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【シリーズ 幸せとは①】毎日を「幸せ」に働くためには?〜予防医学研究者・石川善樹

投稿日:2020/01/01更新日:2020/01/07

本記事は、G1FMセミナー「幸せと経営」の内容を書き起こしたものです(前編)。

 

石川善樹氏(以下、敬称略):研究者を大きく2つのタイプに分けると、「最善」が好きな人と「最新」が好きな人がいます。最善が好きな人は「エビデンス」ということをよく言うし、よく怒っていますね。「正しいことが実行されていない」と。一方、「最新」が好きな研究者は、あまり正しさに囚われていると新しいこともできませんし、特徴としてはよく面白がっていて、怒るというよりは、なにかこう、興奮しています(笑)。そこで、今日はバランスをとって、まず私が「最善」についてお話をしたいと思います。ウェルビーイングの「最新」動向は矢野さんが控えていますので、私からは「良い組織とは何か」という観点で、私個人の意見でなく最善の知見、つまり「どの研究者に聞いてもこう答える」というベースのお話をさせてください。

「ウェルビーイング」とは何か?

まず、ウェルビーイングのほかにウェルドゥーイングというものもあります。これは、きちんと目的を持って役割と責任を果たしている状態ですね。会社であればしっかりお金を稼ぐとか。そうしたウェルドゥーイングに関しては皆さんよくやっていらっしゃると思うのですね。でも、私が今日お話しするのはウェルビーイングのほう。もう「役割と責任を果たしていなくてもいい。あなたがいるだけでOKです」というお話です。

私たち研究者がどんな風に物事を考えているかというと、まず社会科学研究にあたっては現象の発見ということをします。ハッピーな人、生産性が高い組織、繁栄している社会など、最初に面白い現象を見つけるわけですね。たとえばウェルビーイングに関してすごく有名な研究があります。論文のタイトルは‘VERY HAPPY PEOPLE’。もうHAPPYな人でなくVERY HAPPYな人たちを見ていったわけです。この人たちの特徴は何か、と。収入は高いのか、学歴はどうか、いろいろ見ていきました。そこで唯一共通していたのは、VERY HAPPY PEOPLEにはすべからく良い友達がいる点でした。そういうことを僕らは1つひとつ発見してきます。

そのうえで、現象からモデルをつくりあげます。モデルとは最小の情報で最大を説明したものですね。もちろん人や組織に関する現象をすべて説明するのは無理です。物理現象と違ってばらつきが大き過ぎるので。そこで、僕らは最大を説明したいと考えます。そして、その際は最小の情報で説明することがポイントになります。「良い組織をつくる要因が1000個見つかりました」と言われても困るわけです。ですから多くて3つ、できれば1つの情報、すなわち要因で、良い組織をなるべく多く説明したいというのが僕らの欲望です。そうしてモデルができると、今度はそのモデルに当てはまらない現象を見にいって、そこからまたモデルをつくる作業に戻ります。そんな風にしてモデルと現象のあいだを行ったり来たりするのが、僕ら研究者のやり方です。

では、そのモデルはどのように表現するのか。たとえば組織にとって「いいこと」があるとします。「社員が健康」「生産性が高い」「クリエイティビティが高い」「人間関係が良好」等々。で、我々はそれらを「○○という要因」で説明したい。もちろんその要因を構成する要素はさらにいろいろあっていいのですが、とにかく要因を見つけたい、と。そして、その要因に向かって人を動かすために、個人、マネージャー、あるいは組織レベルで何をするべきかというモデルを私たちはつくりたいと考えています。

「ウェルビーイング」が組織の中で良いことを引き起こす

重要なのは要因です。そして、よい要因の特徴は3つ。1つ目は「測定可能であること」、2つ目は「操作可能であること」です。たとえば性格は測定できますが、操作したり変えたりするのは大変難しい。変えることができない要因を見つけても仕方がないわけです。そして3つ目がポイントになりますけれども、「広範囲な影響力を持っていること」。たとえば健康だけに効く要因を知っても仕方がない、と。東洋医学におけるツボのように、健康にも生産性にも効くような波及効果を持った要因を見つけたい。これが僕らのモチベーションです。

で、結論から言うと、現在はウェルビーイングという要因が、さまざまな「いいこと」を、組織のなかで波及効果のように引き起こすことが分かってきました。このウェルビーイングは「評価」と「体験」という2つの要素から成ります。そのウェルビーイングに対して、個人レベル、マネージャーレベル、そして組織レベルで何をしたらいいのかを考えていくわけですね。

ウエルビーイングとは、平たく言うと「良い状態」。20世紀の心理学の知見を総動員して何が分かったかというと、評価と体験は違うということでした。たとえば1日楽しくデートをしたとします。昼間から「楽しい」「楽しい」ということで、体験としてはすごくいい1日になりました。でも、そんな1日でも別れ際の3分間で大げんかをすると、そのデートは最悪だったと評価されます。体験としてはずっと良い状態が続いていても、評価のほうは、たとえば最後の経験で決まる。評価と体験は違うということです。

では、評価はどうやって測定するのか。心理学ではハシゴのようなモデルを使います。で、最高の職場はハシゴの1番上で10点、最低の職場は1番下の0点。これは人によって基準が違いますけれども、個人個人の基準で結構です。「あなたの基準に従って、最高の職場を10点、最低の職場を0点としたときに、今の職場は何点ですか?」という聞き方をします。ちなみこの質問1つで社員の離職率が的確に説明できます。今は職場の満足度についてエンゲージメントやモチベーション等、いろいろな質問をしていますが、実はこの質問1つでOKなのです。

1日の終わりは「To Feel」で振り返る

大事なのはそのハシゴの上に行くことですが、先ほど言った通り、評価は最後の経験で決まります。そこで一番やってはいけないのが、1日の仕事終わりにTo Doを振り返ること。現代の仕事でTo Doがなくなることはありません。だとすれば、1日の終わりにTo Doを振り返ると、「あ、今日も終わらなかったな。自分はなんて無能なのだ」と、残念な気持ちにしかなりません。朝からいろいろと良い体験があったとしても、1日の最後にTo Doで振り返りをしたら、もう台無しなのです。

では、1日の終わりに何を振り返るべきか。To Feelを振り返ります。「今日1日で何が印象に残ったか」という、印象の振り返りです。「計るだけダイエット」ってありますよね。不思議なもので、体重を計るだけで自然に痩せていくというものです。結局、自分の体重を計る日々のなかで、人は意識的にも無意識的にも行動を調整しているのですね。だから痩せていく。それと同じ理屈で、今日1日の印象を振り返ります。最悪かもしれないし、最高かもしれないし、普通かもしれません。なんでもいいのです。とにかく印象を振り返るだけで、その評価を良くしようという力が自然と働く。そういうことも研究で分かっています。1日の朝にTo Doを見直すのはいいのですが、1日を終えるときはTo Feel。テレサ・アマビールさんというハーバード・ビジネス・スクールの先生が『マネージャーの最も大切な仕事』という本にそういうことを書いています。興味があればぜひ読んでみてください。

日本人にとって特に重要な2つの体験

一方、体験に関しては、5つのポジティブ体験と5つのネガティブ体験があるとされています。ポジティブ体験は「よく眠れた」「敬意をもって接された」「仕事中よく笑った」等です。当然、ポジティブ体験は多く、ネガティブ体験は少ない方がいいですよね。ネガティブ体験は「体の痛み」や「ストレス」です。肩こりや腰痛のような体の痛みは少ないほうがいいし、ストレスも、適度にはあったほうがいいのですが、基本的には少ない方がいい。しかし、ポジティブとネガティブで計10個もあると多過ぎるので、私は日本のホワイトカラー1万人を対象に、その10個のなかで健康や生産性に効く重要なものは何かという調査も行いました。すると、ポジティブのほうは2つありました。職場で敬意をもって接された感覚があることと、仕事中に笑ったということ。どちらかというと「雑談のなかでよく笑っているか」という話ですが、日本人の場合はその2つがすごく大事でした。

整理すると、職場の評価が高く、仕事中よく笑っていて、そして敬意をもって接された感覚があれば、もうその組織はOK。もし、「どんな質問をすればウェルビーイングの状態かどうか分かりますか?」と聞かれたら、「その3つを聞けばいいです」と答えますね。まず、評価を高めるのは個人レベルでの1日の終え方です。おそらく「1日の仕事の終え方」というものを教えている会社はないと思いますが、これが大事。で、笑うというのは雑談ですね。雑談といってもヒソヒソ話や噂話のような雑談とワイワイガヤガヤ笑うような雑談がありますけれども、とにかく雑談を増やすというのは工場労働の時代から大事だと言われていました。一見すると無駄や雑談を削ってビシッと作業をさせたほうがいいように感じますが、むしろ雑談を増やしたほうが生産性も高まるし健康にもいい、と。

では、「敬意をもって扱われた」という感覚は、どうすれば持てるのか。そういう研究を、ポール・ザックさんという「神経経済学」という分野の先生が行っています。組織の文化と神経科学みたいなものを組み合わせたすごく面白い研究をなさっている方ですが、こちらの先生は、成果を上げる国や組織には特定の文化があることを発見しました。もちろん成果を上げるためには百も千も1万も大事な要因があります。そうしたさまざまな要因をコントロールしたうえで、「この文化を持っている国や組織は成果を高めることができる」という文化があると言うのですね。

成果を上げる組織には「信頼の文化」がある

それが信頼の文化です。まずは信用と信頼の違いを説明させください。信用とは相手に対する理性的な判断。「お前、ちゃんとやるの? やらないの?」と。ですから、きちんとやれば信用されます。一方、信頼は相手との感情的な結びつきです。「信頼関係」とは言いますが、「信用関係」とはあまり言いませんよね。信頼関係は相互のものです。親の子に対する態度に近いと言えます。別に成果を上げなくてもその人を支えるという態度です。

よく「信頼は、築くのは大変だけど崩れるのは一瞬」と言われますが、これ、少し違うと私は考えています。築くのが大変で崩れるのが一瞬なのは信用のほうなのです。信頼は崩れません。最初から支えると決めているから。たとえ我が子が刑務所に行こうが何をしようが支えるのが母親だったりするじゃないですか。ちなみに、信用と信頼のほかに信仰というものもあります。盲目的に「言うことは全部聞きます」みたいな。

とにかく信頼が大事という話ですが、では、信頼はどうやって築くのか。そこでよく研究されるのがスポーツのチームです。スポーツのチームは分かりやすいのです。結果が出るのも早く、毎年多くの人が入れ替わりますから。そういう環境で、どのように信頼をつくっていくのか。たとえば、マンチェスター・ユナイテッドやオールブラックスといった常勝軍団と言われるチームには、すべからく信頼の文化があります。かつてマンチェスター・ユナイテッドの監督だったアレックス・ファーガソンさんは、世界中のサッカー監督のなかで彼しか取らないような行動を取っていました。選手がゴールを決めたとき、普通の監督はゴールを決めた選手を抱きしめます。「お前、よくやったな」と。でも、ファーガソン監督はチームがゴールしたとき、最初に用具係のおじさんを抱きしめていました。

これはチームに対するメッセージです。今シュートを決めた選手が履いているスパイクを、「いつもピカピカに磨いてくれるのは用具係のおじさんだからな!」と。結局、できる人は褒められて、できない人は褒められない環境だと、信用の文化になっていきます。でも、信頼の文化をつくるのなら、企業の調子が良いとき、縁の下の力持ちを真っ先に褒めたほうがいい、と。表彰を否定しているわけではありません。表彰はあっていいのですが、信頼をつくるのならファーガソン監督が取っていたような行動が必要になるわけですね。

信頼を生むための3つのポイント「仕事」「志事」「私事」

そこで、最後に信頼を生む3つのポイントをお話ししたいと思います。これも先ほどご紹介したポール・ザック先生が見つけたポイントで、簡単に言うと、1on1なり普段の会話のなかでスタッフやメンバーに以下の3つを聞くといいというお話です。すべて「しごと」という読みに掛けています。まずは「仕事」。「日々の仕事で学びや変化はありますか?」。人間というのは不思議なもので、好成績を収め続けていても学びや変化がないと飽きてしまう。人は変化を好む生き物です。だから、聞くのは「成果を出していますか?」「To Do リストをこなしていますか?」といった話でなく、日々の仕事で学びや変化があるかどうか。それによって信頼が育まれます。別に学びや変化がなくてもいいのです。「そこを気にかけてくれている」という感覚が信頼をつくるということです。

2つ目のポイントは「志事」。「あなたの人生は、前に向かっていますか?」という聞き方です。志(こころざし)のほうですね。そして3つ目が「私事」です。「あなたやご家族は、幸せですか?」と。ただ、こういうことを部下に聞くためには、まず自身が自己開示しないといけない。そうでないと向こうも話してくれませんから。別に順調でなくていいのです。こういうことを聞き合って気に掛け合うことが、結果として信頼を生むわけですね。

ちなみに、これをどれくらいの頻度で聞けばいいのかという研究もあります。まず「仕事」については1週間に1回ぐらいがちょうどいいと言われています。毎日だとウザい(笑)。で、2番目は半年に1回程度が良いそうです。人生、そんなにすぐ前へ進みはしませんから。そして3番目は毎日やってもいい。これはギャラップという会社の調査結果です。

いずれにしても、よい組織の枠組みというのは、「1日の終え方」や、「雑談」ができるようなマネージャーの雰囲気づくり。また、組織全体としては、もちろん信用も大事ですが、「信頼」をベースに置くというお話になります。それが結果としてウェルビーイングを高める。

評価や体験を高め、さまざまな「いいこと」につながるというのが、現在の組織行動論における最善の知見になります。(中編に続く)

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