で2倍以上になっています(2016年2602億円→2019年5260億円、出所:INITIAL)。これは、スタートアップの成功が投資家に好リターンをもたらし、好リターンを背景に投資資金が拡充し、その資金力を受けて次世代のスタートアップの質・量が向上する、という好循環サイクルが回り続けていることによります。DXによるテクノロジーの社会浸透が進むなかでこのサイクルは加速していくでしょうし、社会課題のようなビッグテーマに挑むスタートアップも増えていくでしょう。そして、そんな期待の高まりと並行して、社会への責任やリーダーシップが求められるようになるでしょう。

今回のパンデミックはこの流れに拍車をかけたとも言え、社会の変化は更に加速すると思われます。しかし、それは待っていて自然と起こるのではなく、起業家、チームメンバー、顧客、提携先企業、顧客、投資家、アドバイザー、政治家、官僚など多くの人々が、それぞれの役割のなかで世の中を前に進めようと動くなかで、大きなうねりとなって変化を生み出していくものだと思います。

ポストコロナ元年となる2021年は新たなRoaring Twentiesの幕開けの年になるでしょう。テクノロジーの持つ力を存分に発揮し、山積している社会課題の解決に向けて多くのスタートアップが生まれることを心から願っていますし、そんな起業家の挑戦にベンチャーキャピタリストとして引き続き応援していきたいと思います。2021年は始まったばかりで、やるべきことはたくさんあります。腕まくって仕事に取り掛かりましょう!

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