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「イノベーティブな組織」をつくるために必要な企業文化とは?〜鍵は「心理的安全性」「ユーザーフォーカス」

投稿日:2020/05/04更新日:2020/05/12

本記事は、G1経営者会議2019「イノベーティブな組織を実現する企業文化」の内容を書き起こしたものです。(全2回 前編)

梅澤高明氏(以下、敬称略):本セッションではイノベーションに関して、特に企業文化を主なテーマに置いて議論したいと考えています。私は大企業のコンサルティングを本業としていますが、本業を通じて思うのは、さまざまな取り組みをなさっている大企業は多いものの、それが会社の未来につながっている感覚は本当に出ているのかなという点です。コア事業の次バージョンの姿がなんとなく見えてきたとか、現在のコア事業と違う領域に将来コア事業がつくれそうな手応えをなんとなく感じているとか。そういうところまで来ている会社さんはどれほどいらっしゃいますか?(会場挙手少数)そうですね。これは私も肌感覚と同じです。

各種イノベーションのツール、アジャイル開発プロセス、あるいはデザイン思考といったものは皆さんもご存知で、今までも部分的には使ってきたと思います。でも、それが本質的イノベーション力の強化につながっていないのではないか、あるいは、強化につなげるためにはどうすればいいのか。そうした部分で悩んでいらっしゃるというのが、総じて日本の産業界における、少なくとも大企業セクターにおける温度感だと思います。そこをどのように突破すればいいのかというヒントをご提示できたらということで、本日は壇上の御三方にお集まりいただきました。

岩村さんはイノベーションにおける世界的ベンチマーク企業の幹部。山口さんは外資系と日系の大企業両方を経験して、今はパナソニックという代表的日本企業で、まさにイノベーションを起こせる組織への変革ということで最前線にいらっしゃいます。そして田川さんは、デザイン経営というテーマを中心にして企業のイノベーション力強化の後押しをしていらっしゃいます。そんな御三方が揃っていますから、今日は多様な目線がご提供できるかなと考えています。では、最初の問いを投げかけたいと思いますが、大企業におけるイノベーション不全の根本原因は何でしょうか。山口さんから順にお願いします。

イノベーション不全の原因は「メンバーの視点」「カルチャーとしての同質集団」「変化に対するアレルギー」

山口有希子氏(以下、敬称略):原因はいくつかあると思います。1つは、マネジメントからスタッフまで、それぞれメンバーの方々の視点ですね。どこを向いて仕事をしているのか、お客さまやマーケット、そして世界を向いているのか、と。たとえば世界のB2Bマーケティング市場はどうなっているのかといった、世界を向いた視点を本当に持っているのかという話がまず1つあります。

それと、カルチャーとして同質集団であるという課題もすごく大きいという気がしています。日本って、すごく幸せな国じゃないですか。1つの民族と1つのカルチャーで、これだけの経済規模や企業やマーケットをつくってきた。でも、今はもう多様な価値観を持った人を組織のなかに入れていかなければいけない。

あとは変化に対するアレルギーレベルがすごく高い点も課題だと思います。成功体験に囚われ過ぎているという話だと思うのですが、とにかく変わることがこれほど大変なのか、と。ちょっとした変化を起こすことも本当に大変です。それと、最終的にはトップですね。経営者の視点と資質も大きな課題になると考えています。

部門間の壁によって「ユーザーフォーカス」ができていない

田川欣哉氏(以下、敬称略):僕がいつも感じるのは、大手もスタートアップも関係なく、サイロ化された部門間の壁のようなものがある点です。それで組織的にも別々のKPIを持っていたりすると、たとえば製品開発側が良かれと思ってやろうとしていたことをマーケティング側が止めに入ったり。それで、本来はお客さんがいる筈なのですが、たとえばマーケティングと開発のあいだで、なにかこう、調整みたいなことをはじめてしまって目線がユーザーに向かなくなる。そうなると、「部門間の調整がつくように」というのが皆の行動原理になりがちです。それで調整しやすい製品やサービスができるわけですね。でも、それはユーザーにとっては関係ないじゃないですか。そんなことが裏で起きているなんて知らないし。そういう意味で言うと、ユーザーフォーカスがしっかりしている会社、つまり開発もマーケティングも営業も皆がユーザーの声を聞くことができている企業と、そうでない企業とのあいだですごく大きな質の差を感じます。

日本企業は長い歴史のなかでしっかりした組織を、ある意味ではていねいにつくり込んできました。だから役割分担が決まっていて、「この人たちはお客さんの声を聞く人」「この人たちは声を受け取って技術視点で考える人」という風に、細分化されている。それが一番強く感じることです。

梅澤:部門間の調整や合意が目的になってしまっている、と。

田川:そうです。「良いものをつくる」「ユーザーはどこを向いているか」という議論がなされず、会社組織の枠組みで物事を決めることにプライオリティがついてしまって、その合意のためにエネルギーやマインドシェアが割かれ続ける。1人でプロダクトをつくる状態ならそんなことも起きませんが、1万人でつくっていると起きるわけですね。それをどんな風に解いていくか。そういうプロダクトのオーナーシップの話とか、ユーザーを見ることができているかといった話が、足元では大きな問題になっていると感じます。その点では、大きな組織でもスタートアップでも、あまり差を見出だせないのですよね。実際、(大きな企業でも)プロダクトをつくるチームのヘッドカウントは10人や20人といったケースもあるので。そこは同じですが、ユーザーを向いたメンタリティーを持っているチームと、いわゆる調整に追われているチームでは、モノの出来具合もまったく違うと感じます。

イノベーションの「スピード」と「スケール」が変わってきている

岩村水樹氏(以下、敬称略):まず、日本企業にイノベーションを生み出す力はある筈だと私は考えています。これまでもiモードやQRコード等、すごいものを数多く生み出してきました。ただ、最近は少し苦しんでいるのかな、と。1番大きな要因はスピード感が変わってきた点だと考えています。イノベーション、あるいはテクノロジーや競争環境が変化して、今は新興国やスタートアップ企業も出てきました。それで、日本だけを見ていてもいろいろなものが入ってくるようになった。そのスピードがどんどん速くなっています。よく言われることですが、テレビは5,000万ユーザーに達するまで13年かかりました。でも、パソコンは10年、インターネットは7年ぐらい。では、「ポケモンGO」はどれほどだったか。2週間強です。もちろんプラットフォームは若干違いますが、とにかく今はそれほどの勢いで人々がつながって、全世界にサービスを発信できる状況になりました。

また、スケールも変わってきました。スピードとスケールの2つ。つまりゲームのルールが変わってきている。そうしたルールの変化に耐えるだけの体質改善ができているかという話でもあるように思います。では、体質改善のポイントは何かと言えばユーザーフォーカスとカルチャー。Googleはユーザーフォーカスということが社内ですごく浸透しています。

また、たとえば日本企業は来年度の目標というと前年比10%増ぐらいを設定しますよね。それも大変なことですが、10%ぐらいの目標では物事をインクリメンタルにしか考えられません。既存のお客さまに少し違うものを追加提供したり少しマーケット広げてみたり。でも、Googleはそこから発想転換をするため、「10%増でなく10倍でいこう」という風に考えたりします。そうしたカルチャー的なプロトコルを浸透させる仕組みもあるわけですね。

これはどういうことか。私がGoogleで学んだのは、新しいゲームのルールに対応していくためにはイノベーションにプライオリティを置く必要があるということです。「イノベーションなくしてGoogleなし」というほどのプライオリティを置くことが今は重要になる、と。あとは、先ほど申し上げたユーザーフォーカス。ユーザーを見ずに前年や競合を見ていると、なかなか新しいものも見出せず、変化のスピードについていくこともできないと考えています。

それと、これからすごく大切になるのは、自分たちが提供していくサービスで必要とされる技術のエコシステムを、長期的な視点で理解したうえで、どこにベットしていくかを考えること。そこで長期投資を行うことも重要です。そんな風にして、短期で回す部分と長期でベットしていくことの2つを、きちんと両輪として回していくことが大切なのだと思っています。それがなかなか難しいことでもあるのですが。

梅澤:短期と長期のマネジメントはどのように分けているのですか?

岩村:Googleのなかにもいろいろなチームがあるわけですね。ハードウェア部門やサーチ部門、あるいはマーケティングのチームなどがあって、それがグローバルでワンカンパニーになっています。ですから、まずは全社的な戦略を理解して、それを各チームが自分たちの戦略のKPIに落とし込んでいきます。そこのマネジメント手法や目標の立て方は、それぞれの部門で違っています。

たとえば、皆さんご存知かしれませんが、Googleには自動運転車をつくったXという組織がありました(現在はXというアルファベット傘下の兄弟会社)。これは、まったく新しい、世の中で見たことのないものを生み出していこうという組織です。そこで生まれたもののなかで、良いもの、なんらかの芽がありそうなものについて、次は「一定の事業化を達成しなさい」と。それで、自動運転車も今はウェイモという別の組織体になって、今後はビジネスを目指すステージになっています。

梅澤:基本的には、別の組織体で別のマネジメントシステムを入れるということですかね。

岩村:別のマネジメントシステムを入れています。ただ、そこで重要なのがカルチャーなのです。また、人的交流もあります。たとえばGoogleにいた人間がXに行ったり、Xにいた人間がウェイモに行ったり、ウェイモにいた人間がGoogleへ戻ったり。そういったことを繰り返すことによって企業全体でイノベーションカルチャーを保ち、イノベーションを生み出し続けよう、と。Googleはアルファベットカンパニーの中で世界で最も多くの方々に使っていただいているわけで、我々がイノベーションを起こさなくなったら大変なことになります。ですから、より良いサービスをどんどんつくっていくためにイノベーションをトッププライオリティに置き続ける。これが、CEOを含むマネジメントグループ、あるいはリーダーシップチームの最重要課題になります。

梅澤:ユーザーフォーカスというキーワードが出てきましたが、日本企業は一応、顧客志向ということを言い続けてきた企業が多いわけですよね。日本企業がこれまで言ってきた顧客指向と、皆さんがおっしゃるユーザーフォーカスは何が違うのでしょうか。

これまでの「顧客志向」と「ユーザーフォーカス」の違いとは

田川:競争環境という意味で言うと、伝統的なハードウェアビジネスと、今後のデジタルとフィジカルのハイブリッドビジネスとでは、大きな差があると思っています。たとえば開発現場で大きく違うと僕が感じているのは、「DevOps(デブオプス)」という風にも言われますが、デジタルでは開発者たちが運営まで行う点。デジタルビジネスのユーザーフォーカスでは、まずは仮説型で一旦投入がなされます。で、そこから返ってきた数多くのユーザー反応やデータを見ながら、「どのボタンが押されているのか」といったことを開発者たちが見ていくわけですね。で、「それなら」ということで、次の打ち手をすぐさま、たとえば2週間おきぐらいに投入し続ける。そんな改善プロセスに開発者たちも加わっていきます。

一方、従来型のハードウェアビジネスでは、投入後はまったく別の部隊に手渡されて、開発部隊はまったく別のプロダクトをつくりはじめるケースが多いと思います。しかし、イノベーションを生むための重要なトリガーとなるユーザーボイスというか、ユーザーのビヘイビアを開発者たちが直に触ることはすごく大きいという気がしています。

山口:おっしゃる通りだと思います。ソフトウェアはそれがやりやすいのですよね。以前マーケティングをしていたヤフージャパンでも、開発したらすぐユーザーボイスが返ってきて、そこから改善のループを回すことができていました。でも、日本のいわゆる大手マニュファクチャリング企業は組織も大きく、状況がまったく違います。今までは、基本的には良いプロダクトを生産していれば売れていたというリアリティがありました。ループを回さなくても結構伸びていたという、過去の成功体験ですね。でも今は違います。いろいろな部門がお客さんのほうを見て、ユーザーからのフィードバックを見て改善するというループを回していかなければいけない。ただ、そのために必要な組織づくりやカルチャーづくりが、かなりハードルが高いと感じています。

田川:たとえば開発者が「ユーザーさんが実際にプロダクトを使う環境で観察させてください」なんて言うと、クライアントと接点を持つ営業さんがブロックに入ったりするわけです。でも、開発者たちが実際に使われている状況を浴びるとすごく活性化すると思うのですよね。

山口:それで当社はカスタマーエクスペリエンスセンターという部門をつくりました。そのうえで、営業や開発部門やデザインチームが一緒になってお客さんの話を聞く機会をきちんと設ける。そういう仕組みもどんどんつくっていかなければいけないのだと思います。

田川:で、そうなると部門の壁を跨ぐから、普段の“言葉”が通じない人たちと一緒に仕事をしないといけないじゃないですか。そこで企業文化が大切になるというか。「何をピン留めすることによって、異なる人たちが一緒に働けるようにするのか」というのを突き詰めて考えないと、たぶん動かなくなってしまうのだと思います。

サイロ化した部門同士をつなぐために大切な「心理的安全性」

岩村:日本企業で、たとえば社員全員が会社のミッションをクリアに言えるかというと、なかなか言えないようなケースもあると思うのですね。しかし、「企業が目指す目標に皆が向かっている」という信頼感をきちんとつくることがサイロ化した部門同士をつなぐカルチャーになるのだと考えています。違うもの同士を結んで新しいものを生むことにつながる、と。

梅澤:心理的安全性というものですね。

岩村:そうです。たとえば働き方改革に関して、Googleはテクノロジーで女性の活躍をサポートする‘Women Will’という取り組みを世界40ヶ国ぐらいで進めています。日本でも5年ほど前にテクノロジーで働き方をワークスハードからワークハードに変えるというテーマにフォーカスして活動をはじめました。ただ、テクノロジーはすでに結構あるのです。たとえばビデオカンファレンスとか。でも、誰も使っていない。なぜか。それで早く帰れるようになっても、「まだ上司が残っているのに」みたいな感覚があったりするわけですね。だから会社にいないと、組織から取り残されてしまうような感覚がある。まさに心理的安全性が成立していない状況です。

一方で、Googleは世界で200ほどのハイパフォーミングチームを対象に、そうしたチームの共通項を調べたことがあります。すると、共通していたのは、「同じオフィスにいる」「ハイパフォーマーが数多く集まっている」といった話では必ずしもありませんでした。共通項は5つ。なかでも一番大切なのが心理的安全性だったというのです。たとえば「ロールアンドレスポンシビリティーがはっきりしている」「社員が『自分の仕事は自身のキャリアにも社会にも役立つ』と思っている」等々ですね。他の4つが成立していても、そうした心理的安全性が成立していないとハイパフォーミングチームにならない、と。

心理的安全性とは具体的にはどういうものか。「チームのなかで自分をさらけ出すことができる」「分からないことは『分からない』と言って聞くことができる」「失敗からのラーニングは求められるけれどもミスを咎められない」といったことが成立している状況です。突き詰めると、「これって何ですか?」と、聞けるということですね。そういうシンプルな質問すら投げかけられないような状況が、実は結構ある。

梅澤:会場で「当社は心理的安全性が担保されている」と思う方は? …少ないですね。

岩村:そうですよね。たとえば新人の若い方なんて、ダイバーシティが必要とされる今の時代にはとても大切な人材じゃないですか。でも、その新人がアサインされたプロジェクトのなかで、「ここ、分からないなあ」と思ったところについて質問もできなかったらどうなるか。聞けないまま3カ月も進んでいたらプロジェクトは崩壊しています。

梅澤:あるいは、ちょっとワイルドなアイディアを投げてみたら「バカ」とか言われて、それでもう黙ってしまったり。

岩村:ですから心理的安全性がないと、いくら「我が社にはダイバーシティがあります」と言ってみても、女性や外国の方がいるような状態でも、その人たちの力をチームに取り込むことができない。ここはファンダメンタルな話として非常に大切だと考えています。Googleは少し変わったやり方をしている企業ですし、失敗も数多くしていますが、それでも新しいものを生み続けることができるのはその心理的安全性があるからなのですね。おそらく、心理的安全性を成立させるということは、どこの企業でもできることではないかなと思っています。難しいことではありますけれども。

田川:Googleさんはその辺の話をすごくきれいなドキュメントにまとめて公開しています。皆さんも「Google リワーク」で検索してみてください。テクニカルな観点も含めて、心理的安全性をどのように担保するのかといった話がそちらにたくさん書かれています。

山口:大事なのは健全なカルチャーや職場の空気感だと思うのです。「これ、言っちゃって大丈夫かな…、やっぱりやめとこう」という空気なのか、どんどん言っていいような空気なのか。とにかく後者のカルチャーをつくらなければいけない。ですから、当社では「ストラテジー、ケイパビリティ、カルチャーのなかで一番重要なのはカルチャーです」と言っています。今はビジネストランスフォーメーションをドライブしようとしていますが、その第1段階はカルチャーとマインドの改革。そして、第2段階がビジネスモデル改革で、第3段階が集中と選択という言い方しています。これは企業方針としてやっています。で、そのなかで強く思うのは、日本企業には無駄なフォーマリティが文化的に大変多い点です。「きちんとご挨拶しなければ」とか、ミーティングにおける着席の順番とか。

梅澤:メールの文章は1/3が無駄だったりしますからね。

山口:そうなのですよ。そういうフォーマリティの削除が1つテーマです。(後編に続く)

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