キャンペーン終了まで

割引情報をチェック!

企業文化をつくるために組織が取り組むべきこととは?〜「パナソニック流トップダウン改革」「Google流リーダー育成」「グレーゾーンに切り込むコアバリューづくり」

投稿日:2020/05/05

本記事は、G1経営者会議2019「イノベーティブな組織を実現する企業文化」の内容を書き起こしたものです。(全2回 後編)

梅澤高明氏(以下、敬称略) 樋口泰行さんが社長に着任されてから、コネクティッドソリューションズ社(パナソニックの社内カンパニー:CNS)はどのような改革をしていらっしゃるのですか?

マーケティング部門として社内外の「カルチャーづくり」を後押し

山口有希子氏(以下、敬称略):まず、パナソニックといえば本社は大阪の門真ですが、「お客さまに近づきましょう」と。CNSのビジネスはB2Bで、お客さまはほとんど東京ですから、本社を東京に移しました。また、課長と部長で椅子が違っていたり、役員になったら役員室が用意されたりするというのも日本企業ではありがちだと思いますが、役員室等もすべて撤廃しました。皆が平場で、オープンコミュニケーションができるようフリーアドレスにして、いろいろな部門がワンフロアで混在する形にしています。

あとはITの活用ですね。まずは「社内SNSを使ってください」と。SNSだとカジュアルなコミュニケーションになりますよね。「今いいですか?」「これどうですか?」みたいな。そんな風にしたかったのですが、最初は利用率が33%ぐらい。でも、これは絶対に広げなければいけないと思って、部署別の利用率を発表しはじめたのですが、そうしたら1ヶ月で98%にまで上がりました。最近は役員の社内 SNS活用度ランキングもボードミーティングでシェアしています。また、人事制度についても1on1ミーティングや360度評価の導入を含めて改革していきました。とにかく、そんな風にしていろいろなものを一緒くたに改革していかないと変わらないので。

梅澤:で、山口さんのような、パナソニックにとってはちょっと宇宙人のような人をどんどん引っ張ってきて、かき回させる、と。

山口:実際、パナソニックのB2Bにはマーケティング部門がなかったんです。いいものをつくって、それを営業が売っていくということで、マーケティング機能がそれほど重要視されていなかった。でも、マーケティングというのは社外に発信する一方、社内的にもカルチャーのイネーブラーになります。ですから、社内でも社外でもカルチャーをつくっていくイネーブラーとして、今は私の部門を立ち上げてドライブしている形になります。

梅澤:改革はかなりトップダウンということですよね。

山口:明確にトップダウンです。もともと樋口がビジネストランスフォーメーションのスキームを発表して、「これに基づいて、すべてのカルチャーやシステムを改革します」という形でスタートしたので。嘘みたいな話ですが、それで20~30年働いている方々からは「違う会社になったみたいだ」「1日の仕事量(生産性)が2~3倍になった」という声も出ています。まだまだチャレンジの最中ですし、全体の話ではありませんけれども。

梅澤:肌感覚ですごく変わっている、と。

山口:本当に大変です(笑)。でも、絶対にできると思います。そこは、ある意味では覚悟の問題なのかなと思いますね。

梅澤:トップマネージメントが本気になって、トップダウンで落としてくれたらいろいろ動くとは思いますが、そういうリーダーも同時並行で育てていかなければいけませんよね。そうしたカルチャーをつくるリーダーシップ育成という意味では、Googleもさまざまな手法をお持ちかと思います。

Googleのリーダー育成法:「リーダーはコーチであるべき」

岩村水樹氏(以下、敬称略):Googleでは「グレートマネージャーとは一体何をしているのか」といったリサーチもしています。すごく分かりやすく言うと、マネージャーは肩書きを持てばなれますが、リーダーと呼ばれるためには部下がリーダーであると認めてくれなければいけない。それが大きな差になるということで、今はそこをきちんとトラッキングしています。

3つのアクションがあります。1つは、マネージャーもしくはリーダーと言われる人たちが、部下およびチームとのコミュニケーションに多くの時間を取るということ。2つ目は会社側のアクションとして設けられるトレーニングプログラムですね。そして3つ目がリフレクション。果たしてどれほどの成果が上げているのか。これは半期に1度出されるマネージャーのスコアと、1年に1度、全社員を対象に行われる「Googleガイスト」という意識調査の結果で見ていきます。後者では、「心理的安全性は成立していますか?」「多様な意見が取り入れられていると思いますか?」「あなたはこの職場できちんと自分を出すことができていますか」といった項目があって、その結果はすべて見ることができるようになっています。こうしたトラッキングの結果を受けて、どのようなアクションをとっていくべきかを考えていきます。

梅澤:部門長、またはその1つ下ぐらいの方々の人事評価で、「部下のコーチングやカルチャーづくり」といった要素はどれほどのウェイトで評価されているのですか?

岩村:一般的にはWhatとHowで5:5という風に言われています。まずWhatは4半期ごとに設定するOKR(Objectives and Key Results)ですね。全社的な目標に沿ったうえで、自分の部署で立てた目標と結果に基づいて評価します。で、同時にHowも見ていきます。「どれだけコラボレーティブにできたか」「どれほどチャレンジできたか」」「これまでと違うアイディアを出すことができたか」等々。そうしたHowの部分は上にいけば行くほど重要になります。自分のチームをリフトできているか、パフォーマンスを高めることができているかといったことが、最大の課題になっていると言ってもいいのかなと思います。

梅澤:良いチームをつくり、それを成長させることのできるリーダーが良いリーダーだと。

岩村:そうです。ですから「リーダーはコーチであるべき」という風にも言われています。リーダークラスでコーチングセッションを受けるというのもいいのですが、それをどのように組織全体へ広げていくか。そこで、リーダー自身が自分たちのチーム、あるいはチーム直属のマネージャーを育てられるようなコーチにならなければいけない。

ちなみに、先日ラグビーW杯のスコットランド戦を観に行って大いに楽しんできましたけれども、ラグビーのチームはすごく参考になるなあと思いました。ONE TEAMとダイバーシティ。多様性があるだけではなく、ものすごく濃密なコミュニケーションを経て1つのチームになっていますよね。それに、目標が明確です。目標が明確であればあるほど、自由に、自律的に動くことができる。そういうチームをつくっているコーチも素晴らしいと思います。

梅澤:ダイバーシティとミッションやカルチャーとの関連性についてはどうお考えですか?

田川欣哉氏(以下、敬称略): 日本では入社から定年まで同じ企業にいるケースも多いので、同質性とともに、なんとなく言語化されていない共通の常識みたいなものが企業内にあると思うのです。ですから、新しい人が入ってきたときにシェアされていない情報があり過ぎてパフォーマンスを発揮できないといったことがあるのだと思います。これに対して、海外の企業は良くも悪くも流動性が高いので、新しい人が入社1週間目でパフォーマンスを発揮できるかといったことを含めて、「組織としてどんな価値観でジャッジするのか」という、カルチャーコードみたいなものをしっかり公開している会社が多いと思います。

梅澤:採用でもそこはよく見ていますよね。私も世界40ヶ国に展開する多国籍企業にいますが、たとえばパートナーミーティングで300人も集まったりすると、もう秩序のない動物園状態になるので。それをどう束ねるかと考えると、ミッションとカルチャーしかない。

田川:だから、企業文化が日本の大きな組織でイシューになるのはきっとこれからだと思います。たとえば副業・兼業を行う人が増えたり、辞める人が増えていったりしたとき、企業文化がはっきりしている組織とそうでない組織でどのような違いが生まれるか。採用に関して言えば、今までは、一方には偏差値順に並べた学生のリストが、もう一方には企業の処遇のようなものがあって、それで上からマッチングしていくだけのような状態でした。そのとき自分に合うか否かで就職先を決めている学生はいまだに少ないと思うのです。でも、それだと企業は、採用した人がカルチャーフィットしなかったとき、パフォーマンスが上がらないという問題に悩み続けることになります。

ですから、「うちの企業はこうです。これに合わない人は来て欲しくないです」と。そんな風にはっきり言えば言うほど、企業として組織に取り込むべきでない人、それは食べ物であれば良し悪しの話でなく体に合わないという意味ですが、そうした人が入ってこないようになります。そうした防御的な側面もあると思うもですよね。ダイバーシティを持たせるのなら、扇子の留め具のように、どこかがピン留めされていなければいけない。でも、今までの日本企業は(扇面の)広がる部分がなかったから、根本でピン留めするようなカルチャーをはっきりさせるということに、経営者たちが取り込まなくてもよかったというか。

梅澤:たしかに人種や性別でダイバーシティを持たせる一方、カルチャーフィットの部分は強烈にピン留めするというのが、世界で成功している企業では共通していると感じます。

企業の「コアバリュー」はグレーゾーンに切り込む言葉が一番いい

田川:そうですよね。たとえばネットフリックスが「シリコンバレーから生まれた最高の文書」と言われるカルチャーガイドを公開しています。その100ページほどのドキュメントで、「ネットフリックスはこういう風に判断する」といったことが事細かに書かれている。一方で、僕はいろいろな組織の支援に入るなかで「面白いな」と思うことがあります。企業理念がある会社が、日本はすごく多いのですよ。ただ、コアバリューを設定している会社がすごく少ない。

梅澤:あと、設定しているのだけれども、企業理念もコアバリューも、誰にも文句を言われないような正しいことしか書いていないので、何ひとつ刺さらないとか。

田川:その意味では、コアバリューはグレーゾーンに切り込む言葉が1番いいんです。皆が迷うとき、「組織的にはコアバリューはこうなのだから、こっちに行くべきでしょ」と。メルカリには‘GO BOLD’という言葉があります。で、たとえばA案とB案で迷ったとして、チームとしては決断するのも結構怖いわけです。でも、「‘GO BOLD’って言っているのだから、こっちへ行こう」と、皆が‘GO BOLD’のせいにしてチョイスする(笑)。社長が直接指示をしていなくても‘GO BOLD’がすでに言霊となっているから、組織の判断にバイアスがかかって、すべてそちら側に倒れ込んでいくのです。そんな風にして、コアバリューは皆が判断に困るようなグレーゾーンで良し悪しを分ける基準の言葉でなければいけないと、僕は考えています。誰がどう見たって否定しようがないような言葉なら、あってもなくてもね。

梅澤:あってもなくても一緒だし、誰も読まないですよね。

田川:グレーゾーンを判断するところに会社のキャラクターが出るので、そこを言葉にするのが一番いいのだろうと思います。それが企業文化の1つの根っこになる、と。

梅澤:では、会場の皆さまからも新しい視点等々を投げ込んでいただきたいと思います。

質問1)オープンイノベーションにおける、大企業のベンチャーに対する「上から目線」を変えるためには、何が必要か?

岩村:「上から目線」に関しては、パートナーに対するリスペクトについて、きちんと言語化しておくことはすごく大切だと考えています。自社の例ばかりで恐縮ですが、Googleは‘Respect the user, respect the opportunity, respect each other.’ということを謳っています。上から目線でなく、あくまでもパートナーとしてリスペクトすることが大切になる、と。私たち自身がスタートアップというレガシーやカルチャーを持ってここまで来ているということもありますので。

梅澤:既存の大企業で上から目線となっている人に「変わりなさい」と言っても、たぶん無理だと思うのです。ですから、オープンイノベーションを担当する人には、スタートアップ側にいた人で、かつ、ある程度は組織内でネットワークを張れている人を採用していくしかないように思います。私はスタートアップ側ともずいぶんお付き合いをさせていただいていますが、率直に言って、「あなたたちに何ができるの?」と大企業の方々に聞かれて、いつもムッとしています、と(会場笑)。「これからはオープンイノベーションだ」と、大企業側がこれだけ何年も言い続けて、それでもなかなか飛べないのなら、「我々が持っているリソースをスタートアップの皆さんにどう使っていただいたら、皆さんの事業は伸びますか?」と。心底そういうスタンスでパートナーシップを組むことができるなら、たぶんいろいろできるのだと思います。でも、それができていないという話だと思うので、それができるような人を連れてきて、少なくともと窓口というか、窓口兼責任者のようなところに置くのが一番早い気がします。

山口:本当にそうだと思います。プロトコルが一緒でないとイノベーションは起こらないと思うのですが、パートナーではなく業者のように捉えてしまう。私もそういうのが本当に嫌で。岩村さんがおっしゃる通り、すべてはリスペクトなんですよね。社内でも社外でも。リスペクトできない人はイノベーションを起こせないと、私も強く思います。カルチャーを変える立場なら部下に対してもリスペクトが必要です。今の時代、マネージャーはサーバントマネージャーでなければいけないと思うんです。あらゆる部門の人々を心からリスペクトしてコミュニケーションを取らないと、社内でも社外でも絶対にイノベーションは起こせないと強く感じていますし、そのためのカルチャー改革が1つの大きなチャレンジになるのだと考えています。

質問2)中間管理職を変えていくためにはどのような取り組みが必要か?

山口:人材について申し上げると、中間管理職の方々、いわば大きな成功体験を持つ方々をどうやって変えていくかというのは、どの会社でも課題になると思います。そこで大事なのは、まずはトップが変わって、そのうえで現場が変わっていくことをトップがきちんとサポートすること。変わりやすいところから変わっていかないと無理だと思っています。

梅澤:中間管理職に対してはどのような変革の圧力をかけているのですか?

山口:イノベーションやトランスフォーメーションを起こすことが本当にできているのかどうかを、人事評価として、意思を持って明確に評価をすることだと思います。

梅澤:そのためには、ある程度は外の血が入ってこなければいけない、と。

山口:ただ、外の血を入れるといってもエイリアン過ぎるエイリアンだとダメなのですよね。

梅澤:ご自身はエイリアン過ぎないエイリアン?(会場笑)。

山口:そう(笑)。エイリアン過ぎず、中のことも理解できて、かつ外のことも知っていることが大事なのだと思います。もともと樋口も出戻りですし、私も日本の製造業で働いていたことがあります。中のことも分かっていないと、エイリアン過ぎるエイリアンはエイリアンのままで終わってしまうので。そうした人材セレクションのクライテリアも重要だと思います。

質問3)部門間調整で予定調和に陥ってしまうのを食い止め、お客さま視点へと戻すために必要となるものとは?

田川:サイロ化の問題について申し上げると、部門をまたいだコラボレーションというのは突き詰めると「共通言語づくり」になると考えています。まず、人間が持つことのできる共通言語としては、おそらくロジックや数字が一番簡単だと思うのですよね。だから皆が数字を使う。DeNA会長の南場さんは以前、「経営会議で皆が数字の話をするのは、それぞれの専門が別だからです」とおっしゃっていました。結局、細かい話をしてもよく分からない。でも数字にすると分かった気がする。だから皆が数字を使う、と。ただ、そこで危険なのは、「共通言語だから数字を使う」ということが、会話の内容まで決めてしまうこと。そして、それで決められた内容が高い精度で行われていることに、なぜか無自覚で満足してしまうこと。「それは、経営者たちが本当に話をしなければいけないことだからではなく、会話が成立することだから会話にしている。それが取締役会なのです」と。

DeNAがチーフデザインオフィサーを置いたのはなぜか。放っておくと人間はそうなってしまって量の話しかしないからです。でも、プロダクトをつくっているわけで、その先にお客さまがいるわけですよね。お客さまは数字の話を知りません。「便利なのか」「使い心地が良いのか」といった質しか気にしていない。そうした質の話を取締役会に取り入れるために、わざわざCDOを置いたわけです。「そうして質と量の両輪でバランスが取れていれば、企業として真っすぐ走ることができるというのが、今のところの結論なのです」と。そういうお話を南場さんがなさっていて、「なるほどなあ」と思いました。

先日登壇させていただいたG1Global Conferenceでは、「どのようにイノベーションを起こすかについては、もう結論は見えているかもね」という話になったことがあります。結論は、「ヒューリスティック、いわゆる人間の直感や人間観察から来る物事と、データによるバリデーションを、プロセスのなかで有機的に結合する。以上!」と。人材的にも同じだと思うのです。サイロ化をどうやって解決するか。これも基本的には共通言語づくりに尽きるんだと思うのです。データという数字で分かるものと、それでは分からないユーザーフォーカスを、ファンクションの異なる人たちがONE TEAMで動けるレベルまで高い密度で共有すること。

そう考えると、ロジックのほうはそれをやっていると思うのですが、ユーザーフォーカスのほうがまったくなされていないと思うんですね。そこで一番簡単なのは、よく言われることですが、プロダクトに関わる人たち全員を現場へ連れて行って見てもらうこと。そうすると、誰がどこで何をしていたかといったことが一応ビジュアルで記憶できるじゃないですか。その記憶できている状態でミーティングをするのと、それをまったくやらずにペルソナやターゲットユーザーやマーケット等々、皆思っていることがバラバラな情報でやるのとでは、質は大きく違ってくるわけです。そういうところを共有化していこう、と。

たぶん、デジタル系はそれがやりやすい。すべてデータで見ることができて、ユーザーのビヘイビアが分かるから。でも、リアルサービスや物理ビジネスでは、それを見に行かないと取れない。以前、「これは驚くべきことだな」と思ったことがあります。コンシューマープロダクトをつくっている会社で、エンジニアさんたちから出てきたアイディアを僕らが聞いていたときの話です。プロダクトはキッチンツールだったのですが、「キッチンに行ってみましたか?」と聞いてみたら、「我が社の地下でキッチンを再現した場所があるから大丈夫です」って。でも、実際のキッチンには扉の前に新聞が積まれていたり、スーパーの袋にいろいろ詰まっていたりして、ごちゃごちゃしているのがリアリティなわけですよね。そういうリアリティがないんです。だからエンジニアの方は7人ほどいたのですが、皆がまったく違うことを考えていた。ですから、たとえば現場へ行って見てみる一方で、データはデータとしてきちんと取ること。この2つをベースラインにして皆がそれぞれの専門性を発揮できるようになると、イノベーションが起こる可能性もぐっと高まるのかな、と。それがサイロ化を突破する簡単な方法でもあると思っています。

梅澤:今は国の政策としてデザイン経営ということが打ち出されていますが、その根っこにあるのは「ヒューマンセントリックデザイン」。人間をきちんと観察して、本当のペインポイントを特定したうえで、今までと違うやり方でそれを乗り越えるようなデザインを、ソフトウェアでもハードウェアでも考えていきましょうという話です。KPIになるようなものは言ってみれば過去のデータの蓄積ですから、ユーザー全体で見ると部分集合なわけですね。今後のモノやサービスをつくっていくうえで、それだけで足りないのは自明なのに、「KPIで議論できるところに閉じて意思決定をしていませんか?」という。

田川:「誰のために何をつくるのでしたっけ?」というのが、意外と抜け抜け落ちている。

梅澤:質についてKPI化できるところはあるけれども、まだまだできないものだらけ。質というのは人間の五感すべてに働きかけるもので、それらをすべて定量化できているかと言えば、どこの会社もできていないわけですよね。しかも、五感には相互作用があるから部分最適を追求しても全体最適にならない。そこで、どのようにして人間にとって心地良いものをつくるか。それが、ある意味ではデザインの大事な作業ということですよね。

田川:最近、先端で活躍している人たちと話していると、人間観察のできるデータサイエンティスとか、逆に数字の分かるデザイナーとか、「そういう質と量のハイブリッドタイプが今後はチームを束ねていくようになるのでは?」といった話になります。

山口:そうしたデザインやアートを重要視する企業マネジメントに変えていくことが、今はすべての企業で課題なのかなと思います。

田川:「強い企業だな」と思うのはどんなところかというと、たとえば売り場を持っている企業であれば、トップの、それこそ代表の方がウロウロと売り場を歩いているような企業はかなり健全なのですよね。リアリティを掴んでいるというか。逆に、オフィスから出ずにレポートばかり聞いて判断するようなカルチャーの企業だと、プロダクトがずれていったりする。ですから、組織が最終的に“出力”しているような現場で起きているリアリティを、ミドルもシニアも含めて上の人たちが見に行くというのは大事なカルチャーだと思います。

岩村:そうですね。Googleはユーザーフォーカスということを言っていますが、日本は素晴らしいユーザーがいるという点ですごく恵まれていると思うし、それがチャンスなのだと考えています。日本のユーザーは新しいテクノロジーや製品に対してオープンですし、社会的状況も含めてAIに対してこれほどポジティブな国はありません。日本のユーザーは新しいものに対してオープンで、スマートフォンの浸透等も早く、モバイルでの検索が非常に早い速度で成長しました。たとえばGoogle検索に関しても、モバイル検索がデスクトップ検索を超えた世界で初めての国は日本なのです。

それほど、便利であれば皆が新しいものをどんどん貪欲に使う環境なのですね。テクノロジーに対するイメージもアトムだったりドラえもんだったりして、ターミネーターじゃない(会場笑)。そういうユーザーがいるのですから、やはりユーザーをきちんと見て、その行動を見て、「この人たちに何をしてあげたらもっと便利になるのか」と考えていくことがイノベーションの種になると考えています。そのうえで、あとはいかにスケールしていくかを考えるというのが大事になるのだと思っています。

梅澤:今日のお話で特に大事だと思ったことを3つ申し上げますと、1つ目は岩村さんがおっしゃった「心理的安全性」ですね。これはどの会社でもベースになると思います。で、2つ目は山口さんがパナソニックで取り組まれていることでもありますが、「最上位にカルチャーアンドマインドを置いて、その次にビジネスモデル、そして事業の集中と選択という順番で組み立てていくこと」。そして最後は「KPIの体系に会社の意思決定を乗っ取られていませんか?」。これも重要な投げかけだと思います。KPIはサイエンスと言い換えられるのかもしれませんが、それに加えて「ヒューリスティックな、デザイン的な視点をバランス良く、まずは経営レベルで持つこと」。それが、会社を未来志向かつイノベーション志向に、そして本当の意味での顧客志向に近づくため、割けて通れない道であると、今日は確認できたのかなと思います。皆さま、貴重な1時間をありがとうございました(会場拍手)。

<前編はこちら

新着動画

10分以内の動画コース

再生回数の多い動画コース

コメントの多い動画コース

オンライン学習サービス部門 20代〜30代ビジネスパーソン334名を対象とした調査の結果 4部門で高評価達成!

7日間の無料体験を試してみよう

無料会員登録

期間内に自動更新を停止いただければ、料金は一切かかりません。