作り手と買い手が共創する日本企業のチャレンジを応援、マクアケ木内氏の挑戦

資金を集めるだけではない。モノやサービスを実際に購入し、その誕生を応援するサイト「Makuake(マクアケ)」が注目を集めている。企業と消費者をつなぐのは、「みんなで作る」という新しい思想だ。共同創業者の木内文昭氏に、イノベーションを加速するユニークな仕組みを聞いた。

半年間、紆余曲折し、見えてきたプロダクトマーケットフィット

田久保:まずは木内さんがどんなキャリアを歩まれてきたのか、教えてください。

木内: 2002年に青山学院大学経済学部を卒業後、リクルート関連会社に新卒入社しました。「一番厳しいところに入れてください!」と頼んだら、立ち上げ2年目の新規事業部署に配属されまして(笑)。新卒時代は全く売れず、新規事業なので色々ありたくさんご迷惑もおかけしましたが、事業としては4年目に売上100億円となり、その年全社表彰を頂くなど少しは貢献できたかな、と。しかし、経営陣が変わり方針が変更されたこともあり、転職を決意。マーケティング・営業支援会社の経営企画室で働きました。

1年くらい経った際に、学生時代から大変お世話になっていたサイバーエージェントの方から「事業責任者をやってみないか」と声をかけて頂きました。事業というのは、アフィリエイトの仕組みを使った E コマースメディアだったのですが、話を聞くと担当は僕ひとり。確かに責任者ですよね(笑)。色々と思い悩んだのちに転職し、2009年の事業立ち上げから、最終的に事業譲渡先に引き継ぎをするところまで4年半、携わりました。

田久保:その後、今の会社を設立された。

木内:2013年5月、サイバーエージェントの100%子会社として創業しました。当時の社名はサイバーエージェント・クラウドファンディング。同年8月、クラウドファンディングプラットフォーム「Makuake(マクアケ)」の提供を開始しています。

田久保:2011年の東日本大震災後は、CAMPFIREやREADYFORといったクラウドファンディングサービスが次々に登場しましたね。

木内:当社は後発での参入でした。といっても、災害復興などの活動支援や個人の活動を支援するというより、商品やサービスのプロデュースといったビジネスや産業支援のカラーが強い点が、他社とは違っていたと思います。

田久保:創業メンバーは何人でしたか。

木内:代表取締役社長の中山をはじめ役員3名とその年の新卒2名、あと設立2週間後に加わってくれたエンジニアとデザイナーを加えた8名です。もっとも、当初はみんなサイバーエージェントからの出向というかたちでしたが。

もちろん、最初から順風満帆というわけではありませんでした。起業後、ある程度の仮説を持ちつつ、どの市場でビジネスを成立させていくかの仮説検証をし続けました。ようやく初期にアプローチしたかったメーカー企業を自分たちの主要顧客に据えて最適化を図れるきっかけ、つまりプロダクトマーケットフィット(PMF)できるようになったのは、1年半くらい経った頃かな。その後飲食店や日本酒の酒蔵、映画など様々なPMFも見えてきて、2017年に黒字化を果たし、プロサッカー選手の本田圭佑さんが主要株主に加わってくださったのを機に、社名を「マクアケ」に変更。役員、社員ともにサイバーエージェントから転籍しました。

田久保:いよいよ退路を断ち、完全に独立されたわけですね。出向時代と比べ感覚の変化はありました?

木内:転籍のタイミングでは、外部資本が入ったタイミングで我々経営陣も出資し、パブリックカンパニーとして展開していくことを意識するきっかけになりました。自分の中の意識としては、転籍のタイミングよりもマクアケ創業時とその前の事業責任者時代との違いが大きかったと感じています。やはり、会社の中で事業責任者として携わるのと、1つの会社として独立し、独自のP/L・B/Sと資金繰りの中で事業に取り組む、ということの意識の違いは大きかったです。

プロダクトアウトとマーケットインの中間地点を狙え

田久保:それにしても、面白いのはビジネスモデルですね。一般にクラウドファンディングは「投資して終わり」というスタイルが多い。だけど、Makuakeの場合、先行予約購入したユーザーは実際にそのプロジェクトの商品、サービスを手に入れることができる。さらに、Makuake Incubation Studio(以下、MIS)事業では、企業の研究開発技術や企画を製品やサービスに仕立て、事業化するところまでサポートしています。いわば製品化の出口まで並走する仕組みといえばいいでしょうか。このビジネスモデルは、どんな発想から生まれたんですか。

木内:サービスが成長するに従って、資金調達という側面はMakuakeのいくつかあるベネフィットの1つであり、テストマーケティングやプロモーションとしての側面などそこだけにとどまらないと感じてきていました。そこで2019年12月、東証マザーズに上場したのを機に「クラウドファンディング」と名乗るのをやめ、あらたに「応援購入」という概念を掲げるようになりました。

もともとの発想は、新しいものを生みだすビジネスプロセスに先行予約販売の仕組みを組み入れ、日本の生産性を上げよう、というものでした。創業当時、役員陣でよく話していたのは、日本ではチャレンジができる場が減っているんじゃないかということ。ウオークマンとか、ファミリーコンピューターとか、イノベーティブな製品を生み続けていた国なのに、気づけば家電も外資系メーカーのものが目立ちます。

日本の研究開発投資額は官民合わせ約19.5兆円で、世界3位、その大半が企業に集中しています。ところが、アウトプットの効率、つまり研究開発投資効率はOECD 諸国の中でもかなり低い。たしかに、企業の研究所を訪問してみると、はんこを20個くらい押さないと書類が通らないということがままあるんです。生産性が低いのも当然ですよね。だからこそ寄付、チャリティといった文脈ではなく、商品化、事業化などアウトプットを増やす支援ができたら、と考えました。

田久保:なるほど。日本では生産性というと、「働かない改革」とか、インプットを小さくする話ばかりしているけど、本来はアウトプットを重視すべきですよね。

木内:そのとおりです。一方で、日本の上場企業の現預金は100兆円ぐらい積みあがっているという現実もある。それなのに、働いている人は給料が上がらず、大企業の新規事業部は、「なかなか新たな挑戦に投資ができなくて」とおっしゃる。このままでは日本の産業は廃れてしまう、という危機感を抱きました。 そこで、一般の人々やメディアを巻き込み、いわば「共感資源」を活用した新しい購入プロセスを見える化しようと考えたのです。

田久保:面白いですね。最終的に集まった金額だけでなく、何人が応援してくれたかも見える化される。テストマーケティングをやっているようなイメージですよね。

木内:ある意味、リアルな購買行動を伴うテストマーケティングといえますね。「欲しい人は〇人います」じゃなく、「買った人は〇人います」と言えるのはやはりとても説得力があります。消費者の感覚を見ていると、論理的な思考だけでモノやサービスを買っていないこともたくさんあり、感情の影響も強いので、ロジック偏重のマーケティングは失敗しがちなんです。

まず仮説を持って世の中に出してみて、売れるか売れないかを実践に基づいて見極め、仮説をブラッシュアップしていくことが重要なのではないかと思っています。小売りが1次流通市場で、メルカリさんなどの中古販売が2次流通市場とすれば、ぼくらが手掛けているのは「0次流通市場」。マーケットデビュー前の市場という概念です。

田久保:「プロダクトアウトはもはや時代遅れ、顧客の声を聞くべき」などと言われますよね。でも本当にイノベーティブなものは顧客の声からは生まれない、というジレンマもある。つまりMakuakeがやっているのは、とにかく1回プロダクトアウトで作ってみてテストマーケティングし、顧客の声を聞こう――ということなのかな。従来型のプロダクトアウトではない、かといって顧客の声に迎合しすぎない。まさにその中間地点にある新しいタイプのイノベーションメソッドでは。

木内:もちろん、顧客の声は聞くべきなのですが、その前に作り手の「自分は絶対にこの商品欲しい」という前提での意志ある提案があるべきなんですよね。社内の評判がそこまで良くなかったとしても定量的な結果を示せれば、「俺なら買わないからダメ」と社長が言ったとしても、話が変わってくるかもしれない。

マクアケを使ったプロジェクトで形になった様々な商品

田久保:Makuakeを活用する事業者はどんな企業なんですか。

木内:メーカーだけでなく、飲食店を含む中小のサービス企業もあれば、大企業もあります。企業規模にかかわらずマーケティングやプロモーションの一環として活用されるケースが多いですね。大企業には意思決定ツールとしての活用も提案しています。というのも、大企業では「前例のないことはやらない」という判断が合理的とされがち。ですから僕らは「いきなり事業判断の意思決定はしなくていいです。まず、市場に出したときユーザーやメディアがどう反応するかテストしてみてください。そのうえで事業判断の意思決定をしてください」とお伝えしています。

「マーケットに出す」「評価を受ける」「改善し、レベルアップする」というアウトプットとそのフィードバックプロセスを高速回転で繰り返さないと、競争力は上がりません。 昔の日本企業はそれをやっていたはずなんですが、今は市場に出す前に議論している時間が長すぎる。やっと出せるタイミングになったら、もうマーケットの状況は変わっているという、負の連鎖になっている気がします。

田久保:ソフトウェアの世界ではもはや当たり前になっているアジャイルをやってみませんか、ということですね。とはいえ、伝統的な大企業の場合、「市場に出してみたけど、反響がなかったから即撤退」といった柔軟な対応はしづらい。だから、MISがそこを引き受け、回してあげる。

一般的な市場に未完成のプロダクトを出すのは難しいけれど、Makuakeでサポーターになる人は、そのものや体験が欲しくて買うだけでなく、そのチャレンジを一緒に応援している。企業とユーザー、双方をつなげる役割も担っていると思います。

木内:これまでは買い手は商品やサービスをジャッジする存在だった。つまり作り手と買い手は主従関係にあったわけですが、これからは買い手が作り手側に近くなり、一緒に作っていく時代ではないかと。応援し、共に創造する面白さが体験できる場を育んでいけたら、と思います。

“創業者のビジョン”こそが差別化要因になる

田久保:新しいものを生み出すビジネスプロセスにいかに入り込むか。そのノウハウはすでに蓄積できた。次は認知度アップが課題になるんでしょうか。

木内:そうですね。インターネット検索する行為は、グーグルの名にちなみ「ググる」といいますが、それくらい当たり前の存在になれたらいいですね。それに、海外発の商品、サービスをもっと日本で紹介したり、逆に日本発のものを海外に紹介する取り組みもしたい。「新しいもの、面白いものを生み出したい、探したい」という根源欲求に国境はないと思っているので。

それから、バリューチェーン全体で見た場合に、テストマーケティングなど前工程だけでなく、後工程にも携わっていきたいと考えています。伊勢丹新宿本店や東急ハンズ渋谷店などと連携させていただき、現在、全国10ヶ所以上の実店舗でMakuake発のプロダクトが並ぶ展示や売り場展開をしていただいています。Makuake実施後のビジネスプロセスにもっと積極的に寄与し、事業エリア、ユーザー基盤を拡大していければ。

田久保:もう1つ気になるのは、第2、第3、第4の木内さんをどうやって生み出していくのか、ということです。たとえば面白いものを見つける目利きも必要でしょうし、ユーザーの反応を読み解くマーケターや実装、製品化していくエンジニアも不可欠。木内さんという担当者に当たれば成功確率は高いけど、ほかの人だとうまくいかない――という具合だとサービスとして成立しづらいところもあるのかなと。

木内:ノウハウを組織知にしたり、価値創出のプロセスを体系化するための努力、工夫はしています。たとえば安全性の審査などは、必ず共通シートをもとに審査項目を立て、チームで審査プロセスを回す、などですね。

当社は単なるコンサルティング会社ではないし、単なるプラットフォーマーでもない。企業やユーザーと一緒にチームで新しいものを生み出していく、という独特なポジションにいます。それだけにノウハウも独自なところがある。価値を再生産できる仕組みをしっかりつくっていきたいです。

田久保:最後にグロービスでの学びがどう役立っているか教えてください。

木内:定石といいますか、ビジネスの原理原則を学べたことは大きかったです。事象の構造をアカデミックにとらえ、汎用化させて実践知に昇華させる方法を身につけることができました。

田久保:ケーススタディだけだと学びにならないけれど、構造化した概念、つまりケースメソッドを知っていればビジネスの現場で応用がきく。ビジネススクールで得られる学びでは、もっとも重要なことかもしれませんね。

木内:もう1つは“学び方を学べたこと”ですね。今の時代、前例のないことに直面することが多いですが、未知の分野でもとりあえず関連書を10冊ぐらい読み、得た知識をもとに自分なりの仮説を立て、実践してみる。そうすれば、新しいことに挑戦するときも恐れずにすみます。

一方で、現地・現物・現実の学びも大事にしています。たとえばMISではサポートする企業の社史を読んだり、工場に足を運んだりしています。中期経営計画やIRなどを含めた外から見える視点はもちろんのこと、それだけではない根っこにある強みを発見し、理解しないとよい商品、事業は生み出せないですから。

田久保:社是や理念だけは他社に真似されませんからね。たとえば、トヨタ生産方式はみんなお手本にするけれど、豊田佐吉のビジョンを日産が模倣する、などということはないでしょう。創業の志こそ、普遍性ある差別化要因になるんじゃないかな。

木内:そのとおりだと思います。心掛けているのは、創業者のビジョンの現代版解釈をすること。名だたる創業者って基本クレイジーだけど、世の中の役に立ちたいというゆるぎない志をもっていたと思うんです。そんな彼らが現代にタイムワープしたら何を考え、どう行動するんだろう、という視点で物事を見る。未来のマーケットトレンドを予測することも大切ですが、一方で過去に立ち戻り、その延長線上に未来を紡いでいきたいね――という話を社内でよくしています。

田久保:過去に学ぶ。いいですね。社内には、学び合う文化が根づいていると?

木内:いわゆる「学習する組織」をつくっていきたいという思いがあります。だから僕のチームではしょっちゅう読書会、勉強会をやっていますよ。メンバーからは「ブックハラスメントだ」なんて言われていますけど(笑)。

田久保:上司が必死に勉強していたら、部下は怠けているわけにいかない(笑)。役員が学ぶ組織は社員全員が学び続ける組織になるはずですよ。

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