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音楽は、もっとアートやファッションと結びつけられる!「初音ミク」「サカナクション」の裏側を語る

投稿日:2020/10/26更新日:2023/07/19

本記事は、G1サミット2017「未来の音楽を語ろう」の内容を書き起こしたものです(前編、後編はこちら スプツニ子!氏(以下、継承略):今回は、最先端の音楽を代表するお二人に来ていただいて未来の音楽を語るという、贅沢なセッションとなりました。まずはお二人に、それぞれ10分前後で現在の活動や考えていることをプレゼンしていただき、そこから3人での議論に入りたいと思います。そのうえで最後に15分ほど、会場全体で討議できればと思います。

「やっぱり人間の歌声も扱いたいよね」と開発したのが初音ミク

伊藤博之氏(以下、継承略):おはようございます。当社の製品「初音ミク」について説明したいと思います。コンピュータミュージックの世界に、バーチャルインスツルメンツという技術分野があります。インスツルメンツは楽器ですから、直訳すると「仮想楽器」ですね。パソコンにインストールして使う楽器のソフトウエアです。グランドピアノやドラム等、実際に音を出すと、うるさ過ぎたり場所を取り過ぎたりする楽器も、コンピュータにインストールして使う楽器ソフトウエアならその問題が生じません。それでいて出音は非常に“生”っぽいです。 オーケストラの様な大編成の楽器で構成されるバーチャルインスツルメンツもあります。普通、オーケストラで音楽を作ろうと思えば大きなコストがかかりますよね。演奏者もホールも指揮者も必要で、コストもかさむしいろいろ大変です。けれど、バーチャルインスツルメンツなら必要なのはハードディスクのスペースだけ。演奏者もホールも指揮者も不要です。現代では、そういう製品を活用してオーケストラで演奏するような音楽でもクリエイターがどんどん気軽につくることができます。 当社ではいろいろな種類の楽器をバーチャルインスツルメンツとして扱っていますが、「やっぱり人間の歌声も扱いたいよね」ということになり、それで開発したソフトウエアが「初音ミク」です。これはヤマハさんのVocaloidという歌唱合成技術が使われています。画面に歌詞とメロディを入れることによって人の歌声を再現するソフトウェアです。アニメ等で活躍している声優さんの声を徹底的に録音してつくり上げました。そのため非常にかわいらしい声が、このソフトウェアの特徴です。 音声合成技術は、昔からありますし、新しいものではありません。コンピュータミュージック技術も、パソコンの登場とともにゲームやコンピュータミュージックのソフトウェアが出ていたほど、昔からコンピュータと親和性がありましたから、こちらも昔からあった技術分野です。けれど、その2つを組み合わせた歌声合成技術は、それほど多く取り組まれていませんでした。理由は、歌声合成技術でできるビジネスモデルがなかったからだと思います。 10年前に初音ミクが発売してから、さまざまな創作が連鎖的に生まれました。初音ミクは歌声を合成するソフトウェアですが、その歌を動画にして投稿すると、その動画を別の人がオマージュして、また別の動画をつくって投稿するとか、そういった創作が連鎖的に起きていった。歌声合成技術にキャラクターをつけるという試みは当社が手掛けるまで前例がありませんでした。キャラクターは、歌声合成ソフトウェアという技術本体に比べると、オマケのように感じると思いますが、創作が生まれたハブというか、媒介となったのがキャラクター性にほかならないわけです。 かくして、ソフトウェアとしての初音ミクに加えて、キャラクターとしての初音ミクが成立していきます。以降、さまざまなクリエイターさんの音楽が世の中に出るわけですが、初音ミクは一応著作物です。だから、初音ミクの原画を使って作品を作りネットに投稿する方の中には許諾を得るために当社に問い合わせが来ることが多くあります。当社は、ソフトウェアの会社でありキャラクタービジネスを本業としていなかったので、キャラクターがどんどん利用されることを望んでおりました。でも、「がんがん問い合わせが来ることについてはどうしようか」と。それで、キャラクターライセンスをあらかじめ正規に定めて、「こういう用途であれば自由に使って結構です」という形にしました。https://piapro.jp/license/pcl これはオープンソースのような考え方ですね。そのライセンス条文には「第1条が云々」とか「第2条が云々」という風に細かく規定されているわけですが、初音ミクの絵は小学生や中学生も描きます。そうした子どもたちがライセンスの文章を理解したうえで絵を描くとは思えないので、「簡単に書くとこういうことです」とサマライズしたバージョンの規定も用意しました。なるべく簡易な言葉で書いて、子どもたちでも分かるようなものとして発行してライセンス理解に努めています。https://piapro.jp/license/pcl/summary これはクリエイティブ・コモンズのような考え方です。当時はクリエイティブ・コモンズ等が話題になっていたので、それを参考にしながらライセンスを規定しました。当社のライセンス整備により権利侵害と指摘されることなく、多くの作品が世の中に出ましたし、なかにはすごく有名になったものもありました。有名になっていったクリエイターは、音楽クリエイターのみならず、イラストやダンスのクリエイター、あるいは動画クリエイター等、いろいろな分野に渡ります。 また、音楽をつくる方は自分がつくった作品を商売ベースで展開したくなりますので、そこで我々も一緒に商品化を手掛けたりするようになりました。さらに、アートでの展開があったり、ファッションでも、たとえばGIVENCHYのドレスとともに英語版『VOGUE』で特集してもらったことがあります。 あと、セガさんと一緒にゲームもつくりました。そのゲームのなかに初音ミクのCGが登場して、歌ったりダンスを踊ったりするのですが、それを「実際のステージに上げればコンサートができるよね」と気付きます。初音ミクはバーチャルな存在ですが、CG映像を実際のステージにホログラム的に映し出してコンサートも行います。コンサートは、日本だけでなくニューヨークをはじめ海外のいろいろな国や地域で行いました。昨年は北米10都市でツアーをしています。そのコンサートツアーは発表直後、米NBCニュースでも記事になりました。NBCでその日にバズった言葉のランキングには、テロがあった直後の「Paris」、大統領選中の「Donald Trump」、それに「Hatsune Miku」でした。 コンサートだけではなく、アメリカの書店チェーンのバーンズ・アンド・ノーブルとともに、「Let’s Draw」というファンイベントも開催しました。バーンズ・アンド・ノーブルの店舗に多くのファンが集まってぬり絵をするというミートアップで、これも各都市で開催しました。それで集まったぬり絵を、パラパラ漫画のようにしてアニメーションにして一つの作品として動画化しました。このほか、作曲家の冨田勲さんがお亡くなりになる直前までつくっていた交響曲にも初音ミクが登場していますし、昨年は歌舞伎ともコラボして、「ニコニコ超会議」で「超歌舞伎」という演目をやりました。直近では鼓童という和太鼓のチームと一緒にコンサートをしたりしています。以上になります(会場拍手)。

音楽が、音楽以外のカルチャーと結びつくことがすごく希薄になってきている

山口一郎氏(以下、敬称略):サカナクションという、ちょっとふざけた名前のロックバンドをやっています(笑)。2007年にデビューして今年で10周年になります。出身はここ北海道です。小樽で生まれて、札幌で結成しました。5人でバンドをやっています。3年前には紅白に出演させていただいて、今は全国ツアー中です。デビュー後はアルバムを2枚つくってから東京へ移りましたが、それまでは北海道で制作していて、ライブも北海道から東京へ行ったりしていたし、PRの仕方もよく分からないまま活動していました。 実際に自分がデビューしてみて感じたのは、ミュージシャン側は、たとえばPRの方法とか、リリースされたCDがどんな風に広まっていくのかとか、そういったシステムの部分をまったく知らされないままでいるという点です。そこは所属するレーベルやマネジメントを任せて、自分たちは音楽をつくっているわけですね。でも、僕は音楽を制作しながら、自らそういった部分を学んでいかなければいけないと思いました。ロックバンドをやっているぐらいですから、勉強ができる人間もなかなか少ないというか、そういったシステムに踏み込んでいく人も少ないのですが。 それと、僕はデビューして1つ疑問に思ったことがあります。僕がデビューした当時はYouTubeが流行りはじめていて、皆がYouTubeを音楽のプロモーションに使いはじめていた時期でした。自分たちの曲を宣伝するためにアイディアをいろいろ盛り込んで、チームでミュージックビデオ作品をつくりあげ、そしてアップロードするわけですね。 そうすると、たくさんの方からリアクションがあるわけですけれども、SNSを見ていくと、びっくりする反応がたくさんありました。「あのミュージックビデオを考えた山口さんは天才」とか「山口さんのファッションっておしゃれですね。ヘアスタイルもカッコいいです」といった反応がたくさんあった。でも、僕らからすると、ミュージックビデオのアイディアを出したのは監督ですし、衣装を考えたのはスタイリストの方、ヘアーはヘアメイクの方が担当しています。もちろん自分もそれに関わって一緒に制作はしていますが、評価されるのは表に立っているミュージシャンだけなんです。 僕はかつて北海道でイベントスタッフの仕事をしていて、裏方の大切さ、あるいは(共同作業による)もののつくられ方みたいな部分も、ある程度は把握していたので、そうした状況に疑問を持ちました。それで、「それって、監督がつくっているんだよ?」とか、事実をいろいろとお話ししようとするんですが、そうすると「そういう話はタブーだ」と言われる。ある種、ミュージシャンというものは象徴でありシンボルであり、そういった話は表に出すべきではない、と。悪い言い方をすれば、「そういうものは、すべてミュージシャンの手柄にするべきなんだ」といった風潮がありました。 僕はそれをすごく疑問に思っていたんですが、そうしたなかで、あるとき感じたことがあります。それは、音楽というジャンルが、音楽以外のカルチャーと結びつくことがすごく希薄になってきている、という点です。特に、以前はファッションとかアートとか、いろいろな他のカルチャーと音楽が結びついていたんですが、昨今はそうした機会が本当に減ってきたと感じます。 同じように、企業と音楽の結びつき方もすごく単調になっているという気がしています。僕らが企業と結びつくチャンスって、今はCMタイアップしかないんです。15秒や30秒のCMワークのなかに、僕らがつくった4~5分の曲をカットして商品PRに使うといった形でしか、企業と音楽が結びつけない状態が続いている。ですから、そういう部分でも、「もっと新しい、音楽と企業の結びつき方がないかな」と思って、今はいろいろと試行錯誤もしながら新しい取り組みをはじめています(会場拍手)。 スプツニ子!:ありがとうございます。サカナクションのファンの方々はすごくロイヤリティが高いですし、コアな支持ベースがつくられていると感じます。それで、ファンのなかには、「サカナクションには“良い違和感”があるから好き」という人がいるといったお話を伺ったことがあります。実際、ソーシャルメディアで皆がたくさんの情報を見るようになった今は、共感を得るうえで、「あ、これは今までとちょっと違うな」という風に感じてもらうことが大事なポイントになるのかなと思ったりしていました。そのあたりは、どのように感じていらっしゃいますか? 山口:ロックバンドの抱く夢というものが1980年代からアップデートされていないという気が僕はしています。これだけテクノロジーが進化しているのに、ロックバンドの夢だけは、ずっと同じ。「東京ドームでライブをする」とか、「何万人規模のツアーをやる」とか、「CDを100万枚売る」とか。そんな風に夢だけがアップデートされていないなかで、何か新しい「良い違和感」を生み出すというのは、ある意味では容易というか。簡単に思いつくようなことがたくさんあります。 スプツニ子!:共感するというと、今までは最大公約数的なイメージがあったように思います。たとえば、「こういうメロディのポップソングは売れるよね」みたいな。でも、そうではなくて、違和感で広げていくというのがすごく印象的だと感じました。 続いて、伊藤さんにも伺ってみたいと思います。初音ミクというのはユーザージェネレイテッドコンテンツ(以下、UGC)の象徴的な例だと思いますが、ここ数年は初音ミク以外でUGCのスターが登場していないようにも感じます。それはなぜでしょうか。それはこれから登場し得ると考えていらっしゃいますか?

表面的にかわいい「初音ミク」、たくさんのクリエイターが裏側にいる

伊藤:実は、僕自身も以前は音楽をやっていた人間なんですね。で、なんというか、そうした思いをこじらせて、音楽をつくる会社でなく、「音楽をつくる人」を支援する会社を立ち上げて今に至っています。そんなバックグラウンドのある人間ですから、もともとサブカル的なキャラクターについては詳しくなかったし、その辺について世間で起きていることもあまり分かっていませんでした。 また、先ほどお話しした通り、もともと初音ミクというのは音楽を奏でるためのソフトウェアであり、単なる技術であって、キャラクターではなかったわけですね。ですから、僕自身がキャラクターに詳しくなかったこともあって、「音楽ソフトウェア以外はフリーでいいじゃん」と、フリーに使ってもらうことを決めたわけです。でも、逆に言うと、それが良かったと思います。もし僕がキャラクターに対してすごく知識があって、それで何かビジネスをしようと考えていたら、たぶん現在のようにはならなかったのではないかな、と。おそらく、フリーで使いやすいということで、いろいろなところで使ってもらっているのだと思います。ほかにキャラクターが出ていないというのは、その辺の違いがあるかもしれません。 スプツニ子!:何かつくろうというとき、今は初音ミクというシンボルがあるので、UGCをつくりたいという人が、そこに一極集中で吸い込まれているような印象があります。 伊藤:そういう風にして、すごくいろいろな研究や創作に使っていただいているのは、すごくありがたいと思います。ただ、そういうのは外側からは分からない話なんですよね。先ほど山口さんから、「自分の髪型やスタイルが格好いいとファンは言うけれども、それをやってくれているのはスタイリストさんだったりスタッフだったりする」というお話がありました。初音ミクも同じです。表面的には「かわいいね」となる一方で、その裏側は見えていないんですね。でも、実際にはたくさんのクリエイターがそこに関与している。いろいろなことが「裏側」では起きているわけです。だから、僕も今回のような場でお話しするときは、「初音ミク、すごいでしょ」といったお話でなくて、先ほどお話ししたようなクリエイターによるコラボ等の裏側をお話ししています。そうでないと現象の本質が伝わらないので。(後編に続く) 執筆:山本 兼司

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