人工知能は「人間関係」を築くことができるか~映画に見る近未来vol.1

人工知能やロボティクスを題材にした映画を参照しながら、近未来のビジネスや倫理問題について考えます。第1回は、人工知能が人間関係を構築するために何が重要なのかをテーマにします。

近未来のビジネスと倫理とは

昨今のビジネスシーンにおいて、人工知能(本稿では、機械学習や深層学習のみならず、シンギュラリティを超えたAIも指します)やロボティクスという言葉を耳にしない日はありません。ある種のバズワードとして、実態を伴わずにこれらの言葉が使われているケースもありますが、バズワード化するということは、いよいよ社会実装のイメージがわいてきたということなのではないでしょうか。「想像できることはいつか実現できる」といわれますが、人工知能やロボティクスは、人類の長年の「妄想」が技術的に実現されつつあるフェーズに差し掛かっているのです。テレイグジスタンス社の遠隔操作ロボットModel-Tなどは、まさに人類が妄想してきたようなロボット実現へのワンステップといえるでしょう。

その妄想を映像的・視覚的に描いてきたのが、映画です。本稿では、全3回にわたって、人工知能やロボティクスを題材にした映画を参照しながら、近未来のビジネスや倫理問題について考えていきたいと思います。なお、本稿では紹介する作品の内容に言及することも多く、ネタバレを回避したい方はご注意ください。

人間関係には「身体」がいるのか

一部の有識者は、そう遠くない未来において人工知能はシンギュラリティに達し、人間と区別がつかないレベルの受け答えをできるようになると言います。人工知能が本当にその水準に達しているかどうかを確認する手法を、チューリング・テストと呼びます。

「エクス・マキナ」(アレックス・ガーランド監督)は、まさにこのチューリング・テストを行うという名目で主人公が山奥の研究施設に滞在する間の出来事を描いた作品です。「エクス・マキナ」に登場する人工知能であるエヴァには、身体があります。女性性を与えられており、しかもその容姿は主人公の好みに沿って造られています。異性として魅力的であるからこそ、主人公も感情を動かされているように受け取れる描写もあります。人工知能が「人間関係」を構築するためには、身体は必須なのでしょうか。

例えば、ペット型ロボットのLOVOTは、身体的な接触を前提とする愛くるしい姿や仕草が特徴となっており、人間とのリレーションの構築には身体性が必要であるとの発想に立っているものと考えられます。

しかし、物理的な身体がないからといって、私たちの感情は動かないものなのでしょうか。「ブレードランナー2049」(ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督)には、主人公Kのバーチャル彼女としてジョイが登場します。彼女はホログラムであり、物理的な身体はありません。本作は、必ずしも物理的な身体がなくても、視覚的に身体を認識できるのであれば感情移入できるという前提に立っているものと思われます。

この例は、いま実際に存在する近しいサービスでいうと、VTuberやバーチャルライバーに相当するのではないでしょうか。現時点では人工知能ではなく演者が操作するものが主流ですが、VTuberやバーチャルライバーは、キャラクターやアバターの見た目・デザインのクオリティが高ければ、必ずしも物理的な身体がなくても、人間は感情移入できる前提に立っており、現に、多くのファンが既に存在します。一方で、VTuberやバーチャルライバーに関しては、背後にいる声優、もっといえば、「声」の質やトーク内容といった「言葉」が、キャラクターの人気に決定的な影響を与えるという指摘もあります。

「声」や「言葉」―感情を揺さぶるものの本質は何か

「声」や「言葉」にフォーカスした作品として思い浮かぶのが、「her/世界でひとつの彼女」(スパイク・ジョーンズ監督)です。本作に登場する人工知能であるサマンサには、身体がありません。SiriやAlexaのように、PCあるいはスマートフォンからアクセスできるクラウド上のシステムとして描かれています。作品の中では「身体がない」という点が繰り返し強調されますが、しかし、主人公はサマンサに魅了され、疑似的ではありますが、性愛すら満たされています。言語だけで感情が動かされる様子が描かれているのです。もっと言えば、「声」によって感情が動かされているのかもしれません(サマンサの声は、ハスキーで魅惑的な声のスカーレット・ヨハンソンが担当しています)。

「声」に関しては、古くはPodcastにはじまり、最近ではVoicyやStand.fmなど、多くの音声メディアが運営されています。音声メディアも、声の持つ「温かみ」を強調していることが多く、人間の感情を動かす本質的な要素である可能性があります。むしろ、視覚的な情報がなく、想像の余地がある分だけ感情移入しやすい可能性すらあります。

このように、さまざまな映画作品、そして実在するサービスは、それぞれの人間洞察に基づいて人工知能・ロボット・アバターとの新たな関係を生み出そうとしています。何が正解なのか、未だ結論は出ていません。しかし、(人工知能に限らず)魅力的なサービスやインターフェースを作るために重要なのは、技術それ自体よりも、人間の感情や機微の本質に対する洞察なのかもしれません。

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