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【シリーズ 幸せとは③】組織の中で「幸せ」を高めるためにすべきこととは?〜石川善樹×矢野和男

投稿日:2020/01/03更新日:2020/02/04

本記事は、G1FMセミナー「幸せと経営」の内容を書き起こしたものです(後編)。

堀義人氏(以下、敬称略):ハピネスが高まることで個人も組織も生産性が高まり、それによって受注率や売上がおよそ3割高まった例もある、と。では、ここからは私からいくつか気になった点を質問させていただき、そのあと会場の皆さんにも質問を募りたいと思います。まず、石川さんが冒頭に提示していらした「要因のレバー」は、個人と組織、そしてマネージャーのレベルに分けられていましたが、これはそれぞれにやることが違ってくるということですか?

石川善樹氏(以下、敬称略):どのレイヤーの人が取り組むのかという話ですね。

まず、従業員1人ひとりがやるべきことは個人レベル。ただ、たとえば雑談をしようとしても、マネージャーに「そんな暇があったら仕事をしろ」なんて言われるチームもあるわけです。だからマネージャーの許可というか、雰囲気づくりによってできる施策もありますし、もちろん組織というか経営陣の意思決定によってできることもあります。そうしたことをレイヤーで分けました。

堀:なるほど。では続いて矢野さん。イェール大学で1/4の学生が登録したというハピネスの講座というのはどんなことを教えているのですか?

矢野和男氏(以下、敬称略)主には石川さんがしていたようなお話(前編)ですね。ポジティブサイコロジーの分野で、ここ20年くらいのあいだに培われてきたさまざまな知見を教えています。

石川:最近は「東洋哲学におけるハピネスとは」という話も結構教えています。アメリカの学生は今、「唯一無二のオリジナルな自分になれ」というような話に結構疲れているみたいなのですよ。それで、「変わらない個とか、永遠や普遍の個とか、そういうのは別にどうでもいいじゃないか」といった東洋哲学的な考えが大きな癒しになっている、と。

堀:面白そうですね。それと、矢野さんからはハピネスの要因のうち50%が遺伝というお話がありました。これはどういうことなのでしょうか。

矢野:DNAのなかに、その人が幸せになりやすい要因とそうでない要因があると、主に双子研究のなかで言われています。

たとえば生まれた直後からそれぞれ違う家で育った一卵性双生児のケースを研究すると、後天的な要因と先天的な要因をきれいに分離するようなことができるということで、そうした研究を通して「遺伝的な要因が50%ある」と。最近は「もうちょっと少ないのでは?」と言われていますけれども。

石川:少し補足すると、世の中にはご機嫌な人と不機嫌な人がいて、ご機嫌な人のお子さんはご機嫌なことが多いという(会場笑)。

堀:「ご機嫌遺伝子」みたいなものがあって、それが多ければ幸せになるということですかね。そうなると、そのうち医学的に、「ご機嫌遺伝子」「ご機嫌因子」みたいなものを注入して幸せになったりすることもあるのかな、と。それがいいかどうかは別として。

石川:可能性はありますね。ただ、不機嫌な遺伝子を持っていても、幼少期にめちゃくちゃ褒められたり、いい経験をたくさんしていたりすると、ご機嫌遺伝子を持つ人以上にご機嫌になることも知られています。だから幼少期は超大事になる、と。

堀:そういうことも踏まえると、幼少期には何が大切になるのですかね?褒めることが大事という話はよく聞きますが、ほかには何かありますか?

石川:もう1つが、お母さんのストレスが少ないこと。ものすごく大事です。日本でもそうした研究がなされていますが、そのためには旦那が頑張る。これに尽きますね。

矢野:あと、遺伝要因が半分ということは、半分は生まれてから、あるいは大人になってから変えることができるという話なので。それを「半分しか変えることができない」と思うのか「半分も変えられる」と思うのか。まさに「ご機嫌遺伝子」を持っているかどうかで捉え方が変わると思います。

堀:「HERO」についても伺いたいと思います。Hope、Efficacy、そしてOptimismは姿勢の話だと思うのですが、Resilienceだけは種類が違うように感じました。

矢野:他の要素と違うのは困難という外部から与えられるものへの態度という点ですね。

人生は必ず浮き沈みがありますが、マイナスに振れたとき、どう対処するか。で、難しい体験をしたりするとそうした能力が高まりやすいということで、ある種のシミュレーションやワークショップでそういう能力を高めることもできます。

堀:ありがとうございます。では、会場からもご質問をいただきたいと思います。

Q1、1日の終わりを「To Feel」で振り返るだけで、その1日の評価を良くしようという力が自然と働くのはなぜか?

石川:印象の振り返りが「良くしよう」という力になるメカニズムは、正直、まだ分かっていません。たとえばダイエットに一番有効なのも自分で体重をモニタリングすることと言われていますが、なぜそれだけで痩せるのかは分かっていないのですね。テクニックとして有効であることは分かっていても。世の中にはそういうものがたくさんあります。ですから原因については今後の研究を待つという話になりますが、まずはやってみると分かると思います。

Q2、「周りの人を幸せにする行動」というのは、具体的にはどんな行動になりますか?

矢野:具体的にどんな行動で幸せになるのかは人によって異なります。置かれた状況も性格も多種多様ですから、「こうすれば万人が必ず周りを幸せにできる」というのはないと思うのですね。ご指摘のようにお節介になることもあるわけで。ただ、単純に言うと、周りに対して親切に振る舞ったりちょっとした気遣いをしたりすると、相手だけでなく本人も幸せになる、と。まさに「情けは人の為ならず」ということが心理学実験でも多数検証されています。

ただ、実際の業務ではそれぞれ置かれた状況も千差万別なので、そこはいろいろあるということで、我々のアプリでは多様なメニューから行動を選べる形になっています。そのうえで、実際に何かの行動を選んだ日は、その行動を選ばなかった日と比べて幸せ度がどれほど違ったか、体の動きを元に自動でレーティングする仕組みになっています。で、そうしたデータを集団レベルで集めてみると、我々が「チャレンジ」と呼んでいるそうした各種の行動にも、万人で5点満点が出やすいものもあれば、人によって効果が分かれるものもあることが分かりますので、そうした統計分布もチャレンジごとに出します。我々としては、そうしたものを皆で見つけていくようなプラットフォームをつくりたいと考えています。

Q3、「リモートワーク」や「雑談タイム」を社内で導入すると、幸福度が高まり、生産性が上がるのか?

石川:複雑で難しい課題に取り組むときは1人のほうが、ひいてはリモートワークのほうが適しています。一方、簡単なルーティーンワーク的なものは皆がいる場で行うほうが捗ることも知られています。ですから作業によって分けたほうがいいと思いますね。それと雑談については、「さあ、今から雑談です」というのは雑談ではなくて、仕事という気がします(笑)。いいのはタバコ部屋ですよ。昔は社内にタバコ部屋というイノベーションがあった。分煙化の流れが進み、あそこではなぜか役職や立場を超えて、まさに1人の人間同士で「うちの娘がさあ」なんて、いろいろな話ができたりするようになりました。

なので、僕は「どうすればタバコ部屋のような空間が、タバコを使わずにできるか」という研究もしていて、それで分かったことがあります。まず、リラックスルームをつくってもダメ。人は来ません。習慣の生き物ですから。では、どうすればいいかというと、動線のクロスポイントにちょっとした空間をつくっておくのです。で、絶対に皆が通るそのポイントに飲み物と駄菓子を置いておくといい。駄菓子だと安いですしね。あと、駄菓子はいろいろと記憶を呼び覚まします。だから、いろいろな駄菓子を置いて、コーヒー等も飲み放題にしておくと自然と雑談が起こります。一番簡単なのはそれかなと思います。

矢野:テレワークに関しては、石川さんのお話通り、業務によります。そのうえで、いわゆる知識労働については、我々も共同研究をしたことがあるアレックス・サンディー・ペントランドさんという人が‘Discover and Integrate’という考え方を提唱しています。蜂の生態に学んだものですね。もちろん個体は人間に比べて知能レベルも複雑性も低いわけですが、蜂は集団ですごく知的なふるまいをします。1匹1匹が、Discover(発見)のときは他のものに囚われず、いろいろなものを見つけに行くわけですね。ただ、それを必ずIntegrate(統合)します。皆が集まって共有する場を持っているわけです。その両方を併せ持つことが知的労働の生産性に深く関わるので、そこをうまくコントロールしようというのが‘Discover and Integrate’ですね。私もそこは非常に大事なポイントだと思います。どちらかでなく両方を併せ持つことが大事になる、と。

また、雑談についても我々はさまざまな研究をしています。先ほど提示したコールセンターでも、あるときまではオペレーターの休憩時間をあえてバラバラにしていましたが、それを、ある程度は同じ時間に休めるよう4人一組のチームで休憩させるようにしました。すると、生産性は大きく高まりました。また、その4人を同世代にすると、さらに大きな効果があった。一方、その対照実験として、かなり歳が上の男性1人と若手の女性社員3人で一緒に休憩を取らせたら、ご想像の通り、生産性もハピネスもガクッと下がりました(会場笑)。

あと、これは雑談とも関係ありますが、顔の広さという要素の研究もあります。あるコールセンターで、「難しい問い合わせに対し、どういう人がより短い時間で答えを見つけるか」を調べたことがあります。このときは「顔の広い人が早いのかな」と思っていたんですが、そういう相関は一切ありませんでした。でも、自分から2ステップ先、つまり知り合いの知り合いまで含めると、つながっている人が多い人は難しい問題に対して高い生産性を示していた。情報は伝播するので、それが難しい問題に対してインパクトを及ぼすということです。

ただ、これは著書にも書きましたが、後日その研究について反省したことがあります。よく考えてみると、これは「生産性の高い人とは、顔の広い人とつながっている人」という話なのですね。だから2ステップ先でいろいろな人につながる。つまり、顔の広い人はバレーボールにおけるセッターのような役割を担っていて、自分の業績は良くないのですが(笑)、実は業績の良いアタッカーをつくっている、と。まさに縁の下の力持ちみたい人がコールセンターのような職場にもいることが、データをきちんと見ると浮かび上がってきました。1人ひとりについて「ハイパフォーマーなのかローパフォーマーなのか」と判断をするような見方では、こういう考え方は出てきません。そこで計測の力というのが出てくるのだと思っています。

Q4、「ネガティブな人」をポジティブに変えることはできるのか?

矢野:今日お話しした「HERO」における「心の資本」4項目はすべて訓練によって変えることができると、研究で実証されています。性格というのは、パーソナリティ検査やビッグファイブ診断といった手法で計測できるものの、なかなか変わりません。ただ、変えることができる部分もあるということですね。「HERO」は変えられる部分ですから、おおいに変えるべきだと思っています。外向的または内向的な性格というのはそう簡単に変わりませんが、内向的であっても「HERO」の数字は高めることができますので。

Q5、都市のような人工空間でハピネスを高める方法とは?

石川:都市という人工空間は人間にとって極めて不自然ですよね。その辺の建築に関するエビデンスは現時点でかなり出ています。たとえば緑視率ということで「視界にどれだけ緑が入っているといいのか」ですとか。あるいは、「なぜ森のなかにいると気持ちが良いのか」といった話についてもいろいろな研究があります。一つの知見としては「ゆらぎ」であると言われています。たとえば会場の照明は一定の強さを保っていますが、森のなかを歩くと木漏れ日がキラキラ揺れます。あのゆらぎが人間にとって自然で心地良いものである、と。あるいは、どんな緑が効果的で、どんな緑がそうでないのかといった研究もたくさんあるので、よろしければ後ほどでいくらでもお力になれたらと思います。

堀:都市空間が生産的な場でもあるという側面はないのですか?ゆらぎがあり過ぎてしまうと、今度は集中して作業しづらくなったりしないのかな、と。

石川:たとえば東京に関して言うと皇居を中心に山手線がぐるっと回っていて、山手線から私鉄が出ているわけですが、山手線から私鉄で外側へ2駅ぐらい離れたところにクリエイターが最もたくさん集まっています。山手線内というパブリックの場と、その外側のすごくプライベートな場が交差する、下北沢や三軒茶屋あたりですね。ここはゆらぎもすごく多くて、そういうところにクリエイターは集まっています。

矢野:少し付け加えると、ネーチャー・コネクテッドネス(Nature Connectedness)ということを研究している人がいます。自然との一体感、あるいは「自分が自然の一部である」と感じているか。そういう感覚を持っているかどうかがウェルビーイングとも深く関係しているという学術研究もたくさん発表されています。

Q6、ウェルビーイングを企業の中で高める時に、やってはいけないことは?

矢野:失敗例についてですが、よくある間違いはアウトプットを求め過ぎてしまうというものですね。何かをやった結果として「行動はどう変わったんだ?」「業績はどうなった?」といった結果を短絡的に求めてしまうと失敗する場合が多いと思います。人間は1日に100のことを経験したとして、そのなかで1つのネガティブなことにアテンションが向いていたら、残り99がポジティブでもすべて忘れてネガティブな1日になってしまうわけです。だから、そうならないよう注意をどこに向けるか。これは訓練と意思、そして幸せになる能力がかなり関わってきます。上司と部下の関係も同じです。上司や部下がどこにアテンションを向けるのかが、まずはすごく大事になります。

Q7、「幸せ」とは、得をする人がいれば損をする人が出てくるようなゼロサム思考のものではないのか?

矢野:実験結果のデータが示しているのは、周りを幸せにする人の総量が幸せの総量をよく表しているという点です。だから、そういう人を増やす社会活動や企業活動をするのは大変良いことだし、そういう手段を取らなければといけないと感じています。ですからゼロサムではないですね。周りの人を幸せにすること、周りへの気遣い、あるいは共感や信頼をつくるといったことをやる人が増えれば、幸せはトータルで増えると考えています。

ただ、今日はResilienceというものにも触れましたが、人生が山あり谷ありであることは否定できないし、否定する必要もありません。それを前提として考え、それでも前向きに進める自分、あるいは社員や従業員をつくることが重要なのだと思っています。いつも楽しく笑っていられるようなことはないと私も思っていますので。ポジティブサイコロジーの研究で言っていることも、そういうことだと思っています。

石川:先ほど「体験と評価が違う」というお話をしましたが、すべての従業員が幸せな体験をするのは難しいと思います。接客だと難しいお客さんもいらしたりして。ただ、面白いのは、同じようにつらい体験をしているのに、幸せだと評価する方もおそらくいらっしゃる点なのですよね。僕らはそういう人たちの特徴を見にいくのです。

たとえば最近、製造業で働く派遣労働者の方々についてリサーチをしたことがあります。彼らの幸せ度はめちゃくちゃ低いです。給料が低いことに怒っているし、何より「この給料を得るための仕事がつまらな過ぎる」と言って怒っている。ただ、調査を進めてみると、同じ体験をしているのに「自分はすごく幸せだ」と言う人がいることも分かるのですね。単純作業も「ありがたい。毎日学びがある」と。不思議な話ですが、そういう人たちの特徴を捉えると、「あ、こういうちょっとした工夫をすることで、同じ体験でも幸せを感じることができるのだな」となります。1度測定をしてみて、同じ体験なのに違った評価をなさっている従業員の秘密を探るということを、僕らはよくやります。

Q8、幸せや感情が周りに伝播するということは、科学的に検証されているのか?

石川:それは検証がはじまった段階だとお考え下さい。驚くべき知見として、幸せな感情やネガティブな感情、あるいは最近だと肥満も感染すると報告されています。たとえば、僕が太ると友達の矢野さんが太ったり(笑)。人はネットワークのなかで生きているので。

矢野:ニコラス・クリスタキスさんという方が過去数十年ぶんの定量データを集めて行った研究では、たしか3ステップ先ぐらいまで幸せも不幸せも伝播すると言われているのですね。喫煙や鬱というのも伝播していくことが知られています。

Q9、幸せな感情を効果的に伝播させる方法とは?

石川:1番簡単な伝播の方法はダンスです。人間というのは不思議なもので、歌いながら皆で同じ動きをしている人たちを見ていると、こちら側も幸せになる。もう少し具体的に言うと、オキシトシンという、「幸せホルモン」と呼ばれるものを出すことが知られています。たとえばアフリカの部族を訪れたりすると、歌や踊りで迎えてくれたりするじゃないですか。なぜなら、あれをやらないと相手を殺しちゃうからです。でも、踊れば自分たちもハッピーになるし相手も幸せになる。歌と踊りとお酒は、幸せを伝播させる三種の神器なのですよね(会場笑)。日本だとカラオケもありますが(笑)。

Q10、ウェルビーイングを高めるために、日々、周りの人にどのように接すればよいのか?

石川:1つ申し上げておかなければいけないのは、幸せには文化の差があるという点です。たとえば中東の人たちは‘Fear of Happiness’と呼ばれる感覚があると言われているのですね。ポジティブに感じることは神様に対して悪いことだ、と。逆に、断食のような苦しいことをすればするほど天国に向かうから、それがウェルビーイングになる。一方で、たとえばアメリカ人は強いポジティブ感情が好きとか、ヨーロッパの人たちはどちらかというと弱いポジティブ感情が好きとか、文化によってかなりの差があります。

日本は弱いネガティブを幸せだと感じるところがあります。侘び寂びがそうですね。そうした弱いネガティブに、美しさとか、ジーンと来るものを見出したりする。桜が咲くことよりも散りかけるのが好きといえばわかりますでしょうか。祭りの後とか(会場笑)。

で、質問に戻りますと、僕らはどうやって敬意を測定しているかというと、「職場で1人の人間として尊重されている気がしますか?」という聞き方をします。ただ単に仕事上の役割や責任を果たしているだけだと、なにかこう、駒になっているような感じがします。そうではなくて、もっと1人の人間として受け入れられている感じがするかどうか。それは仕事だけではなくプライベート等いろいろな側面を含めて受け入られているということだと思います。ですから、仕事のみならず1人の人間としてその人が前に進んでいけるような各種サポートをすること。今日は「信頼をつくるための3つの言葉がけ」というお話をしましたが、基本的にはそれをやっていただけるといいのかなと思います。

矢野:今のお話に付け加えますと、幸せにあたる言葉が言語のなかにいろいろ埋め込まれているという研究をしている人がいます。たとえばハピネスという言葉はドイツ語にはないそうです。あれほど英語に近い言語なのに。「Gluck(グリュック)」と言うそうです。で、これは英語ではどちらかというと「Luck」に近い言葉。そんな風にドイツとイギリスでも違う。また、フィンランドは「SISU(シス)」という言葉が、幸せとか良い状態を意味しています。このSISUは勇気や負けない強さといった意味があって、そういうものが人間の幸せの根幹にある、と。

では、日本はどうか。幸せというのは、いわゆる「仕合う」とか「仕合せる」という、互いに合わせるということ。あとで今の「幸」という字が当てられましたが、もともとはそういう字です。人と人とがインターディペンデントに良い関係を持つことが、日本では幸せであり、いい状態である、と。もちろんその全体像は人間の幸せという話だと思うのですが、日本人は特にそこら辺を強調しているのかなと思います。

「ウェルビーイング」は2030年以降の重要キーワードになる

石川:ウェルビーイングというのは経営だけでなく、今後の時代のキーワードに、特にポストSDGsとして2030年以降の重要なキーワードになるので、ぜひ注目いただきたいと思っています。なぜ私がウェルビーイングを研究しているのか。現在、人類全体の平均寿命は72歳にまで伸びていて、これが22世紀になる頃には少なくとも82歳にまで伸びると言われています。

ですから、寿命という観点では十分よくやってきました。一方で、寿命の質、命の質、つまりウェルビーイングはどうか。これは日本の有名な研究ですが、戦後の日本においてGDPは右肩あがりで伸びたのに、ウェルビーイングはまったく変わっていない。

ある意味、この研究が契機になって世界各地でウェルビーイングの研究がはじまりました。社会の進歩を表すほぼすべての指標が伸びた、あるいは改善したのに、実感としての豊かさやウェルビーイングを感じることができていない。ここが現在の予防医学の1番のフロンティアであり、僕はここをどうしようかということで研究をしています。ぜひ、皆さんもそういう現実があることを知っておいていただきたいと思っていました。

堀:今スライドで出していただいているグラフは1987年で終わっていますが、それ以降は?

石川:それ以降は下がっています。

堀:下がっているのですか。でも、ウェルビーイングの方法論が分かってくると、それが逆に上がってくる可能性もありますよね。

石川:そうですね。

堀:その意味でも、これからはウェルビーイングいうものを組織的に仕組み化していくことが大事になる、と。たしかに今はいろいろな会社がハピネスについてすごく考えたり経営に取り入れたりしていますよね。そうでないといい人が来てくれないから、オフィス環境もすごく良くなっているし、働き方改革ということで働き方も自由で多様になってきている。ですから、いい方向に進んでいくのではないかなと感じますし、お二方の研究をさらに多くの人が知ることになれば、ウェルビーイングも今後右肩上がりになっていくのではないかと思います。では、お二方に拍手を送って終わりたいと思います(会場拍手)。

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