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違和感やハプニングが新しいものを生み出す―「未来の音楽」を語ろう

投稿日:2020/10/27更新日:2023/07/18

本記事は、G1サミット2017「未来の音楽を語ろう」の内容を書き起こしたものです(後編、前編はこちら スプツニ子!氏(以下、継承略):もう1つ、お二人に聞いてみたいことがあります。今は人工知能がいろいろな仕事を代替するようになると言われていますが、「クリエイティブな仕事は最後まで代替されないのでは?」という風にも言われていますよね。ただ、今のディープラーニング等を見ていると、人間が持っていないような視点や価値基準を人工知能が提示しはじめるようになり、人工知能がつくった音楽やエンターテインメントに、「あ、こんな楽しみ方があったんだ」と、逆に人間を驚かせる時代が来るかもしれないと妄想したりもします。AIとアーティストあるいはクリエイティビティの関係について、何か感じていらっしゃることがあれば、そちらも教えてください。

「ターミネーターの皮膚がちょっと破れてフレームが見えちゃった」みたいなバグに未来を感じる

伊藤博之氏(以下、継承略):AIって、すごいですよね。「すごいですよね」という言い方はアレですが(笑)。実は、ミュージシャンを志していた大学時代、所属していた研究室がAIの研究をしていたんです。当時は第2次AIブームと言われていて、ディープラーニングという言葉はありませんでしたが、ニューラルネットワークの研究等をしていたので「懐かしいな」と思ったりしていました。 で、たとえば「誰がどこを通過したか」「誰がどのボタンを押したか」といったディープラーニングで解析するようなビッグデータは、膨大とはいえ、データ量自体は数テラバイトぐらいで済むと思うんです。でも、音楽はもっと膨大なデータが必要になります。動画はさらに膨大。ですから、その中身を理解することなく、ディープラーニングで「はいお願いします」という風にするのは相当なコストがかかる。そう考えると、そこはおそらく次のイノベーションが必要であって、そこを越えないと、コンピュータが有用なクリエイティビティを発揮するような状態にはならないかなと思っています。 スプツニ子!:山口さんはいかがですか?AIに限らず、テクノロジーとエンターテインメントの未来という意味で何かあれば。 山口一郎氏(以下、敬称略)Googleが買収した四足歩行のロボットがありましたよね。で、その紹介動画のなかに、ロボットの性能を確かめるため、研究者の方がロボットを思い切り蹴り飛ばしているシーンがあって…。 スプツニ子!:「かわいそう」なんて言われて炎上していましたよね。 山口:そう。それでロボットが踏ん張って倒れないよう頑張っている姿を見たとき、なにかこう、「かわいそうだけど、かわいそうじゃない。なんだこの感情?」みたいな、今まで感じたことのない新しい感情が芽生えました。たぶん、もしAIが人の心を打つ素晴らしい音楽をつくるとしたら、それに近い、新しい感情みたいなものが生まれるんじゃないかなと僕は思っています。ただ、いずれにしても人間がつくったもので生まれる感動と、ロボットがつくったもので生まれる感動とでは、種類は違うような気はします。 スプツニ子!:そうですよね。たとえば、ルンバが家のなかで電池切れになって息絶えていたりするところを見ると、「頑張ってくれたな」とは思うし。それが別の新しい感情なのかどうかは分かりませんが、テクノロジーならではの新しいエモーションが生まれてくるのかもしれないですね。 伊藤:たぶん、テクノロジーが万能である必要はないと思っています。人間というのは機械をそれなりに使いこなしてきたじゃないですか。たとえば、今は1969年製のファズエフェクターが人気で高価だったりしますが、たぶん、そのサウンドは当時の設計者的にエラーだったのではないかなと思うんですね。マーシャルの設計だって、当初はあそこまで歪ませてギターを弾くとは思っていなかったと思います。でも、機械的にはエラーだったにも関わらず、それを人間が聞いたときに面白味を感じたわけですよね。そこからディストーションやファズといったエフェクターが普通になっていった。AIも同じで、「なんじゃ、この変なのは」という、へんてこりんなものがAIからどんどん出てきたとき、逆にそれが人間の創造性を刺激していくように思います。 ですから、たぶんAIのような新しい技術は、人間の代替として一気に出てくるのでないと思います。それよりも、まずはそれを見たときに「なんじゃこりゃ!?」と、人間がへんてこりんな感情を覚えると思うんですよね。でも、そのへんてこりんなものを使って、人間が「じゃあ、これをこんな風に使うと、こんな音楽ができるよね」という風に、新しいクリエイティビティのフロンティアを開拓していくのかなと期待しています。 僕が最初にVocaloidの声をヤマハさんに聴かせてもらったのは2002年だったと思いますが、当時から人間のような感じでコンピュータが歌っていたわけです。でも、たまに、なんというか、「ターミネーターの皮膚がちょっと破れてフレームが見えちゃった」みたいな、そんな一瞬が声にも出るんですよね。でも、逆にそれがすごく面白かった。むしろ、そういうバグ的なものが未来的に感じて、僕は好きになりました。 スプツニ子!:サカナクションもバグ的なものやハプニングから創作が生まれたりすることはあるんですか?

5人でMacBookを開いてステージに並んでいる姿が「新しい」と認識された

山口:これはハプニングではないですけれども、たとえば僕らのライブではバンド演奏からDJセットというか、打ち込みスタイルに変わるシーンがあります。で、それをやるためには大量の機材が必要なんですが、海外ツアーにはDJセットをそのまま持っていくことができないので機材を絞らなければいけない。それで、海外へ行くときはMacBookを5台持っていって、DJセットのときは5人がそれぞれMacBookを開いていました。ただ、音は普通にPAから出してもらうということで、「ダンスミュージック当て振り」みたいなことをやらざるを得なかったことがあるんです。これ、僕自身は嫌々やっていたんですが、そのときにMacBookを開いて5人でステージに並んでいる姿というのが、エンターテインメントのビジュアルとして「新しい」みたいな反応があって。 伊藤:Devoとか、そうですよね。フロントマンが同じ格好で横に並んで。 山口:あ、そうです。なんというか、僕らはそのパクリだと思われるのが嫌だなと思っていたんですが、今の子たちはそれをまったく知らなくて、新しいものだと認識してしまっていて。それでバズったということがありました。 スプツニ子!:サプライズで生まれた新しい演出、みたいな。 山口:予算が足りずに生まれた演出という(笑)。 スプツニ子!:では、ここから全体討議に入りたいと思います。何か質問等がありましたら、お願いします。 会場質問者A:スイスに住んでいて、日本のコンテンツがどれだけヨーロッパで広がるかに関心を持っています。今ヨーロッパで最も広がりつつある日本のコンテンツは音楽だと感じますが、今後のヨーロッパにおける活動の展望等があれば教えてください。 スプツニ子!:ヨーロッパでもサカナクションのファンは多いイメージがあります。 山口:ヨーロッパをはじめ、海外で自分たちの音楽が広まっていることに、実はそれほど自覚がなくて。いずれにしても、海外へ進出するために海外向けの音楽をつくるということは、あえて僕らはしないでおきたいなと思っています。日本のマーケットに対して日本の音楽を届けるという作業を続けていくなかで、それが海外で評価され、海外に呼ばれたら行きたいと思っています。 伊藤:初音ミクのツアーでもヨーロッパだけは廻っていませんでした。ぶっちゃけ、遠いんです(笑)。ただ、もちろんインターネットには国境がないし、いろいろと情報は飛び越えますし、そもそも音楽はユニバーサルなランゲージですよね。楽しい曲はどんな民族が聞いても楽しい。『PPAP』はまさにそれだと思うんですが、その意味では日本のポップミュージックにも大きなチャンスがあると思います。 スプツニ子!:わざわざ行かなくても、たとえばホログラムでライブをすることもできてしまうから、それでどんどん進出できたりするんじゃないですかね。 会場質問者B:お客さんがコンテンツをつくってくれるUGCについて、自分が思っていたのと違う方向に進んでしまう恐怖はないですか? あるいは、山口さんもご自身が伝えたかったこととユーザーの受け止め方が違ってしまったりすることはないでしょうか。また、そういうときはどのような対策を取っていらっしゃいますか?

自分が考えていなかった方向に評価が偏っていったときは、そこにチャンスがあると考える

伊藤:自分たちが思っていない方向にユーザーがどんどん進んでいくということは、むしろそちらのほうにデマンドがあるという話ですから、そこで(自分たちの考えているほうへ)補正するようなことはしません。たとえば、いかがわしいものだとか、少し好ましくない方向に進んだとき、こちら側として「ん?」と思うことはあります。ただ、そういうときは他のユーザーも同様に感じてくれているので、そこでなんとなく自浄作用が働くんですよね。ですから、そうしたユーザーの動きというのは規制するものでなく、むしろ我々が委ねるものなのかなという風に僕は思っています。 山口:伊藤さんと同じです。自分が考えていなかった方向に評価が偏っていったときは、そこにチャンスがあると僕も思います。では、そのなかで自分たちはどういう違和感をつくっていくことができるかという、考え方の転換をするようにしていますね。特に、僕らの場合はテレビに出たりすると、今まで自分たちのことを知らなかった人たちが急に知ることになって、自分たちの活動がライトに見られるんです。自分たちをずっと応援してくれている人たちは、その辺のリテラシーも高いんですが、そうでない人たちにとって自分たちの評価がどうなるのかというのは、僕としては冷静に考えるようにしています。 スプツニ子!:自由に委ねる一方で、最近は炎上のコントロールやマネジメントといったノウハウも必要になっているように感じます。それなりに操作することもできると思いますが、初音ミクについても、その辺はまったく考えていない状態ですか? 伊藤:炎上のようなことも過去にはあった気がします。ただ、その辺も計算、と言うと語弊がありますけれども、(認知が)広がるという意味でプラスの炎上はどんどん後押ししていきました。ただ、最近はネガティブな炎上で認知を広げるような“逆のマーケティング”みたいなものもありますよね。僕はあまりそういうものが好きではないというか、やりたくないので、そういう炎上はなるべく起こさないようにしています。それはノウハウというほどの話でもないですが、まあ、嫌がられるようなことはこちらも嫌じゃないですか。ですから、なるべくそういうことはしないという。 山口:ロックバンドは炎上対策というのが難しいんですよね。最近は不倫の話なんかもありましたけれども、ロックバンドのやったことがワイドショーに取り上げられたり。 スプツニ子!:それで逆に人気が出たりするようなことはないですか? 山口:ただ、それに対する音楽マネジメント側のノウハウというか、対応策みたいなものが、まだしっかりできていない印象はあります。SNSの利用方法も含めて、音楽業界はその辺がまだまだこれからじゃないかなと思います。 会場質問者C:山口さんは現在「NF」というクラブイベントを深夜にやっていらっしゃいます。お客さんがたくさん入りづらい時間帯にそうしたイベントを行っていることには、どんな意図があるのでしょうか。あと、CMタイアップ以外での企業と音楽との関係についても、もう少し伺えたらと思います。

サロン的な感覚で音楽に触れながら、別のカルチャーと関わっていく

山口:今、音楽ビジネスにおける一番の主流はライブビジネスですけれども、さらにそのなかで最も大きなものがロックフェスです。ロックフェスって、すごく親切なんですよね。食べ物もあればトイレもたくさんあって。いろいろなミュージシャンのライブを各25~30分ぐらいで数多く観ることができる、いわばショーケースのような形です。それが主流になっていることで、今、ロックバンドは20~30分のセットリストのなかで自分たちを表現する曲しかつくらなくなってきました。若い人たちはそういうものを聴いて、それだけが日本の音楽だという風に、現象として捉えてしまっている、と。 でも、僕らはもっと多様な音楽を若い頃から聴いていました。あるいは音楽の探し方も、インターネットがなかったので雑誌やレコード店で探したり、聴きたいと思ってもすぐに聴けない状況のなか、音楽を探すという遊び方をしていたわけですね。それに対して、今の子たちはインターネットですぐ音楽を見つけることができるし、ライブに行きたいと思えばフェスでいろいろなミュージシャンを一度に観ることができる。そういった、親切な、浴びる音楽の楽しみ方しかしていないという実感がありました。ですから、もっと自分たちで音楽を探すという遊び方の提案も、今の若者たちにしていかないと、たとえば大学生が就職して仕事についたりすると、どんどん音楽から離れていってしまうのではないかな、と。「お金は音楽に使うんじゃなくて居酒屋でいいじゃん」とか。 でも、音楽というのは人間が最初に触れる文化だと思うんです。子どもが一緒に歌ったりして。その音楽から人間が離れていってしまうというのは、ミュージシャンとしてすごくさみしい思いもあるし、なにかこう、不安になってしまう。それで、僕らのようなエンターテインメント側の、音楽をやっているような人間がクラブミュージックのイベントを開催しよう、と。そうして夜に遊ぶ社交場というか、サロン的な感覚で音楽に触れてもらいたいと思っています。そのなかで、その場にいる別のカルチャーの人たちと新しいことを発見したり、面白いものを見つけていく。そういうことができる空間をつくりたくて、僕はNFというイベントを、今は試行錯誤しながらですが、やりはじめています。 リキッドルームで毎月やっていますので、皆さんもぜひ。イベントにはスタイリストの方とか映像ディレクターの方とか、そういった人たちがたくさん集まっていて、僕も会場内をぐるぐる廻っていますので。それで若いミュージシャンに音源を渡されたり、ヘアメイクの人に「アシスタントをやらせてください」と声を掛けられたりすることもあります。そんな風にして文化の交流をする場所になっているのが素晴らしいなと感じています。ただ、そこにいないのが企業家の方々なんですよね。先ほど言いましたけれども、ミュージシャンにはマネジメントとレーベルという関係性があるので、何か新しい音楽を提案・提供するとなると、いろいろ面倒くさいことがたくさんあって。 伊藤:音楽って、なかなか変わらないものの1つなのかなと思います。音楽産業自体がかなり硬直的で。ビジネスモデルについても「こうあるべきだ」というのがずいぶん前から決まっていて、そういうことに対して疑問視もあまりされないままの状態がいまだに続いているのかな、と。不思議だなと感じます。 会場質問者D:伊藤さんは、2020年のオリンピックの開会式と閉会式で、初音ミクを出してみたいと思いますか?マリオが出てくるぐらいですから初音ミクも出ていいと思うんですが。 伊藤:原理的になかなか難しいかなというのはありますね。ホログラフみたいなもので有用な技術が出てくれば可能かもしれませんが、今は平面のスクリーンに映し出しているだけなので、前からは見えるものの、横からは線でしか見えないという状態で。 スプツニ子!:2020年のイベントということであれば、初音ミク以外で、何かシンボル的な新しいスターが出てこないかなという気持ちもあります。「UGCすごい」と言っても、スターが1人だけだと、たとえばデビッド・ボウイのようなカッコいいミュージシャンと変わらない「個」で終わってしまうので。 山口:オリンピックの演出で日本の文化を伝えることも大事だと思いますが、オリンピックに遊びに来た人たちの受け皿みたいなものも、音楽側として必要ではないかなと考えています。「皆、どこで、どんな遊び方をするんだろう」みたいな。それについて東京がどう機能していくかというのが、僕としては不安で。 伊藤:それってすごくいい視点ですよね。会場だけがオリンピックではないし、街にたくさんの人たちが出てくるわけで。もちろん東京が中心になるとは思いますが、そこでどんな文化を発信できるか。それで納得して帰ってもらうということで、文化発信のタイミングでもあるんですよね。東京だけではなくて、周辺にも多くの人たちが訪れるタイミングなので、そこでどのようにして日本のプレゼンスをアピールするか。問題は2020年以降じゃないですか。そこにつなげていくことが大事だと思います。そのためには産業だけでなく文化も重要だと思うので。 スプツニ子!:NFでも同様だと思いますが、音楽はさまざまな異なるカルチャーを結びつけていくようなところがありますよね。あるいは、インターネット上で共感されたり、シェアされていくところもありますし、そうした音楽の可能性とともに、日本の可能性をさらに模索できたらと思います。今日はお二人とも、素晴らしいお話をありがとうございました(会場拍手)。 執筆:山本 兼司

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